居候がおやつ感覚でトンデモ能力渡してくるヒーローアカデミア   作:鳩胸な鴨

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女の子とデートする


簡単な世界の救い方

ある日の放課後、その帰り道。

僕は広げたノートから見える事実を前に、何度目かもわからないため息を吐く。

なんで今まで気づかなかったんだろうか。

そんなことを思いつつ、僕はミオに問いかける。

 

「…ミオ。オールマイトを不老不死にしてって言ったら、できる?」

「なに、どうしたの?」

「いや…、ちょっとね」

 

僕は言って、オールマイトがデカデカと表紙を飾る雑誌が並ぶ本屋へと目を向ける。

明らかに昔よりもオールマイトのニュースが減ってる。

私生活の傍でヴィジランテのような真似をし始めなければ、気づかなかったかもしれない。

もしかするとそれは、オールマイトがなんらかの理由で活動できる時間が限られているからではなかろうか?

犯罪率が減ったといえばそれまでだけど、ウェストコットの遺産が暴れ回り、並行してオールマイトの軌跡を追ってる今だとそう思えてならない。

 

…いけない、ナーバスになってきた。

「気分転換でもしよう」と、ミオと街を歩く。

 

『以上が、現在判明している「お面の少年」の情報です』

『ウェストコット氏の負の遺産を処理するDEM社の掃除屋か、はたまたウェストコット氏に恨みを持っていた人間か…。

その正体は未だわからず、世界規模の捜索が未だ行われており…』

「あ、イズクだ」

「……こうやって映りたくはなかったなぁ」

 

考えるきっかけになった出来事の数々が流れる街頭テレビを見て、僕はため息を吐く。

あの日から僕は、ミオに連れられてウェストコットの遺産を潰し始めた。

あの男に生み出された者として、何か思うところがあったのだろう。

彼女と活動するに連れて、僕はウェストコットの悍ましさをまざまざと目の当たりにしてきた。

 

何より僕の頭を悩ませるのが、「ウェストコットを殺した敵がまだ、どこかに潜んでいる」という事実である。

 

もしもその敵が、ミオのことを…精霊のことを知ってしまったら。

そう考えるとどうしても不安になる。

自惚れのようになってしまうが断言しよう。

この世界が無事なのは、ミオが僕に好意を抱いているからだ。

それを抜いてしまえば、ミオは何をしでかすかわからない。

 

僕は敵が怖いんじゃない。

隣でこうして微笑んでくれるミオが壊れてしまうのが怖いのだ。

 

「……四つ目、もうそろそろ受け取ろうかな」

「〈刻々帝(ザフキエル)〉おすすめ」

「…それはもうちょっと後の方がいいかな…」

「わかった」

 

彼女のこれにも慣れてきたなぁ。

そんなことを思いつつ、僕はちんまりと佇む喫茶店を指差した。

 

「ちょっとお茶して帰ろっか」

「うん」

 

…母さんに「女子に引かれない無難な店選び」を聞いててよかった。

根っからのナードである僕に、デートはハードルが高すぎる。

そんなことを思いつつ、僕が扉を開くと…。

 

「あン?」

 

連れの2人とテーブルを取り囲むかっちゃんと目が合った。

どうしよう。そこはかとなく入りたくない。

「入らないの?」とミオと店主が視線で訴えかけてくる。

…流石のかっちゃんもここで怒鳴り散らしはしないだろう。

そんな淡い期待を込めて、僕はできる限り堂々と店内に入った。

 

「いらっしゃいませぇ。

2名様でよろしかったでしょうか?」

「あ、はい」

「では、あちらの席へどうぞ」

 

ああ。空きすぎると出来るだけ詰めてくタイプなのね。

冷や汗を流しながら、席に座る僕。

せめて、ここにいる間はつっかかってきませんように。

そんな願いも虚しく、取り巻き2人がミオに絡み始めた。

 

「奇遇だねェ、ミオちゃん!」

「よかったらこっち来ない?

