居候がおやつ感覚でトンデモ能力渡してくるヒーローアカデミア 作:鳩胸な鴨
「は!?I・アイランドが猛スピードで日本に向かってる!?このままだと激突!?」
突如として舞い込んできた報告に、デヴィットの悲鳴じみた叫びが響く。
仮想世界の様子を観察するモニターが映らなくなってものの数分と経っていない。
やはり、あの或守 鞠奈という存在が侵入したイレギュラーだったのか。
では、それに酷似した鞠亜はなんなのか、という疑問は残るが、今はそんな場合ではない。
激しく揺れ動く地面にバランスを取られながらも、デヴィットはオールマイトに叫ぶ。
「トシ!!顕現装置込みでどれだけ抑えられる!?」
「30分は押し留められる!それ以上は多分無理だ!」
「変わったな!昔だったらやってみるとだけ言って素潜りしてたろ!」
「万由里に『説明があり得ないほど雑な上に言葉足らずすぎる』と散々殴られたからね!!」
「もっぺん殴ろうか?」
「ごめん!!!」
万由里の一言に叫び、部屋を去っていくオールマイト。
その後ろ姿を見送った万由里は霊装へと姿を変え、小さく口を開いた。
「〈
瞬間。更なる衝撃が島を襲った。
「うぉおおっ!?!?」
「これで1時間。〈雷霆聖堂〉で無理矢理に押し留めてるけど、出久から供給がない以上、手持ちの霊力だとそれ以上は無理」
「あ、ありがとう…」
「礼を言う暇があるんなら、さっさと権限奪い返して。私も余裕ない」
言って、目を瞑る万由里。
顕現した天使に意識を向けているのだろう。早々にその額から冷や汗が垂れる。
デヴィットは深く頷くと、自らの戦いを始めた。
♦︎♦︎♦︎♦︎
「うぉ、おおっ!?な、なにが…!?」
「鞠奈さん…!!」
広がる幾何学的な空間を前に、皆が言葉を失う。
届かなかったか。
衣装がヒーローコスチュームへと戻る中、出久が歯噛みしていると、佇む鞠奈が口を開く。
「気づいてたのね、緑谷 出久。私がI・アイランドの制御を奪ったイレギュラーだって」
「消去法だけどね。
…一応聞くけど、そういうプログラムが組まれてるからって理由だったりする?」
「しないわよ。これは私の意志であり、私の選択。
抗うのは自由だけど、天使を使えないあなたが人工精霊である私に勝てると思う?」
鞠奈が言うや否や、夥しい数の人影が電脳世界に顕現する。
そのどれもが鞠奈そのものであり、くす、くす、と目を剥く彼らを嘲笑う。
天使は封じられてる。クラスメイトも個性を封じられ、まともに動くことができない。
出久はワン・フォー・オールを巡らせ、拳を握る。
「殴ってでも止める。友だちとして」
「………綺麗事しか言えないのかしらね、その憎らしい口は」
「綺麗事が
舌打ちと共に大軍が殺到する。
殺意を向けられた先は出久ではなく、困惑していた鞠亜。
オールマイトがそうするように、跳んだ出久が放った拳が複製された鞠奈を砕く。
コピーだけあって強度はないらしい。
鞠亜を抱え、状況の変化に困惑するクラスメイトらに声を張り上げた。
「皆!ミオのそばに!!」
「〈
力の一つを顕現させ、電脳空間の一角をモノクロへと染め上げるミオ。
〈輪廻楽園〉。世界の条理そのものを塗り替える力。
モノクロの中へと彼らが飛び込むと、纏っていた水着がヒーローコスチュームへと変貌し、個性が戻ってきたかのように爆炎やら氷やらが舞い散る。
しかし、電脳空間の強度の問題か、それ以上の奇跡は起こせないようで、ミオは眉を顰めた。
「ごめん、このくらいしか出来ない。これ以上私が力を使うと、この世界が崩壊する。
メリッサは私が守るから、好きに暴れて」
「十分!!ありがと、ミオちゃ…、どっ、せぇいっ!!」
礼を言いかけた麗日が、肉薄した鞠奈の複製品を地面へと投げ、砕く。
それだけではない。
A組の面々があちこちに散開し、それぞれの個性で鞠奈を無力化していく。
数が多いだけで、大した強さではない。
戦えない鞠亜やメリッサを庇いながらでもまだなんとかなる。
A組全員がそんな油断を覚えた、その時だった。
「忘れたの?私はこの世界を支配する精霊。
あなたたちがどんなに足掻いたところで、その全てが無駄なのよ」
複製品の鞠奈が爆炎と共に破裂したのは。
何人かはその場から離れることが出来たが、回避が遅れた切島が「わぶっ」と声を上げた。
「切島、大丈夫!?」
「大丈夫大丈夫!爆豪のに比べ………」
「……え?切島?」
急に押し黙った切島に向け、近くにいた耳朗が問うたその時。
切島の拳が彼女の頬を掠めた。
「ちょっ…、切島!?」
「何やってんだお前!?」
「………」
耳朗に襲いかかる切島に、峰田が叫ぶ。
比較的動きが鈍いとは言え、ヒーローとなるべく切磋琢磨してきた切島の攻撃を捌き切るのは難しく、耳朗が追い詰められていく。
と。そんな彼女を鞠奈の複製品の1人が羽交締めにし、その場で弾けた。
「うわっ!?」
「耳朗さん!?」
爆炎に包まれた耳朗を前に、八百万が叫ぶ。
あれではもう助からない。
皆が絶望を浮かべるのも束の間、煙の中から傷ひとつない耳朗が現れた。
「よ、よかった…。威力は低かったんですのね…」
