居候がおやつ感覚でトンデモ能力渡してくるヒーローアカデミア 作:鳩胸な鴨
「……なんつーか、お前カッケェって思うのはあるんだけど、それ以上にさ…。
お前の立場のハーレムだけは死んでもごめんだわ、オイラ」
「緑谷ちゃん。事情があるなら尚更、自分を蔑ろにするのはダメよ。
無茶できる男の子はかっこいいけど、見てて不安だもの」
「ご、ごめんなさい…」
傷をなんとか治療し、包帯に塗れた相澤より「雄英体育祭がある」と告げられた日の昼休み。
水難ゾーンへと飛ばされた2人、そしてミオたちとで集まった出久は、2人の厳しい意見に苦笑を浮かべる。
結局、バレてしまった。
正確に言えば、バラすべきだとラタトスクの面々に押し切られてしまった。
申し訳ないな、と思いつつ、出久は弁当に入った生姜焼きを頬張った。
「……あ、これミオが作ったやつ?」
「よくわかったね。なんで?」
「お、あ、味付けが違うから、かなぁ…?」
「大味だったから」と言いかけてしまった。
梅雨がいつもの顔で、しかして威圧感を込めて出久を見つめている。
あとで説教は確定か。
笑顔のミオを前になんとか繕った出久は苦笑を浮かべ、2人に懇願する。
「そ、そんなわけだからさ、出来るだけフォローしてもらいたいんだ…。
1人で誤魔化すのも無理あるし…」
「緑谷ちゃん、誤魔化し方雑だものね」
「雑……」
「そうなのよ。出久ったら、嘘が雑なの」
「吐き慣れてないよな、明らか。まんま隠したほうがいいぜ」
「………そんなに?」
師弟とは似るものなんだなぁ。
そんなことを思っていると、ボサボサの髪の少年がこちらへと近づいてくるのが見えた。
「あ、心操くん」
「緑谷、八木。緑谷の彼氏と一緒か。
ちょうどよかった」
先ほど、A組相手に宣戦布告をしてきた普通科の男子。
彼は峰田の隣に食事が乗ったトレーを置き、椅子に座る。
絶妙に気まずい。
「これも私作ったの」と語るミオを横に食事を進めていると、心操と呼ばれた少年が口を開いた。
「そんなふうにイチャついてられるってことは、余裕なんだな。羨ましいよ」
「こ、これはその…」
「心操ちゃんって言ったかしら。
これは緑谷ちゃんの余裕じゃないわ。ミオちゃんの気遣いよ」
「そうか。俺から見たら嫌味ったらしく余裕かましてる風にしか見えない」
「お前なぁ…!」
悪辣な言葉の数々に、峰田と梅雨が表情を険しいものへと変える。
と。ミオが繕った笑みを浮かべ、威圧感を放った。
「心操くん。負けたくないって気持ちはわかるけど、そういう言い方やめてくれない?
言いたいことだけ言ってよ。
私の作ったお弁当が不味くなったとか言われたらどう責任取るの?」
「み、ミオ…!僕は気にしてないから…!
あんまりキツく言わないの…!
