居候がおやつ感覚でトンデモ能力渡してくるヒーローアカデミア 作:鳩胸な鴨
雄英高校。
オールマイトをはじめとしたプロヒーローを数多く輩出したヒーロー養成学科…通称ヒーロー科をはじめとした複数の学科からなる国立校で、その偏差値は79前後。
その実績からか、雄英ヒーロー科への入学を志す者は多く、その倍率は平均して300倍近いと言われる。
そんな狭き門を潜り抜けた1人、緑谷出久はというと…。
「「「個性把握テスト!?!?」」」
担任の権力に負けたという、意味不明すぎる理由で入学式をバックれていた。
あまりに急なことに困惑するクラスメイトたちに、今にもフケが落ちてきそうなほどに清潔感がない男性教師…、1年A組を担当する相澤消太の鋭い視線が飛ぶ。
入学早々、体操服に着替えてグラウンドに集合させられる高校生など、世界中のどこを探してもここだけなのでは。
そんなことを思っていると、「雄英の自由な校風は教師にも適応されている」と語った相澤が爆豪に目を向ける。
「爆豪、中学の時ソフトボール投げ何mだ?」
「67」
「じゃ、個性使ってやってみろ。
思いっきりな」
言って、相澤がボール型の測定器を爆豪へと投げ渡す。
それを受け取った爆豪は円の中に入ると、思いっきり振りかぶった。
「死ねェ!!!!」
(死ね???)
ソフトボール投げで、しかもヒーローを志す人間から飛び出ていい単語ではない。
雄英に受かったら少しは改善するかと思ったが、余計に酷くなってないか、と心配を送っていると、相澤が口を開いた。
「まずは自分の最大限を知る。
それがヒーローの素地を形成する合理的手段」
ぴっ、と音が鳴り、相澤の手元の機械に数字が浮かび上がる。
705.2m。先ほど爆豪が爆風に乗せて投げたボールの飛距離を示すそれを前に、クラスメイトたちが沸き立った。
これまで行ってきた何気ない体力測定で、「個性が思いっきり使える」という解放感。
その興奮に「面白そう」と誰かが言い放った途端、相澤の目が据わった。
「『面白そう』…か。
ヒーローになるための3年間、そんな腹づもりで過ごす気でいるのかい?」
あ、これヤバいやつだ。
それなりに修羅場を潜ってきたせいか、相澤の纏う雰囲気の変化に冷や汗を流す出久。
相澤はそんな出久の予感を肯定するように、不適な笑みを浮かべた。
「よし。トータル成績最下位の者は見込みなしと判断し、除籍処分としよう」
クラスメイトの絶叫が響く。
これがヒーロー科第一の試練か。
そんなことを思いつつ、出久はいつものように体を作り変えた。
♦︎♦︎♦︎♦︎
その頃、1年C組の教室にて。
入学式を終え、担任に促されるがままに起立した少女が教壇に登る。
少女…万由里は仏頂面を教室に向けると、淡々と自己紹介を始めた。
「折寺中から来ました、八木 万由里です。
個性は…、ちょっと雷出せます。よろしくお願いします」
嘘こけ。お前世界滅ぼせるだろ。
そう言いたい気持ちを堪え、少女は極めて冷静に努める。
何故に後ろから自己紹介するのだ。
じゃんけんに負けた出席番号20番…つまりは万由里に文句を垂れながら、自分の番を待つ。
何が悲しくて、前の世界の因縁を彷彿とさせる面々と高校生活を送るハメになるんだか。
世界は残酷だなぁ、などと思っているうちに、右隣に座っていた少女が立ち上がり、教壇へと上がる。
「万由里と同じく折寺中から来ました、緑谷 ミオです。個性は…、ちょっと火出せます。よろしくお願いします」
適当言ってんじゃねぇぞタコ。
少女の内心を出来る限り噛み砕いて言い表すならば、その一言に尽きた。
席へと戻ったミオに呆れた視線を向けると、彼女は心底不思議そうに首を傾げる。
やめろその顔。普通に可愛いのが腹立つ。
これは別人、これは別人、と自分に言い聞かせながら、自己紹介を聞き流していると。
「ねぇ。あなた、どこから来たの?」
見透かすようなミオの問いに、どくんっ、と胸が一際強く脈打つ。
