居候がおやつ感覚でトンデモ能力渡してくるヒーローアカデミア   作:鳩胸な鴨

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???アウェイキング

「時崎さん。ちょっといいかな」

 

昼休憩にて。

A組女子が峰田の謀りによって自ら痴態を晒そうとしている頃、外へと向かう通路にミオの声が響く。

昼休憩に向かおうとしていた狂三はそちらを振り返り、繕った笑みを浮かべた。

 

「あら…、ミオさん。緑谷さんのところに行かなくてもよろしいのですか?」

「うん。私は今、君と話がしたいんだよ、〈ナイトメア〉」

「………きひっ。やはりバレていましたか」

 

笑みに怒りが宿る。

違うとはわかっている。だが、どうしても納得し、落とし込むことが出来ない。

はらわたが煮えくり返る。

今すぐに喉を掻っ切ってやろうか、などと思っていると。

ミオが深々と頭を下げた。

 

「ごめんなさい」

「………は?」

 

予想外だった。

この生物に「謝る」などという概念があったのか。それともただの打算なのか。

ぐるぐると思考が巡る中、ミオが言葉を続ける。

 

「私は『崇宮 澪』ではないけど、同じ『始原の精霊』であることは確かだ。

彼女はもういない。謝りたくても、謝ることもできない。

だから、私が謝りたいと思った。

こんな形だけの謝罪で償えることではないけど…、どうか、謝らせて欲しい」

「………あなたには関係のない他人の罪ですわよ?」

 

ここではない世界に生まれ、最愛との再会を夢見て幾つもの悲劇を生み出した崇宮 澪。

この世界に生まれ、ただ興味から人一人の人生を捻じ曲げ、その後悔に苛まれる緑谷 ミオ。

二人は同じ『始原の精霊』であるが、在り方も境遇もまるで違う。

狂三が問いかけると、ミオは頭を下げながらも響く声を上げた。

 

「あなたが納得してなさそうだった」

 

ああ。この子は違う。

すとん、と、つかえていた何かが胸の奥へと消えていく。

狂三は笑みから怒気を消し、頭を下げるミオの肩に手を置いた。

 

「………いえ。今ので納得できましたわ。

あなたは、わたくしの怨敵ではないのですね」

「…でも、同じ存在ではあるよ。

イズクを失えば、君の知るような悲劇を繰り返しかねない」

「だから天使を与えているのでしょう?

死なないように。死ねないように。

彼がその力で全てを救えると全幅の信頼を寄せて」

 

馬鹿げている。英雄願望が強すぎるだけの高校生に何を求めているんだか。

狂三がそんな呆れを込めて吐き出すと、ミオは顔を上げ、笑みを浮かべた。

 

「イズクならやれるさ。

だって、私たちを救えたんだから」

 

恋焦がれる顔のミオを前に、狂三もまた穏やかな笑みを浮かべる。

そこに蟠りはなく、級友に話しかけるかのように狂三が口を開いた。

 

「では、わたくしにもその奇跡を見せてもらうとしましょうか。

刻々帝(ザフキエル)〉はまだ手元にありますわよね?」

「……イズクは私のだからね」

「大丈夫ですわ。わたくしには既に、最愛の殿方がいらっしゃるので」

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

その頃、出久はと言うと。

 

「俺は右だけでお前の上を行く」

 

会場の出入り口にて、轟にありったけの敵愾心をぶつけられていた。

凄絶すぎる彼の出自。

No.2ヒーロー「エンデヴァー」の家庭は、その煌びやかな功績からは考えられないほどに闇が煮詰まっていた。

子の個性を強くする目的で配偶者を選ぶ「個性婚」に始まり、虐待じみた訓練、家庭内暴力と筆舌に尽くしがたい悲惨さだった。

結果。母は病み、子に煮湯を浴びせた。

父はそれでも変わろうとせず、己では届かぬ理想を子に押し付けている。

 

