居候がおやつ感覚でトンデモ能力渡してくるヒーローアカデミア   作:鳩胸な鴨

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蠢く悪意

「……なるほどな。比べるようなもんじゃないが、お前にもいろいろあったんだな」

「ぐっ…、不健全と断じて申し訳ない…!

君は君なりに彼女らを、世界を救おうと努めていたと言うのに…!」

「そこまで真剣に受け止められるとこっちもちょっと反応に困るね…」

 

騒動のたび、精霊たちの事情を明らかにしてる気がする。

そんな事を思いつつ、病室にて深々と頭を下げる飯田を宥める出久。

結果から言うと、傷がすぐに治癒する出久は兎も角、焦凍と飯田は無傷とはいかなかった。

焦凍は顕現装置の使用による負担が大きく、飯田はヒーロー殺しに深く切りつけられたのが災いし、左腕に後遺症が残ってしまうらしい。

ラタトスクの技術力ならば治すことも可能だったが、飯田はこれを拒否。

この後遺症を戒めにして生きていくと啖呵を切った。

痛々しい傷跡が隠れる包帯を前に、出久は申し訳なさそうに顔を顰める。

 

「ごめんね、大変な時にこんな話して」

「それは構わないが…、こういう話はもう少し早くしてもらいたかった。

その…失礼な話、僕はてっきり君が不純異性交遊にまで至ってるのではと…」

「飯田くん???」

「そう思わせるだけの距離感ではあったな」

「轟くん???」

 

軽いジャブにしては重い一撃だ。

いや、まあ普通のカップルにしてはスキンシップが激しかった自覚はあるが。

緑谷 ミオは肉体年齢こそ15〜16歳あたりだが、その中身は園児に等しい。

故に、肌が触れ合う愛情表現にこれっぽっちも抵抗を持たないのである。

その結果、スキンシップの激しいバカップルに見えてしまうだけなのだ。

心の中でそんな弁明を組み立てていると、焦凍が出久に問うた。

 

「……緑谷。お前、大丈夫なのか?」

「へ?何が?」

「いや…、体育祭の時といい、今回の件といい、結構軽々しく天使を使ってるが、正体バレても問題ねーのかと…」

「……こ、個性で再現できたー…ってことで、なんとか誤魔化してるから…」

「誤魔化すにも限度あんだろ」

「…………はいっ。その通りです…」

 

焦凍の指摘にぐうの音も出ず、撃沈する出久。

そんな彼に向け、飯田は思いついたかのように口を開いた。

 

「今回みたいな変身が使えるのなら、その心配もなくなるんじゃないか?」

「それなんだけど、あの時は万由里に制御を投げてたから出来ただけで…」

「じゃあ、出来るまで練習すればいいじゃねーか」

「うん。そのつもり」

 

職場体験が終われば、実技試験込みの期末テストは目前。

時崎狂三やヒーロー殺しなど、自分よりも技量を持つ相手との戦闘を経た今、このままで乗り越えられるとは到底思えない。

いくら世界を殺す力を持とうと、それを振るう人間が自分のような未熟者ならば宝の持ち腐れに等しい。

正しく使えているのではない。真価を発揮できていないのだ。

もっと鍛えねば、と出久が意気込んだその時。

唐突に病室の扉が開き、飛び出た何かが凄まじい速度で出久に迫った。

 

「蹴り殺すぞ貴様ァッ!!」

「ぐぺぇっ!?」

「緑谷くん!?!?」

 

見事なドロップキックが出久の横っ腹に突き刺さる。

とても病院でやるべき折檻ではない、と思いつつ、なんとか一撃を受け止めた出久は、その影を見やった。

 

「ぐ、グラントリノ…。あの、ここ病院なんですけど…」

「配慮がすっ飛んどったのは謝る。

が、貴様!!よくも万由里ちゃんを巻き込みおったな!?」

「ぶべばばぼぼっ!?」

「ど、どちらかと言うと、巻き込んだのは僕ですので…!」

 

