居候がおやつ感覚でトンデモ能力渡してくるヒーローアカデミア 作:鳩胸な鴨
「小僧!本当にお前便利じゃのう!!」
「だから、僕のこと最新家電みたく言わないでください…」
職場体験3日目。
腕を〈
二日間の職場体験は充実している。
出久の練度が思った以上だったのか、体を鍛える以外にも積極的にパトロールに連れ出して、ヒーロー活動しての云々を叩き込んでくれるのはありがたい。
が、しかし。食事の時間になると扱いが便利なオーブン程度になるのはどうかと思う。
そもそもたい焼きを昼食と言っていいのか、と思いつつ、グラントリノの好みの温かさになったたい焼きを机に置く。
おそらくミオがこの光景を見たら、けらけらと腹を抱えて笑うことだろう。
世界を灼く炎で温めたたい焼きを平らげていくグラントリノの横で、出久は自分用に買ってきたコンビニ弁当を広げた。
「……ミオ、大丈夫かな…」
「大丈夫だろ。連絡は取っとるんだろ?」
「あ、はい。まあ、ちょっとご機嫌斜めではあるんですけど、返信はしてくれるので…」
心配なのはミオよりも母の方だ。
どんな手を使ったかはわからないが、初日で持ち直した機嫌もこの数日で再び落ち込んでいるはず。
どう切り抜けていることだろうか。
気にはなるが、それを聞く勇気が湧いてこない。
「がんばって」と端的に送られたメッセージから凄まじい圧を感じる気さえする。
帰ったらまずは説教かな、などと思っていると、グラントリノがおもむろに声を張り上げた。
「よしっ!午後からは背伸びして渋谷の方行くか!敵退治の経験も積みたいだろ!」
「えっ…!?あ、いや、それはありがたいんですけど…、いいんですか…?」
「構わん構わん!まあ、許可なく殴りにかかるなってことだけは言っとくが」
「そ、それはもちろん…」
「あんま説得力ない返事だな!」
「あ゛っ」
言われて、出久は自分がヴィジランテとして活動してたことを思い出した。
なんなら先週も、〈
脳裏に浮かぶ犯罪行為の数々に冷や汗を垂らし、蚊が鳴くような声で「ごめんなさい」と頭を下げた。
「すまんすまん、意地悪言うたな!
ただ…、正体を隠してやる分には言わんが、コスチュームでやるなって話だ」
「は、はぁ…。ヒーローなのにヴィジランテ許しちゃっていいんですかね…?」
「法に則った正義振り回してお前を突き出したら、これから出る被害増えるだろうが」
「…ヒーローとしては問題発言なのでは?」
「それだけお前を買っておるということだ。
いいか?今年で仮免取る気でいろよ。雄英もその気だと聞いとるからな」
「仮免…」
届かないと思っていた場所に少しずつ近づいている実感がひしひしと伝わる。
こうしてコスチュームに袖を通すだけでも緊張するというのに、試験当日には死んでしまうのではなかろうか。
そんなことを思っていると、携帯から通知音が響いた。
「ミオから…、なんだろ…?」
─────正式に婚約者となりました。不束者ですが、よろしくお願いします。
米と悲鳴が宙を舞った。
♦︎♦︎♦︎♦︎
「……いや、いやさ、あの…、するとは言ったけど、言ったけども。
本人のいないところで着々と外堀埋めてから報告されるの心臓に悪すぎない…?」
新幹線にて。
薬指に重石がかかったような感覚に顔を顰め、項垂れる出久。
グラントリノはそれに軽い笑みを浮かべ、バンバンと出久の背を叩いた。
「はっはっはっ。別嬪な嫁さんができたって自慢できるのう」
「するとは言ってたんですよ…。ただ、もう少し待って欲しかったというか…」
「確かに、生き急いでるっちゅう感じはあるのう。
まぁ、死ぬほどの無茶を簡単にやらかすアホにはつけて当然の鎖だろうが」
「………やっぱそう見えます?」
「お前と俊典は悪いところに関して言えばやたらとそっくりじゃからな」
「はいっ、ごめんなさい…」
なんにせよ、これで余計に死ねなくなった。
…元よりなかなか死ねない体なのだが。
そんなことを思いつつ、出久はスマホに目を落とす。
(……飯田くんから返信こないな…。
パトロール中とか…か?)