そんな地獄で育った子が轟焦凍なのだ。

 

家庭の歪み、その大元である父を否定する。

故に彼は炎を使わない。

そこには出久では考えも及ばないほど、並々ならぬ覚悟と決意があるのだろう。

吐き捨て、去っていく轟に、出久は口を開く。

 

「轟くん。力は力だよ」

「……知ったふうな口を利くんだな」

「知ってるよ。僕はずっと考えてる。

力ってなんなんだろうって」

「………何が言いてぇ?」

 

轟の声が低くなる。

出久はそれに怯むことなく続けた。

 

「たとえ大っ嫌いな親から受け継いだものでも、持っているのは君なんだ。

どう使うかなんて君の自由だから、僕は『炎を使え』なんて強制もしないよ」

 

言うと、出久は踵を返す。

轟がその後ろ姿を見ていると、ふと、何かに気づいたかのように出久が振り向いた。

 

「あ。そうだ、轟くん。

困ってることがあったらなんでも言ってね。力になるよ」

「…………は???」

 

何言ってんだこいつ。

そう視線で訴えかける轟。

出久はその視線に気付いたのか、それともどう思われるかわかっていたのか、言葉を続けた。

 

「競争相手なのはもちろんだけどさ。

馴れ合い…ってわけじゃないけど、ヒーローとか云々以前に、人と関わっていくって大事なことだと思うから。

だから、君がこうして自分の出自を話してくれてよかったって思ってる。

…ごめんね、急にこんなこと言って。お互い、頑張ろうね」

 

それだけ言うと、出久は会場の中へと消えていく。

残された轟は顔を顰め、小さく吐き捨てた。

 

「………なんだよ、アイツ…」

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

本戦。ガチバトルトーナメント。

相手を場外に押し出すか、死なない程度に戦闘不能にすること以外にルールはなく、文字通り相手に全てをぶつけ、勝ち抜いていく最終戦。

その一回戦に臨む出久は、こちらを強く睨め付ける心操を前に口を結ぶ。

 

────アイツに話しかけられてから、記憶がないんだ。

 

「訳もわからないままこの場に立つのはプライドが許さない」と降りた尾白猿夫からの忠告を想起しながら、〈鏖殺公〉をベースに腕を作り変える。

尾白の件から考えるに、意識に干渉する類の個性だろうか。

恐らくは会話に何かしらのトリガーがあるのだろう。

無視を決め込めば勝てる。

何を言われても波風立てない心なら、爆豪を相手して培われている。悲しいことに。

 

「わかるかい、緑谷出久。これは心の強さを問われる戦い。

強く思う将来があるなら、なりふり構ってちゃダメなんだ」

 

心操が言葉を連ねる。

推察するに、出久が…若しくはヒーロー科が激昂しかねない台詞。

怒るな、怒るな、と自分に言い聞かせ、拳を握る。

 

『それでは第一回戦!レディ〜〜…』

「『あの猿』はプライドがどうとか言ってたけど…、チャンスをドブに捨てるなんて馬鹿だと思わないか?」

『ファアイトッ!!』

「…っ!!」

 

なんてことを言うんだ、お前は。

チャンスを自ら投げ捨てる行為というのは尾白もわかっていた。

それでも、彼は己を納得させるために正しいと思うことをした。

沸き上がる怒りを堪えるように拳を握り、出久は駆け出した。

 

「……そりゃそっか。聞いてるよな」

 

向こうも想定していたのだろう。

迫る出久を前にため息を吐き出し、言葉を続けた。

 

「なぁ、勝負しようぜ緑谷。

お前が勝ったらさっきの発言、謝るよ。

万が一、お前が負けたら…」

 

動揺するな。一気に決めろ。

拳を放ち、心操の体を殴打する。

が。心操は呻くこともなく、胃酸を噛み潰した口を開く。

 

