居候がおやつ感覚でトンデモ能力渡してくるヒーローアカデミア   作:鳩胸な鴨

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労うっつってんだろ


疲れる労い

波乱の体育祭、その翌日。

表彰台に縛り付けられた幼馴染の怒号がテレビから響くのを聞き流しつつ、出久はため息を吐く。

3位。誇らしい結果ではあるが、慢心、油断した結果と言えば情けないことこの上ない。

激しく落ち込む出久を見かねたのか、出かける準備を済ませたミオが眉を顰めた。

 

「イズク。ため息はいいんだけど、デートの準備はして欲しいかな」

「………あ、ごめん」

 

準備と言っても、デート用のポーチの中に財布を入れたりするくらいなのだが。

いつも背負ってるダサくてデカいリュックサックから財布を取り出し、控えめなデザインのポーチへと入れ替える。

体育祭の翌日にデートするのは気が引けるが、しばらく遊べていなかったのも事実。

世界を救うためだと言い訳しつつ、「はやく、はやく」と急かすミオを追うように玄関へと向かう。

 

「今日はどういうコースなの?」

「イズクの労いも兼ねてるから、行ってからのお楽しみ」

「労われるようなことしてないけどなぁ…。

良いように転がされてボロ負けしたし…」

「今度からたっぷりシゴくね」

「……し、死刑宣告…」

 

ミオのシゴきは優しいが、キツい。

真綿で首を絞められるどころか、髄骨を折られるくらいの勢いはある。

渋面を作る出久をよそに「行こっか」と笑顔で玄関を開くミオ。

ラタトスクの面々に変なことを吹き込まれてないだろうか。

そんな心配を抱きつつ、出久はその後に続いた。

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

「……何これ?」

 

眼前に広がる景色がもたらす衝撃に、出久は唖然と口を開いた。

右を見ても左を見てもオールマイト。

展示や屋台が並び、人が賑わう中、出久が冷や汗を垂らしていると。

ミオが淡々と出久に答えた。

 

「オールマイト展」

「うん、言い方悪かった。

こんな大規模なのいつ用意したんだって意味で聞いたの」

「今朝ラタトスクに頼んだらなんかこうなってた」

「あの人たちサポートの方向性間違えすぎてない?」

 

この規模のイベントをすぐに開催できるあたり、技術力の無駄遣いを感じる。

市にどんな袖の下を渡したんだろうか、などと思いつつ、出久は並ぶ展示へと目を向ける。

 

「……どこで見つけてきたのこんなの?

世界に3枚しかないタペストリーの1枚ここにあるんだけど」

「さあ?」

「………」

 

凄まじく不安だ。労われるはずなのに精神が疲弊していくような気もする。

いや、嬉しいことには嬉しいのだ。

絶版やら限定生産やらで数少ないオールマイトグッズが所狭しと並ぶ光景は圧巻で、高揚を覚えるかと問われたら赤べこになる自信がある。

何より、あまりオールマイトに興味がないミオがこのデートを企画してくれた。

これで喜ばないほど出久は薄情ではない。

だがしかし。諸々の裏事情が透けて見えるせいで、そっちに意識が向いてしまう。

出久は無理矢理に集中を屋台へと向け、ミオに問いかける。

 

「どれか買おうか。何が良い?」

「薬指に指輪」

「…………あと七年くらい待ってください」

「結婚じゃなくて婚約」

「それもそれで早い気がする…」

「イズクは私じゃ嫌?」

「嫌ってわけじゃなくて…。

……気のせいだったらいいんだけどさ、なんか…、僕のこと攻め落としにきてない…?」

「箕輪が『触れられる今のうちに迫っておくべき』って言ってた」

「あの人は愛情表現が明後日の方に向いてるから参考にするのやめなさい!!」

 

やっぱり余計なこと吹き込まれてた。

愛が行き過ぎて保護観察処分を食らった人間の言うことを鵜呑みにしないでほしい。

まだ先のことを考えてもな、と思いつつ、歩みを進めていると。

 

「あ」

「ん?」

 

今1番会いたくない人間と目が合った。

恐らくは頭を冷やすために外出していたのだろう。

見るからに不機嫌そうな顔の爆豪が、こちらを一瞥する。

まずい。絶対に突っかかってくる。

ダラダラと冷や汗を流す出久に爆豪が歩み寄ったその時だった。

 

「おーい爆豪!お前の分の焼きそば買って…、あれ、緑谷?デート中か?」

「……チッ」

「切島くん…?」

 

両手にプラスチックパックの焼きそばを持った切島が駆け寄ってきたのは。

爆豪は珍しく矛を納め、切島の手から焼きそばを奪い取る。

感謝もないあたり、流石と言うべきか。

ピリピリと威圧感を放つ爆豪に「礼くらいは言ってくれよ…」と苦笑を浮かべる切島。

そんな彼を前に、ミオが思い出したかのように声を漏らした。

 

