居候がおやつ感覚でトンデモ能力渡してくるヒーローアカデミア 作:鳩胸な鴨
「いっ、づづっ…。慣れないことはするもんじゃないね…。折れちゃった…」
浅瀬へと移動した出久は顔を顰め、赤黒く腫れ上がり、裂傷が走る腕へと視線を落とす。
ワン・フォー・オールの出力調整を失敗してしまった。
初めて使う天使との同時使用は避けるべきか、と思っていると、峰田が声を漏らす。
「み、緑谷、大丈夫なのかそれ…?」
「大丈夫、治せる個性再現するから…。
ちょっと熱いけど…」
言って、出久は治癒の炎で腕を燃やす。
燃やされ、回復する腕を前に、蛙吹は出久の肩に手を置いた。
「緑谷ちゃん。どうせ治るからってそんな無茶をするものじゃないわ」
「無茶じゃなくて、僕の調整ミスだから…」
「それでもよ。私たちもヒーローになりに来たの。もっと頼って」
「……あ、ありがとう」
自分1人でなんとかしようとするのは悪い癖だ。
ラタトスクの面々に言われた指摘と、蛙吹の言葉が重なる。
緑谷出久の命は世界の命と同義。
出久が死ねば確実に、ミオたちはこの世界を殺し尽くす。
改めて気を引き締めつつ、出久は土煙が上がる広場へと目を向ける。
「次は広場か…。このまま助けを呼ぶのが得策だろうけど、増援を待ってられない。オールマイトを殺す策があるなら、それがどんな兵器であれ、広場に置くはずだ。相手が吐いた情報から推理するに、オールマイトがこの場にいること前提の作戦を組んでる。だからオールマイトの意識を逸らすために僕たちを散り散りにするって方法を取ったんだろうし…」
「緑谷ちゃん、それやめて。怖いわ」
「あ、ごめん…」
「それよりおまっ、次広場っつった!?」
「うん」
「バカバカバカバカ!!まず逃げて応援呼ぶの先だろうが!!」
勝利に酔わず、危険を訴える峰田。
そう言ってくれるのはありがたい。
だが、そう言ってられる状況でもない。
自惚れにしか思えないだろうな、と思いつつ、出久は淡々と状況を整理する。
「多分、間に合わない。今から行って待ってたら死人が出る」
「なんでそんなこと言えんだよ!?あっち先生らいるんだぞ!?」
「さっきも言ったけど、僕たちに当てられたのが雑兵なら、広場にオールマイトを殺せる策が置かれてる。その時点で先生たちの勝ち目は薄い」
「緑谷ちゃん。それなら私たちが加わったところで…」
「敵の意識を逸らすだけ。それだけでも死人が出るリスクは減ると思う」
もしもの時は、本来の天使を使う。
ヴィジランテ活動がバレるどころの騒ぎではないが、死人が出てくる可能性がある以上、そうも言ってられない。
出久がそんな分析を繰り広げていると。
爆風と共に、相澤の体が転がった。
「先生!!!」
「来るな!!」
相澤が叫ぶと共に、彼の体を覆い尽くすかのように緑の膜が顕現する。
3人がソレに驚くのも束の間、爆炎が相澤の体を吹き飛ばした。
「な、なんだあれぇ!?」
「
世界のことわりを書き換える絡繰…
吹き飛び、気を失った相澤の体を受け止め、出久は周囲を見渡す。
まず目に入ったのは、幾つもの手を体につけた、不気味な風貌の男。
主犯格ではあるが、顕現装置らしきものを身につけてない。
その隣に立つ黒いモヤの男も違う。
出久が観察を続けていると、ふと、その体を影が覆った。
「緑谷ちゃん!!」
「〈
がきぃんっ、と、氷を隔て、衝撃が走る。
眼前に聳える脳が剥き出しになった怪人。
その腹には、顕現装置らしき機械が埋め込まれていた。
出久が一撃の衝撃に戦慄く隙もなく、随意領域が周囲に展開する。
出久は〈氷結傀儡〉を解き、足を〈颶風騎士〉に作り変えた。
「くっ…!?」
「ほらほら、逃げてんなよヒーロー志望。
お友達が危ないぜ?」
飛び上がり、爆炎を避ける出久。
ソレに釘を刺すかのように手の敵が吐き捨てるや否や、随意領域が蛙吹たちを取り囲んだ。
「〈
もうバレてもいい。
そう判断した出久は手元に箒を顕現させ、随意領域へと向ける。
と。彼女らを取り囲んでいた領域は、ぽんっ、と間抜けな音を立て、バカみたいな大きさの飴玉へと変貌した。
「み、緑谷…?」
「緑谷ちゃん、これは…?」
「後で話すから。今は、気にしないで」
第二の精霊、緑谷出久。
その存在として力を振るうと決めた今、己を制御する枷はない。
瞳の奥に雫のような光が灯る出久を前に、敵は鬱陶しそうに声を張り上げる。
「あのガキ殺せ、脳無」
脳無。そう呼ばれた敵が雄叫びをあげ、随意領域をあちこちに展開しながら迫る。
流石に〈贋造魔女〉だけでは捌ききれない。
出久は箒を宙に解くと、代わりに剣を握った。
「
ワン・フォー・オールを乗せた斬撃。
腕のあちこちが紫電に灼かれる感触を耐え、出久は随意領域を切り砕く。
ぶすぶすと肉が焦げる匂いを治癒の炎が掻き消す中、手の敵がつぶやいた。
「なんだよ、お前…。コレに対抗できるなんてさ…。最近の子供は怖ェなぁ…」
(コイツ、これだけ随意領域を使って動きが鈍らないなんてあるか!?)