「緑谷と別れろ。八木とも金輪際関わるな」

「は!?……あっ」

「この話題には弱いよな。俺の、勝ちだ」

 

まずい。やってしまった。

世界を滅亡に導く一言への衝撃に耐えきれなかった。

意識が朦朧としていく。

恐らくは、洗脳の個性。

入試で結果が出せず、出遅れたことをコンプレックスと感じているのだろう。

「振り向いてそのまま場外に出て行け」と心操の言うがままに体が動く。

やばい。このままでは世界が滅ぶ。

焦り散らしても体は言うことを聞かず、場外へと歩みを進める。

 

─────ああ、ごめん、9代目くん…。僕らじゃ止められなかった…。

 

そんな謝罪が響く。

止められなかった?なにを?

疑問を浮かべるのも束の間、意識が押し込められるような感覚が出久を襲った。

 

「は…?な、なんで、動け…」

「…ふむ。『私』をこう使ってるのか…。

出力を下げてるのが気に食わんな」

 

自分の声であるのに、自分ではない言葉。

まずい。何かがまずい。

出久は意識を集中させ、言葉を発する。

 

(僕に戻れ!!)

「わかっている。これくらいは言わせろ」

(えっ、あれ…っ?)

 

話が通じた。

危機感が霧散し、拍子抜けする出久をよそに、彼の体を使う何者かが心操へと視線を向けた。

 

「そこの。褒めてやる。

どんな形であれ、保険である私を表に出せたのは貴様が初めてだ」

 

保険。そう聞いて思い浮かぶのは、ミオから与えられた霊結晶。

アレの中に人格を埋め込んでいたのか、それとも偶然できたのを黙っていたか。

どちらにせよ、ミオに聞くことが増えた。

それを聞いた心操は表情を歪め、吠えた。

 

「保険…?お前…、体を作り変える個性でなんかしてたのか…?

いいなぁ、誂え向きな派手な個性で!」

「お膳立てはした。あとは貴様が殴れ」

(ありがとう!!)

 

意識が切り替わる。

紫電走る拳を握り、吠えて殴りにかかる心操の懐に入る。

顎に一発。意識を刈り取る気で放った一撃がモロに入るも、心操は歯を食いしばり、出久の頬に拳を突き刺す。

 

「こんな個性のせいで、俺はスタートから出遅れちまったよ!

死に物狂いで憧れに手を伸ばしても、どれだけ背伸びしても届かなかった!

お前みたいな恵まれた個性と違って!!」

 

そうだ。恵まれただけだ。

ただそれだけで、他を押し除けて憧れるだけの舞台に立てた。

 

「個性にも恵まれて!望む場所にも立てて!それだけじゃ飽き足らず、恋人と遊んでるお前が心底気に食わない!!

なぁ、気持ちよかったか!?自分が勝ち組だって周りに触れて回るのは!?

お前のその目が、お前のその態度が、俺たちをどこまでも惨めにさせるんだよ!!」

 

そう見えても仕方ない。

だけど、こちらも譲れないものがある。

出久は心操の胸ぐらを掴むと、足を作り替え、思いっきり踏み込んだ。

ワン・フォー・オール、フルカウル。

許容限界である10%の力を巡らせ、出久は心操を投げ飛ばした。

 

『心操、場外!!勝者、緑谷出久!!』

 

勝者を讃える声が響く。

出久はその声を浴びながら、倒れ伏した心操へと目を向けた。

 

「…本当に自分のことを惨めだと思ってる奴は、勝とうとしないよ。

すごかった。ありがとう」




心操人使…負けてしまった。意地も矜持も受け止めた上で賞賛を贈られ、荒んだ心が潤った。同時に、「性格的に、デートはミオたちのためなんだろうなぁ」と出久への悪いイメージを払拭できた。

???…〈鏖殺公〉の霊結晶に眠っていた人格。偶発的に生まれたものであり、出久が気を失うと表に出る。好きなものはツナマヨおにぎり
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