ごめんね、心操くん!いつもはこの程度で怒らないんだけど…」
割と普段から怒っている。
出久をはじめとした周りの人間が上手く宥めているだけで。
圧を増すミオをなんとか抑えようと言葉を連ねる出久に、心操は顔を顰め、吐き捨てる。
「………緑谷の彼氏。お前にだけは負けない」
嫌われてしまったなぁ。
そんなことを思いつつ、出久はミオの機嫌を直せるよう、放課後のデートのプランを練り始めた。
「……お前、ミオちゃんに惚れてんの?」
「そんなんじゃない」
「そうとしか見えない言い方だったわよ、今の」
「…………」
「ごめん。タイプじゃない」
「………………」
♦︎♦︎♦︎♦︎
雄英体育祭。
かつてのオリンピックに変わる注目度を集める一大イベントであり、生徒にとっても職場体験、またはインターン先の確保、プロへのアピールなど、重要な意味を持つ学校行事。
それに臨む生徒たちの心持ちは様々であれど、そのほとんどは栄光を夢見る。
そんな野心めいた視線が飛び交う中、その中心に立つ首席はというと。
「せんせー。俺が一位になる」
爆弾を全力投球していた。
不遜な態度に怒りを爆発させ、ブーイングをかます生徒たち。
いくら個性が「爆破」、名前が「爆豪」だからといって、ここまで「歩く爆弾」を体現しなくてもいいのではないか。
そんなことを思っていると、霊力に乗った言霊が脳裏に響く。
(一位はイズク。がんばれ)
(あの爆発頭なんかぱぱっと張り倒して、表彰台乗っちゃいなさい)
(が、頑張る…)
本来の天使の力は使えない。
ヒーロー志望として鍛え上げた自分の実力で勝ち上がるのだ。
気を引き締める出久に、青少年の教育上よろしくなさそうなのに何故か高校にいる18禁ヒーロー「ミッドナイト」が競技説明に入る。
第一の競技は障害物競走。
さまざまな妨害が待ち構える会場の外周約4kmを走り、上位数名のみが次の競技へと進むことができる総当たり戦。
ルールはコースから外れなければ何をしてもいいという、ヒーロー養成に力を入れた高校らしい破天荒ぶりとなっている。
スタート位置についた出久は出入り口を見て、思わず声を漏らした。
「轟くんに先行してくださいって言ってるようなもんじゃないかな…」
狭い。とてもこの人数が易々と通り抜けられるような広さではない。
個性という存在があるのに、均等にチャンスがある競技を作るほうが無理か、などと思っていると、ミッドナイトの「スタート!」という声が響く。
それを聞いた途端、出久は足を〈
「イズク、がんばってー」
「がんばれー」
『そこ2人!きちんと走る!!』
「……だって。走る?」
「先生に言われたら走らなきゃでしょ」
「そっかぁ」
通過しない程度に加減して走ろう。
精霊2人は頷きあうと、轟焦凍による氷が駆け巡る出入り口を潜った。
♦︎♦︎♦︎♦︎
「……エリオット。彼女たちを参加させてよかったんですか?」
「むしろ参加させないほうがストレスを溜め込むことになるよ、カレン。
好きな人の活躍は近くで見たいものさ」
プロヒーローが集まる観客席にて。
コスチュームを着て参加するヒーローたちが取り囲む中、スーツ姿の老紳士と女性が言葉を交わす。
イギリスの元トップヒーロー、エリオット・ボールドウィン・ウッドマン。
そして、現トップの1人であるカレン・ノーラ・メイザース。
秘密裏にラタトスクを運営する彼らは、轟たちの妨害を潜り抜けていく出久が映る画面へと目を向け、笑みをこぼす。
「おお。そう避けるか、出久くん。
動きがよくなっているのを見ると、雄英のレベルの高さが窺えるね」
「…アレは神無月の指導の賜物では?」
「神無月くんは戦術しか教えていないよ」
エリオットは言うと、売店で買ったたこ焼きを口に放った。
「…この『たこ焼き』というのは、本国だと食べられないのが難点だね。
カレンもそうは思わないかい?」
イギリスにおいてタコの販売は固く禁じられている。
そのことを惜しむように呟くエリオットに、カレンは呆れを吐き出した。
「具さえ変えれば食べられます」
「しかし、それは何焼きになるんだ?」
「たこ焼きです」
「…タコはないのに?」
「たこ焼きです」
そんなくだらないことを話しているうちに、障害物競走はクライマックスへと向かう。
ゴール目掛けて飛び出した3人の人影を前に、プロヒーローが揃って身を乗り出す。
天才的なバトルセンスで他を抜き去った爆豪勝己。
生まれ持った個性によって相手を寄せ付けてこなかった轟焦凍。
そして、最愛より与えられた世界を殺す力を駆使し、先頭へと躍り出た緑谷出久。
その3人がほぼ同時にゴールテープを切るのを前に、エリオットは笑みを浮かべた。
「日本の未来は明るそうだね」
心操人使…告白してもないのにフラれた人。ヒーロー科に居ながら恋人と触れ合う時間を確保している出久に対して強い対抗心を抱いている。
時崎狂三…42位とギリギリ一回戦通過。その結果、青山くんが一回戦落ちしてしまった。ごめん、青山くん。
精霊2人…「私たち出たらそもそも勝負にならないよねー?」「ねー」ということで一回戦落ち。観客席に戻って出久を応援するための法被やうちわを用意し始め、クラスメイトに「彼氏くんを羞恥心で殺す気か」と全力で止められた。