孫娘のように可愛がってる万由里を巻き込んだのが余程許せなかったのだろう。

出久をタコ殴りにするグラントリノを飯田が宥めていると、その奥から現れた人影と目が合った。

 

「ま、マニュアルさん…」

「確か、飯田の…」

 

職場体験先のプロヒーロー、マニュアルを前に飯田がたじろぐ。

負目があり過ぎる。

私怨に動き、忠告を無視し、あまつさえ無免許のままヒーロー殺しと対峙してしまった。

謝っても謝りきれない。

そんな謝意を吐き出そうとした飯田を制するように、マニュアルが「皆にお客さんだよ」と身を引く。

 

現れたのは、黒スーツを着こなした二足歩行の犬だった。

 

否。正確に言えば、犬の個性を持つ人間。

恐らくは異形型に分類される個性の人なのだろうが、ここまで犬そのままなケースは珍しいのではなかろうか。

あまりにインパクトの強い顔面に皆が目を剥いていると、彼がその口を開く。

 

「初めまして。私は保須警察署署長を務めている、面構犬嗣だワン」

 

思わず出てしまうのか、それとも場を和ませるためなのか。

なんにせよ、緊張感を粉砕する語尾である。

名乗る彼に面食らいながらも立ちあがろうとすると、「かけたままで結構だワン」と制するような声が響く。

声が冷たいとでも言うのだろうか。

どことなく熱を感じない淡々とした声音で面構は続けた。

 

「君たちがヒーロー殺しを仕留めた雄英生3人か…。

1人は許可が下った上での活動故、多少は大目に見るが…、その様子だと自分が何をしたか、自覚があるワンね?」

「………はいっ」

 

向けられた視線に頷く飯田に、訝しげながらも頷く焦凍。

無免許での個性使用。

彼が指摘しているのはその一点であろう。

曲がりなりにもグラントリノから許可を得た出久は兎も角、2人はなんの許可も得ず個性を使った。

これが罷り通ってしまえば、モラルやルールを遵守してきた先人たちの苦悩と積み重ねが無駄に終わる。

面構は淡々と言葉を並べると、出久へと目を向けた。

 

「君も君で、許可が下っていたからと言ってその意味を拡大解釈しすぎだワン。

状況を整理していけば、いくら許可があったとて、君は『プロの現場にて素人判断で動いた学生』にしか見えない。

その自覚はあるワンね?」

「………はい」

 

理由はわかる。

そもそも出久は脳無の顕現装置を破壊するためだけに個性の使用許可を得た。

それをどう解釈すれば「ヒーロー殺しと戦ってもいい」になるのか。

出久が猛省していると、焦凍が静かに声を漏らした。

 

「…規則守って、飯田やネイティブさんを見殺しにした方がマシだった…とでも言いたいんですか?」

「ちょっと、轟くん…」

「結果オーライであれば、規則など有耶無耶でいいと?」

「人を助けるのがヒーローの仕事だろ!!」

「だから君は『卵』だ。

まったく、いい教育をしてるワンね。雄英も、エンデヴァーも」

「この犬…っ!!」

「だ、ダメだって轟くん…!」

 

今にも殴りかかる勢いで迫る焦凍を出久が止める。

それに合わせるよう、グラントリノが「話は最後まで聞け」と彼を宥めた。

 

「ま、ここまでは君たちの功績を公表した場合の警察の見解。

公表すれば世論は君たちを褒め称えるだろうが、処分は免れない。

一方で汚い話、ヒーロー殺しの火傷から、エンデヴァーを功労者として擁立できる。

噛み砕いて言うと、今回の件はもみ消せる事態なんだワン」

 

面構は言うと、「大人としては、君たちの偉大なる過ちにケチをつけたくないんだワン」とサムズアップする。

栄誉云々に興味はない。

ただ助かった、助けられた現実があればそれでいい。

3人が「お願いします」と頭を下げると、マニュアルが苦笑を浮かべた。

 

「ま、どのみち監督不行き届きで俺らは処分受けるんだけどな…」

「申し訳ありませんでした!」

「よしっ!他人に迷惑がかかる!

