居候がおやつ感覚でトンデモ能力渡してくるヒーローアカデミア 作:鳩胸な鴨
「「全然勉強してなーーーいッ!!」」
職場体験を経て数日。
上鳴が絶望に顔を染め、芦戸が現実から目を逸らすかのように朗らかに笑い、叫ぶ。
職場体験も終わり、期末試験目前。
一週間前に迫る試験に慌て出し、皆に絡んでいく2人を励まそうと出久が口を開きかけるや否や、教室の扉が開く。
「イズク。今日の勉強会に向けて、ざっくりノートまとめといた。万由里も来るって」
「あ、うん。ありがと」
「緑谷ァァアアッ!!テメェ、中間クラス内4位だったくせにそんな勝ち組みてぇな勉強会開いてんじゃねぇえええッ!!」
ほらやっぱり。こうなると思った。
事情を知る峰田は噛み付いてこないものの、ソレでも羨ましいのか血涙を流して出久を睨み付ける。
羨望と嫉妬の視線を浴びる出久を横に、ミオは心底不思議そうに首を傾げた。
「………?全体で見れば、イズクは私より下。なら私が教えるのが道理のはず」
「それはいいんだよ!!問題はだな…!
俺らみたいな勉強弱者がゲロ吐きそうなくらい焦ってんのに、可愛い美少女に囲まれて勉強会なんて甘酸っぱいイベントをなんで元々勉強できる緑谷だけ堪能してんだって話!!」
「アンタが勉強できてないから堪能できないんでしょうが」
耳朗が呆れ気味に放った罵倒に「ぐうっ」と悲鳴をあげ、撃沈する上鳴。
これで改善すればいいのだが、多分しないという確信が持てるのは何故だろうか。
全員がそんな視線を向けていると、八百万がおずおずと声を上げた。
「お2人とも。座学ならわたくし、お力添えできるやもしれません」
「「ヤオモモーーーッ!!」」
流石はクラス一位というべきか。
説得力が凄まじい。
知識がそのまま強さに直結する個性だと座学で躓きにくいのかも、と思っていると、ミオが首を傾げた。
「……そこの2人はあんまり勉強のこと気にしてないと思ってた」
「テキトーに流せればよかったんだけど、こっちは事情が違ぇんだよ、ミオちゃん!」
「除籍されるかもだし…、なにより!林間合宿がかかってるからね!」
「林間合宿…って、森の中でいろいろするアレ?」
「そうそう、アレ!カレー作りに肝試しー!」
「普通科にそんなイベントなかったけど?」
話題がまずい方向に転がり出した。
怒りを滲ませ、髪を揺らめかせるミオを横にダラダラと冷や汗を流す出久。
腕を抱きしめる力が強くなってる気がする。
なんとか話題をぶった斬ろうとするも、ソレも虚しく麗日が申し訳なさそうに手を合わせた。
「ご、ごめんね…。その、ヒーロー科だけのイベントみたいやから…」
「………やっぱ滅ぼそ…」
「夏休みに旅行計画してるからソレで勘弁してください」
「わーい」
危ない。世界が滅ぶところだった。
泊まりがけの行事はもうこれ以上ないだろうか、と心配を浮かべつつ、出久は「じゃあ、また明日」と教室を後にした。
♦︎♦︎♦︎♦︎
「変身のコツ?」
緑谷家から少し離れた喫茶店にて。
事情を知る飯田、轟を加えた勉強会を開く最中、万由里が訝しげに眉を顰める。
出久は深く頷き、手を〈鏖殺公〉へと作り変えた。
「作り変えるのに意識を集中しなきゃいけないから、毎度毎度ちょっと時間かかってさ…。
コツらしいコツも不透明だし、そもそも剣の規格を無理やり体に落とし込むのにほとんどリソース持ってかれるというか…」
「……アンタまさかとは思うけど、渡された時の形が天使本来の姿とか思ってんの?」
「え?違うの?」
「違う」
「……………ミオさん???」
そんなこと聞いてませんが。
視線で訴えかける出久から視線を逸らし、ミオは気まずそうにボソボソと言葉をこぼす。
「……権能はそのままに変形できるってのは知ってた…」
「僕の苦悩って一体…」
「アンタ、もうちょっと早く言ってあげなさいよ…」
「霊力の操作に慣れてない状態でそれやったら世界の一つや二つは簡単に吹っ飛ぶし…」
「前言撤回。よく言わなかった」
そんな危険物を飴ちゃん感覚で渡されてたのか。
出久が改めて戦慄していると、万由里が変化していない方の手をペンで指す。
「とりあえず、出久。腕を挿げ替える感覚でやってみなさい」
「め、〈
ぱっ、とチャンネルが切り替わったかのように、出久の腕が光の塊へと変化する。
無論、〈
荘厳な意匠が駆け巡る腕をまじまじと見つめ、遊ばせる出久。
これならば切り替え時のラグも少ない。
〈絶滅天使〉から〈
万由里に制御を投げた時よりも精度は落ちるだろうが、あの時の変身も再現できるかもしれない。
そう考えてふと、先日オールマイトと対談したことを思い出す。
────君はいつかオール・フォー・ワンと…、巨悪と対決せねばならん時が来る…やもしれん。
ワン・フォー・オールを受け継いだ者に待ち受ける『巨悪』のこともある。
なんにせよ、この形態変化に一刻も早く慣れておかなければ。
出久が腕を戻すや否や、一区切りついたのか、ペンを置いた飯田が口を開いた。
「こちらも試験に向けて、出来ることを増やしておかないとな。
当日まで演習試験の内容がわからないというのが不安だが…」
「去年は一般入試と同じようなロボ演習だったみたいだよ。
B組の真面目そうな子が話してたの聞いた」
ミオは言うと、机に置かれたアイスカフェオレをストローで啜る。
「それは聞いてもよかったのか…?」と言いたげな顔を見せる飯田を横に、焦凍が訝しげに眉を顰めた。
「……今年は敵の襲撃もあったってのに、入学試験と変わらない内容の試験なんてするか?」
出久と飯田の手からペンが落ちた。
「ない…!絶対にない…!!」
「そうだ…!何故、迂闊にもそのことを忘れていたんだ、僕は…!
被害を受けた1人だったと言うのに…!」
「グルチャで共有しよう。
多分だけど、芦戸、上鳴あたりが油断かましてるだろ」
いかんせん、試験内容は不透明なままか。
振り出しに戻ったことに加え、さらなる受難を予期して焦り散らす3人を前に、ミオたちは顔を合わせた。
「どうしよ。言うタイミング逃しちゃった」
「テスト終わってからでいいでしょ。
余裕なくなりそうだし」
天使…デアラ原作にて精霊たちを殺し、天使を奪った精霊〈ビースト〉から推察するに、そもそも決まった規格を持たない模様。イメージしやすいから精霊たちが使っていた形をしていただけで、持ち主によっては全ての天使が剣になったりもする。ただし、諸々の加減が難しいというデメリットがある。
つまるところ、これまで出久がやっていたのは「危険性は少ないけどめちゃくちゃ回りくどい方法」だった。
緑谷 ミオ…中間学年一位。存在としての規格がバグすぎるので、ちょっと勉強するだけでなんでもできる。人の世を完全には理解できてないので時事問題が苦手。ウェストコットのことを言いそびれて気まずい。
八木 万由里…中間学年12位。勉強はできる。面倒見がいいせいか、クラスメイト数人と勉強会の予定が入ってしまった。デートしたかったのに。