居候がおやつ感覚でトンデモ能力渡してくるヒーローアカデミア 作:鳩胸な鴨
「デイヴおじさーん。お邪魔するわよー」
「あ、あの、万由里…。もうちょっと遠慮したほうが…」
とある研究施設にて。
ノックしたのち、すぱぁん、と遠慮のかけらもなく扉を開く万由里。
出自故か、それとも保護者がヒーロー活動以外アレすぎるせいか、ミオに比べて一般常識は修めてるはずなのだが。
そんなことを思いつつも、出久は扉の奥を覗き込む。
そこに居たのは、テレビで何度も見た壮年の男性。
心なしかやつれた顔の彼が万由里を見るや、「ああ、今日だったね…」と呟いた。
「しばらくぶりだね、マユリ。
君が居るってことは、トシも来てるんだろ?」
「今はファンに囲まれてきゃあきゃあ言われてるとこ。
時間かかりそうだから、先こっち来たの」
「はははは…。平和の象徴をこんなに雑に扱えるのは、世界中どこを探しても君くらいなものだね」
あと1人くらい心当たりあります。
脳裏でオールマイトを怒鳴りつけるグラントリノを想起しつつ、苦笑を浮かべる出久。
万由里は身を避け、背後に立つミオと出久を手で指した。
「紹介するわね。パパの後継者、緑谷 出久とその恋人であり始原の精霊の緑谷 ミオ。
ミオはとにかく、出久の方はおじさんのことはよく知ってるみたいだから、自己紹介の必要はないわ」
「ちょっ…!?」
「ああ、大丈夫。全部聞いてるよ。
かくいう私も、ラタトスクの一員…というか、アスガルド・エレクトロニクス社の技術顧問だから…」
「そうなんですか!?!?」
聞いたことないぞ、そんな話。
アスガルド・エレクトロニクス社ってそんな大きな会社だったのか、と感心していると、デヴィットが「なったのはつい最近だけどね」と笑みをこぼす。
「そんなことより、おじさん。
メリッサどこ?あの子、連絡もよこさない上に出迎えにも来なかったんだけど…。
攫われた、とかじゃないわよね?」
「………やはり、気になってしまうか。
…いや、君たちになら、あるいは…」
言うと、デヴィットは携帯を取り出し、ある連絡先をタップする。
数回のコールが響いたのち、デヴィットは先ほどよりも気の抜けた笑みを浮かべた。
「もしもし、トシ?久しぶりだなぁ!
…え?あははっ、お互い歳のことは考えたくないだろ!
……って、そんな場合じゃないんだ。
すぐに来てくれないか?娘が…、メリッサが危険なんだ。
部屋はわかるだろ?壁はぶち破ってもいいから、なるべく急いで…」
瞬間。ごしゃあっ、と窓から音が響く。
皆がそちらを見ると、壁に指を突き立て、窓から顔を覗かせるオールマイトと目があった。
「私が死ぬほど急いで来た!!」
「オールマイト!?