先日、『ヒーロー殺し』と呼ばれる敵に襲われ、引退の危機に瀕したヒーロー…飯田の兄、インゲニウム。
敬愛する兄が倒れたという事実は、飯田にとっては辛いものであるはず。
彼が職場体験へと向かった保須市には、ヒーロー殺しが潜んでいると見られている。
復讐を考えていても不思議ではない。
〈
「おい、あそこのビル爆発したぞ…?」
「えっ?どこどこ?」
「うわぁ…。敵かなぁ…」
そんなざわめきと共に、出久に宿る霊結晶が警鐘を鳴らした。
─────構えろ!!
出久が座席から飛び上がると共に、『座席にお掴まりください』とアナウンスが響いた。
ブレーキ音と悲鳴が混じり合う。
と。それを引き裂くかのように、ヒーローらしき男と怪人が新幹線の壁面を突き破り、そこに転がった。
「〈
「小僧、下がってろ!!」
剥き出しの脳に焦点の合わない目玉。
間違いない。脳無だ。
出久が確信に至り、天使を展開するより先、グラントリノがヒーローを抑え込む脳無の体に蹴りを浴びせる。
やはりというべきか、判断が早い。
自分の未熟さを痛感しながら、出久は展開した羽を背に並べた。
「〈
これをスムーズに出来たらいいのだが。
そんなことを思いつつ、出久は燃え盛る保須の街並みに消えたグラントリノを追い、光となった。
グラントリノの個性はジェット。
足に空いた噴出口から吸い込んだ空気を放つことで速度を上げる個性である。
その爆発的な加速度は出久の観察眼でも追うので精一杯。
いくらワン・フォー・オールを使ったとて、それに追いつくのは至難の業である。
だが、そこに天使を併用すれば話は別。
風を司る天使〈颶風騎士〉と、光を司る天使〈絶滅天使〉。
結論を言えば、ワン・フォー・オールとこの二つの天使がもたらす加速は、音を超えていた。
「こぞっ…」
「
脳無の頭に拳が突き刺さり、飛ばされた体がアスファルトへと沈む。
拳を振り抜いた出久は息を吐くと、落下するグラントリノを受け止めた。
「小僧、貴様!!勝手な真似はするなと…」
「ご、ごめんなさ…、……!?」
「……どうした?」
「グラントリノ、あれ…!」
唐突に目をひん剥いた出久が指す方へ視線を向けるグラントリノ。
映ったのは、倒れ伏した脳無の背中に埋め込まれた見慣れない機械。
ばちばちと火花をあげるそれにグラントリノが首を傾げるも、出久の渋面からそれが何かを悟った。
「……遺産が絡んでるな?」
脳無に埋め込まれていたのはウェストコットの遺産の一つ、
度々起こる爆発がこれによるものならば、並大抵のヒーローでは対応が難しい。
1匹は倒したものの、崩壊していく街の惨状を見る限り、まだ脳無は残っているはず。
現状を飲み込んだグラントリノは逡巡することなく、声を張り上げた。
「よしわかった!行ってこい!!」
「ありがとうございます!!」
グラントリノを降ろし、再び天高く舞う。
まず優先すべきは、脳無に搭載されている顕現装置の無力化。
被害を抑えるべく、多少なりとも力を削ぐ必要がある。
出久はコスチュームのヘッドギアを纏うと、耳部分を軽く叩いた。
「神無月さん、脳無の位置を…」
『だから膨らみかけの胸の方が体の起伏をより感じられてエロティシズムを感じると…』
『出久が「敵の位置教えろ」っつってんだ猥談で盛り上がってないで仕事しろ変態!!』
『あはァんっ!!』
『悶えんな!!ああもうどうすりゃ真面目に働くんだコイツ!!』
「…………」
一言一句どころか一挙手一投足に至るまで気持ち悪い。流石は神無月である。
ナガンの叫びに心からの同情を向けた、その時だった。
