居候がおやつ感覚でトンデモ能力渡してくるヒーローアカデミア 作:鳩胸な鴨
「さっきの…」
皆が1戦目を終える頃。
出久は控え室へと向かう途中、まじまじと右手を見つめていた。
────ありがとう。いつか、追い抜く。
想起するのは、幾分か毒気の抜けた心操の顔。
来年にはヒーロー科として編入してくるかもしれないな、と思いつつ、出久は先ほどの現象に思考を向ける。
意識の入れ替えはさほど問題ではない。
理由はわかりきってる。ミオが霊結晶に人格を埋め込んでいたか、はたまた偶然できたのをそのまま放置していたかだろう。
問題なのは、その前に聞こえた声である。
「あの時の声…、多分、ワン・フォー・オールの…」
9代目ということは、オールマイト含め、8人もの人間がこの力を繋いできたのだろう。
霊結晶の人格が他にもあると考えれば、合計で13人もの意識が体の中にあるのか。
…いや、オールマイトは今なお生きているから、カウントしてもいいか迷うところだが。
そんなことを考えていると。
「おぉ、いたいた」
聞き覚えのある声が頭上から響いた。
出久がそちらを見上げると、何度もモニターの奥で見た顔が合った。
「エンデヴァー…」
No.2ヒーロー。輝かしい功績とは裏腹に、地獄の家庭を作り出した男。
妄執が籠った瞳を向けるエンデヴァーの指が、出久の胸を指した。
「君の活躍、見させてもらった。
素晴らしい個性だ。体を作り変えるための溜めもなく、応用の幅も広い。
かなりの研鑽を積んでいると見る」
「……ありがとうございます」
個性のことしか褒めていない。
やはり動きはなっていなかったのか。
カレンに稽古でも頼んでみようか、などと思っていると、エンデヴァーが言葉を続けた。
「うちの焦凍には、オールマイトを超える義務がある。君のような強者は、そのテストベッドに丁度いい。
くれぐれもみっともない試合はしないでくれ」
「………息子を物みたいに言うんですね」
ぴくっ、とエンデヴァーが眉を顰める。
地雷だとはわかっている。
だが、言わずにはいられなかった。
刺すようにこちらを睨め付けるエンデヴァーに対抗し、出久は瞳の奥に雫を灯す。
「エンデヴァー。轟くんとちゃんと話し合ったこと、あるんですか?」
「……あまり人の家庭に突っ込むのは、褒められたことではないと思うが?」
「あなたも轟くんも、突っ込まざるをえないくらい、歪んで見えます…!!」
幸せからかけ離れた歪み。
精霊と過ごすことで感じるようになってきたソレを指摘すると、エンデヴァーは鬱陶しそうに顔を顰めた。
「…そう見えているだけじゃないかね?」
吐き捨て、去っていくエンデヴァー。
その背にゆらめく炎は、心なしかいつもより激しく見えた。
♦︎♦︎♦︎♦︎
『第二回戦!まずは来やがったぜびっくり玉手箱!持ち前の分析力と肉体改造の個性で「個性の再現」を可能にした行動派オタク!!
ヒーロー科、緑谷出久!!』
歓声が響く中、コートへと上がる出久。
相対するは1年A組推薦入学者、轟焦凍。
憎悪と執念がこもった瞳でこちらを睨め付ける彼に向け、プレゼント・マイクの声が飛んだ。
『対するこちらは一回戦の圧勝で観客席を文字通り凍り付かせた男、轟焦凍ォ!!』
轟は氷にこだわっている。
であれば、取るべき最善策はこれだろう。
出久は腕を〈
その光景を前に、轟の顔が明らかに強張った。
『ソレでは第二回戦!!』
「…当てつけのつもりか?」
『レディーーー…』
「違うよ。勝ちたいからこうしただけ」
『ファアアアイッ!!』
「……なら、叩き伏せるまでだ…!」
開始と同時に迫り来る氷塊。
出久は腕を前に突き出すと、手のひらに【
「【
反動で腕が焦げる。
先ほどの騎馬戦で思い知った。今の許容出力では轟に勝てない。
光芒が氷塊を砕き、風圧が轟の体を攫う。
轟は展開した氷で場外負けを防ぎ、焦げた腕を押さえる出久を睨め付けた。
「……っそ、親父…っ!!」
「ぎっ、ぃいい…っ!」
治癒の炎を灯らせ、声を漏らす。
たった30%を乗せただけでこれか。
怯んだ轟に向け、出久は再び手のひらを向けた。
「炎の再生…。どこまでも癪に障る…!」
「どう思ってもいいよ…!
君の矜持なんて知ったこっちゃない…!!」
「………ああ、そうかよ!!」
氷塊が迫る。
ラグもなく、即座に放てる範囲攻撃。
確かに脅威に感じるが、そこにあるだけで世界を殺していく〈
出久は駆けながら【砲】を放ち、風圧に体が攫われた轟へと向かう。
これなら避けられない。
そう確信した出久は拳を引き絞り、轟の顔面に一撃を叩き…。
「そう来ると思った…!」
こめなかった。
氷で体を固定した轟が拳を受け止め、出久の腕を凍り付かせていく。
ソレを嫌った出久が距離を取るも、轟がさらに距離を詰めた。
「ここ、変えてねぇんだよな…!?」
「しまっ…」
四肢だけを変える癖が仇となった。
轟の放つ冷気が、出久の体を駆け巡る。
凍ったのは腹の一部。
しかし、激痛と寒気、そして氷の重さが出久の動きを鈍らせた。
「やっぱりな…!
