居候がおやつ感覚でトンデモ能力渡してくるヒーローアカデミア 作:鳩胸な鴨
期末試験当日。
座学を乗り越えた彼らに待ち受けていたのは、やはりというべきかロボによる戦闘演習などではなかった。
聳える壁は、ずらりと並ぶ教師たち。
それぞれが教師の傍でプロとして活躍してきた実績と実力を誇るヒーローたちだ。
しかし、勝てないようになっているかというとそんなことはなく。
まず生徒たちでは倒せないと踏まれたのか、教師の体にカフスをかければ合格。
それだけでなく、逃げ切れても合格という条件に加え、教師陣には体重半分の重さを誇る拘束具による縛り付き。
それでも漸く勝てるかどうかという戦力差を前に皆が戦々恐々する中、相澤が組み合わせを発表していく。
誰と組まされるのだろうか。
出来れば親交の深い人でありますように、と祈るも、「緑谷、爆豪チーム」という相澤の宣告に撃沈した。
「お前らの相手は…」
「私が…する!!!」
協調性皆無な上にガンガン行こうぜのランダム行動な仲間を連れて裏ボスを倒せとか無理だろ。
天より降りてきたオールマイトと爆豪を交互に見やり、ダラダラと冷や汗を流す出久。
悲しいくらい勝つビジョンが見えない。
せめて話を聞けるくらい親睦があれば良かったのだが、今やまともに口も利けないほどの不仲なのだが。
まさか、それが原因で組まされたとかじゃないよな。
出久がそんな推察を広げるのも束の間、爆豪がその肩を掴んだ。
「おい、デク。何が出来る?」
「か、かっちゃん…?」
「何が出来ンだって聞いてんだよ答えろ」
てっきり、本番まで口を利かないものだと思ってた。
目を丸くした出久を前に、「早よ」とドスの効いた声で迫る爆豪。
出久はその威圧にたじろぎながら、自身の手札を整理した。
「え、えっと、増強と炎、雷、風、氷…、あと新しく光線を使えるようになって…。
切り替えの速度が上がって、同時使用も三つまでなら行けるようになった」
「……足引っ張ったら殺すぞ」
「わ、わかった」
緩和したのだろうか。
この職場体験で8:2分け(すぐに元に戻った)にされてマイルドになったというのか。
そんな失礼なことを考えていると、爆豪が声を張り上げる。
「テメェに協力するわけじゃねぇ!俺がテメェを使うんだ!
テメェが下で俺が上ってこと忘れんな!!」
「あ、うん」
「…………チッ」
以前に比べて罵倒がソフトだ。
ちょっとずつ歩み寄れてるのかな、などと思いつつ、出久はモニター室へと向かった。
♦︎♦︎♦︎♦︎
「……ヒーロー科に行くわけでもないのに、酔狂なもんだねぇ」
治療室にて。
モニターにて繰り広げられる激戦を傍目に、老齢の女性…リカバリーガールが隣に立つミオと万由里に目を向ける。
普通科の期末試験は座学のみのため、ヒーロー科より日程が短い。
希望すればヒーロー科の演習試験を見学できるが、それはあくまでヒーロー科に転入が決まった生徒のための措置。
試験疲れもある中で、こうして物見遊山で見学する生徒はまずいない。
リカバリーガールの訝しげな視線にたじろぐこともなく、2人は淡々と言葉を返す。
「イズクが心配で見にきた。どうせオールマイトが相手でしょ」
「ヒーローしかできない筋肉ダルマがまともに壁として機能するわけないから、どこがダメだったか徹底的に見てやろうと思って」
「………概ね同意見だねぇ」
間違いない。絶対にやらかす。
すらすらと毒を吐く2人に深く頷き、爆豪、緑谷チームのモニターを見やる。
開始前の作戦会議でもしているのだろう。
不仲ではあるものの、その程度のコミュニケーションは可能ということか。
リカバリーガールが感心を向けるや否や、開始の合図が鳴る。
やはりというべきか、初動は隠密行動。
あわよくばやり過ごしてゴールを潜ろうという魂胆だろうか。
が。それを許すほど雄英は甘くない。
ビルを身一つで粉砕し、現れたオールマイトが2人に襲いかかる。
とてもじゃないが、身につけた重りが機能しているとは思えない速度である。
その光景を前に、万由里はこめかみに青筋を浮かべた。
「まともに当たってたら粉砕骨折だよアレ」
「初動から加減しなくてどうするんだい…」
「多分、壁になろう壁になろうって思ってるうちにハンデのこと頭からすっぽ抜けてるよ、あの筋肉」
〈囁告篇帙〉を開けば、ミオが語る予想がそのまま記されていたことだろう。
笑いながら迫る姿は、さながら爆走する大型トラックである。
出久らも負けじと攻撃を仕掛けるものの、悲しきかな。全く効いてない。
本当に精霊に酷似した何かなんじゃなかろうか、と猛威を振るうオールマイトに呆れる精霊2人。
一方、挑む2人は圧倒的膂力に振り回されながらも、連携を取ることでオールマイトの攻撃をなんとか捌いていた。
「連携じゃないね。出久が合わせてる」