わかったら、二度とするなよ?」

「はい!」

 

飯田や雄英に軋轢が生まれるかもと思ったが、杞憂だったようだ。

軽いチョップを落としたマニュアルを横に、面構が言葉を続ける。

 

「大人のズルで君たちが受けていたであろう称賛の声はなくなってしまったが…、同じく平和を守るべく戦う同士たちに感謝を。

本当に、ありがとう」

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

その日の夜、出久の自宅にて。

神妙な面持ちの狂三が机に資料を広げ、向かい側に座るミオに告げる。

 

「ヒーロー殺しが使っていた顕現装置(リアライザ)ですが…、少なくとも、量産型ではありませんわ。

アスガルド・エレクトロニクス社製品でも、DEM製品でもない…となれば、新造の顕現装置なのですが…、心当たりは?」

「え?いや、ないけど…」

 

顕現装置のメカニズムを知っているのは、死したウェストコットと隠居生活の傍で出歯亀をかますウッドマン、そしてウッドマンを虎視眈々と狙う肉食系女子のカレンのみ。

カレンの姉も可能性はなくもないが、「何もできなさすぎて指導するこっちが心折れそう」とまで言われるポンコツには無理だろう。

死したウェストコットは兎も角、ウッドマンたちがヒーロー殺しに顕現装置を与えたとは考えにくい。

そこまで考えて、狂三は訝しげにミオに尋ねた。

 

「こちらのウェストコットは確かに死亡したのでしょう?」

「うん。こう…、ぐしゃぐしゃになって」

「……それはいつ『読み』ましたの?」

「5…、いや、6…?

………ごめん、いつだっけ?」

 

こいつこんなに迂闊だったっけか。

いけすかない方の同一人物を思い浮かべながら、狂三はミオに迫った。

 

「今、すぐ。読み直してくださいまし」

「木っ端微塵のぐっしゃぐしゃになってたから流石に死んでると思うよ?」

「いいから。早く」

「……わかった」

 

ぽんっ、と音を立てて〈囁告篇帙(ラジエル)〉がその手に顕現する。

渋々といった様子で彼女がページを開くと、その顔をみるみる蒼白に染めていく。

 

「……どうでしたの?」

「…………あの、なんて、いうか…、その…」

「…向こうのあなたはもうちょっとハキハキ喋りましたわよ」

「いや、私もできるだけハッキリ言おうとは思うんだけど、これは、あの、流石に…」

「ああもう、まどろっこしいですわね。私にも読ませなさいな」

「あっ…」

 

狂三は〈囁告篇帙〉をミオからひったくり、そのページに目を落とす。

瞬間。見るからに顔を歪め、〈囁告篇帙〉を思いっきり地面に投げ捨てた。

 

「……ただで死んだとは思いませんでしたが、まさかこんな気持ち悪いことをしてたとは…」

「ね」

 

開いた本には、薄気味悪い笑みを浮かべる子供が描かれていた。




気味の悪い子供…現在のDEMの頂点に君臨する者。名前は前代表取締役と同じ「アイザック・ウェストコット」。

ヒーロー殺し…所持していた「オールマイトJC化計画」のインパクトが強すぎたせいで英雄回帰の思想が取沙汰されなかった。それどころか性癖をとんでもなく拗らせた変態の烙印を押され、連日連夜神無月への怨嗟を叫んでいる。

神無月恭平…オールマイトJC化計画の再販を希望する声ががアホほど届いてびっくりした。

オールマイト…何にもしてないのに致命的なダメージを負った人。顕現装置で胃を治してもらうんじゃなかったと後悔中。

AFO…酒が超うまい。
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