顔面と胴体は変えられねぇんだろ…!」
「……っ」
見破られた。
否。正確に言えば、傾向を掴まれた。
出久は炎で体を侵す氷を止め、轟の腹に蹴りを放つ。
これが終わったら、全身を作り変える特訓でも始めようか。
そんなことを思いつつ、距離を確保した出久は凍った部分を炎で炙った。
(いったた…。油断した…、いや。うまく油断させられた…!
半分の力って聞いて、侮ってた…!)
(これで決められなかったのは痛いな…。
向こうも俺が懐に飛び込むしか勝ち目がねぇこともわかってる…。
範囲攻撃に紛れての接近はもう使えねぇか)
牽制し合うように、氷と炎の応酬が続く。
治癒の炎で傷を舐め取る出久と、出久の炎で体に付着した霜が溶ける轟。
進展のない範囲攻撃のやり取りを前に、経験の浅いプロが「すげぇ」と声を漏らす。
そんな中、出久が轟へと問いかけた。
「どっちも、今ある手札は通じない。
僕も傷は治せるけど、限度がある。
お互いに、使いたくない手を使うほかなさそうだ」
「抜かせ…!お前はまだ風も氷も雷も使ってないだろうが…!!」
「雷は範囲攻撃への対応が難しいし、他はまだ使いこなせてないんだ。
だから、出来るだけ使い慣れてる〈灼爛殲鬼〉を選んだ。それだけ」
言って、出久は腕を戻し、瞳に雫を灯す。
これ以上はジリ貧だ。
だから、一気に決められる手段を取る。
出久は踵でフィールドを砕き、力一杯に拳を握った。
「焦がせッ!〈
顕現するは世界を焦がす戦斧。
纏う炎が足元を融解させる。
ごぽっ、と溶けた地面が靴を焦がし、肌を焼き尽くす。
身の丈以上のそれを軽々と構えた出久は、災厄としての瞳を轟へと向けた。
「緑谷、お前っ…。
人をイラつかせるのが上手いな…!!」
「地雷踏んでるのは自覚してる。
でも…、使えるもの全部使わないで…。本気も出さないで…。そんなんで叶うほど、ヒーローになるって夢は安っぽくないんだよ…!!」
「………っ」
溶けた地面が飛沫を上げる。
姿がない。轟が疑問を覚えるより先、周囲に氷を展開する。
が。それはあっけなく裁断され、出久の放った一撃に体が捉えられた。
「ごっ…!?」
「でりゃあああっ!!」
雄叫びをあげ、刃が潰れた戦斧で轟の体を弾き飛ばす出久。
確実に骨はひしゃげた。
激痛に耐え、氷で受け身を取る轟。
続けて迫る出久を前に、走馬灯のようにこれまでの人生が駆け巡った。
────力は力だよ。
────どう使うかなんて君の自由だから。
────血に囚われることなんかない。なりたい自分になっていいのよ。
左手を構える。
迫る出久の体を飲み込むかのように、豪炎が吹き出した。
「ぐぅうっ…!?」
出久の体が熱されたフィールドに転がる。
ぶすぶすと肉が焦げる感触。
目の前には、あれだけ嫌っていた炎を噴き出す轟の姿がある。
どこか吹っ切れたかのような、そんな顔。
安堵と喜びに、口角が上がる。
状況はどちらも同じ。出久は斧を砲身へと作り変え、前に突き出した。
「俺だって、ヒーローに…!!」
「……っ」
興奮しているが、冷静だ。
出久の体が炎に耐えきれていないことをよく理解している。
そして、〈氷結傀儡〉への切り替えがスムーズに行えないことも。
効果が薄まってきた治癒の炎に危機を覚えながら、出久は砲身にワン・フォー・オールを巡らせる。
エンデヴァーの歓喜の叫びを聞き流しながら、轟は口を開いた。
「ありがとな」
「……どういたしまして」
それだけが、この戦いを終わらせる合図。
放たれた氷を焼き焦がすように、轟がありったけの焔を放つ。
対する出久は赤が駆け巡る砲身から、地面を融解させるほどの光芒を放った。
激突を緩和させるためのコンクリートが迫り出すも、それすらも溶け、二つの光が激突する。
拮抗する二つの一撃。
ミッドナイトが放った睡眠香すらも焦がされ、二人が呻き声を漏らす。
「ぎ、ぎぎっ…!」
「ぐ、ゔぅう…っ!」
腕が破裂し、焼け爛れる。
霊力不足で炎の威力も下がっているのにこれか。
痛みを堪え、出久は雄叫びをあげた。
「
轟の炎が飲み込まれ、熱風が轟の体を掻っ攫う。
空を穿った一撃を前に観客席が呆然とする中、出久だけは場外に倒れた轟を見つめていた。
『し、勝者…、緑谷出久!!』
緑谷出久…テンション上がってたせいで天使使っちゃった。この後、「個性の応用で武器が出せる」と死ぬ気で誤魔化した。
時崎狂三…2回戦突破。天使の全貌はまだ見せていない。