居候がおやつ感覚でトンデモ能力渡してくるヒーローアカデミア   作:鳩胸な鴨

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叶わない初恋

「心操さん。騎馬戦、わたくしと組みませんこと?」

 

第二回戦、騎馬戦にて。

騎馬を集めていた心操に、狂三が不適な笑みを浮かべ、迫る。

心操は彼女の姿に目を見開き、感嘆の声を漏らした。

 

「時崎…。個性ないのによく通ったな…」

「こう見えて体力には自信がありますの。

個性がないと言う大きなデメリットはありますが…、それを帳消しにする働きは致しますわよ?」

「……よっぽど自信があるんだな」

「ええ。山田先生曰く、わたくし、実技は21位でしたの」

「…なんでお前ヒーロー科入ってないんだ?雄英が無個性だからって落とすわけ…」

「普通に筆記で落ちましたわ」

「…………ドンマイ」

「別に気にしてませんわよ。

どうせヒーロー科は通らないと思っての記念受験ですもの」

 

偏差値79、倍率300倍の壁は高かったか。

そんなことを思いつつ、心操は狂三に問いかける。

 

「で、勝算あるんだよな?」

「ええ。必ず一位で通過しなければならない…などという戯けた縛りがあるのなら話は別ですが…、そうでないのならわたくしが策を練りますわ」

「…どうせ緑谷の彼氏は本戦行くだろ。そっちでもぶつかれる」

「あらあら。随分とご執心ですのね」

 

一位は見えていない。

いや、確かに緑谷出久は一回戦を一位で通過しているが、それ以前に心操は「ヒーロー科の緑谷出久」を異常なまでに敵視している。

狂三の指摘に、心操は心底腹が立つと言わんばかりに顔を顰めた。

 

「……あそこに居て、デートなんてする余裕かましてるのが気に食わない。

あいつにだけは、勝ちたいんだよ」

 

心操の声が震える。

入学以降も定期的にミオたちとデートしている出久が余程許せないのだろう。

険しい顔つきの彼に、狂三は思わず口を開いてしまった。

 

「…ミオさんたちの出自の関係で、定期的にデートをしなければならない、と聞いてもですか?」

「…………は?」

「……言っておいてなんですが、詳細が聞きたかったら本人に聞いてくださいまし。

わたくしからこれ以上話すのは、ミオさんにも緑谷さんにも失礼でしょうし」

 

彼らにとってのデートは遊びではない。世界の命運をかけた戦争なのだ。

そこまで言いかけて、狂三はふと我に返る。

最愛…あの人が死に物狂いで駆け抜けてきた旅路を全否定するような心操の発言に、どうしても我慢できなかった。

狂三はコホンと咳払いすると、心操に繕った笑みを浮かべた。

 

「まずは騎馬戦に集中致しましょう。

意地も矜持も、ここを勝ち抜いてから好きなだけぶつけなさいな。

彼はきっと、それを真っ直ぐに受け止めてくれますわ」

 

自分の知る男と同じなら、きっとそうする。

確信を持って言い放つ狂三に、心操は疑問をこぼした。

 

「……お前、緑谷の彼氏と知り合いなのか?」

「緑谷出久のことは知りませんわ。

わたくしは彼にとても似た方を知っているだけです」

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

激闘を繰り広げる騎馬戦。

本戦へと勝ち残るため、それぞれが死に物狂いでポイントが割り振られた鉢巻を奪い合うのを見下ろし、エリオットはカレンに語りかけるように零した。

 

「我らがヒーローは観客席どころか、会場からも熱い視線を集めているね。

1000万ポイントという重圧にもまるで怯んでいない。

いやはや、目覚ましい成長っぷりだ」

「見ればわかります」

 

一回戦を一位で通過した出久に割り振られたポイントは、なんと1000万。

他が3桁で固まっているのに対してこの数字を設定するあたり、トップを取った1人の生徒に注目が集まってしまうことを避けたのだろうか。

それとも、勝ち抜いた生徒に受難を与えるのが目的なのか。

なんにせよ、よく考えられたルールである。

迫る敵を仲間の個性、及びサポートアイテムで躱していく出久を見守っていると。

その隣に痩せぎすの男…トゥルーフォームのオールマイトが腰掛けた。

 

「やぁ、エリオットさん。暫くぶりです」

「久しぶりだね、Mr.八木。教師生活はどうかな?」

「まだまだ学ぶことが多いです。

同僚たちやまゆ…っ、娘に『しっかりしてくれ』と叱られてばかりで…」

 

言うと、オールマイトはサポートアイテムで飛び上がり、紫電の塊を隕石のように落とす出久のチームを見やる。

上鳴電気の「俺の上位互換みたいなことやるのやめない!?」という悲鳴じみた声を聞き流しながら、オールマイトはエリオットに問いかけた。

 

「エリオットさん。どうしてラタトスクを作ったのですか?」

 

エリオットの眉が動く。

ヒーローたちが会場で繰り広げられる激戦に熱中する中、オールマイトは影に包まれた瞳をエリオットに向けた。

 

「アイザック・ウェストコットと共に『始原の精霊』を生み出したあなたが、どうしてラタトスクなどという組織を作ったのか。

どうして彼女の保護を選んだのか。

そのなにもかもが、私の瞳には見えてこないのです。

よろしければ、ご教示願えますか?」

 

事情を知るからこそ浮かぶ当然の疑問。

衰え、弱々しい姿となろうと鋭い眼光が、エリオットを突き刺す。

エリオットは整えられた顎髭を撫で、優しげに微笑んだ。

 

「どうして、どうして…か。

Mr.八木。恋をしたことはあるかい?」

「あ、いえ。あいにくと、そういったものから遠ざかっていたもので…」

「では、わからないかもしれないな。

叶わない恋であろうと、その人のために全てを投げ出したいと思う気持ちは」

「……まさか」

 

飯田が無理矢理にトルクの回転数を引き上げ、凄まじい勢いで出久たちに迫る。

間一髪、その一閃を騎馬から飛ぶことでやり過ごしたことで歓声が響く。

エリオットはそんな興奮と熱狂からはかけ離れた場所へと目を向け、自嘲した。

 

「ああ。そのまさかさ。

私は始原の精霊に…、緑谷 ミオに恋をした。

ただそれだけの理由でラタトスクを作り、彼らのサポートを申し出たのさ」

「………」

「軽蔑したかい?」

「あ、いえっ…。そんなことは全く…」

 

エリオットの想いが報われることはない。

腰も曲がり、足も思うように動かなくなってからの初恋。

その熱がエリオットの脳髄を焼き焦がした。

叶わなくてもいい。

ただ、彼女の支えでありたい。

そんな恋心を顔に浮かべるエリオットを前に、オールマイトは口を開いた。

 

「……愛と勇気が世界を救う。

長い間、平和の象徴として戦い続けてきましたが…、こうも強く実感したのは初めてです」

「ふふっ…。私もだよ、Mr.八木」

 

終了の合図が会場に響く。

勝利の雄叫びを上げたのは、そばかすにもじゃもじゃ頭の冴えない少年だった。




オールマイト…愛と勇気の素晴らしさを改めて実感。やなせはやはり偉大だった。
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