居候がおやつ感覚でトンデモ能力渡してくるヒーローアカデミア 作:鳩胸な鴨
「……な、なんですの、この、そこはかとなくいやらしい空間は…!?」
次の階層へと進んだ八百万が、眼前に広がる光景に愕然とする。
一面がピンク色に染まる部屋を、ほんの少しの光源だけが薄らと照らす。
佇む家具ですら、どこか妖艶さを纏っているような気さえする。
極め付けは、天井付きのダブルベッド。
ご丁寧に例の枕まで鎮座している以上、もはや疑うまでもない。
ラブホテルである。どこからどう見てもパーフェクトなラブホテルの内装である。
あまりに衝撃的な光景に絶句する八百万、ピクシーボブの2人。
一方で、ミオは特に怖気付くことなく歩みを進める。
未成年の自分がここにいていいのか。
そんなことを思いつつ、八百万は奥へと向かうミオに続く。
「あら、いらっしゃい」
待ち受けていたのは、女として敵いそうにないと悟らせるほどの色香を放つ女性。
少しはだけたウェディングドレスを纏った彼女を見て、ここがどういう試練を課すのかを悟ったのだろう。
ピクシーボブと八百万が顔を赤く染めた。
「私は『房中術』のヒトミ。果たして、あなたたちはここを切り抜けられるかしら?」
「房中術…って、花嫁修業に必要なの…?」
流石に夜の営みにまで口を出されたくないのだが。
ピクシーボブが渋面を作ると、ヒトミはくっ、くっ、と喉を鳴らす。
「甘いわね…。どれだけ理性で繕おうとも、生きている以上必ず欲は出てくるもの!
夫を支えていく覚悟があるのならば、その醜い部分すら愛してこその伴侶よ!!
だというのに!!世にはソレがわからないクソどもが多すぎる!!
SNS見てると必ずいる夫をATMとしか見てないような頭の沸いたアホがまさにそれよ!!
結婚はテメェらみたいなアホのその場凌ぎじゃねぇんだわ結婚なめんな!!」
「あ、あのー…」
「はっ…!いけないいけない…」
こんな場所で常軌を逸したとしか言えない修業に噛んでるくらいだ。
結婚には人一倍強い想いがあるのだろう。
ヒフミは乱れた髪を整えると、ベッドに横たわっていた二つの何かを起こす。
「ここでは、これを使って私と勝負してもらうわ」
「マネキン…ですの?」
「ただのマネキンじゃないわよ。
ここをご覧なさい」
言って、枕元を指すヒフミ。
3人がそこを覗き込むと、なにやらメーターのような装置が取り付けられていた。
「このマネキンはね、男が感じるであろう快感をメーターに数値として表してくれるの」
「………どういうメカニズムですの?」
「勝負の内容は簡単。私より先に、このメーターを満タンにしてみせなさい。
手で触れるだけで、ね」
「手、だけ…で…!?」
無理難題を前に、ピクシーボブが絶句する。
疑問をスルーされた八百万が不服そうな顔を浮かべていると、ミオが前に出た。
「私がやる」
「なっ…!?あ、アンタ、その歳で経験があるっていうの…!?」
「あら。可愛らしい顔してるのに意外ね。どれだけの男を切り捨ててきたのかしら?」
「ふ、不健全ですわ、ミオさん!!まだ学生の身でありながら…」
ピクシーボブが焦り、ヒフミが笑い、八百万が憤る。
三者三様の反応を前に、ミオは胸を張り上げ、叫んだ。
「そんな経験はない!!!」
全員がずっこけた。
いち早く復活したヒフミが気を取り直し、不適な笑みを浮かべる。
「若いわね…。いいわ。
格の違いというものを見せてあげる」
「私の彼は、それを乗り越えてきた…。
Puls Ultra…!更に向こうへ…!」
「校訓も緑谷さんも穢されてるような…」
ヒートアップする2人を前に、八百万がなんとも言えない表情で呟く。
しかし、経験の差をどう埋めるというのか。
こんなことに頭脳を使うのは脳みそに申し訳ないような気もしたが、それでも考えずにはいられない雰囲気が漂う。
ベッドに腰掛け、マネキンを隣に佇む2人。
開始の合図が鳴るともに、2人はそれぞれマネキンにアプローチを始めた。
「さ、流石は房中術のエキスパート…!
