居候がおやつ感覚でトンデモ能力渡してくるヒーローアカデミア 作:鳩胸な鴨
寺から歩くこと、数分。
そもそもが森の奥地にあった魂活寺よりさらに奥へと進んだ場所に、塔は聳えていた。
「な、なんですの、あれは…!?」
思わず八百万が声を漏らす。
その外観を一言で表すのならば、荘厳。
連なる煉瓦の屋根。経年劣化による変色が進んだ壁。そして、頂点を目指す者を拒むかのように漂う雷雲。
紡いできた歴史をありありと見せつけるかのように佇むその塔を前に、歴戦のヒーローたるピクシーボブですら生唾を飲み込む。
そんな彼女らを前に、長老は不適な笑みを浮かべ、その口を開いた。
「魂活寺花嫁修業最難関…。
「なんて???」
「け、けっこん…、お、め…で、とう…?
そ、そう読むのですか…?これを…?」
長老が指した看板を前に、2人が怪訝そうな顔を作る。
流石に名前を聞いただけで修業の概要はわからないのだろう。
そう判断した長老が言葉を続ける。
「各階層に炊事、洗濯、育児、家計のやりくり、ご近所づきあい、公園デビュー、房中術などなど、主婦における必須スキルを極めたエキスパートたちが控えております。
そして、その頂点に立つ花嫁の中の花嫁…クイーン・オブ・ブライド。
それらを全て倒せば、晴れて魂活寺の花嫁修業は免許皆伝となります」
「そんなベタなバトル漫画みたいな…」
一言一句にツッコミどころがあり過ぎる。
なんて場所に来てしまったのだ、と戦慄くピクシーボブを横に、長老が塔の頂上を見上げる。
「ですが、踏破は困難を極めます。
魂活寺の修業を修めた猛者でも、頂上に行き着くのは100人に1人いるかどうか…」
「な、なんと…。そんな試練を乗り越えなければならないだなんて…。
結婚とは、かくも厳しいのですね…。
ヒーロー志望ともあろう者が、あろうことか家庭一つを築き、守っていく苦労を侮っておりましたわ…!
お母様もきっと、この過酷な試練を乗り越えて、お父様と結ばれたに…」
「いえ、そういうわけではございません。
あくまで、『この塔を踏破すれば、どこに嫁いでも大丈夫』くらいなものです」
八百万がその場に崩れた。
そんな八百万を無視し、長老が続ける。
「さらに塔の頂上には鐘がありまして。
これを鳴らせば、結婚運が高まると言われております」
「やる!!私も!!塔!!やる!!!」
おまじないのような効能に飛び付いたピクシーボブが腹の底から声を張り上げる。
目が血走り、荒い呼吸を繰り返すその様はまさに獣。
長老が「構いませんよ」と微笑むのに対し、八百万がおずおずとピクシーボブに問いかけた。
「え、えっと、今更ですけど、ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツのピクシーボブさん…ですわよね?
あの、そんな簡単に挑んでいいのですか…?」
「結婚適齢期崖っぷちの女ヒーロー舐めんじゃないよ普段からばったばった敵薙ぎ倒してんのよこちとら!!クイーン・オブ・ブライドなんざ倒してやろうじゃないの!!」
迷信に頼りたくなるほどに成果がないという現実から目を逸らすよう己を鼓舞し、吠えるピクシーボブ。
その姿に感銘を受けたのか、八百万は口元に手を当て、目を見開いた。
「……っ!そ、そうですとも…!
ヒーローたるもの、己の家庭を底知れぬ悪意から守るのもまた使命!
わたくしもやりますわ、塔への挑戦!!」
3人が決意とちょっとの打算を目に宿し、塔を見据える。
長老は深く頷くと、声を張り上げた。
「では、
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「……これが、稽古着…」
ミオが自身の体を包むウェディングドレスのスカートを摘み、声を漏らす。
その側で、なんとかウェディングドレスを着た八百万がまじまじとミオの肢体を見つめた。
「ミオさんの花嫁姿は2年後に式場で見られると思っていたのですが…、やはり、白がよく似合いますわね」
「……うん。イズクも可愛いって言ってくれる」
「でも、いいのかしらね、これ…。
結婚前にウェディングドレス着ると婚期が遠のくってジンクスあるけど…」
この段階になって頭が冷えたのだろう。
ウェディングドレスを纏うピクシーボブが言うと、ミオが神妙な面持ちを向けた。
「踏破して鐘を鳴らせばいいだけのこと。
それに、このドレスには
「そ、そうなの…」
そんなツッコミがピクシーボブの脳裏を過ぎるも、構わず扉へと向かうミオに続く。
扉を開いた先に待ち受けていたのは、家庭用のシンクがぽつんと佇む空間。
そこに立つは、筋骨隆々とした体をウェディングドレスで覆った雄々しき風貌の女性。
女性は3人の姿を一瞥し、笑みを浮かべた。
「シュフフフフ…。よくぞ来た、挑戦者よ…」
奇怪な笑い声である。
が。それを馬鹿にできない程の威圧が、3人の肌を撫ぜる。
女性はその筋肉を見せつけるかのように腕を組み、声を張り上げる。
「我が名は『料理』の文絵!!
次の階層に進みたくば、見事私を倒してみせよ!!」
「な、なんて威圧…っ!?
