居候がおやつ感覚でトンデモ能力渡してくるヒーローアカデミア 作:鳩胸な鴨
「ヒーローネーム、『デク』にしたんだ」
「うん。やっぱり、かっちゃんと向き合ってみようかなって思ってさ。
もう何もできないデクじゃないぞって、ぶつかれるだけぶつかるつもり」
「めちゃくちゃ軋轢あるのによくやるわ」
休みが明け、昼時。
食堂へと向かう出久の両脇を万由里とミオが固め、雑談を交わす。
ヒーローネーム。
数日先に控えた職場体験に備え、世間一般に向けたアピールとして名乗る、ヒーローとしてのコードネーム。
それぞれが思い思いの名前をつける中、出久はあまりいい思い出のない蔑称をヒーローとしての名前に選んだ。
その理由を語る出久に二人が呆れを見せ、彼の手元にあるプリントを覗き込む。
「…んで、ソレが指名一覧?」
「うん。かっちゃんと轟くんには負けたけど、結構数あって…」
「見る目ないわね、プロ」
「……まあ、僕の個性だとね…」
クラスメイトの青山優雅と同じようなことを吐き捨てる万由里に、出久が苦笑を浮かべる。
出久の表向きの個性は肉体改造。
その気になれば他の個性も再現できてしまうというのは、個性を使って活躍するヒーローからすれば死活問題に直結する。
厳しい制約があれど、出来る限りは遠ざけたいと思うのは当然の心理だろう。
それでもこうして指名をもらえたのは、その危険性を加味しても将来性があると判断されてのことだろうか。
出久が推察を広げていると、万由里がプリントを前に顔を顰めた。
「…グラトリじいちゃんからも来てるのね。ここ行ってみたら?」
「グラトリ…、じいちゃん…?」
「パパの恩師。この休日で人間関係整理させた時に知り合ったの」
「そんなことしてたんだ…」
「もうあっちこっちが不穏の塊よ。
おかげで休日デートの計画白紙」
言って、深いため息を吐く万由里。
それを横に、出久はプリントに並ぶ文字の中から「グラトリ」らしきものを見つける。
平和の象徴を育てた男、グラントリノ。
名前も聞いたことのないヒーローだ。
どんなヒーローなのだろうか、と想像を膨らませていると。
「…緑谷少年たち…。ちょっといい…?」
ただでさえ健康面が心配になる出立ちだというのに、そこに更に疲れを上乗せした顔を浮かべる痩せぎすのオールマイトが弁当片手に歩み寄ってきた。
♦︎♦︎♦︎♦︎
「………なんていうか、めちゃくちゃやらかしてたんですね…」
「うん…。私も反省してる…」
事情を聞き終えた出久の一言に、オールマイトが沈んだ表情で応える。
平和の象徴という字名を嘲笑うかのように、オールマイトの周囲には不和が広がっていた。
アメリカでの下積み時代、彼の相棒を務めたデヴィット・シールドにはワン・フォー・オールの秘密を秘匿し。
サイドキックとして彼を支えたサー・ナイトアイには、予知の個性によってオールマイトの死を見た彼の心配を押し切り、衰弱した上での活動を強行し。
件のグラントリノには厳しい指導によるトラウマからか数年は連絡もしていない始末。
万由里が半目を向けるのも無理はない。
頭を抱えるオールマイトに、万由里は露骨に舌打ちをかました。
「私が気づかなかったらどうせなぁなぁにして終わってるつもりだったでしょ」
「………そ、そんなことは、ない、よ…?」
「アンタのせいで出久が余計な心労抱える羽目になるとこだったんだよ」
「…………はいっ。ごめんなさい」
「なんか、既視感ある光景だなぁ…」
「他人事みたく見てるけど、イズクもあのお説教される側だからね?」
じとっ、とミオの半目が飛ぶ。
似たもの同士である師弟2人を前に、万由里は深いため息をついた。
「どうせグラトリじいちゃんのとこ行ってくれってお願いしたかったんでしょ」
「あ、うん。贔屓してくれと言うのもどうかと思ったんだが…」
「行かせた方がいいわよ。グラトリじいちゃんにダメ教師っぷりを晒しときなさい」
「ダメ教師て…」
「アンタの感覚派全開かつこれ以上なく無神経なアドバイス一つずつ列挙してこうか?」
「はいっ、ごめんなさい…」
完全に尻に敷かれてる。
万由里は萎れたオールマイトから、出久へと視線を戻した。
「大事なことなのにごめんだけど、パパの言うこと飲んでくれない?