「爆発頭もセンスでギリギリ追従してるわね。
それでもトップには及ばないけど…」
「あれだけ出来てりゃ十分だよ。
…しかし、一体何があのプライドの塊を動かしたのかねぇ」
確かに、そこだけが疑問である。
曲がりなりにも連携を取り、オールマイトの猛攻を潜り抜けていく爆豪を前に首を傾げる3人。
と。その問いに答えるかのように、治療室の扉が開いた。
「……あら。わたくしの戯言にも意味はありましたのね」
治療室へと足を踏み入れ、くすくすと笑みを浮かべる少女…狂三に視線が向く。
狂三がたじろぐことなくモニターに歩み寄ると、リカバリーガールが問うた。
「その口ぶりから言うと、爆豪に何か吹き込んだのはアンタかい?」
「さあ、どうでしょう。軽くお話はしましたが、変わったのは彼自身ですわ」
いけしゃあしゃあと言ってのけ、ミオの隣に立つ狂三。
リカバリーガールはそれに顔を顰め、呆れを込めたため息を吐いた。
「……体育祭の時から思ってたが、回りくどい子だねぇ、アンタ」
「よく言われますわ」
♦︎♦︎♦︎♦︎
遡ること、職場体験4日目の午後。
せっかくNo. 4ヒーロー…ベストジーニストの事務所を選んだと言うのに、何も進歩がない現状に爆豪は焦りを感じていた。
こうしている間にもデクは進んでいる。
開いてしまった差を見るのが恐ろしい。
それを超える自信が持てない。
押し込めていた弱音が顔を覗かせるたび、自分に腹が立つ。
今日も今日とて実りのないパトロールに繰り出すだけで、実戦経験の一つも積めない。
爆豪が思い悩んでいると、その目が会いたくもない顔を捉えた。
「あら。奇遇ですわね、怖がりワンちゃん」
「誰がワンちゃんだ殺すぞ時計女…!!」
時崎狂三。これ以上ない形で己のプライドを踏み躙り、隠し続けてきた、自覚すらしてなかった本心すらも見通した女。
爆豪が噛み付くや否や、背後に立っていたベストジーニストがその頭に手刀を落とした。
「言ってるだろう。言葉遣いが悪い」
「今のはコイツが…」
「だとしてもだ。すまないな、そこの君。あとで私から厳しく言っておく」
「いえ、お構いなく。こちらも少し話をしたかっただけですので。
…今、お忙しいのなら改めますが」
「5分程度ならいい。そろそろ休憩しようと思っていたところだ」
こちとら休憩するほど体力減っとらんわ。
そう噛みついて要望が通れば楽だったのに、などと思いつつ、視線を狂三へと向ける爆豪。
気に食わない。相手を何もかもを理解していると言いたげなスカした顔。
飄々とした態度も、わざとらしい口調も、何もかもが気に食わない。
そんな爆豪の視線を知ってか知らずか、狂三はくすくすと笑い声を漏らした。
「その様子だと、素直に己を受け入れた…とは言い難そうですわね。
そんなに嫌ですの?緑谷さんの強さを認めるのは」
「……デクだぞ…。なんもできねぇ、石っころだったやつだぞ…。
認められっか…そんなの…!」
「…………っはぁーーーー…」
想像以上に根深い。
緑谷 出久に対する固定観念に、理解できないものへの恐怖が混じり合い、激しい嫌悪になっている。
このままでは、いずれどこかで盛大にすっ転び、あっけなく死ぬのがオチだろう。
狂三は深く息を吐くと、爆豪に向けて吐き捨てた。
「そのプライドに殉じて死んでもいいと」
「死なねぇわクソが!!」
「あら。あら。随分と大口をたたきますわね。わたくしを前にして、死なない…と?」
爆豪の背筋が凍る。
否。それだけではない。同行していたベストジーニストですら戦闘態勢に入っている。
今の彼女に力はないはず。
だというのに、なんなのだ。この怖気は。
「きひっ」と笑い声を漏らす狂三に、爆豪が滝のような冷や汗を垂らす。
彼は知らない。目の前のソレが、数多の屍を啜り喰らってきた『最悪の精霊』だということを。
彼女が放つ威圧に呑まれた爆豪の肩に、狂三は這わせるように手を置く。
「ねぇ、爆豪さん。プライドがあるのは素晴らしいことだと思いますが…、それに殉じて死ぬのは滑稽ですわよ」
「……っ、テメェ…」
「それに。緑谷さんのことを『デク』と罵っておられますわよね?
大口叩いてばっかで何も成せない『木偶の棒』は、くだらないプライドに固執してる今のあなたの方ではありませんの?」
「っ………!!」
プライド一つで世界を救えたら苦労はしない。
そんなことを思いつつ、狂三は「お邪魔しましたわ。頑張ってくださいまし」と微笑み、踵を返した。
爆豪勝己…ストレートにぶっ叩かれて矯正されかけてる。それでも一万歩くらい譲歩し始めたくらい。どんだけ拗らせてんだコイツ。
時崎狂三…噂に聞く爆豪の様子が全く変わってなかったので様子を見にきた。爆豪の面倒臭い拗らせ具合に辟易してる。
オールマイト…娘とリカバリーガール、そしてグラントリノと校長による説教が確定した。