雄英の先生方にも匹敵しますわ…!」
「落ち着きなさい…。
倒せと言っても、恐らくは普通に殴り飛ばすってわけじゃないわ…」
「その通り!ここでは個性の使用も許可するが、暴力は御法度!!
我々は花嫁!我々は家庭を支える柱!!
そこに躾はあれど、暴力などあってはならん!!
故に、私をここにある材料で作った料理で唸らせてみせよ!!」
要するに、料理を作れということらしい。
八百万が我先にと挑もうとするや否や、ピクシーボブがそれを手で制した。
「下がってなさい。ここは私がやるわ」
「ピクシーボブさん…。しかし…」
「安心しなさい…。どれだけ長い間、女所帯でやりくりしてきたと思ってんの…!」
ピクシーボブが勇足で調理台へと向かい、そばにあった冷蔵庫を開く。
並ぶ食材は残り物ばかり。
12年の自炊生活で培われた経験則から弾き出した答えに従い、ピクシーボブは食材を手に取った。
「ピクシーボブさんは何を作ろうとしてますの?」
「残ったツナ缶に使いかけのじゃがいも…。
多分、ツナのハンバーグだと思う。私も作ったことある」
「嘘…!?ツナとじゃがいもでハンバーグが作れますの…!?」
「………この勝負、百が出なくてよかったかも知れない」
家が裕福であるが故に、節約料理とは無縁なのだろう。
愕然とする八百万を気にせず、ピクシーボブは着々とツナバーグを調理していく。
と。唐突に感じた殺気に、その身を翻した。
「なっ……!?」
飛んできたのは、鉄串。
びぃぃん…、と音を立てて調理台に刺さったそれを前に、ピクシーボブは文絵を睨め付ける。
「危ないわね!!何すんのよ!?」
「寝ぼけたことを言うな!!
貴様、それでも花嫁になりたいのか!?
家事の途中で意地悪を働く姑の襲来くらい予見してみせんか!!」
「これはどう見ても意地悪のレベル超えてない!?」
もはや殺しに来てる。
怒号混じりにピクシーボブが問うと、文絵は更に表情を強張らせ、叫んだ。
「何を言う!!貴様がヒーロー一家の御曹司と恋仲になったらどうする!?尚、姑は結婚にものすごく反対しているものとする!!」
「ヒーローなめんな!!いくら結婚に反対しようが嫁にこんなことするやつ…」
「ここで修業してなかったら危なかった」
「実体験なの!?!?」
ヒーローの結婚とはやはり修羅の道なのか。
そんなことを思いつつ、ピクシーボブは降り注ぐ鉄串を避け、調理を進める。
流石はプロというべきか。
凄まじい体捌きで鉄串を避け、ツナバーグをこねていく姿は正しく鉄人。
が。『料理』の文絵は、それを許さなかった。
「かぁっ!!」
「なっ…、きゃああっ!?」
突如として鉄串が破裂したのだ。
破片の飛び散らない、癇癪玉程度の爆発。
これが彼女の個性なのだろう。
怯んだピクシーボブが、ツナバーグのタネに塩胡椒を瓶ごと落としてしまう。
「あ゛ぁあああっ!?!?」
「下がって。私がやろう」
絶叫するピクシーボブを押し除け、ミオが調理台に立つ。
この程度、リカバリーできる。
ミオは目にも止まらぬ速度で塩胡椒がぶちまけられたタネを調理していく。
「な、なんだ…!?もう取り返しのつかないタネが、みるみる…!?」
「い、一体、どんな魔法を使って…!?」
実のところ、〈刻々帝〉で塩胡椒が加わる前に戻しているだけなのだが、あまりの手際の良さがそれを悟らせない。
破裂する鉄串を避けつつ、油を引いたフライパンにタネを並べていく。
火を通す最中でも妨害は止まない。
が。ミオはそれを軽々と避け、火加減を調整する。
「………出来たっ…!
おろしポン酢で召し上がれ…っ!」
出来上がったのは、副菜と共に盛り付けられたツナバーグ。
一連の流れを前に、『料理』の文絵は汗を垂らした。
「な、なんと早い盛り付け…!
いつの間にか、余っていた大根を使っておろしまで用意するとは…!?
貴様っ…、いや、貴女は、ここに至るまで、一体どれだけの研鑽を…!?」
「どれだけ料理が下手でも、頑張ったねって褒めてくれる彼がいる…。
料理が美味しいと、笑顔で喜んでくれる彼がいる…!ただそれだけ…!」
「………っ!!」
文絵が誘われるように、おろしポン酢にツナバーグを潜らせ、頬張る。
瞬間。文絵はその場に崩れ落ち、涙を流した。
「合格だ…。先に進むがいい…!!」
「……あなたも至れる。夫を、子を、愛しく思う気持ちがあるのなら」
「………ふっ。そう、だな…。
今日は少し、奮発しようか…」
微笑む文絵を後に、ミオたちは先へと進んだ。
花嫁3人…テンションが上がってるせいで誰1人としてツッコミが機能してない。結婚に変なイメージが付きつつある。
『料理』の文絵…原作では暗殺術を受け継ぐ家系に嫁いで苦労した人。この世界ではヒーロー一家に嫁いで苦労している。