緑谷なんてほっといてさ!」

「どっちも存在がウザい。消えて」

「「辛辣!!!」」

 

どこであんな悪口覚えてくるんだろう。

…かっちゃんか。毎日会ってるもんなぁ。

普通なら憤慨してるところだろうけど、ミオが常軌を逸した美人だからか、「そんなこと言わずにさぁ」と尚も絡む2人。

と。ミオの表情から温度が抜けていくのがわかった。

まずい。流石に止めに入らなければ。

限界を迎えそうなミオと2人に割って入り、ミオの手を握った。

 

「ぼ、僕の……だから…」

 

緊張して変なこと言った。

しかも慣れないことしたせいでめちゃくちゃ声がうわずってる。恥ずかしい。

僕が羞恥に悶えると同時に、2人がゲラゲラと笑い声を上げた。

 

「なんだァ、緑谷!?自慢か!?」

「かーっ!!青春送ってますなァーっ!!俺らにも分けろや!!」

「そ、そんなんじゃないって…」

 

今はイジられているけど、ミオが離れたらえらい目みるヤツだこれ。

ミオはというと、表情こそはいつもと変わらないけど、真っ赤になってこちらを見つめている。

よかった。機嫌を持ち直したみたいだ。

やいのやいのと盛り上がる2人に、かっちゃんが「っせェぞ!!」と怒鳴る。

正直、かっちゃんの方がうるさい。

取り巻き2人も同じことを思ったようで、「お前の方だっつの」と呆れを見せた。

 

「と、取り敢えず、何か頼もっか…。

ミオはなにがいい?」

「……あ、じゃあ、えっと…、この綺麗なイズクっぽい色のやつ」

「クリームソーダね。了解」

 

なんか、僕にしては恋人らしいことが出来ている気がする。

…告白はまだだし、付き合ってるわけではないけど。

そんなことを思ってると、かっちゃんが勢いよく手をあげ、声を張り上げた。

 

「エスプレッソ三杯おねしゃーす」

「「おねしゃーす」」

「はいよ。濃くしとくね」

 

人目も憚らずいちゃついて、誠に申し訳ございませんでした。

でもこうしないと、世界滅ぶんです。

心の中でそんな言い訳をしつつ、僕は一年前のことを想起した。

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

「で、デート…?僕が……??」

 

遡ること、一年前。

中学に上がり、そこそこに色を知る年頃になったということで母さんに呼び出された僕は、母さんの提案に懐疑的な声を漏らした。

デート。デートをしろと。

年がら年中ヒーローのケツを追っかけ回す生粋のヒーローオタクの僕にデートをしろと。

ハードルが高すぎる。

いきなり成層圏に聳えるレベルのものを用意しないでくれ。死ぬ。

母さんはそんな僕の文句など受け付けず、淡々と語った。

 

「出久。よく考えてみて。

ミオちゃんは出久のことが好きなの。もうものすっごく大好きなの。

あろうことか、こんなそばかすのもじゃもしゃの引っ込み思案でヒーローに傾倒してるオタクという、親の私から見てもちょっとどうかと思うような残念な子にゾッコンなの」

「……まあ、そうだ、ね?」

「今はまだこのままでも大丈夫。でも、ある時ふと、ミオちゃんは思うかもしれない。

『出久は私のことが好きなのか』、『私は出久に愛されているのか』、『出久の隣に居てもいいのか』と!そりゃもうすっごく不安になるわけ!」

「お、おうっ…」

 

ばんっ、と母さんの拳が机に叩きつけられる。

顔がかつてないほど鬼気迫ってる。

母さんはストレス太りした体からは到底感じられなかった威圧感を放った。

 

