居候がおやつ感覚でトンデモ能力渡してくるヒーローアカデミア   作:鳩胸な鴨

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ちょっと長め。或守編はこれで終わり


或守インストール その7

「フラクシナスによる外付けですが、容量を追加しました。

これで自由に天使を使えるようになるかと」

 

啖呵を切った直後、鞠亜がそう続ける。

たかだか恋愛ゲームのために作った仮想世界故か、そこまで大容量ではなかったらしい。

出久はその言葉を信じ、体に霊力とワン・フォー・オールを走らせる。

 

「私が制御する。遠慮なくやって」

「フルカウル、八重(オクタ)!!」

 

八つの力を一つに纏め、体に宿す。

いまだに霊力と個性の操作が拙い出久では出来ない芸当だが、霊力の制御をミオに投げることで個性のコントロールにのみ集中できる。

右手に〈鏖殺公〉を。左手に〈封解主〉を。

脚に〈颶風騎士〉を。背中に〈絶滅天使〉と〈灼爛殲鬼〉を。

霊装には〈氷結傀儡〉を〈贋造魔女〉で変貌させた衣を纏い、ヘッドギアを深く被る。

全身にワン・フォー・オールの光を迸らせた異形が、縋るように声を漏らした。

 

「ごめん。頼むから、もう諦めてくれ」

「諦められたら、そうしてる…っ!!」

 

言って、彼女は天使らしき触手を展開する。

神々しくも、禍々しい。

物語で見る魔王がその場に現れたかのような威圧が肌を撫ぜる。

ただ、それよりも。

緑谷 出久という男が許せないものが、そこにはあった。

 

「じゃあ、止まってくれよ…。

そんな顔するくらいなら、もうこんなことやめてくれよ!!」

「……黙って…。黙ってよ…!もう、私の心に踏み込んでこないでよ!!」

 

拒絶を叫ぶ鞠奈が放つ霊力の奔流を、〈鏖殺公〉の拳で叩き伏せる。

やっぱり。普通の女の子じゃないか。

超然とした振る舞いはどこへやら、駄々っ子のように叫び、光の弾幕を落とす鞠奈。

出久はその数だけ空間の孔を展開し、その身を光へと変えた。

 

TIPHERETH(ティファレト) SMASH(スマッシュ)…っ!」

 

光の弾がものの数秒で打ち消される。

その光景を前に、アイデンティティが音を立てて崩れていく感覚が鞠奈を襲う。

そんな中、正気に戻った面々がその光景を見上げ、笑みを浮かべているのが見えた。

 

「緑谷、あんなことできたのか…!」

「これなら勝てるんじゃねぇか!?」

「デクくん、いっけー!!」

 

片や、声援を受け、認められる本物のヒーローたる出久。

片や、労いの言葉一つもかけられなかった作り物の敵である自分。

コンプレックスが肥大化し、バケモノのようになって暴れ回る。

同時に、そんな風に声援を送られる彼が、どうしようもなく愛しく思えてしまう。

 

「な…、んで…。なんで、私は…!

なんで、こんな感情を…っ!」

 

鞠奈がどんなに求めても手に入らないものを、緑谷 出久は全て持っている。

羨ましい。許せない。

大好き。愛している。

矛盾する感情を無理やりに憎悪で塗り潰し、鞠奈が吠える。

 

────もう、どうなってもいい。

 

瞬間。鞠奈の願いに応えるかのように、黒が彼女を飲み込んだ。

 

「っ、鞠奈さん!!!」

「イズク!?!?」

「ばっ、緑谷!?なにやってんだお前!?」

「……っ!!」

「ま、鞠亜ちゃん!?!?」

 

解き放たれた黒に、出久がなりふり構わず飛び込む。

それを追うようにして、霊装を展開した鞠亜が黒に飲み込まれた。

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

「う、うぉおっ…!?

生身じゃなかったら危なかった…」

 

分解され、取り込まれていくデータの破片を避け、出久が冷や汗を拭う。

もしもメリッサたちと同じようにこの世界にアクセスしていたならば、暴走した鞠奈に取り込まれてしまっていたことだろう。

そう安堵しつつ、データの破片が向かう先へと飛ぶ出久。

 

「出久、待ってください!」

 

と。背後から突如として響いた声に動きを止め、振り返る。

そこに居たのは、神妙な面持ちでこちらを見つめる鞠亜。

どうして追いかけてきたのかを問い詰めるより先、寄ってきた鞠亜が口を開く。

 

「私も行きます!」

「ま、鞠亜…!?君がここに居たら…」

「大丈夫です…!この事態は、私が引き起こしてしまったも同然…!