言葉にするのも憚られるほどに大胆かつ繊細な攻め…!手がマシンガンのように…!」
「ああ…っ!メーターが凄まじい勢いで満たされて…、どうしてそこまでの技術をこんな淫らなことに…!?」
非難を叫ぶ八百万に、ヒトミは妖しげに笑い、答える。
「ふふふっ…。『他人のイチャイチャした夜の営みが見たい』とか宣う敵の個性で旦那諸共閉じ込められて、24時間以内に20回以上致さないと殺される状況に陥っても、このテクがあれば切り抜けられるわ」
「ないわよそんな状況」
「ここで修業してなかったら、夫諸共死んでいたわね…」
「だからなんで経験済みなの!?!?」
こんなのばっかなのか、この寺。
呆れ、叫ぶピクシーボブをよそに、2人の攻防は続く。
「あ、ああっ…!もうあんなに溜まって…」
「破廉恥ですわ、破廉恥ですわぁ…!
……あ、あんな攻めを、お母様も…!?」
「いや、多分あれはないと……えっ、えぇ?
なに、あの子の手…!?何重にもブレて…」
「優しくあって、しかし大胆…!まさしく、男心を的確に掴んでいる触り方…!
あんなの、未経験の女に出来るわけが…」
「まだ本番はしたことないけど、イズクがドギマギする触り方は一通り知ってる」
「それはそれで不健全ですわ!!!」
「そんな、あり得ない…!?
未経験の…、それもこんな若い女の子に、この『房中術』のヒトミが…!?」
ヒトミのメーターが貯まるより先、ミオのメーターが「ぴーっ!」と音を立てて満たされる。
崩れ落ちるヒトミに目もくれず、ミオはベッドから立ち上がり、次の階層へと続く道に目を向けた。
「……ま、待って…!一体、何故…!?
いくら彼氏がドギマギするからって、どうして…、ただのスキンシップだけを積み重ねただけで、あんなにも素晴らしい技術を極めるに至ったの…!?」
「いつかの未来で彼に尽くすため、彼が興奮する触り方を研究してきた。
そちらが経験で上回るのなら、私はこの愛でそこを埋めていく」
「………っ!!」
ヒトミが目を見開いた後、笑みを浮かべる。
「合格よ…!次に進みなさい…!」
「………ミオさんって、ここの修業必要ありますの?」
♦︎♦︎♦︎♦︎
「や、やっと、たどり着いた…!」
「ここまで長かったですわ…!」
数時間後。
ボロボロになったウェディングドレスから見える素肌を隠すようにして、息を乱すピクシーボブと八百万が歓喜の声を漏らす。
ここまで辿り着くまで、さまざまな試練を乗り越えた。
そのどれもをミオは難なくクリアしてきたが、2人はそうもいかず、這々の体で切り抜けてきた。
しかし、後に待ち受けるは、花嫁の中の花嫁ことクイーン・オブ・ブライドのみ。
花嫁の女王とまで呼ばれる猛者。
一体どんな女性が待っているのか、と戦慄きながら、最後の扉を開く。
「来ましたか」
その一言だけで、ぶわっ、と自覚できるほどの冷や汗が流れる。
声を発したのは、これまでと同じく、ウェディングドレスを着た女性。
自ら剥いだベールの先に見えたのは、若いようにも、熟れたようにも見える顔立ち。
女性は微笑むと、余裕たっぷりに口を開く。
「ようこそおいでくださいました。
私は『花嫁』、美佐子。魂活寺の全てを修めた女」
その言葉に違わぬ
これが花嫁の中の花嫁。
美佐子は慣れた動作で手にしたブーケを彼女らへと投げる。
それを受け止めたのはピクシーボブ。
が。彼女はそのブーケを手にした瞬間、おもむろに体勢を崩した。
「ぉんもっ…!?な、なにこれ…!?」
「なっ…!?金属で出来たブーケ…!?
