居候がおやつ感覚でトンデモ能力渡してくるヒーローアカデミア   作:鳩胸な鴨

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加筆しました


狂三リザイン

「……手も足も出なかった…」

 

練度が違った。経験が違った。

システムケルブ事件での経験で他より一歩先に行っていると自惚れていた。

そんな自己嫌悪をため息として吐き出し、猛省する出久。

あまりの落ち込みっぷりを前に、切島がその肩を叩いた。

 

「おめーはよくやったぜ、緑谷。

元無個性で紛争地育ち…って聞かされたら、そりゃあしゃーねぇよ。経験が違ぇ」

 

向こうもうまく身分を誤魔化したらしい。

狂三も個性…というより、天使を十全に使っていたわけではない。

そもそも大人気なく勝ちに行くなら、相手の寿命、および力を吸い取る【時喰みの城】を使って、出久から霊力を絞り尽くしたはず。

あれは超えられる壁だった。

その事実がわかっているからこそ、ベストを尽くせなかった自分に嫌気が差す。

辟易に表情を歪めていると、八百万が声をかけた。

 

「緑谷さんの動きは考え得る限り最善でしたが…、彼女にとっては見慣れたものだったのでしょう。

やはり、実戦経験の有無で大きな差が開きますわね…」

「…なんでヒーロー科入らなかったんだ、あの子?蹴ったのか?」

「聞いた話だけど、普通に筆記で落ちちゃったみたいよ」

 

ほぼ全員がバランスを崩した。

頭悪いのか、あれで。

そう思いかけたのも束の間、梅雨が言葉を続ける。

 

「まあ、無理もないんじゃないかしら。

紛争地で育った以上、どうしても勉強に遅れは出てしまうわ」

 

紛争地じゃなくて異世界です。

心の中で訂正しつつ、出久は熱狂の中心に立つ狂三へと目を向ける。

 

「……服…」

 

そう言えば、霊結晶を五つ保持している自分にも神威霊装を顕現できたりするのだろうか。

想像して、やめる。

あんなドレスをこんな芋くささが取れないクソナードが着たら事案だ。

ミオのことだから絶対にないとは思うが、それでも不安が残る。

あとでそれとなく聞いてみるか、と思っていると。

 

「あれあれあれあれぇ!?

おっかしいなぁ、A組は優秀なはずなのに揃って普通科に負けちゃったぞぉ〜?」

 

そんな罵声が響いたのは。

出久がそちらをみると、たびたびこちらに突っかかってくるB組の男子…物間寧人と目が合う。

もしかして、出久がここに戻ってくるまで待っていたのだろうか。

煽り散らす物間を前に、出久が軽く引いていると。

 

「物間、やめとけって…!

ミオちゃん超睨んでるから…!」

「彼女持ちで上澄だからって余裕ぶっこいてたやつがああも完敗するの恥ずかしくないのかなぁ!?」

「やめろて!!見えてねーんかアレ!?」

 

事情を知る峰田が汗だくでC組が座っている方角を指した。

まずい。髪が揺らめいている。

べらぼうに怒り散らしている証拠だ。

会場どころか地球丸ごと吹っ飛ぶ勢いで悪化する機嫌を前に、ふと疑問を覚える。

 

(……ミオ。もしかして、僕が負ける可能性考えてけしかけた?)

(うん。格上との戦闘も経験した方がいいかなって。いい経験にはなったみたいだけど、こいつの煽りは予想してなかった)

 

ああやっぱり。負けた時、なんかやけに大人しいなと思っていたんだ。

機嫌がジェットコースターもびっくりな勢いで急降下してもおかしくなかったのに。

今怒ってるのは、爆豪だったら顔面に一撃を喰らわせる程の煽りを吐き出す物間に対してであり、狂三には一切怒ってないらしい。

…まあ、勝てた戦いに勝てなかった自分が悪いのだが。

 

「おい、緑谷…!早く宥めろって…!」

「あ、ああ、ごめん…」

「ああ恥ずかしい!僕だったらまず間違いなくこの場に戻ってこな…」

「ええ加減にせい」

「ぶべっ」

 

