居候がおやつ感覚でトンデモ能力渡してくるヒーローアカデミア 作:鳩胸な鴨
緑谷 ミオは人間ではない。
彼女自身がそのことを知ったのは、生み出されてすぐのことだった。
ある程度の言語能力と、自身の能力に関する知識だけが植え付けられた頭に染み込ませるように、胡散臭い男が告げた。
「君は私の望む世界に必要な存在だ」
男の口説き文句の意味もわからぬまま、ミオは殺風景な部屋へと監禁された。
そこで行われたのは絶え間ない実験の日々。
苦痛を苦痛とすら思えないほどに無垢なミオは、退屈な日々を過ごしていた。
その退屈が崩れ去ったのは、何が原因だったのだろうか。
ミオ自身も覚えていないほど唐突に、彼女はふらふらと実験施設を抜け出した。
初めての外の世界は、退屈だった。
何もやることがない。というより、何をして生きていけばいいのかわからない。
それは彼女が精霊だから――食事も睡眠も必要としないせいだろうか。
広い外の世界が、殺風景な部屋と同じように思えた。
『外出は楽しかったかな?
でも、そろそろ門限だよ』
退屈を前に辟易していると、追手として差し向けられた機械人形に襲われた。
抵抗はしない。というより、する意味がない。
部屋の外も中も変わらない。
全てが退屈だと断じた彼女は、男が抱く悪意の悍ましさすら退屈だと感じていた。
「や、ひゃめろっ!」
上擦った声が響くまでは。
機械人形の魔の手から彼女を守るように、もじゃもじゃ頭の子供が割って入った。
たまたま通りがかったのだろうか。
がたがたと震え、ぼろぼろと涙を流し、それでも悪を見据えて立っている。
ほんの少し、退屈が薄れた。
『……ふむ。これは意外な展開だ。
姫を守る騎士にしては随分とまあ弱々しい。吹けば飛びそうだ』
「ちち、ちかよるな!ぼ、ぼぼっ…、ぼくが、ゆるさないぞ!!」
『君の許しを乞う必要はないよ。彼女は僕の娘なのだから』
どむっ、と、機械人形に弾き飛ばされる子供。
当たりどころが悪かったのだろうか。
それとも、機械人形が想像以上に力をこめていたのだろうか。
臓物がそこらに散らばり、子供が血反吐をぶち撒いた。
『おっ…と。予定とズレてしまった…が、これはこれで楽しそうだ。
なに、安心したまえ。彼の死は無駄にはならない。私の野望の糧になったのだから』
機械人形が手を伸ばす。
が。ミオの瞳には、別の光景が映っていた。
「や、め……ろぉ…」
今なお、こちらに向かおうと足掻く子供の姿が見えた。
理解できなかった。だから、気に入った。
機械人形を片手間に世から消し去る。
人間は臓物をぶちまけて生きていられるほど丈夫ではない。
虫の息になった子供を見て初めてそのことを知ったミオは、自らの力の一部を抽出し、結晶を作り出した。
「ありがとう。お礼に新しい人生をあげる」
退屈しのぎになる。
打算と、胸に疼くよくわからない感情に従って、彼女は超常を遥かに超えた力を子供に与えた。
不都合になる記憶を封じ込め、体を力に最適化したものに文字通り作り変える。
生まれ変わった少年を河川敷に寝かせ、その寝顔を覗き込むように屈む。
早く起きないかな。
そんな期待に応えてか、少年はすぐに目を覚ました。
「あれ…、ここは…?」
「大丈夫?倒れてたんだよ、君」
「え、あ…。あ、ありがとう…。
………あの、君は…?」
「………私?私は…、なんなんだろうね?」
「いや、ぼくにきかれても…」
少年はミオのことを深く聞こうとはしなかった。
ただ、どこにも家がないと言うと、「ぼくのいえでくらそう」と誘ってくれた。
初めて向けられた善意に、ミオは胸に温かいものが広がっていくような感覚を覚えた。
「えぇっと…な、名前、名前…、
………ミオ…は、ダメかな…?」
初めてもらったプレゼントは名前。
ミオと呼ばれるたび、自分がここにいるのだ、自分がここに生きているのだ、と肯定されている気がして、嬉しくなった。
「でね、オールマイトはもうとにかくすっごいヒーローなんだ!
あ、これ!オールマイトのフィギュア!よかったらあげる!」
次にもらったプレゼントは、よくわからない筋肉ムキムキのおじさんの人形。
正直言って好みではなかったけど、彼が好きなものは好きになろうと、そう思えた。
…今でもちょっとどうかと思うが。
「ひゃ、や、やめろっ!
これ以上は、ぼくがゆるさなひぞ!!」
いじめられている同級生を助けようといじめっ子に立ちはだかる少年の姿は、見ていて心が晴れるような気がした。
いつもみっともないくらいにボコボコに負けていたけれど。
「ただいま、ミオ!」
帰ってきた彼に、「おかえり」というのが好きになった。
そこらにありふれた日々は、ミオからすれば満たされたものだった。
なんの危機もない、とは言わないが、少なくともあの狂気じみた悪意がない。
普通の感性を手に入れていくうちに、自分を生み出した男の悍ましさがわかり、嫌になった。
「………これが、私。始原の精霊」
だからある日、彼に自らの正体を打ち明けた。
悪意の塊が生み出した、世界を壊しかねない究極の規格外。
災厄などという言葉では足りないほどの力を持つ自分を前に、彼は顔を綻ばせた。
「それがミオの『個性』なんだね!」
異能という意味ではない。
極々ありふれた『個性』。持たざる者として、個性による社会を受け入れた彼は、力全てをありふれたものとして認識していた。
そのことに、ひどく救われた気がした。
だからこそ、この力で夢見たヒーローになってほしいと思った。
自分ではこの力を正しく使えない。
当たり前すぎて、簡単に世界を作り変えてしまう。
すでに自分は少年を…『緑谷 出久』を、『第二の精霊』として作り変えてしまったのだから。
全てに取り返しがつく。
全てを捻じ曲げることができる。
この力の価値に気付いた時、自分が醜悪な怪物に思えた。
この力を誰かに振るってしまうのが、とてつもなく恐ろしかった。
「……ふぅ。撃墜…。
【砲】の反動も軽くなってきた気がする。
体が仕上がってきてる証拠かな」
だからこそ、この力を正しく使い、ヒーローをしている彼が眩しく見えるのだ。
爆炎を巻き上げ、海へと落ちていく空中艦を前に、ミオは自らのヒーローを脳髄に焼き付けた。
第二の精霊「緑谷 出久」…実は一回死んでる。力に最適化された体なので、霊結晶のデメリットはほとんど受けない。本人は改造されたことに全く気付いてない。