私にはその責任を取る義務があります…!」

「鞠亜……」

 

決意は固いようだ。

出久は苦い顔をするも、言っても聞かないだろうと判断し、頷いた。

 

「わかった。一緒に行こう」

「……はいっ」

 

分解され、飲み込まれていくデータたち。

鞠亜がその一部にならないよう、天使で衝撃を弾きながら奥へと向かう。

どれだけ深くに閉じこもっているのだろうか。

そんなことを思っていると、鞠亜がぽつぽつと語り始める。

 

「……申し訳ございません。ヒーロー科の皆さんを巻き込んでしまって」

「巻き込んでって、皆は鞠奈さんが手引きしたんじゃ…?」

「ええ。手引きは鞠奈によるものですが、外部からのアクセスはほとんど私が弾いていました。

…ヒーロー科の皆さんを除いて」

「それは…、なんで?」

「…私は愛を知りたかった。

だから、あなたが愛を向けている人たちが居れば、愛を理解できるかもしれないと…、そう思ったのです」

「……なんか、恥ずかしいね。そう言われると」

 

クラスメイトに抱いてる愛は、鞠亜が求めるものとは違う類だと思うのだが。

気恥ずかしさに頬を掻く出久に、鞠亜は続けた。

 

「きっと、鞠奈も彼らとの…、あなたとの時間を楽しんでいたと思うんです。

そうでなければ、私が解析に入った段階で既に制御を奪っていたはず…。

彼女もまた、私と同じように愛を知らなかった。だから、初めて気づいた愛が痛くて、恐ろしかった…。そう推察します」

 

同じように作られた命故に抱ける共感。

同情なのか、それとも憐れみなのか。

鞠亜自身にも理解できない感情が、作り物の心臓を締め付けた。

 

「……緑谷 出久。このまま行けば、鞠奈は取り込んだデータに耐え切れず、自壊します」

「…………」

 

そんな気はした。

鞠奈が黒に飲み込まれる前、消える覚悟をした万由里と同じ顔をしていたから。

心臓に手を当て、息を吐く。

女の子を救うのは、一年ぶりだろうか。

そんなことを思っていると、鞠亜が続ける。

 

「こうなってしまえば、I・アイランドの管理プログラム自体をリセットしない限り、どうにもできません。

現在、デヴィット・シールド博士が、その手筈を整えています。

あとは…、鞠奈を消して、管理者権限を奪い返すだけです」

「……鞠亜ちゃんは、どうなるの?」

「………いなかったものがいなくなるだけです。悲しむことはありません」

 

優しげに笑う鞠亜に、出久の心が叫ぶ。

ふざけるな。そんな命があっていいわけがない。

現実にいないからと言って、ここにある心を否定していいわけがない。

作り物だろうと、彼女らの心は本物だ。

そう叫ぼうとするも、鞠亜がそれを牽制するように続けた。

 

「私は満足しています。

あなたを…、いえ。あなたたちを、心の底から愛しいと思えたから」

「鞠亜…っ」

「………でも、鞠奈は違う。

彼女はまだ、救われていません。

終わる間際になっても、その命の価値を見出せていません。

だから…。だからせめて、その最期だけは救われたものであって欲しい。

出久。酷なことを言ってるのは承知ですが、どうかお願いします。

彼女を、救って(殺して)あげてください」

「…………」

 

まだ、終わらせるつもりはない。

そう言おうとして、やめる。

データの体を人間の肉体として再構築することなどできるのだろうか。

ここにきて、生身で来てしまったが故の懸念事項が頭をよぎる。

心臓を抉り出し、もう1人の人間を作ったところで、データがそこに織り込まれる確証はない。

万由里の時のように、意思を持った霊力とは違うのだ。

不安が渦巻く中、視界に変化が起きる。

 

開けた電脳空間。この世界の終着点とでも呼ぶべき場所に、鞠奈は蹲っていた。

 

「鞠奈さん。救けにきたよ」

「………いらない。帰って」

 

拒絶。差し伸べられた手を振り払う鞠奈。

顔を膝に埋め、必死に表情を隠す。

確かに、帰ろうと思えば帰れる。

電脳空間にアクセスしたクラスメイトたちも、ロックされたログアウト機能を〈封解主(ミカエル)〉でこじ開ければ、現実世界に帰ることができるだろう。

だが、その前に。緑谷 出久には成さねばならないことがある。

 

「いやだ。帰らない。

まだ、君を救えてないんだから」

「いらないって…、言ってるでしょ!!」

 

拒絶と共に光芒が飛ぶ。

出久は宙に〈颶風騎士(ラファエル)〉で構築した盾を展開し、一撃を弾く。

どれだけ突き放されようとも、深く踏み込まなければ。

そうでなければ、或守 鞠奈は救えない。

子供が物を投げたかのように飛んでくる光線をいなしつつ、出久は叫ぶ。

 

「なめるな!!そうやって駄々っ子のように拒絶してれば、僕が諦めると思うのか!?」

「っ…」

 

鞠奈の肩が震える。

出久はヘッドギアを脱ぎ捨て、声を張り上げた。

 

「たとえ世界がそう決めていたのだとしても、このまま死ぬなんて認めない!!このまま消えるなんて許さない!!