普通の会話のように思えるそれが、自分にしかわからない意味を含んでいる気がしてならない。
この女、カマでもかけているのか。
少女がそんな警戒心を抱いていると、担任教師が声を張り上げる。
「次、
「あっ、はいっ」
しまった。そう思うも既に遅く、周囲がくすくすと笑みを浮かべる。
いつもならこのような失態を晒すことはしないというのに。
それもこれも、隣にいるこの女のせいだ。
前世で何をすれば、こいつと仲良く授業を受けるハメになるのだ。
それとも、償いきれない今世の罪禍への罰なのか、などと思いつつ、少女は教壇に立った。
「時崎
皆さんのように立派な個性はありませんが、気にせず接してくれるとありがたいですわ」
♦︎♦︎♦︎♦︎
「あ、出久来たわよ」
「…なんか疲れた顔してるね?」
「クラスごと入学式出てなかったし、なんかあったんじゃない?」
放課後。校門前で待ち合わせていたミオと万由里が、精魂抜けた様相で校舎を出てきた出久へと歩み寄る。
出久は疲れ切った顔を上げ、2人に無理やり笑みを浮かべた。
「お、お待たせ…」
「そんなに待ってないけど…、何かあったの?死にそうな顔してるけど」
「いや、ちょっと…、除籍の危機を乗り越えて安心したら腰抜けて…」
「何やったらそうなんの?」
個性把握テストの順位は9位とまずまずだった。
いくら精霊の力を持ってても、上には上が居るんだなぁ、と思いつつ、出久は2人にこれまでの経緯を語る。
除籍と聞けば、生徒に落ち度があったと考えるのが普通である。
2人は出久に落ち度が全くないとわかるや否や、安堵したように胸を撫で下ろした。
「よかったぁ…。あの爆発頭と殴り合いでもしたかと思ったわ」
「初日でしないよそんなこと…。
殴りかかられはしたけど…」
「殴り返せばよかったのに」
「……2人とも、かっちゃんのこと嫌い?」
「好きではないわ。性格が終わりすぎ」
「イズクをいじめてたから嫌い」
「………だよね」
昔は頼れる兄貴分だったのだ。
ちょっと自信と自尊心が悪い方向に育ちすぎただけで。
擁護しようにも、昔の思い出が薄れるほどに思い浮かぶ傍若無人な言動の数々に顔を顰める出久。
雄英で変わってくれるといいけど、と淡い期待を抱いていると。
ミオが聞こえないように、耳元で囁いた。
「イズク。私たちのクラスに、ウェストコットの同郷がいた」
「……同郷?」
「ウェストコットが前世で生きた世界から来た人がいたってこと」
神妙な面持ちの2人に、出久は首を傾げる。
いくらウェストコットの同郷とはいえ、わざわざ報告する程のことだろうか。
そんなに警戒する必要があるのか、と思いつつ、出久は彼女らに問うた。
「えっ…、と、それなんかヤバいの…?」
「現時点ではわかんない。
でも、私たちの素性を知っている人間がいるってことは覚えておいて」
「私たちの味方とも限らないからね。
ウェストコットの前世を知っているってことは、精霊の力も知っているってことだし」
「……あ、そっか…。問答無用で殺しにくる可能性もあるんだ…」
これは面倒なことになった。
一応はオールマイトやラタトスクにも共有しておくべきか、などと思っていると。
校舎の方から「緑谷くーん!」と自分を呼ぶ二つの声が響いた。
「…難しいことは後で考えよっか」
「ん」
翌日。雄英高校中に「緑谷出久は彼女持ち」という、どこが出所かもわからない噂が駆け巡った。
クラスメイト数名が血涙を流し、出久に詰め寄ったのは言うまでもない。
時崎 狂三…皆大好ききょうぞうちゃん。別世界出身なので個性はないものの、精霊としての経験から、実技試験で21位という好成績を叩き出してる。でも落ちた。隣に怨敵とそっくりな奴座っててストレスマッハ。キレそうになる度、こいつは別人、こいつは別人と自分に言い聞かせている。
緑谷 出久…初日からハードモード確定。クラスメイトに詰め寄られて白目を剥いた。