「ああ。硬くなる人だ」

「名前すら覚えられてねーんか…。

俺、切島な!改めてよろしくな、緑谷…って、そういやどっちも緑谷か」

「ミオでいい」

「や、でも他の男が名前呼びは気が引けるってか…」

「大丈夫。イズクからもらった自慢の名前だから、いろんな人に呼んでほしい」

「……もらった?」

「い、いろいろあって…」

 

由来とか聞かれたら確実に引かれる。

30日に会ったからミオ。我ながら安直なネーミングセンスである。

ヒーロー名とかも揃って「微妙」と切り捨てられたしなぁ、と思いつつ、出久は切島に問いかける。

 

「切島くんはかっちゃんと?」

「おう。流石にあの勝ち方は…な。

まあ、お前とのバトルで個性使いすぎて向こうも疲れてたってのはしゃーねぇか」

「蒸し返すな切島ァ!!」

 

展示を見て回ってた爆豪の怒鳴り声が響く。

実際には違うのだが、そういうことにしておこう。

そんなことを思っていると、ミオが意外そうに切島と爆豪を見比べた。

 

「……珍しく名前で呼んでる」

「おう!覚えさせた!」

「犬に芸仕込んでるみたい」

「誰が犬だ殺すぞ!!!」

「キャンキャン噛みつくあたり余計に犬」

「死ね!!!!」

「ミオ、火に油注がないの」

 

怒鳴り、怒りを振り撒く爆豪から目を逸らし、ミオは屋台で売られているジュースへと目を向ける。

「あれ欲しい」と指を向けるミオに、切島がヒクヒクと顔を引き攣らせた。

 

「ミオちゃんって爆豪嫌いなんか…?」

「イズクが仲直りしたいってこだわる理由がこれっぽっちもわかんないくらいには嫌い」

「相当嫌われてんなぁ…。お前何したん?」

「現実教えてただけだわ!!」

「雄英受けるなとかノート爆破とか」

 

ミオが事実を陳列するだけで空気が死んだ。

切島は「そこまでやってたかー…」と天を仰ぎ、爆豪の肩に腕を回す。

 

「いい機会だから、これまでのこと謝ろうぜ。俺が立ち会ってやるから。な?」

「嫌に決まってんだろうが!!」

「………緑谷、お前爆豪に何したん?」

「え?何にもしてないけど…」

 

特に報復されるような覚えはない。

いや、戦闘訓練での勝利や体育祭の結果がそうだというなら該当するものはあるが、それ以前のものになるとてんでわからない。

出久が悩んでるうちに爆豪は腕から逃れ、不機嫌を全開にして「とっとと次行くぞ切島!」と怒鳴る。

それを前に、切島は渋面を作った。

 

「あーもー…。あとでしっかり謝れよな!」

「誰が謝るか!!」

「デート中にごめんな、緑谷!

俺から上手く言っとくから!」

「う、うん…」

 

切島のコミュ力がすごい。

パラメータのようなものがあればカウントストップしていること間違いなしだ。

消えていく二人の影を見送りつつ、出久はジュースを受け取ったミオへと向き直る。

 

「…ごめんって言えばいいだけなのに。変なの」

「謝るのも『自分が下になる』ってカウントされるから嫌がるんじゃないかな…」

「下なら何か問題あるの?」

「ケースバイケースだと思うよ。

今回のは…問題あるのかわかんないけど」

 

上昇志向があるのはいいが、それが斜め上に行った結果がアレなんじゃなかろうか。

何が悪かったんだろうか。

強い個性だったからなのか、やろうと思ったことは大抵できた天才肌だからか。

なんにせよ、その鼻っ柱が折れても変わらないあたり、心の根っこまで悪い方向に歪んでいる。

いつかそれが治る日が来るのだろうか。

来るといいな、と思っていると。

 

「あら。道理で見覚えのあるお客様だと思いましたわ」

 

背後から聞き覚えのある声が響いた。

出久はその声の主の名を呼び、振り返る。

 

「時崎さ………なにしてんの?」

「言ってませんでした?

わたくし、『こちらのラタトスク』の一員ですのよ?」

「法被ダサ」

 

そこに居たのは、クソダサい法被を羽織ってジュースを売り捌く狂三だった。




時崎狂三…戸籍はラタトスク経由でゲット。年齢もそれで誤魔化してる。一通りやりたいことも終わったので、帰る方法を模索中。法被は自分でもダサいと思ってる。

爆豪勝己…出久に目が行ってたせいで狂三に気づかなかった。見つけたら確実に八割り増しの声量で怒鳴り散らす。

緑谷出久…猛省中。デート中でも敗北の悔しさが胸を掠めるくらいには重症。

八木万由里…デートしたかったけど、それより優先することが出来たため、パパをフルパワーで説教中。審判を下す役割を持っていたからか、怒る時はきっちり怒る。
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