或守 鞠奈はこの世に生まれた、『本物の命』なんだから!!」

 

光線の雨が弱まる。

ありったけの言葉を紡げ。まっすぐにぶつけろ。

今ばかりは、拳も、力もいらない。

想いを声に乗せ、出久は鞠奈に歩み寄る。

 

「君がどれだけ自分に価値を見出せなくても、僕が何個だってその価値を見つけ出す!!

だから、生きてくれ!!

君がどれだけの悪から生まれたものでも構わない!僕は、君に生きていて欲しい!!」

「…………!」

 

ばっ、と鞠奈の面が上がる。

ぐしゃぐしゃに濡れ、目元が腫れた彼女にもう一度、手を差し伸べる。

 

「…いいの?私、アンタの敵なのよ?」

「敵でも、鞠亜のお姉ちゃんなんでしょ?

だったら、大丈夫。君がもう一度裏切ろうとしても、鞠亜が止めてくれる」

「……私、もう死ぬのよ?」

「死なせない。どんな手を使ってでも、僕が君たちを生かすよ」

「…………私、私…、こんなこと、しちゃったんだよ…?」

「今ならやり直せる。僕も付き合うよ」

 

もたれかかるように、手が置かれる。

作り物とは思えない温もりと重さ。

ぼろぼろと涙をこぼす鞠奈を前に、鞠亜が口を開く。

 

「………出久。どうするのですか?」

「…問題になってるのは、鞠奈が管理権限を持っていることなんだよね?」

「ええ。その通りです」

「ならまずは…、〈封解主(ミカエル)〉」

 

アクセス権を『開き』、コードの塊を具現化させ、引き抜く。

これで鞠奈から権限が消えた。

あとは、リセットによる世界の初期化から2人を守るだけ。

出久が安堵の息を吐くと共に、世界が揺れた。

 

「も、もう初期化が始まったの!?」

「手筈は整えていましたから…」

「やばいっ、考えてる余裕ない…っ!

2人とも、僕が孔を開けるから、そこから…」

 

崩れていく世界を前に焦る出久。

と。鞠奈が涙を拭い、精一杯の笑顔を作って出久の手を取った。

 

「キミの天使で出ても、データの私たちは存在を保てず消える。

……それでいいわよ。満足したから」

「そんなの許さないって言っただろ!?

なにか、なにか、……………あ」

 

ふと、出久はポケットを弄る。

この世界では皆がデータの体で活動していたが、出久とミオだけは違う。

彼らは、電脳世界に侵入した「生身の人間」なのだ。

故に、纏う全ては現実世界と同じもの。

出久はポケットからソレを取り出し、2人に掲げた。

 

「2人とも、ここに!!」

 

瞬間。初期化の波が彼らを飲み込んだ。

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

「デクくん!!!」

「出久!!!」

 

現実世界にて、いち早く戻ってきたメリッサと万由里が白に染まる画面を前に叫ぶ。

間に合わなかったか。

皆がそう思いかけたその時、画面の前に見覚えのある孔が開いた。

 

「わぁ!?」

「きゃっ」

「ぐぇっ!?」

 

落ちてきた影は二つ。

最初にヒーローコスチュームの出久が顔面から床に叩きつけられ、その背を続くミオの尻が踏みつける。

「ぉおおっ…!」と悶絶する出久に、ミオは慌ててその場から退いた。

 

「ごめん、大丈夫?」

「いや、こっちこそ…。ミオを回収するのに必死で、着地のこと全く考えてなかった…」

「デクくん…、よかった…」

「師弟揃って人をヒヤヒヤさせる天才だな…」

「同感。あとで説教」

「あ、あはは…。ごめんなさい…」

 

ノーベル賞受賞者にまで呆れられてしまった。

そんなことを思っていると、握っていた物から声が漏れる。

 

『せ、狭いぃ…!ちょっと、鞠亜!もうちょっと縮こまってよ…!』

『む、無理です…!すみません、どっちでもいいので、パソコンにでも移してもらえませんか…?

我々は現在、状態:窮屈に陥っています…!』

「…………ん!?!?」

「はぁああ!?!?」

 

父娘の叫びがその音をかき消すように響く。

出久は苦笑を浮かべつつ、2人の少女が鮨詰めになった様子が映し出されたスマートフォンを彼らに向けた。

 

「ごめんなさい。連れて帰っちゃいました」

 

2人の絶叫が響いた。




或守姉妹…出久のスマホに人格のみをインストールしたことにより生還。代わりに出久のスマホデータは軒並み吹き飛んだ。天使も霊装も消えたのでただのAIと化しているため無害。

緑谷 出久/第二の精霊…スマホのデータ全部吹っ飛んだ人。ソシャゲもそんなにやらず、ノートに書き留めるタイプのオタクだったからそんなにダメージはなかったが、連絡先諸々を登録し直す羽目になった。
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