居候がおやつ感覚でトンデモ能力渡してくるヒーローアカデミア 作:鳩胸な鴨
「……子供の調査?」
レディ・ナガン。
公安に所属する、社会の闇をその一身に背負うヒーローである彼女は、公安局長により告げられた依頼に訝しげな声を漏らした。
公安局長である男性は頷くと、やけに仰々しい筒を携えた子供の写真を見せる。
「ああ。世界各地で見られる『オールマイトの面を被った子供』。
それらしき子供の目撃情報が、静岡に集中していることがわかった」
「………」
「彼は『ウェストコットの遺産』を潰しまわっている。
おそらくは、『ウェストコットの遺産』にまつわる『重大な何か』を知っている」
アイザック・ウェストコットの遺産。
世界中を蝕むように唐突に掘り起こされ、取り返しのつかない爪痕を残していく社会問題の一つ。
彼が保有していた記録媒体はすべからく破棄され、人類はその所在と全貌すら知ることがない。
ナガンの泥濘に塗れた瞳に光が灯った。
「そいつに接触すればいいのか?」
「無免許でのヒーロー活動を取り締まるという名目で捕縛してもらいたい。
そこからは我々の仕事だ」
「……目処はついてるんだろうな?」
「ああ」
言って、彼は別の写真を見せる。
そこには、もじゃもじゃ頭にそばかすの、冴えない中学生が写っていた。
「緑谷 出久。戸籍上は無個性の少年だ」
♦︎♦︎♦︎♦︎
「……こんな冴えない中学生がなぁ…」
のどかな田舎道にて。
コスチュームを纏い、河川敷を歩くナガンは写真を見ながらため息を吐く。
撃墜記録、39機。
これまで確認された61機の空中艦のうち、6割を一撃で破壊している。
特筆すべきは、彼が使用している大砲。
個性所以のものか、それとも全く別のものか。
光を圧縮して放つ一撃は、軌跡に沿って空間を削り取る。
明らかに既存の個性を超えている。
恐らくはそれを隠すための無個性届けか、と思いつつ、辺りを見渡す。
ここいらにいたりしないだろうか。そんなことを思っていると。
「はい、215回。ペース落ちてるよ」
「き、キツいィイイイ…!!」
そんな声が響いた。
ナガンがそちらを見ると、そこには。
絶世の美少女の尻に敷かれながら、ダラダラと汗を垂らして腕立て伏せをする探し人がいた。
どんな特殊プレイだ。
ナガンが冷たい視線を向けていると、少女と目が合う。
作り物のように透き通った目。
自らの血に汚れた姿すら見通しかねない程に澄み渡った瞳を前に、ナガンの背筋に怖気が走った。
(いけない…。こんなガキにビビるなんて、相当に参ってるのかねェ)
近いうちに仕事を辞めよう。
辞職は死を意味するが、それもいいかもしれない。
そんなことを思いつつ、ナガンは河川敷で筋トレする出久へと歩み寄った。
「そこのカップル。ちょっといいかな?」
「イズク、なんかヒーローの人来た」
「え!?誰!?!?」
少女…ミオが出久の背から立ち上がるとほぼ同時に、彼がバッと顔を上げる。
爛漫な双眸。
ヒーローに憧れを抱いていた自分を彷彿とさせる瞳を前に、ナガンは内心をひどくかき乱された。
「レディ・ナガンだ!!
あの、サインください!!」
「あ、ああ…。そりゃ構わないよ…」
ヒーローに後ろめたさを抱いてない瞳。
公安局長の勘違いだろうか。それとも、調査ミスだろうか。
差し出されたノートにペンを走らせ、彼を観察する。
体躯は似ている。フードから見えた髪も、似通った色合いに思える。
限りなく疑わしいが、同時に彼がお面の少年と同一人物だとは思えない。
「ありがとうございます!ありがとうございます!」と、残像が見えるほどのお辞儀をかます彼に、ナガンは苦笑を浮かべた。
「あー、っと。すまないけど、ちょっと取り調べ受けてくれないかい?
ここいらを調査していてね」
「は、はひっ!」
「イズク。デートは?」
「あ、そっか…。でも、ナガンの仕事の邪魔は出来ないしなぁ…。
…すぐ終わるだろうし、我慢できる?」
「………わかった。我慢する」
甘酸っぱい青春しやがってこの野郎。
こちとら年がら年中男旱だったわ。
そんなことを思いつつ、ナガンはお面の少年の写真を見せた。
「これ、よく似てるけど…。
もしかして、アンタかい?」
「違います。お面の少年ですよね、噂の。
よく似てるとは言われますけど…。
役所に確認すれば僕に個性は無いってわかりますし、それで違うという証明になりませんか?」
動揺が少ない。嘘をついてるのか、それとも本当に違うのか。
これでは判別がつかないな、と思いつつ、ナガンは「疑って悪かったよ」と引き下がった。
直接聞くやり方では無理か。
では、尾けて本性を見抜くしか無い。
河川敷を去っていく2人を見送り、ナガンは携帯を手に取った。
♦︎♦︎♦︎♦︎
「っぶなぁぁあああっ…!
