居候がおやつ感覚でトンデモ能力渡してくるヒーローアカデミア 作:鳩胸な鴨
「……な、なんとか誤魔化せた…」
「緑谷ちゃん。テンション上がってたのはよくわかるけど、誤魔化すこっちの身にもなって欲しいわ」
「ご、ごめん…」
梅雨の白い目が飛び、出久がため息を吐き出す。
個性についてあれこれ問い詰められたが、「血肉を削って武器を作ることができる」ということで誤魔化した。
霊力も血肉の一部と考えれば、あながち嘘を言ってるわけでもないだろう。
そんなことを思っていると、梅雨が口を開いた。
「緑谷ちゃん。爆豪ちゃんともあんなふうにぶつかり合うつもり?」
「……まぁ、うん。かっちゃんはそうでもしないと納得しないだろうし…。
僕を侮らなくなったから、尚更本気でやらないと…」
「……真剣なのはいいことだけど、あんまり無茶はしないほうがいいわ。ミオちゃんたちが何するかわからないし」
「あ゛」
「頭から抜けてたでしょ」
そうだった。
出久が無茶をすればするほど、ミオたちの精神は不安定になる。
そのストレスが溜まり切ったら最後、出久以外の全てを滅ぼしかねない危険性がある。
世界存亡の危機を失念していた出久の反応を前に、梅雨はため息をついた。
「自分の命が自分だけのものじゃないって、もっと自覚しておくべきだと思うわ」
「……ごめん」
「私じゃなくて、ミオちゃんと万由里ちゃんに謝るべきよ」
「うん。あとで連絡入れとくよ」
説教は確定だろうが。
ラタトスクからも、ウッドマンや神無月は兎に角、そのほかの面々からこっ酷く叱られるのは目に見えてる。
出久がそんな予想を広げていると、廊下の向こう側から沈んだ様子の飯田が歩いてくるのが見えた。
「飯田くん…?どうかしたのかな?」
「ケロ…。ただ事ではなさそうね。
負けちゃったのかしら…」
2回戦の試合は教師陣に誤魔化すのに手間取って見ることができなかった。
飯田が負けるとはそうそう考えられないが、あの沈みっぷりから見て間違いなさそうだ。
下手に声をかけるのは悪手だろう、と二人が思っていると。
飯田の方からこちらへと歩み寄ってきた。
「やぁ、緑谷くん…。お疲れ様…」
「い、飯田くんも…。その、試合は見れなかったんだけど…」
「そうか…。いや、それはそれで良かったのかもしれないな。
あまり見せられたものでもなかったし…」
「飯田ちゃん、結果が振るわなかったのなら気にすることはないわ。
私なんて、第二種目で敗退したもの」
激しく落ち込む飯田の背をさする梅雨。
飯田はそれに苦笑を浮かべた後、すぐさま神妙な面持ちで出久へと視線を向けた。
「結果が振るわなかったのはもちろんなのだが…、どう負けたのか、説明できないんだ」
「説明できない…って、飯田くんの相手って普通科の時崎さん…だよね?彼女、個性がないって聞いたけど…」
「ああ。そう思っていたんだがな…」
技量による負けではないらしい。
飯田は悔しげに拳を握り、声を振るわせた。
「麗日くんに聞いたところ、彼女が何事かを呟いた瞬間に、俺は棒立ちになって敗れてしまったらしい。
くれぐれも、気をつけてくれ」
「あ、うん。ありがとう…」
「応援してるよ」と告げ、去っていく飯田。
なにか、嫌な予感がする。
ぶわっ、と汗が噴き出す感覚を覚えながら、出久は次の試合へと意識を向けた。
♦︎♦︎♦︎♦︎
『そろそろ頂点が見えてきたぜ、準決勝!
学科関係なく誇れ!!このステージに立つのは強者だけだ!!