「…………」
「じ、耳朗さ…、きゃぁああっ!?!?」
瞬間。耳朗が足に装着したスピーカーに耳から伸びたイヤホンジャックを挿し込む。
そこから放たれる音の向かう先は、鞠奈に応戦していた八百万。
八百万が悲鳴と共に、電脳空間の中に転がる。
あまりに混迷した状況を前に、飯田が戦慄き、叫ぶ。
「まさか、あの爆破を喰らうと彼女の支配下に置かれるのか!?」
「はぁあああっ!?なんっだそのチート!?」
「そ、そんなんに勝てとか無理やん…!!」
「くそっ…!せめてプロヒーローがいたら…!」
視界のどこにでもいる数の複製品に、洗脳効果付きの爆発。
あまりの戦力差を前に、応戦していたほぼ全員が絶望を顔に浮かべる。
せめて天使が使えたなら。
出久が悔しげに顔を歪めた、その時だった。
「………緑谷 出久。
全て、思い出しました」
抱えていた鞠亜が霊力を放ったのは。
顕現する天使は、どこか見覚えがある機械的な翼。
その正体を悟った出久は目を見開き、口を開いた。
「フラク…、シナス…?」
「I・アイランドにてプログラムのアップデートを受けていた途中でして…」
なぜ、気づかなかったのだろうか。
その容貌はまさしく、何度となく出久をサポートしてくれた空中艦…フラクシナスだったというのに。
迫る鞠奈を蹴り砕き、出久が鞠亜に微笑みを向ける。
「そっか。君が守ってくれてたんだ」
「申し訳ございません。
彼女をこの空間に隔離した際、メリッサを巻き込んだ上に記憶もロックされてしまい…」
「大丈夫。ここから巻き返そう。
ミオ!!メリッサさん!!」
出久は叫ぶと、壁を展開していたミオの元へと駆け寄り、鞠亜を下ろす。
ここなら安全に作戦を伝えることが出来る。
出久はメリッサへと目を向け、口を開いた。
「メリッサさん。仮想世界の内部からシステムに干渉することってできる?」
「普通は無理だけど、その子がフラクシナスの管理AIだっていうなら可能よ」
それだけ聞けたら十分だ。
出久は深く頷くと、モノクロの空間を飛び出し、声を張り上がる。
「僕が鞠奈さんの隙を作る!その隙をついて、システムの主導権をこっちに!!」
「隙って…、天使も使えないのに!?」
「大丈夫!!策ならある!!」
爆炎を避けつつ、迫る鞠奈たちを打撃で砕いていく出久。
数で攻めてくる相手への対処法なら、時崎 狂三との戦闘からゲロを吐くほど学んだ。
新たに洗脳された上鳴が放つ放電すらも避け、真っ直ぐに鞠奈へと駆けていく。
(個性が使えなくなった皆と違って、僕とミオがこの世界に入って力を失わずに済んだのは、存在の規格が違うからじゃない…。
僕たちが『天使の権能によって、本来想定されていない方法でこの世界に侵入した』から…!
天使が使えなくなったのは、天使の力がこの世界の容量を遥かに超えてしまうから…!
生まれながらにして精霊だったミオは、無意識にその塩梅を調整して、天使を顕現していたんだ…!)
これまでの情報から、推察を組み立てていく。
電脳世界の容量を超える天使は使えない。
でも、その大前提である『霊力』ならば使えるのではないか。
出久は〈囁告篇帙〉で見た記載を思い出し、両腕を顎門のように構える。
「何をしようとしても無駄よ。
アンタは天使を使えない。私には絶対に…」
「確かに、天使は使えない…。
でも、『技』だったらどうかな…!?」
ばちばちと手の中に光が迸る。
昔読んだ漫画に、こんな技があったっけか。
そんなことを思いつつ、出久は両腕を前に突き出した。
「奥義!〈
放たれた光が、複製品の鞠奈を焦がしていく。
ただ霊力を放出するだけの技。
別世界に生きる大学生…五河 士道の思い出したくない黒歴史から生み出された技を前に、鞠奈は初めて焦りを見せた。
「なっ…、くっ…!!」
予想外の一撃だったのだろう。
避け切れないと判断した鞠奈が複製品を解除し、霊力による光の砲撃を放つ。
ワン・フォー・オールを含めば、単純計算で鞠奈の8倍の霊力を突っ込んだ技だ。
鞠奈がその衝撃に耐え切れるわけもなく、砲撃により軌道が逸れた光芒に体が弾き飛ばされる。
「きゃ…!?」
「今よ、鞠亜ちゃん!!」
鞠亜の纏う霊装に備え付けられたパネルを操作していたメリッサが声を張り上げる。
鞠亜はその声に応え、天使らしき機械の羽を展開した。
「………緑谷 出久。もう少しいい技はなかったのですか?
見ていて共感性羞恥を感じました」
「これ僕のオリジナルじゃないからね!?」
「冗談です」
素っ頓狂な声を上げる出久に微笑みを返す鞠亜。
瞬間。ひび割れた電脳世界の一部が修復し、元の砂浜へと戻った。
「或守 鞠奈。私たちの
奥義〈瞬閃轟爆破〉…五河 士道が深刻な病を患っていた際に妄想していた必殺技。モーションはまんま「かめ○め波」。原作においてはこれ以上なく重要な役割を果たす大技だが、黒歴史である上に技名がわりとダサいのでネタ技扱いされてる。
緑谷出久…事件解決後、事のあらましを聞いたクラスメイトの男子にイジられることとなる。普通にスピリット・スマッシュとかでよかったかも、と激しく後悔した。
呪いが解けない…