眼球に焼き付いたかのように、街のあちこちに照準らしきものが浮かんだのは。
「これは…」
『ヘッドギアに顕現装置を搭載しています。
顕現装置の反応による索敵はこちらで済ませておきましたので、煮るなり焼くなり好きにしてください。
私は叩かれる方が好みですがね!!!』
「………」
余計な一言のせいで礼を言う気すら失せる。
字面にすれば詐欺を疑うほどのハイスペックをフルパワーでドブに投げ捨てる神無月に閉口しつつ、出久は照準の先を見やる。
「ワン・フォー・オール10%…、〈
光が迸る羽根を飛ばし、静かに息を吐く。
幸い、脳無の動きは緩慢。
せいぜい飛ぶ速度が速いくらいで、その初速は〈絶滅天使〉であれば十分に捉えられる。
一体に動きが全く見られないのは気になるが、今はそんな場合ではない。
「【
巻き上がる炎を光が穿つ。
と。顕現装置の反応が消えたからか、照準が視界から消えた。
弾幕をばら撒くような真似ができれば手っ取り早いのだが、と思いつつ、出久は翼を自身の周囲へと戻す。
「………?」
感じたのは、無視し難い違和感。
視界の隅。揺らめく火柱から離れた場所に残る照準。
出久は視線をそちらに向け、翼を背中に並べた。
(〈
疑問を抱きながらも再び光となり、照準が指し示す場所へと向かう。
かかったのは数秒。遮蔽物を縫うように街を駆け、照準の場所へと辿り着く。
まず目についたのは、倒れたヒーロー。
名前はネイティブ。保須市で活動するヒーローである彼が、この緊急時に壁にもたれかかっている。
次に認識できたのは、ボロボロの外套を纏い、視線をこちらへ向ける男。
ニュースで見たヒーロー殺しの様相と一致する。彼がネイティブの自由を奪ったと見ていいだろう。
握る得物にも見覚えがある。
確か、ウェストコットの遺産である顕現装置が組み込まれた戦闘用装備…『CR-ユニット』にあんな武装があったはず。
脳無だと思っていた反応は、彼が持っていた顕現装置によるものだったらしい。
だが。その衝撃が吹っ飛ぶほどの光景が、そこにはあった。
(飯田くん…に、万由里!?!?)
1人は腕から血を流し、つくばう様に地面へと倒れ伏した飯田天哉。
もう1人は、彼を庇う様にヒーロー殺しの前に立ち塞がる万由里。
どうして2人が。そんな疑問に至るより先に、出久の体はヒーロー殺しの頬を殴り飛ばしていた。
「ぐっ…!?」
「み、緑谷くん…、何故…?」
「保須のあちこちで脳無が暴れてて、現場に向かってたらたまたま…って感じ。
それはそれとして…、万由里。なんでここに居るの?」
「今度のデートに着てく服を買いに来てたの。
そしたら街は爆発するわ、逃げてる途中で飯田が殺されそうになってるわ、助けに入ったら入ったで変なのに詰め寄られるわ、もう散々よ」
起き上がるヒーロー殺しへ、心底嫌そうに目を向ける万由里。
出久は2人の壁になるよう前に立つと、軽く構えを取った。
「万由里。応援は?」
「呼んでる…けど、思った以上に手こずってるみたい。
今んとこ来たのは出久だけ。
飯田もあっちの人も、アイツに血を舐められてから動けなくなってる」
「なら、近づけさせない立ち回りで…」
「手を出すな…!」
飯田の声が響く。
2人がそちらを向くと、憎悪に染まった瞳と目が合った。
「やめろ…!君には、関係ない…!!」
「人を救けるのに理由がいるの?」
「っ……」
飯田が言葉を詰まらせる。
それを前にして、ヒーロー殺しの口角が吊り上がった。
八木 万由里…デートの準備してたら巻き込まれた。A組とはそれなりに交流があるので一部の名前は把握してる。