先の試合で会場に大きく火をつけたデンジャラスびっくり人間!!緑谷出久!!』
プレゼント・マイクの紹介を聞き流し、フィールドへと立つ。
よく修復できたものだ、と感心していると、向こう側から片目を髪で隠した少女が上がってきた。
『相対するは、未だ底が見えないミステリアス美少女!時崎狂三ィィイイイッ!!』
「あら。褒めても何も出ませんわよ」
時崎狂三。
確か、ミオが言っていた「この世界の人間ではない」少女だったはず。
もしかすると、飯田に勝ったのも別世界の技術、または能力によるものなのか。
そんなことを思いつつ、出久は両腕を〈鏖殺公〉へと作り変える。
『それでは、準決勝!!』
「張り切ってますわね、緑谷さん。
…いえ、精霊の寵愛を受けた男…、とでも言っておきましょうか」
『レディーーー…』
「…なら、この力のことは知ってるんだね」
狂三の口から放たれた言葉に、そこまでの衝撃はない。
それは向こうも察知していたのだろう。
くすくすと怪しげな笑みを漏らし、彼女は髪をかき上げた。
『ファァアアイッ!!!』
「ええ。わたくしも『持って』いますもの」
ぞあっ、と狂三の影が噴き出す。
空気が肌を刺す感触。放つ威圧感。
狂三の体操着が世界へと解け、代わりに血のように赤いドレスがその肌を覆い隠していく。
彼女は閉じた瞳を開くと、いつの間にやら握っていた銃を出久に向けた。
『おぉおおおっと!?いきなり時崎の服が変わったぞ!?これは一体!?』
「わたくしの『個性』ですわ。つい一昨日目覚めましたの。
役所に届けるのを忘れておりましたわ」
いけしゃあしゃあと嘘を吐く狂三。
彼女が引き金を引くと共に、出久の頬に線が走る。
死なない程度に加減はされているが、それでも頬を裂くくらいの威力はあるのか。
出久が戦慄いていると、黄金に染まり、時計が刻まれた右目と目が合う。
「〈
「きひひっ。そんなにも情熱的にわたくしの天使をお呼びなさるとは…。
では、リクエストにお応えして、お見せすると致しましょう。
おいでなさい、〈
ごっとん、と振り子時計のような音が響く。
彼女の背に顕現したのは、巨大な時計。
時間を指し示す針が欠落したそれを前に、出久は大きく顔を歪める。
「なんで、お前が…!?」
「貸し出してもらいまして」
(ミオ!?!?)
(ごめん、断れなかった)
やばい。天使の中でも屈指の出鱈目能力を誇る〈刻々帝〉を相手に力をセーブしている場合じゃない。
出久は即座に両腕を戻し、空気を強く握る。
「〈
選び取るは、条理を切り裂く天使。
これであれば時を歪める〈刻々帝〉の弾丸を切り弾いても問題ない。
能力の枷を解き、剣を構える出久。
それを前にして、狂三は口が裂けたかと思うほどに凄絶な笑みを浮かべた。
「あら、あら。そんなに余裕が無さそうな顔をしないでくださいまし。
まだお互いに手札を見せただけでしてよ」
「君の恐ろしさを知ってるから余裕がないんだよ、精霊…!」
「きひひっ…。いいですわぁ、その顔。
わたくしの知る殿方によく似ています。
…さぁ、わたくしたちの
たたんっ、と狂三が銃撃を放つ。
時計から影が伸びていない。
即ち、今しがた放ったのは、能力を持たないただの弾丸。
出久は刀身で銃撃を受け止め、狂三へと駆ける。
(ただの弾丸でこの重さ…!
轟くんの氷よりも鋭く、強い…!)
「可愛らしい動きですわね、緑谷さん。
間合いはこうやって詰めるものですわ」
言って、狂三は黒の弾丸を放つ。
何かしらの能力が含まれている。
出久が体を逸らしてそれを避けるや否や、弾丸は巻き戻るように駆け出した狂三へと着弾した。
『おぉーっと!?時崎の弾丸があろうことが、時崎を貫いたぁ!?何やって…は?』
実況していたプレゼント・マイクの声が惚けたものに変わる。
撃ち抜かれたはずの狂三がいない。
出久が疑問を覚えるより先、背後に数回の衝撃が走る。
「ゔっ…!?」
「ごめんあそばせ。撃ってくださいと言わんばかりに背中を晒していたものですから」
「あ、【
撃ったものの時を加速させる弾。
出久は振り向きざまに飛ぶ斬撃を放ち、狂三を牽制する。
狂三は弾丸を要することもなく、その場から軽く飛び上がるだけでそれを避け、弾丸を放った。
「くっ…!!」
「やはり、十香さんほどの練度はありませんのね。武器を使う戦闘がなっていませんわ」
弾丸を切り落とし、尚も狂三へと距離を詰める出久。
存在としての格は確実にこちらの方が上。
だが、狂三はそれを遥かに上回る経験でこちらを叩き伏せる。
とても普通科に通う少女とは思えない動きにプロヒーローたちどころか、生徒たちにまでどよめきが走る。
「いやいやいやいや、嘘だろ!?