普通の人間には過ぎた力である魔術。
いくら機械を介しているからといって、装備している本人の脳には相応の負担がかかる。
それこそ、使用中に顔中から血を吹き出し、よくて廃人、悪くて絶命したという例があるほどだ。
考えられる理由は二つある。
一つ。とんでもなく演算処理能力が高い、化け物じみた脳みそをしている。
二つ。そもそも負担をものともしない存在である。
知性がなさそうな振る舞いからして、おそらくは後者。
動きが制限された状態では戦えないと判断した出久は、抱えた相澤の体を蛙吹へと投げ飛ばした。
「あすっ…、梅雨ちゃん!峰田くん!
先生をお願い!!」
「緑谷ちゃん、無茶よ」
「お前っ、そんなのと戦うなんて自殺行為だって!逃げようって、なぁ!?」
「大丈夫だから!!行って!!」
「……わかったわ」
「し、死ぬなよ!?絶対死ぬなよ!?」
「行かせるとお思いで?」
相澤を抱え、出口へと向かう彼女らに、黒いモヤの男と手の男が迫る。
と。彼らを分断するかのように、世界を裂く斬撃が通り過ぎた。
「……っと」
「脳無の攻撃捌きながらこっちにも牽制か。
イレイザーヘッドの教育がいいのかな?」
(くそっ…!ちょっとは怯めよ…!!)
意識が逸れたことで、脳無の攻撃が出久の体を壊し始める。
骨が砕け、内臓が潰れる。
激痛を炎が舐める感触と共に、出久は涙を燃やし、雄叫びをあげた。
「ぎっ…、が…、ない…っ!!」
ワン・フォー・オールと天使を併用している影響か、体が強化された紫電に燃やされる。
皮膚が焦げ、筋肉が千切れ、治癒の炎が灯る。その繰り返し。
脳内麻薬に浸った脳みそをフル回転させ、出久は脳無に斬撃を浴びせ続ける。
が。怪人の傷は切った側から再生し、出久の体に打撃と随意領域による爆炎を叩き込む。
「近づけない…」
「なんだ、あのチート…!?
対オールマイト用だぞ…!?」
ただの学生が、オールマイトを殺す策に食い下がっている。
出久は〈鏖殺公〉を顕現装置に突き刺し、思いっきり切り上げる。
個性はただ再生するだけだったらしい。
顕現装置は再生せず、能力の一つを失った脳無は隙が出来た出久の腕を掴む。
出久は〈鏖殺公〉を解除し、躊躇いなく己の腕を力任せに引きちぎった。
「なっ…」
「来ォい!!〈
傷口から炎が広がる中、だんっ、と踵を地面へと叩きつける。
それに呼応するようにせり出た玉座が脳無の体を弾き飛ばすと、出久はその頂点に飛び上がり、治癒の炎で構築された手で刺さった剣を引き抜いた。
「お前、オールマイトを殺せるんだろ…?
叫び、玉座を裂く。
その破片が生み出すは、世界を殺すための剣。
出久は自分の背丈よりもはるかに大きく変化したそれを、軽々と振り上げた。
「【
ワン・フォー・オール、100%。
その出力をまとった剣が放つ紫電が、出久の体を焦がし尽くす。
が。それに顔を歪めるほど、出久の脳はもう痛みを認識できない。
出久は叫び、世界を殺す剣を怪人へと叩き落とした。
「
光が怪人を飲み込む。
破壊の波があたりに駆け巡るのを前に、敵はつぶやいた。
「マジにヒーロー志望かよ…。
もう災害だろ、これ…」
再生はしたものの、倒れ伏し、その場から動かない怪人。
出久はそのクレーターから目を逸らすと、剣を解き、敵を睨め付けた。
「次はお前らだ…!」
「……ゲームオーバーだ。黒霧」
「御意」
「待て!!!」
ワープゲートへと消える敵に、出久が叫ぶ。
が。力を使い過ぎたせいか、体に激しい倦怠感が駆け巡り、その場に倒れた。
「……っそ、くそっ…!」
「もう大丈夫、私が来…っ、あれ?
敵は…って、緑谷少年!?ああ、また君は無茶して!!」
オールマイトが駆けつけたのは、その直後のことだった。
第二の精霊…力の一端がクラスメイト2人にバレた。ラタトスクに「2人も巻き込むべき」と言われるが、本人としてはあんまり2人に負担をかけたくないと悩むことに。
精霊2人…世界滅ぼそうかな、と思いかけたが、出久とのデートを確約したことにより機嫌を直した。
オールマイト…弟子が無茶をしすぎるのが心配になってきた。この後、ミオたちに「もっとちゃんと先生してよ」とこっぴどく叱られた。