物間の首に手刀が落とされる。

手刀の主である少女…拳藤 一佳が崩れ落ちる物間の首根っこを掴み、苦笑を向けた。

 

「ごめんね、コイツ心がアレでさ」

「あ、ああ、うん。気にしてないよ。

負けたのは事実だし…」

「謙遜しなくていいって。私らじゃ手も足も出なかったろうし」

 

ヒーロー科全員からそう思わせるだけの経験があるとは、異世界は魔窟なのだろうか。

聞いた話、空間震なる災害がある以外はここより治安はマシらしいが。

そんな世界でどう生きればアレだけの動きができるのかと思っていると、プレゼント・マイクが声を張り上げる。

 

『さぁさぁお待たせしたぜ、決勝戦!!

泣いても笑ってもこれで最後、思う存分、悔いなく戦いやがれ!!』

 

向き合う狂三と爆豪。

不敵な笑みを浮かべるその様は、威嚇し合う獣のよう。

狂三が装いを変え、プレゼント・マイクが叫ぶ。

 

『まずはこの女ァ!!今回屈指のダークホース!!紛争地を潜り抜けてきた経験がヤバすぎるせいか、個性目覚めて2日でここまで来ちまったぜ!!

魅せてくれるか奇跡の快進撃!!

普通科、時崎狂三ィイッ!!』

「よろしくお願いしますわ、爆発さん」

『相対するはこの男!立ちはだかる全てを圧倒的バトルセンスで蹴散らしてきた天才肌!

流石の時崎もこの爆炎を前に散るか!?

ヒーロー科、爆豪勝己ィイ!!』

「爆発ちゃうわ殺すぞ時計女ァ…っ!!」

「あら、あら。子犬みたいで愛らしい威嚇ですわね」

「誰が子犬だ死ね!!」

 

一言一句全てがコンプライアンスに全力で歯向かってる。

編集されたら「ぴーっ」と規制音が響くだろうなぁ、と思うのも束の間、ミッドナイトが「スタート!!」と開始の合図を下した。

 

「そォら!!」

 

動いたのは爆豪。掌を爆破させ、その勢いで一気に間合いを詰める。

一直線。故に読みやすい。

狂三が笑みを浮かべ、銃弾を放つ。

が。爆豪はそれを爆破で軌道を変えることで避け、狂三の懐に潜り込んだ。

 

(っし、入った…!)

「動きが模範的ですわね」

 

迫る爆豪の腕を避け、銃の持ち手を顔面にぶつける。

読まれていた。

その事実に爆豪が驚愕するより先、続け様に何発もの殴打が突き刺さり、その体を弾き飛ばす。

 

「がっ…!?」

「もう二、三重、撹乱に動いた方がよろしいですわよ、爆発さん」

 

出久を凌ぐ先読みの技術。

〈刻々帝〉が顕現していない以上、未来を見る【五の弾(ヘー)】は使用していない。

時崎狂三が歩んできた重みを前に、バトルセンスだけでどこまで食い下がれるか。

受け身を取り、先ほどとは違って不規則な軌道で間合いを詰めていく爆豪。

狂三のアドバイスを吸収したのだろう。

差をセンスで埋めた爆豪の爆炎が狂三の体を掠め始める。

 

「…あら。汚れてしまいましたわ」

「気にすんな…!消し炭にしてやらぁ!!」

「あら、あら。乱暴なお誘いですわね。

ここまでの観衆の中、殿方にひん剥かれるのは初めてですが…、生憎とわたくしには意中の人が居ますので」

 

爆炎が狂三の体を焦がしていく。

末恐ろしいセンスだが、違和感が走る。

狂三が天使を使おうとしないこともそうだが、なにより…。

 

「……あまり、動いて…、ない…?」

 

狂三が受け身に回っている。

爆豪が隙を与えずに攻めていると言えばそれまでだが、狂三相手にそれはあり得ない。

何を狙っているのか、と出久が疑問を浮かべるのも束の間。

爆豪の怒鳴り声が響いた。

 

