居候がおやつ感覚でトンデモ能力渡してくるヒーローアカデミア 作:鳩胸な鴨
「いいセリフを吐くじゃないか、若人。
だが、言葉だけの贋物はいくらでも見てきた」
ヒーロー殺しが賛美とともにサバイバルナイフを投げる。
虚を衝いて確実に血を流させるための一撃。
出久はそれを展開した〈絶滅天使〉の一つで受け止め、地面へ踵を落とす。
「護れ、〈
氷の糸が駆け巡り、倒れ伏した飯田たちを結界が隔絶する。
ヒーロー殺しのこれまでの動向から推測するに、積極的に狙うならば動けない2人。
顕現装置による刃の一撃くらいなら耐えるはず。
あわよくば拘束したいところだが、そうもいかなかった。
ヒーロー殺しは展開された結界を潜り抜け、出久へと迫る。
「判断もいい…!そこ2人と違って、お前には生かす価値がある!」
「命の価値をお前が決めるな!!」
結界の間を縫うようにして、ワン・フォー・オールを巡らせて速度を上げた〈絶滅天使〉による弾幕を放つ。
が。流石は何人ものヒーローを屠った男というべきか。
ヒーロー殺しはその弾幕を軽々と避け、ナイフの投擲を続けた。
その間にも注がれる、自らの思想に溺れた視線。
まるで宝石の原石を見つけたかのように血走り、嬉々に染まる瞳。
それに沿って迫るナイフを弾き、出久は軽く息を吐いた。
(
得物を使った立ち回りを熟知してる…!
〈
〈
〈
悲しいことに、天使のほとんどは狭い場所での戦闘に向いていない。
出久が持ち合わせているもので使えるのは、一本一本が細長い形状の〈絶滅天使〉と、そもそもが糸である〈氷結傀儡〉のみ。
肉体を作り変えようにも、ヒーロー殺しの絶え間ない攻めがそれを許さない。
ヒーロー殺しのナイフ切れを待ったとして、
刻一刻と迫る詰みに焦りが滲んでいく。
「なかなかやる…が、残念だったな」
ばばば、と随意領域が並ぶ。
まずい。爆撃が来る。
氷を展開するより先、それが爆ぜようとしたその時だった。
随意領域を炎が穿ったのは。
「わかんねぇことだらけだ…が、助けに来た」
揺らめく炎に包まれ、左手を伸ばす影。
コスチュームに無理やり取り付けたように無骨な機械を纏った姿を前に、出久は息を呑んだ。
「と、轟くん…!?なんで、顕現装置を…」
そこに居たのは、顕現装置らしき装備を纏った轟焦凍だった。
焦凍は出久の問いに複雑な表情を浮かべ、心底不可思議そうな声を漏らした。
「いや…、ラタトスクの神無月…だっけか。
そう名乗る変態からこれを預けられて、お前を助けてくれって言われた」
「………よく信じたね」
「半信半疑だったが…、来て正解だった。
変態だったのは間違いないが、いい変態だった」
「いい変態て」
あの轟からも変態扱いされるとは、今度は何を宣ったんだろうか。
出久が呆れを浮かべていると、ヒーロー殺しの瞳が大きく開く。
「神無月…、神無月、神無月ィイイイッ!!
貴様ッ、神無月恭平と既知の仲か!?」
先ほどまでの冷静な態度をかなぐり捨て、怒り散らすヒーロー殺し。
あの変態は何をやらかしたのだろうか。
そんな疑問を浮かべながらも、出久はおずおずと言葉を返す。
「まあ、お世話にはなってる…」
「あの弩級の愚物が…!
英雄の素質ある者全てにその毒牙を剥くか…!!
やはり粛清せねばなるまい…!!」
「…あの変態、ヒーローなのか?」
「いや、元自衛隊員って聞いたけど…」
何故に憎悪を向けるのかわからず、揃って訝しげに眉を顰める2人。
そんな2人に見せつけるように、ヒーロー殺しは何処からか取り出した本をアスファルトに叩きつけた。
「あの男はあろうことか平和の象徴を、真の英雄を、オールマイトを貶めた!!
万死に値する!!何度殺せど贖えぬ罪の象徴がそれだ!!」
「………ん゛んっ」
本の表紙を見て、思わず吹き出す出久。
そこに描かれたのは、触角のような髪を下げ、爛漫な笑顔を浮かべるうら若き少女。
そんな彼女を彩るように可愛らしいフォントで、「オールマイトJC化計画」という悍ましいにも程がある文言が並んでいた。
「……どういう意味だ?オールマイトどこにも描かれてねぇぞ」
「わからぬのなら説明してやろう!
それは『オールマイトが唐突に女子中学生になってしまった』というシチュエーションで描かれたラブコメアンソロジーだ!!