緑谷、完全に遊ばれてんぞ!?」
「個性が初見殺しかつ未知数ということもあるが、それ以上に彼女の立ち回りが上手い…!」
「そりゃ飯田負けるわ…!
あんなん、どうやって勝つんだよ…!?」
「普通科やろ、あの子…!?どんな特訓してあんだけ動けるようになったん…!?」
ヒーロー科ですらその技量に戦慄く。
それも無理はない。
彼女は幾多もの修羅場を踏み越えた猛者。
条理を書き換えるほどの力を持つ始原の精霊を殺すべく、幾年もの月日をかけて牙を研いできた。
たかだか数年の研鑽で圧倒できるほど、時崎狂三という女は甘くない。
出久は弾丸の嵐を捌きながら、思考を巡らせる。
(まだバレてない…けど…、常に動き回るせいでタイミングが掴めない…!)
出久は迫る弾丸を避けつつ、仕掛けを施していく。
ワン・フォー・オールを使った動きでも捉えきれない。
【
弾丸による傷が増える中、出久は狂三が狙う場所へと向かうことに気づく。
「かかった…!!」
「あら…」
ぐっ、と、指を引く。
瞬間。地面から突き出た糸…〈
フィールドに張り巡らせていた糸の罠。
体を霜が侵していく狂三を前に、出久は剣を構えた。
「ごめん。僕の…ぅぐっ!?」
勝利宣言を遮るように、腹に衝撃が走る。
しまった。糸が緩んでしまった。
出久がそう後悔するより先に、『全方位から放たれた弾丸』が彼の体に突き刺さる。
「ぎぃっ…!?な、なにが…!?」
出久が痛みによろけ、声を上げるのも束の間。
あまりに絶望的な光景を前に、全身の熱が毛穴から抜けていく感覚が襲った。
「きひひひっ…。先ほどの策、見事でしたわ。まんまと引っかかってしまいました」
「きひひ」と、笑い声があちこちから響く。
周囲を取り囲み佇む『幾人もの狂三』全てが、こちらへと銃口を向ける。
出久が冷や汗を床に落とす中、〈刻々帝〉を背負った狂三が「でェ、もォ」と出久に詰め寄った。
「こちらの方が上手でしたわね」
『な、なんだぁ!?時崎がいきなり分身したぞ!?さっきから何が起きてるかわかんねーから、説明プリーズ!!』
「〈刻々帝〉は数字ごとに能力を持っていますの。
飯田さんに使ったのは【
先ほど使ったのは【
そして、今使っているのは【
聞けば聞くほど出鱈目な能力だ。
しかし、この数。霊力の消費を考えれば、あり得ない人数の狂三が佇んでいる。
疑問を抱き、蹌踉ける出久を前に、狂三は申し訳なさそうに笑みを浮かべた。
「…本来、この試合で『わたくしたち』を使うような大人気ない真似はしたくなかったのですが…。
プルスウルトラ、更なる受難をということで許してくださいまし」
「じゃあ、乗り越えなきゃ…ね…!」
「流石は男の子ですわね。
ですが…、もう終わってますわ」
「……えっ?」
出久が惚けた声を出すや否や、放たれた銃弾が出久の体を押し出す。
瞬間。主審のミッドナイトの声が響いた。
『緑谷くん、場外!勝者、時崎狂三!!』
場外ギリギリにまで追い込まれてしまっていたらしい。
出久は踵が枠内から出てしまったことに気づくと、天使を世界に解いた。
負けた。負けてしまった。
オールマイトをはじめとした皆の期待に応えることができなかった。
その事実に悔しさが込み上げる中、狂三が妖しく笑った。
「いつか、わたくしを超えてくださいまし。
応援していますわ」
時崎狂三…決勝進出。この時点でヒーロー科転入が約束されたも同然だが、本人としては興味ナシ。霊力と寿命の問題は、ミオから霊力の供給を受けているので問題なし。現在の出久への評価は「気に入った」程度。
緑谷出久…天使をそのまま使わなかったらワンチャン勝ててた。戻ったら瀬呂に「ドンマイ」と肩を叩かれた。
爆豪勝己…弾を全部使わせる気満々。半分くらい戦闘に使えないものだとは知らない。