え、ここまで、どうやって…!?」
「超頑張った!!」
「頑張ったて…」
息を切らしてないあたり、流石はトップというべきか。
デヴィットは苦笑ながらも窓を開け、ぶら下がるオールマイトの手を引く。
オールマイトはソレに笑みを浮かべるも、即座に愕然と目を見開く。
「で、デイヴ…!?ど、どうしたんだ、そんなに痩せこけて…!?」
「それも含め、話したいことがある。
皆、ついてきてくれ」
やはり、親友たるオールマイトから見てもやつれていたのか。
そんなことを思いつつ、彼らはデヴィットの後に続いた。
♦︎♦︎♦︎♦︎
「ここは…」
辿り着いたのは、やけに薄暗く、モニターや機械が佇む部屋。
エキスポ内では見られないであろう機材の数々を前に出久が舌を巻いていると、デヴィットが口を開いた。
「ここは限りなく本物に近い仮想世界によるシミュレーションシステム…、『マイ・リトル・スピリッツ』の開発室だ」
「……なんか、ゲームみたいな名前ですね」
「君の訓練用に作ってたフルダイブ式恋愛シミュレーションゲームだからね」
「そうなんですか!?!?」
ノーベル賞受賞者に何させてんだ。
おそらくは世界で最も無駄かつ贅沢な天才の使い方に戦慄いていると、デヴィットが言葉を続けた。
「無論、医療や研究、そのほかの用途のことも考えて開発したものだ。理論上は安全性も保障されてる…。
が…、メリッサがテストプレイを始めた段階でイレギュラーが起きた」
「イレギュラー…?」
「何者かがI・アイランドのセキュリティシステムに侵入したんだ。
現在、全力を上げて解析しているが…、その足取りも正体も掴めていない」
「んなっ…!?」
各々の分野の第一線で活躍する科学者たちが犇くI・アイランドのセキュリティを突破するのは至難の業である。
それがデータともなれば、外部からの干渉はまず不可能。
だというのに、そのイレギュラーは易々とシステムに介入してみせたのだという。
オールマイトと出久の額から冷や汗が垂れる。
デヴィットは2人を尻目に深くため息を吐き、装置の上に身を寄せた。
「イレギュラーにゲームシステムを掌握されたせいで、メリッサが仮想空間に閉じ込められ、もう2日経ってる…!
今は点滴と
装置の中を覗き込むと、目を瞑り、寝息をたてる少女が見える。
彼女がメリッサなのだろう。
涙を堪えるデヴィットを前に、出久は神妙な面持ちのまま問うた。
「中に入って、データに干渉することはできないんですか?」
「私もその可能性は考えたが…、仮想世界へのアクセスも拒まれている…。
現時点で、メリッサを救える方法はないに等しい…」
「………いや、あるよ」
絶望をこぼすデヴィットに、ミオが告げる。
ばっ、と彼は顔を上げると、彼女の肩を強く掴んだ。
「ほ、本当か…!?メリッサを、救けられるのか…!?」
「仮想空間にアクセスした上で、そのイレギュラーを止めればいいんだよね?
だったら、イズクに任せてよ」
「……えっ、僕?」
「すっとぼけてるのか素で忘れてるのか…。
さっきも使ってたじゃん」
「……………ああ!アレか!!」
納得を露わにし、出久は手を前に突き出す。
体を作り替えてもいいのだが、せっかくだから元々の姿も確認しておくか。
そんなことを思いつつ、瞳に雫を灯し、その名を呼ぶ。
「〈
鍵の権能を持つ天使、〈
錫杖のようなそれの先端を機械に突き立て、出久は小さく口を震わせた。
「【
瞬間。空間に孔が『開く』。
データのロックだけを解除しようとしたつもりだったのだが、仮想世界に行くと言う意識が強すぎたのかもしれない。
孔の先にある0と1だけで構築された世界を前に、出久はデヴィットへと向き直る。
「えぇっと…、このまま入っていいやつですかね、これ…?」
「……いや、すまない。私もこの現象は初めて見る故、的確なアドバイスができない」
「…じゃあ、ちょっと指入れてみます…」
ゆっくりと指を差し込んでみる。
なんの痛みも、はたまた違和感も感じない。
データの世界は人体が耐えられる空間ではあるみたいだ。
…そもそも人間かどうか怪しい自分が実験しても、なんの参考にもならないだろうが。
そんなことを思いつつ、今度は顔を突っ込んでみる。
「なっ…!?や、やめなさい!!
万が一危険があったら…」
「いえ、大丈夫みたいです…。
…っていうか、ここ…」
顔を突っ込んだ瞬間、0と1だけで構築されていた世界が様相を変える。
経年劣化で錆と亀裂が走る看板。立ち並ぶ店の数々。
商店街らしきそれから目を離し、あたりを見渡す。
ボタンでしか信号が変わらない交差点。事故か何かで少しへこんだまま直されていないガードレール。
全てに見覚えがある。
出久は顔を孔から引っ込め、口を震わせた。
「僕が住んでる街が広がってました。
シミュレーションで作ったんですか?」
「そ、その通りだが…、どうしてそれがわかったんだ…?