こんなものを持って佇んで…、い、いえっ、それだけではありませんわ…!
ここまで20mは離れて…!?」
あり得ない。
これが花嫁を極めた者だというのか。
歴然とした差を前に絶望する彼女らに、美佐子は「シュフフ…」と笑い声を漏らす。
「私のブーケトスを受け止めるとは…。
流石はプロヒーロー、ピクシーボブといったところですか…。
そこの2人は最初こそは貧弱な
塔を登る最中で成長したというわけですか。
そして、それは凄まじい
これは久々に…、本気を出す時が来たようですね…」
美佐子が拳を握るや否や、凄まじい婚気があたり一面に迸る。
空気が震え、塔が軋み、ガラスに亀裂が走る。
ピクシーボブと八百万の2人は彼女が放つ婚気に負け、壁に叩きつけられた。
「な、なんて、
「他愛無いですね。やはり、相手になりそうなのはお嬢さんだけですか。
勝負の内容は…、ここは花嫁らしく、指輪の交換といきましょう。
私の薬指から指輪を奪い、填めるだけ。簡単なことでしょう?」
「……っ」
精霊であるはずのミオですら、婚気を纏う威圧に押し黙る。
出久がするように、ミオが姿勢を低くする。
人生で初めての臨戦体勢。
それほどまでに、『花嫁』美佐子は強い。
確信するミオを前に、美佐子は笑みを浮かべ、構えを取った。
「さぁ、可愛いお嫁さん。いざ尋常に、勝負いたしましょう」
その一言が試合開始の合図。
一瞬の隙が命取り。
ほんの少しのきっかけで、勝負は終わる。
そんな緊張感を前に、2人が睨み合っていると。
「………あらっ?」
美佐子の懐から鳴り響いた着信音が、その全てをぶち壊した。
「ごめんなさい、息子からです。
…もしもし健児?お母さん、今日はお仕事だって言ったでしょ?
………え?あ…、うん。うん。わかった。すぐ帰るわ。欲しいものがあったらチャットで送ってね」
電話を切り、申し訳なさそうな顔を作る美佐子。
彼女は深々と頭を下げ、両手を合わせた。
「本当にごめんなさい!下の子が熱出しちゃったみたいで…。
その、修業なんですけど、また今度にしていただけませんか…?」
「………え、あ、うん。それはいいけど…」
「本当にごめんなさい!また機会があれば埋め合わせしますからー!!」
言って、備え付けのエレベーターへと乗り込み、下へと向かう美佐子。
3人が呆然としていると、審判として佇んでいた神父が口を開いた。
「彼女、五回結婚して子供8人いるんですよ。今はシングルマザーで大変らしくて…」
「ご、五回…!?」
「8人…!?」
「
衝撃の真実に絶句する3人。
神父は「気持ちはわかります」と苦笑を浮かべ、言葉を続けた。
「今もまだ言い寄られてるみたいで。今のところ、誰が一番慰謝料を多く払えるかで選定してるみたいですよ。
彼女、今までの男が碌でもなかったせいか、完全に開き直っちゃったみたいでね?
あ、この階段登れば鐘鳴らせますんで。
どうぞ、またお越しくださいねー」
釈然としない。
全員がそんな顔を浮かべつつ、門番を失った階段を登った。
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「あ、ミオ。おかえり。
今日はどこまで行ってたの?」
「…………結婚って大変なんだね」
「ホントどこ行ってたの???」
「花嫁」美佐子…原作ではあの川越と結婚していた時期もあるという裏設定がある女。戦闘力は原作そのまま。個性は婚気の強さで身体能力を引き上げる「花嫁」
緑谷 ミオ…結婚の苦労とその尊さを身に刻んだ。相手も同じくらい大変だろうから自分も頑張ろうと思えるいい子。
ピクシーボブ…しばらく結婚はいいかなと思いかけ、思いとどまる。非番の日は魂活寺に通うようになった。
八百万 百…両親の苦労を体感できて良かったと思い込んでる。両親はそんな苦労したことない模様。