平和の象徴を…、オールマイトを底の底まで貶める呪物なのだ!!」
「………それは…、まあ、怒る」
「うん…。怒るね…」
一回本気で怒られた方がいい。…喜ぶから逆効果かもしれないが。
かつてないほどに取り乱し、地面に落ちた本を回収するヒーロー殺し。
どうやら持ち歩いているらしい。
「なんで拾うんだよ」とツッコむ焦凍に、「怒りを忘れないために!」とヒーロー殺しが叫ぶ。
まさかこんなところでも因縁があったとは。
空気が弛み切ったその時、ヒーロー殺しがその隙を縫うように随意領域を展開した。
「チッ…!」
氷を張り巡らせ、随意領域を無力化する焦凍。
出久はその隙にと〈氷結傀儡〉を解き、氷の結界で事を見守る万由里へと目を向けた。
(万由里、おねがい)
(わかった)
霊力の制御を万由里に投げる。
万由里は出久に集う霊力から生まれた存在。
故に、霊力の制御においてはミオを超える才を持つ。
六つの霊力を練り上げ、出久の細胞と混ぜ込むように織り込んでいく。
両腕に〈鏖殺公〉。背中に〈絶滅天使〉。
右足に〈
同時にコスチュームが解け、〈氷結傀儡〉の糸を〈贋造魔女〉で変質させた光の衣が出久の肌を覆った。
「緑谷、また強くなったか?」
「借り物だけど…って、話は後でするから、今は3人を守ろう」
「…逃げを考えたが、お前がそういうんだったら無理そうだな。何すればいい?」
先ほどまではやることが多すぎて、防戦に徹するのが精一杯だった。
焦凍の個性であれば、〈氷結傀儡〉と同じことができる。
展開する随意領域を砕きつつ、出久は聞こえないように焦凍に耳打ちした。
「範囲攻撃であいつの動きを絞ってほしい。
僕が決定打を出して、倒す」
「あいつの個性、傷つけられたら終わりなんだろ?大丈夫なのか?」
「勝てる確証なんていらない。
今は3人を確実に守れる手を打つ」
「わかった」
あの光刃で裂かれたら最後、血を舐められておしまいだ。
焦凍が軌道を絞るように氷を巡らせ、出久が縦横無尽に駆け巡る。
ヒーロー殺しがまず落とすべき一点は、範囲攻撃を仕掛けてくる焦凍。
顕現装置による機能は相殺できても、使い始めて1時間も経たない焦凍と、いつから持っているのかは定かではないが、随意領域を多重に展開できるヒーロー殺しでは大きい差がある。
今はまだ対応できているが、綻びができれば必ずそれを突いてくる。
焦凍は冷や汗を垂らしながら、ヒーロー殺しの動きを縛っていく。
(っそ…!照り焼きだかテリトリーだか知らねぇが、コレを炎と氷に混ぜ込まないとあの緑の膜を壊せねぇ…!
長くは保たねぇぞ、緑谷…!)
(避けが上手い…!最大速度を保ってるのに、一発もモロに入らない…!)
随意領域の多重展開に、速度を増した出久でも掠るのが精一杯な程の反応速度。
執念が成せる業か、はたまた天性の才か。
逼迫する状況を前に、事を見ていた飯田が声を漏らした。
「2人とも、やめろ…!そいつは僕が倒すんだ…!兄さんの名を継いだ僕が…」
「ふんっ!」
「ぶっ!?」
倒れ伏した飯田の脳天に万由里が容赦なくゲンコツを落とす。
彼女は痛みに言葉を遮られた飯田の頬を掴み、視線を戦う彼らへと向けた。
「復讐とかって感覚はよくわかんないけど…、今のアンタさ、あの2人と同じヒーローだって胸を張って言えんの?」
「………」
痛みよりも大きな衝撃に閉口する飯田。
ヒーローのことはよくわからない。
当たり前のことだ。万由里は養父と命の恩人以外のヒーローを知らないのだから。
だがしかし、そんな万由里の目にも、ヒーロー殺しを憎悪で射殺さんばかりに睨め付ける少年がそうだとは見えなかった。
万由里が諭すのに被せるように、焦凍が口を開いた。
「お前、憧れてるって、言ってたろうが…!
なりたいって、言ってたろうが…!」
酷使の影響か、焦凍の鼻から血が垂れる。
それを舐められるだけで終わる。
そんな状況にも関わらず、焦凍は飯田に吠えるように叫んだ。
「なりてぇもん、ちゃんと見ろ!!」
先ほどまでは動かせなかったはずの指が動く。ヒーロー殺しの個性が解けたのだろう。
いつからかはわからないが、指先に血が滲んでいるあたり、かなり前から解けていたのだろうか。
そんな疑問に答えを出すより先に、飯田の足先が弧を描いた。
「ゔっ…!?」
「レシプロ、バースト…!!」
予想外の一撃に隙を晒したヒーロー殺し。
そんな彼が視界に映したのは、天高く飛び上がった出久と、幾重にも展開された光の膜だった。
(そのまま突っ込むと殺してしまう…!
出来るだけ衝撃を和らげた上で、最大打点を放つ…!!)
背中に〈
展開した天使と個性全てを結集させ、右腕を引き絞る。
「
虹色の破片が舞い散る。
場に沈んだヒーロー殺しから拳を引き抜き、出久はため息交じりに吐き捨てた。
「社会を変えたいとか宣うなら、まずは迷子センターに迷子を届けるくらいの人間になれよ」
オールマイトJC化計画…オールマイトイベントで配布されてしまった特級呪物。オールマイトガチファンから袋叩きを食らったものの、そこにさえ目を瞑れば中身のクオリティは非常に高かったため物議を醸した。その騒動を聞いたオールマイトが「別にいいよ」と諦めた顔でゴーサインを出した結果、ネット上に18禁イラストが溢れかえった。