その先にはコードしか見えていないのに…」
「わかりませんが…、ここからデータの中に出入りできるのは確かみたいです」
言って、その孔に入ろうとする出久。
と。その肩をミオが掴んだ。
「私も行く」
「えっ…と、ミオ?危ないから…」
「私も行く」
「いや、だから…、すぐに戻って…」
「私も行く」
「わ、わかった、わかったから…」
勢いに押し負けた。
出久はミオと手を繋ぐと、その孔の中へと身を乗り出す。
データの中に生身で入ってもいいのか。
そんな心配を振り払うように、データで構築された空間へと入る。
孔が閉じると共に、あたりに先ほどと同じく街が構成されていく。
「……やっぱり、折寺だ…。
ミオ、原因はわかりそう?」
「〈
ウェストコットに関することなのか、今回の元凶についての一切が塗りつぶされてる」
「遺産関係か…」
全知の〈囁告篇帙〉も、肝心の内容が読み取れないのであれば意味がない。
どうやって塗り潰したのだろうか、と思いつつ、あたりの散策を始める2人。
表札からそこらに生えた雑草までもがそっくりだ。
仮想空間の完成度に舌を巻いていると、ふと、ミオが疑問を呈する。
「お店以外に人がいないね」
「うん。いないね。
…開発途中だったらしいし、まだ作れてなかったんじゃない?」
確かに、人が見当たらない。
恐らくはコンピュータが再現しているであろう、店の従業員は居るものの、往来を歩く人影はこれっぽっちもない。
出久が推測を広げつつ、視線を動かしていると。
ふと、向こう側から歩いてくる人影が見えた。
「もしかして、メリッサさんかも…」
「………待って。2人いない?」
「えっ…?あ、確かに…?」
ミオの言う通り、もう一つ人影がある。
閉じ込められているのはメリッサだけだと聞いていたのだが。
出久が疑問に首を傾げていると、向こうもこちらに気づいたのだろう。
かなりの勢いで人影が近づいてくる。
目を細めると、機械の中に横たわっていたメリッサと全く同じ容姿の少女と、白い髪の少女が見える。
「メリッサさんと…、誰だろう、あの子…?」
「………精霊?」
「へ???」
精霊?精霊と言ったのか?
出久が問うより先、「おーーーい!」とメリッサのものらしき声が響く。
数分と経たず、出久たちの前で止まった彼女は息を切らしながら、ずいっ、と顔を近づけた。
「あ、あの!あなたもこの仮想空間に閉じ込められてしまった人ですか!?」
「お、落ち着いて…。僕は雄英高校ヒーロー科一年、緑谷 出久です。
デヴィット・シールド博士に頼まれ、君を助けに来ました」
「えっ…!?あなたが、あの…!?」
どんな情報を吹き込まれているのだろうか。
メリッサが少し身を引いたことにショックを受けながらも、出久は手に〈封解主〉を顕現させる。
「とりあえず、ここから出ましょう。
話はそれからでも…」
空間に孔を開けようとして、出久は眉を顰める。
開かない。先ほどまでは確かに開いたはずの空間の孔が、どれだけ霊力を込めても顕現しない。
出久が冷や汗を垂らすや否や、少女が口を開く。
「どうかしたのですか?」
「あ、いや、ちょっ、と待って…?
〈
ミオ、〈
「渡しちゃってるから無理。
返してもらおうにも、貸してただけの狂三と違って、イズクは完全に融合してるから霊結晶抜いたら死ぬよ」
「……………まさか、誘い込まれた?」
出久の一言に沈黙が走る。
どうすればいいかわからない状況に、皆が顔を合わせる。
「………ふふっ」
困惑と焦燥を露わにする彼らを嘲笑うように、そんな笑い声が響いた。
メリッサ・シールド…初日こそは日本の街を楽しんでいたが、たまたま出会した白い髪の少女から出る方法がないと告げられ、絶望。あてもなく街を散策していた。
白い髪の少女…記憶の大半を失っている。メリッサのことが気になるらしい。
A組メンバー…アトラクションを堪能中。この後、仮想空間での敵アタックに参加する予定。逃げて、超逃げて。