居候がおやつ感覚でトンデモ能力渡してくるヒーローアカデミア   作:鳩胸な鴨

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或守インストール その5

「すまねぇ!その、邪魔しちまって…!」

「あ、うん。僕はいいんだけど…、鞠亜ちゃんは大丈夫…かな?」

「胸の痛みが引きました。何故でしょう?」

「あー…。振り出しかぁ…」

「本当にすまねぇ…!」

 

好奇心に負けて出歯亀をかましていた1人である切島が平身低頭で謝罪を繰り返す。

出久はそれに「気にしてないから、顔あげて」と促し、背後に並ぶ錚々たる面々を見やった。

 

「……えっ…と、言ったの?」

「言った」

「僕のプライバシーが肥溜めに沈んでく…」

 

もうワン・フォー・オールのこともぶちまけていいんじゃないかな。

冗談ながらにそんなことを思いつつ、出久は深いため息を吐く。

と。それを前にして麗日が口を開いた。

 

「……デクくん。生粋の女タラシってことやないんよな?」

「どっちかというと養殖で……」

「養殖でも女タラシなん?」

「…………」

「麗日怖ェ…」

「あー…。なんか、緑谷見る目に結構色入ってたよね、麗日…」

 

気迫が凄まじい。それこそ、職場体験から帰ってきた時と同じくらいの圧を感じる。

別に悪意を持ってたぶらかしていた訳ではない。

二股をかけた覚えもなければ、これ以上恋仲を増やす気もない。

ただ、そうせざるを得ない状況が続いているだけで。

そんな言い訳を広げるより先、ミオが髪をゆらめかせた。

 

「……ヒーロー科でも口説いてたの?」

「口説いてません!!」

「口説かれとらん!!」

「麗日のやつ、なんで怒ってんだ?」

「轟。あんたもうちょっと人間関係について勉強した方がいいよ」

「…………?」

「そういうとこじゃないかな…?」

 

誰がなんと言おうと、緑谷 出久から見た恋人は緑谷 ミオただ1人だけなのだ。

状況がそれを許さないだけで。

そんなやりとりをしていると、鞠奈が呆れ気味に口を開いた。

 

「で、どうすんの?デート続ける?」

「……すみません、先程の胸の痛みが何かを解析するので、少し時間を空けてから…」

「はいはい、提案!

鞠亜ちゃんもこう言ってることだし、もうこの際、皆で遊んじゃおうぜ!!」

「上鳴、アンタ状況わかって言ってんの?」

「発言にまでアホが滲んでんぞアホヅラ」

「お前らひどくね!?!?」

 

耳朗と爆豪の辛辣な一言に素っ頓狂な声を放つ上鳴。

と。その一言に出久が口を開いた。

 

「いいかも。鞠亜ちゃんは人間のことを知らないから、いろんな人と関わっておくべきだと思うし」

「ちょっと、本気なのキミ…?」

「残念だが、こうなった緑谷くんはテコでも動かない」

「突っぱねても突っぱね返されるだけだぞ」

「うん」

「そ、そんな頑固に見えるかな…?」

 

頷く面々に、出久が苦笑を浮かべる。

どちらかというと、押しに弱い方なのだが。

出久がそう反論するより先、ミオが爆豪を指した。

 

「この性格最悪の爆発頭に10年近くデクとかクソナードとかバカにされてたのに仲良くしたいとか宣うくらいには頑固」

「あー…。そりゃ頑固って言われるわ」

「どういう意味だ切島ァ!?!?」

「そういうとこだぞ全方位爆撃マン」

 

反論の余地はなかった。

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

「遊ぶ!夏休み!綺麗な海岸!」

「やることはひとつ!!」

「「「海水浴だーーーーっ!!」」」

 

峰田、切島、上鳴がテンションを上げ、そこらの服飾店で見繕った海パン姿で海に突っ込む。

まさか掃除した海岸までも再現するとは。

芦戸がいればそのノリに乗っていたことだろうな、と思っていると、轟が水着姿の鞠亜に問うた。

 

「……金とか払ってねーけどいいのか?」

「システムで再現したものに貨幣価値が存在すると思うのですか?」

「…そういや仮想世界だった」

「リアルすぎて忘れるよね…」

「3人とも!まずは準備運動から始めないと、体を痛めるぞ!!」

 

騒ぐ3人に注意を飛ばす飯田に、ブレないなぁ、と感心を覚える出久。

と。その背後から、サンダルが電子の砂浜を踏み締める音が響いた。

 

「イズク、どう?」

 

振り返った先にいたのは、白いワンピースに麦わら帽子を纏うミオ。

期待を込めたミオの視線に、出久は若干吃りながらも応える。

 

「かわいい。似合ってる」

「ホントの海じゃないのが残念だけどね」

「あはは…。今度連れてく」

 

林間学校前に海水浴もいいかもしれない。

そんなことを思っていると、つん、つん、と出久の肩を誰かが突く。

そこに居たのは、ワンピース型の水着を纏った麗日。

彼女は無理矢理に笑顔を作り、口を開いた。

 

「2人とも、こんな面前でイチャつくのもアレやし、皆に混ざろ。な?」

「あ、うん…、ごめん」

 

確かに、2人きりならいいが、今はクラスメイトたちと一緒なのだ。

あまり2人の世界に入るのもよくない。

出久が反省を胸に海へと向かおうとすると、ミオが口を開いた。

 

「ウララカさん、イズクのこと好きなの?」

「はぎゅあっ!?!?」

「はぇ?」

 

声帯が潰れたのではと思うような音が麗日の喉から響く。

今、なんと言った?