〈
「〈刻々帝〉の方が誤魔化しやすいのに」
商店街にて。
できる限り声を殺し、ため息を吐く出久。
種明かしをすると、先ほど取り調べを受けていた出久は本物では無い。
彼が顕現した天使…〈贋造魔女〉が作り出した虚像である。
〈贋造魔女〉の権能は「変化」。
対象の姿、声、形問わず、存在そのものを変幻自在に変える力を持つ。
『ちちちち違います!あのえっとその似てるとは言われるんですけどどどど!
それにぼぼっ、僕無個性でぉすし!!』
そのフィルターを外すと、先ほどの受け答えはこうなる。
動揺しすぎて声が上擦るどころか、体が大きくブレて見えるほどに激しくバイブレーションしていた。
パーフェクトな不審者である。それも、通報待ったなしレベルの。
もしも〈贋造魔女〉を受け取っていなければ、今頃はしょっ引かれていたことだろう。
出久は冷や汗を拭い、商店街を見渡した。
「やっぱ尾けられてるよねぇ…」
「………げっ。嫌なのいた」
「へ?嫌なの?」
珍しくミオが顔を顰めている。
出久がそれを不思議に思っていると。
車椅子に座り、佇む老人がふと見えた。
「おじいさん、大丈夫ですか?」
「おや…。すまないね、日本人の坊や。
連れと待ち合わせをしていたところだったんだが、道に迷ってしまってね」
出久がそちらに駆け寄り、声をかけると、老人は薄く微笑む。
彫りの深い顔といい、高い鼻といい、イメージに描く外国の老人そのものに沿っている気がする。
「よかったら案内がてら押しますよ」と出久が言うと、老人は暫し迷ったのち、「じゃあ、お願いしようかな」と身を任せた。
「どこに行くんですか?」
「ここいらにある公園さ。一つしかないからわかりやすいと思って目印にしたんだが…、いざこうしてみると、そこに行くまでの道がわからないと来たものだ。
いやはや、情けない姿を見せたね」
「いえ、困った時はお互い様なんで!」
出久は言うと、車椅子を押して元きた道を引き返し始める。
ミオはそれに呆れた視線を向けつつ、後に続いた。
「……坊や、名前は?」
「緑谷です。あぁーっと…、ヨーロッパ風に言うと、出久・緑谷です」
「出久くん、か。いい名前だね。
私はエリオット・ボールドウィン・ウッドマンだ。よろしく」
「ウッドマンさんですか。ちょっと、名前全部は覚えられませんでしたけど…」
「なぁに、長ったらしい名前には自分も嫌気がさしていてね。好きに呼んでくれたまえ」
ウッドマンは言うと、ミオの方へと目を向ける。
あからさまに不機嫌なミオの膨れっ面を見て何を思ったのだろうか。
ウッドマンはにっこりと笑みを深め、口を開いた。
「…おや。すまないね、君。
どうやら騎士様との楽しいひと時を邪魔してしまったようだ。
見目麗しい少女にこのような表情をさせてしまうとは…。男として心が痛い」
「……ふんっ」
「こらっ、ミオ。そういうのは思ってても態度に出しちゃダメって言ったでしょ」
ぷいっ、と視線を逸らすミオに、母親のような注意をする出久。
ミオはそれにため息を吐き、心底嫌そうに告げた。
「だってコイツ、私を作った奴の1人だもん」
「……………へ????」
とんでもない爆弾が落とされた気がする。
出久が愕然とするも束の間、目的地だった公園へとたどり着く。
そこにいたのは、淡いノルティックブロンドの髪を伸ばした、細身の女性。
眼鏡の奥にある瞳がこちらを捉えると、彼女はこちらへと歩み寄り、軽く頭を下げた。
「初めまして、緑谷 出久。議長がお世話になりました。
わたくし、秘書を務めております、カレン・ノーラ・メイザースと申します」
「ぎ、議長…?あの、なんで僕の名前…?」
困惑する出久に、ウッドマンが笑みを浮かべたまま告げた。
「私は君に会いに来たのだ。
世界を救った、幼きヒーローよ」
ああダメだ。全部バレてる。
差し伸べられた手に、手錠が握られているような気がした。
エリオット・ボールドウィン・ウッドマン…転生ウェストコット被害者の会会長。元プロヒーロー。親友がとんでもないサイコ野郎だとは知らず、唆されるがままにミオを生み出してしまった。現在はウェストコットの後始末を目的とした秘密組織「ラタトスク」のトップとして君臨している。
レディ・ナガン…尾行してたらとんでもないことを聞いてしまった人。猛烈に帰りたいし仕事辞めたい。