居候がおやつ感覚でトンデモ能力渡してくるヒーローアカデミア 作:鳩胸な鴨
「…緑谷のデート見せても無駄ならもう口説き落とすしかないんじゃねーか?」
「何言ってんの?」
仮想空間に閉じ込められて2時間。
クラスメイト同伴の中でデートをさせられると言う拷問を経た先で放たれた死刑宣告に、出久の口から心底呆れた声が漏れる。
どうしてこうなったのだろうか。
そんな疑問が浮かぶより先、新たな同行者が口を開く。
「鞠亜の要求を満たせば、解決の糸口くらいにはなるかもなんだし、やれることはやりましょうよ」
「……妹さんなんだよね?もうちょっと何か情報ないの…?」
「私も知らないうちに作られてた妹なんだから仕方ないじゃない。
ほら、さっさと口説く」
無責任に言い放ち、伸びをする少女…或守 鞠奈。
彼女もまた気づけばこの空間に放り込まれていた存在らしく、こちらも記憶の一部がないという。
胡散臭さは残るものの、放っておくわけにもいかないので同行を許したが、まさかここまで無責任だとは。
多少改善したとはいえ、絵に描いたようなクソナードに女を口説けと申すか。
そんな文句を浮かべていると、焦凍が神妙な面持ちで口を開いた。
「よく考えろ、緑谷。お前たちの関係は…その、ちょっとやらしい」
「やらしいて」
「失礼だよ、トドロキくん。私とイズクにやましいことはない」
「中学生でキスは早いだろ」
「………どうしよう、イズク。返す言葉がない」
至極真っ当な意見で殴られたミオが、困り顔で出久の方を向く。
人によると言ってしまえばそれまでだが、世間一般から見てもかなり関係が進んでることは確かだ。
それこそ、箱入りである八百万たちから「不健全」と断じられてしまうほどに。
出久もまた渋面を作るも、焦凍は止まらず続けた。
「そんな進んでる2人を観察しても、『愛』がわからないって言うんだ。
もう自分で体験してみるしかないだろ」
「デク。テメェ、既に2人も落としてるんだから1人増えたところで今更だろ」
「かっちゃんか轟くんでもいいじゃん!!」
「俺は見向きもされてないし、爆豪に至っては性格が悪すぎて女口説くとか無理だろ」
「あぁん!?デクにできて俺が出来ないわけねーだろ!!」
「この爆発頭だけは嫌です」
「殺すぞ!!!!」
コミュニケーションに難がある者たちがどうしてこうも一堂に会してしまうのか。
出久がそんな嘆きを浮かべていると、鞠亜がその裾を引っ張る。
「………あ、あの、鞠亜さん…?」
「緑谷 出久。あなたとデートがしてみたいです」
「ご指名よ。ほら、行ってらっしゃい」
「鞠奈さん!?!?」
まさかの指名を受けてしまった。
出久がミオへと目を向けると、明らかに不機嫌そうな顔と目が合う。
機嫌取りのために来た旅行なのに、なんでこうなるんだろう。
鞠亜に引き摺られるようにして街へと消えていく出久を前に、メリッサが小さく呟いた。
「…このメンツでデートを盛り上げろって、工具無しで機械を組めって言われてるようなものじゃ…?」
「メリッサ。それ皆が思ってる」
♦︎♦︎♦︎♦︎
「……緑谷たち、なんて言ってた?」
少し離れた物陰にて。
引き摺られていく出久から視線を戻した切島が耳朗に問いかける。
新たに迷い込んだのは、切島、耳朗、峰田、上鳴、飯田、八百万、麗日の6人。
耳朗は耳から手を離し、困惑に顔を歪めた。
「あの子と緑谷がデートしたら、ここから出られるかもみたいなこと言ってた」
「そんなトンチキなことある?」
「本当にそう言ってたんだって…」
「だーっ…!なんで緑谷ばっかあんな可愛い子にモテんだよ!