出久がその確認をするより先、麗日は慌てて出久の背を押した。

 

「そ、そそ、そそそ、そっそっ、そんなことあら、あらっ、へんよ!?

ほ、ほらっ、海逃げてまうから、うみみっ、海に行こ、海っ!!」

「……焦りすぎじゃない?」

 

どうしよう。ただでさえ複雑な女関係がさらに拗れたような気がする。

こんなクソナードのどこに惚れる要素があるんだ、と思いつつ、出久は海へと足を踏み入れる。

温かい。本当の海のようだ。

仮想世界の完成度に舌を巻くのも束の間、視界の中にふと違和感を覚え、砂浜の方へと目を向ける。

 

「………」

 

黒の水着を纏った鞠奈が、どこか切羽詰まった顔で砂浜に突っ立っている。

海は苦手なのだろうか。

出久は麗日の手から逃れ、「ちょっとごめん」と断りを入れて鞠奈へと歩み寄る。

 

「鞠奈さん、どうしたの?そんなふうに突っ立って」

「……別に。この状況で遊び倒すアンタらに呆れてただけ」

「…ごめん。急ぐべき案件だっていうのはわかるけど、鞠亜が考えたいっていうなら考えさせた方がいいと思って…」

「構わないわよ、別に。肉体のないアタシは困らないもの」

 

言って、自嘲気味に笑う鞠奈。

自分を卑下するような笑みを前に、出久は首を傾げた。

 

「困らないなら、なんで困った顔してたの?」

「………別に、なんでもいいじゃない」

「…もし困ったことがあったら、なんでも言ってね。力になるから」

「じゃあとっとと鞠亜を口説き落とすためにも、ここで好感度稼ぎなさいよ」

「あ、あはは…。がんばります…」

 

鞠奈に促され、海へと戻ろうとする出久。

何故かはわからないが、彼女の笑みがひどく切羽詰まったもののように思えた。

が、しかし。鞠奈は頑なにその弱さを見せようとしない。

なんとか助けになれないか、などと考えていると、鞠奈の声が響いた。

 

「緑谷 出久。ちょっと、聞いていい?」

「ん…?」

「……アンタはさ、親に愛されてるって感じたことはあるの?」

 

鞠奈の問いに暫し考える出久。

親の愛を感じたことなら数え切れないほどあったと思う。

それこそ、いちいち思い出せないくらいに些細なことで、両親は自分に愛情を注いでくれた。

雄英から合格通知が届いた時などは、人のことを言えた立場ではないが、涙腺がブチ切れているのではと思うほどに涙をこぼして喜んでくれたほどだ。

頭に思い浮かんだことを言おうとして、ふと止める。

先ほどとは違う、仲間を探すような目。

そんな鞠奈の瞳を前に、出久は口を開いた。

 

「…いっぱいあるよ。さっき着てたヒーロースーツも、母さんの手作りだから。

僕みたいな親不孝者には贅沢な親だよ」

「…………えっ?」

 

鞠奈が目を丸くする。

振り返れば、褒められた記憶よりも心配された記憶の方が多い気がする。

体育祭の後も「なんで無茶するの!」と小一時間説教を食らったくらいだ。

それで反省したそぶりを見せてまた似たような無茶をやらかしたのだから、親不孝の一言で片付けていいレベルではないドラ息子である。

出久はそんな自虐を浮かべつつ、鞠奈に語る。

 

「勝手に女の子拾ってくるわ、知らないうちに犯罪者になってるわ、無茶はするわ、腹に穴を開けて死にかけるわ…。

挙げ句の果てに女の子侍らせるわで、とんでもないドラ息子になったんじゃないかな、僕」

「……意味わかんない。期待に応えない子供に価値なんてないでしょ」

 

その一言が、彼女の全てを物語っているような気がした。

違う、と否定するのは簡単だ。

だがしかし、強い否定の言葉が相手の心を傷つけるのも事実。

出久は脳みそから語彙を搾り出し、言葉を紡ぐ。

 

「世の中にはそう思う親もいるってことも、最近知った。

でも、それで投げ捨ていいほど、命の価値は安くない。

たとえ君たちのように作られたものでも、僕たちと同じ命には変わりないよ」

「………何がわかるのよ。作り物でもないくせに」

 

鞠奈が目を伏せ、吐き捨てる。

確かに、鞠奈のことは何も知らない。

だが、自分に知ってることに当てはめて、寄り添うことはできる。

 

「作り物だった女の子を知ってる。

その子は人並みに嫉妬して、人並みに怒って、人並みに喜ぶ、普通の女の子だった。

いくら命が作り物だからって、その心までもが作り物だとは思わない」

「………あっそ」

 

鞠奈が目を伏せたまま踵を返し、パラソルへと戻っていく。

嵐の前の静けさ、とでも言うのだろうか。

どことなく不安が胸中に渦巻く中、出久はミオたちの方へと戻ろうとする。

 

「………ばーか。そんなんだから、出し抜かれんのよ」

 

瞬間。世界に亀裂が走った。




或守鞠亜…解析してる隙を突かれ、権限のほとんどを奪われた。

或守鞠奈…素直じゃないタイプなので心の殻をぶん殴ってズカズカ踏み込んでいくコミュニケーションが最適解。尚、正解を踏んでも、「お父様」に褒められることがアイデンティティなので敵対ルートは免れない。
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