「その不安が溜まると、どうなると思う?」

「………どうなるの?」

「爆発する」

「爆発する」

「それもぷりぷりと怒るなんて可愛らしいもんじゃないわ。出久が自分にしか構えないように世界滅ぼすとかはすると思う」

「いやまさかそんな………」

「与太話でもなんでもないわ。

事実、出久がヒーローばかり追っかけてるせいで、実害が出てきてるの。ほらこれ」

 

母さんが見せたのは、やけに小さいまな板。

通常の半分くらいしかない大きさのソレを、同じくらいの大きさのまな板と合わせ、僕に見せた。

 

「ミオちゃんが使ってる時に、シンクごと切れたやつ」

「シンクごと!?!?」

「シンクは元通りに直してもらったけど、こっちは細切れだったし、どうしてもこれ以上直らなくて…。

あれで確信したわ。あの子はストレスを溜め込むとダメだって」

 

え、嘘?デートしないだけでそんなストレス溜まってたの?

しかも、母さんの口ぶりから察するに、ミオも無意識のうちにやってしまったことらしい。

思ったよりまずい状況なのでは。

ひしひしと伝わる危機感に冷や汗が垂れる。

滴る汗が机に触れるより先に、母さんが声を張り上げた。

 

「出久!!今のままだと世界は滅ぶわ!!

『女の子をデートに誘わなかった』とかいうあんまりにあんまりな理由で!!」

「……ミオから誘ってくるパターンとか…」

「ミオちゃんの純朴さ、もとい世間知らずっぷりはよく知ってるでしょう!?

100%デートの『デ』の字も知らないわよ、あの子!!」

 

そこまで言うか。流石にデートくらいは知ってるんじゃないのかなぁ。

ひとしきり叫んで落ち着いたのだろう。

母さんは、こほん、と咳払いすると、話を切り出した。

 

「というわけで、出久。

これから一週間に一回はデートしなさい。

デートで男がやっちゃいけないことはまとめておくから、頭に叩き込むように」

「親にデート監修されるの嫌なんだけど…」

「世界滅ぶわよ」

「よろしくお願いいたします」

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

「んっ…。ぱちぱちする」

 

時は戻り、現代。

初めて飲む炭酸の刺激が新鮮だったのだろう、不思議そうに目を細めるミオを前に、僕はため息混じりに呟いた。

 

「……私生活に、受験に、デートかぁ。大忙しだなぁ、僕」

 

あと、ヴィジランテもか。

そんなことを思っていると。

 

「はにゃあ」

 

ミオの顔が先ほどとは違う意味で真っ赤になった。

目は焦点が定まらず、体はゆらゆらと忙しなく揺れている。

ミオのあまりに急な豹変ぶりに、僕は思わず声を上げる。

 

「あ、あの、ミオ?ミオさん…?」

「ふへへへぇ。イズクがいっぱいいるぅ」

「いっぱい…って、いやいや…。

……あの、これ何本に見える?」

「ろくぅ」

「僕の右手6本も指ないよ」

 

指を2本立てた右手をどう見れば、指が6本立っていると思えるのだろうか。

間違いない。酔ってる。

信じられないことにクリームソーダで泥酔してる。

ミオは「とおいぃ」と不満そうにその場から立ち上がると、ふらふらとした足取りでこちらへと向かう。

困惑のあまり動けない僕を揶揄うように、ミオは僕の膝に腰掛けた。

 

「わたしのとくとうせきなのだぁ。

えへ、えへへへぇ、へへ」

「あ、あの、ミオさん…?まず落ち着いて、お水を…」

「………場所弁えろやクソデク」

「僕じゃなくてミオに言ってよ!!」

 

どうしよう、これ。

全員から白い目を向けられる感覚を前に、僕は深くため息をついた。




ミオ…炭酸で酔う。ちょっと飲んだだけでもかなり悪酔いするようで、正気に戻ってからは二度と人前で飲まないと誓った。

クリームソーダ…アルコールは入ってない、普通のクリームソーダ。お値段なんと600円。
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