同じヒーロー科なんだし、俺らにもチャンスあってもいいよな、峰田!?」
「流石のオイラでも緑谷のパターンだけはゴメンだわ。画面に限る」
「峰田!?!?」
後に、担任から権化とまで呼ばれる性欲の塊たる峰田から放たれた一言に目を剥く上鳴。
事情を知らない面々が不思議そうに首を傾げる中、切島が飯田と峰田に耳打ちする。
「緑谷の事情ゲロっちまった方がいいんじゃねーの…?
そっちのがスムーズだろ、絶対…」
「しかし、それでは緑谷くんの信頼を裏切ってしまうことになる…!
なるべく誤魔化す方向で行くべきなのでは…」
「あっちに爆豪たち居るし、合流して事情聞こうぜ。
オイラたちよか情報ありそうだし」
「うむ…。皆!下世話な真似はそこまでにして、まずは先に来ていた轟くんたちと合流しよう!」
欲さえ絡まなければ意外と冷静なのか。
そんな感心を覚えながらも、飯田が困惑をあらわにする皆を取りまとめ、爆豪たちへと歩み寄る。
そんな中、麗日は引き摺られていく出久へと目を向けた。
「………ウチもあんなんできたらなぁ」
♦︎♦︎♦︎♦︎
「口を開けてください」
「う、うん…」
なんか野次馬が増えてる。
いつものデートがフラクシナスで監視されてるとは言え、こうも直接的に視線を向けられると恥ずかしいのだが。
そんなことを思いつつ、喫茶店にてフォークに刺さったまま差し出されたケーキを頬張る出久。
表情が変わらない。
轟くんのほうがまだ感情豊かなのでは、などと思いつつ、デートを楽しんでるのかどうかわからない鞠亜に問いかける。
「……鞠亜ちゃんは僕のこと、どれだけわかってるの?」
「来歴から自覚できてないほくろの位置に至るまで、ほとんど全てです」
「………」
ラタトスク関係者であることは確からしい。
となれば怪しいのは鞠奈だが、妹と言ってる以上、彼女の出自もラタトスクが関与していると見ていいだろう。
外と連絡が取れたらなぁ、などと思っていると、鞠亜が再びケーキを差し出す。
「…緑谷 出久。あなたはどうして、私のことを普通の少女であるかのように扱うのですか?」
「………それは、どういう?」
「私の失われた記憶がなんであれ、状況を見れば私が人でないことは確実。
しかも、あなた方をここに閉じ込めた疑いをかけられてもおかしくない立場です。
なのに、あなたとメリッサだけは私を疑わなかった。
それはどうしてですか?」
鞠亜の瞳が出久を捉える。
どう説明すればいいかわからない。
出久は暫し逡巡したのち、辿々しく口を開いた。
「…なんとなくだけど、不安そうな顔してたから…かな」
「……不安、ですか?私が?」
「うん。記憶がないせいかはわからないけど、不安でたまらないって顔してた。
だから、ここから出る云々関係なく、僕は君の力になりたいなって、そう思う」
オールマイトならそうしただろうから。
その一言を付け足す前に、鞠亜が口を開いた。
「………胸が痛いです」
「え!?だ、大丈夫!?」
「いえ、大した痛みではありませんが…、どう形容していいかわからないです」
「………それっ、て…」
出久がそう言いかけたその時。
喫茶店の扉が音を立てて倒れた。
「うぉわ、わっ!?」
「ぬぉっ!?」
「わっ!?」
「……………なにしてんの、皆?」
その場に倒れ伏した面々を前に、出久が心底不可思議なものを見る視線を向けた。
麗日お茶子…横恋慕中。我慢できず、喫茶店の扉の方で皆と聞き耳を立てていた。現在、個性は使えない。
或守鞠奈…もうちょっとだったのに。
或守鞠亜…恋を自覚する直前だった。この後、上鳴に「俺ともデートしよ!」と迫られることとなる。尚、「普通に嫌です」とストレートに切り捨てた。