グラトリじいちゃんなら割と好きにやらせてくれるだろうからさ…」
「そ、それはいいんだけど…。
言葉の切れ味落としてあげて…?
オールマイト、瀕死だから…」
「アンタもそうだけど、ここまでボロクソ言わないと言うこと聞かないのよ」
「…………気をつけます…」
♦︎♦︎♦︎♦︎
その頃、食堂にて。
狂三は食事が載った盆を手に、周囲の目から逃れるようにして席に座る。
向かい側には神妙な面持ちの飯田が佇んでおり、訪れた彼女にその目を向けた。
「来てくれたか、時崎くん」
「ええ。下駄箱に手紙とは、告白でもされるのかと思いましたわ」
「……すまない、本題に入っていいか?」
「あら。揶揄い甲斐がありませんわね」
こういう真面目な人間は揶揄うと面白い反応をするのだが。
そんなことを思いつつ、狂三は箸を割った。
「お兄さんの件ですが…。結論から言えば、わたくしの個性では治せませんわ」
「……わかっていたか」
「ええ。わたくしの個性…〈
ニュースを見た時から、そう話を切り出される可能性を考慮しておりました」
狂三は言うと、箸で魚の身をほぐす。
流石は料理を生業とするヒーロー、ランチラッシュである。
五河士道を超える完璧な焼き加減。
浮き出る脂といい、食欲をそそられる。
そんなことを考えていると、飯田が納得できないという顔を向けた。
「……あるには、あるのだろう?」
「ええ。ありますが…、わたくしの個性には特殊な容量がありますの」
「容量…?」
「わたくしのこの目を見てくださいまし」
言って、狂三は時計が刻まれた目を飯田に見せつける。
指している時刻は、12時。
今の時刻と合っていないことを疑問に思い、飯田は訝し気に眉を顰めた。
「……これは?」
「わたくしが能力を使えば使うほど、この時計は進んでいきますの。
ですが、使わない間は少しずつ、少しずつ巻き戻っていく。
あなたがいう『時を戻す弾』は、今のわたくしでは容量不足で使えませんの」
「…どれくらいでたまる?」
「さあ?少なくとも16年生きて初めて個性を自覚できたのですから、そのくらいはかかるのではありませんか?」
「………そうか」
悔しそうに歯噛みする飯田。
実際には〈刻々帝〉をミオに返してしまったため、使えなくなっただけなのだが。
もう一度貸してもらえないか打診してみるか、などと思いつつ、狂三は魚と共に米を口に運び、咀嚼した。
「…力になれず申し訳ございません。
ですが…、お兄さんの傷を治せる可能性がある医師は知っておりますわ」
「それは本当か!?」
がたっ、と立ち上がり、叫ぶ飯田。
注目を浴びる中、狂三は「落ち着いてください」と飯田を宥めた。
「あ、ああ、すまない…」
「それほどまでにお兄さんが大切なのですね」
「ああ…。身近でいて、遠い憧れだった…」
「………だから、復讐すると」
飯田の目が大きく開く。
復讐者としての瞳。
自分と同じ怒りがゆらゆらと揺らめくそれに、狂三は淡々と告げた。
「復讐は虚しいだとか、そういう甘ったれた妄言は吐きません。むしろ、前に進むために必要なことだと思っていますわ。
ただ…、それだけに酔えば、手元にあるものさえ見えなくなる。
どうか、盲目にはならないでくださいまし」
飯田の心に、その言葉が重くのしかかった。
八木万由里…オールマイトの壊滅的なまでに拗れた人間関係の修繕に奔走してた子。かなりストレスが溜まってるため、うっすら雷霆聖堂が出てる。
緑谷出久/デク…爆豪と向き合うためにヒーローネームを「デク」にした。指名数はA組内3位。