「テメェ…!時計出せや!!」

「そんなに凄まないでくださいまし。

先程の戦いでの大盤振る舞いが祟って、〈刻々帝〉を出せるほど体力が残っていませんの」

「見え透いた嘘こいんてじゃねぇぞ!!」

「にべもなく嘘と断ずるのはどうかと思いますわよ?」

「顔面が嘘ついてんだよ!!!」

 

酷い言種だが、肯定せざるを得ない。

胡散臭く、くす、くす、と笑う狂三に、爆豪の爆炎が炸裂する。

良いようにやられている。

まるで、爆豪が圧倒しているかのように見せるように。

そこで出久は気づく。

 

「……まさか」

 

たどり着いたのは、爆豪のプライドをズタズタに引き裂く事実。

何が狙いかはわからないが、少なくともやろうとしていることはわかる。

 

「なら、出せるように追い詰めてやらァ!!」

 

フェイントを織り混ぜ、爆豪が狂三を場外へと追い詰めていく。

ここにおける敗北の定義は三つ。

ノックダウン、場外、降参宣言。

ただし、爆豪の場合はそこに条件が付随する。

爆豪勝己が手にすべき勝利は完膚なきまでの勝利。

相手の全てを叩き折ってこそ、爆豪勝己は初めて己の勝利を認めることができる。

狂三も銃撃で応戦してはいるが、元あるセンスに加え、この戦いで経験を重ねた爆豪の動きについていけてない。

銃撃を避け、空へと飛び上がった爆豪を前に、狂三が汗を滲ませた。

 

「真那さんを彷彿とさせる機動力…。

全く、相手にしてられませんわ…」

「さぁ、出しやがれ!!〈榴弾砲(ハウザー)…」

 

爆煙を纏い、爆豪が回転する。

狂三に危機感を抱かせ、個性を使わせるつもりなのだろう。

凄まじい勢いでこちらに向かってくる爆豪を前に狂三はため息を吐く。

 

瞬間。彼女は煤と火傷に塗れた手から銃を放り捨てた。

 

「打つ手無し。降参しますわ」

 

会場に沈黙が走る。

一目見れば、狂三は満身創痍。

体は痛々しい火傷と煤で塗れ、元に戻った体操着もボロ同然。

個性も体力の限界か、2戦限りしか使えず、技量だけでなんとか喰らい付いたようにしか見えていない。

そうではないことを理解した人間は、果たしてこの場にどれだけ居ただろうか。

あまりの衝撃でそのまま着地した彼がその言葉を知覚すると、一気に距離を詰め、その胸ぐらを掴んだ。

 

「テメェ…!!」

「おめでとうございます、爆豪さん。

やはり、目覚めたばかりの力に頼るべきではありませんわね。

大事な時にガス欠で負けてしまいました」

「ふっ……、ざ、けんな…っ!!

こんな一位、意味ねぇんだよッ!!!」

「あら。防戦に徹していたから気づいていたかと思いましたが、鈍いんですのね。もう出せないのは本当ですの」

 

─────返してしまいましたから。

 

唇だけがそう動く。

出久がそれに気づき、ミオへと目を向けた。

 

(彼女が使ってたのは残穢だよ。

さっきだけの貸し出しだったからね)

 

爆豪の怒号が、ミッドナイトの睡眠香を嗅いで萎んでいく。

なんとも締まらない決着。

頂点に立った爆豪へと会場が沸き立つ中、出久は狂三へと目を落とした。

 

『勝者!爆豪勝己!!』

「はてさて。わたくしは彼らにとって、良き受難にはなれたのでしょうかね」

 

さまざまな思惑が絡み、ぶつかり合った体育祭が終わる。

出久の胸に広がったのは、心臓を抉り出したくなるほどの悔しさだった。




時崎狂三…爆豪戦前に霊結晶を返却していた。残穢として残った銃と霊装だけで爆豪と渡り合った。バトルセンスは爆豪よりちょっと下。

緑谷 ミオ…好きな人が優勝するより、好きな人が成長するために壁を用意してあげる系彼女。尚、見積もりが甘すぎるので大体格上になる模様。

爆豪勝己…〈刻々帝〉を使わなかったことにガチギレ。表彰式でも延々と大暴れしていた。
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