居候がおやつ感覚でトンデモ能力渡してくるヒーローアカデミア 作:鳩胸な鴨
「この2人は一般人を唆し犯罪者に仕立て上げ…、それを狩ることで収入を得てる。
このヒーローらは行方不明になる」
この差はなんなのだろうか。
ただの冴えない中学生が誰も殺さず世界を救って、ヒーローとして羨望を向けられる自分が血に塗れ、人を殺している。
いつものように指示を受ける。いつものように殺す。
疲れに麻痺していく感覚に、ナガンは小さく呟いた。
「そいつらを殺れば、社会はより良くなるのか?」
ああ、もう、なんかいいや。
疲れた。終わらせたい。
そんなことばかりが頭の中を駆け巡る。
中学生がデートをするだけで救えてしまう世界の維持に、なんの意義があるのだろう。
人のため、国のため、社会のためと血に塗れた自分が馬鹿みたいじゃないか。
言葉を詰まらせた公安局長に、ナガンは淡々と問いかける。
「綺麗なものだけ見せ続けるのは洗脳と同じじゃないか?」
自分が必死に守ってきた秘密は、ちょっとしたことで土台ごと全て消える。
中学生を怒らせるだけで、全てが無に帰す。
歪んだ社会に守る価値はもうない。いや、見出せない。
だって、女の子とデートをするだけで世界を救える人間が居たのだから。
公安局長は諌めるように「ナガン」と口を開いた。
「必要なことだ。
表のヒーローたちが紡いでくれた希望を誰かが維持しなければ」
ああ。なんかもう、バカらしくなってきた。
デートをするだけで救える世界。
そんなふうに世界が面白おかしいものだったらよかったのに。
今頃は仲睦まじく手を繋いでいるであろう2人を想起し、ナガンは口を開いた。
「…局長。私、転職するわ」
「……残念だが、それは叶わない。
君もわかってるだろう。辞職が何を…」
局長がそう言いかけた時。
ばんっ、と扉が開いた。
「公安局長。そこからは我々が引き受けます」
「なっ…!?」
扉を開けたのは、金色の髪を伸ばした男性。
にっこりと笑みを浮かべる彼に、珍しく狼狽する公安局長。
一体何が起きているのだろうか。
向けられた銃口に反応もできぬまま、ナガンの意識は暗闇へと沈んだ。
この日。あまりにも唐突にレディ・ナガンの訃報が流れた。
♦︎♦︎♦︎♦︎
その頃、例の海岸にて。
弛まぬ努力のおかげか、少しずつ水平線が見えてきた砂浜の中、出久は目を閉じて意識を集中させる。
「〈鏖殺公〉を〈贋造魔女〉で分解して、拳に組み込んでいくイメージ…」
あらゆる物の姿形を自在に変貌させる〈贋造魔女〉を手に入れたことで見えてきた、一つの可能性。
出久は顕現した剣を分解すると、それを腕へと組み込んでいく。
細胞の一つ一つを塗りつぶしていくような、そんなイメージ。
軈て完成したのは、〈鏖殺公〉の意匠が走る異形の腕。
出久はその腕の感触を確かめた後、近くにあった古い冷蔵庫に手を添えた。
「……
ごぁっ、と轟音を立てて、冷蔵庫がぺしゃんこになる。
狙い通り、超パワーが再現できている。
出久は笑みを浮かべ、ミオへと向いた。
「ねぇ、ミオ!今のすっごくオールマイトっぽくなかった!?」
「……わざわざあの筋肉ダルマにこだわる必要ないと思う」
「小さい頃からの憧れだからね!
やっぱり、こういう使い方のほうがイメージしやすくてさ!」
言って、もう片方の腕も同じように異形へと作り変える出久。
条件さえ整えれば使い勝手のいい〈刻々帝〉よりも、発想力を求められる〈贋造魔女〉を先に欲しがった理由はこれか。
「今度は〈灼爛殲鬼〉で…」と体を作り変える出久に、ミオは不思議そうに問いかける。
「…普通に使えばいいのに」
「それも考えたんだけど、やっぱり救助の時に片手が塞がるってよくないなって。
搭乗型の〈氷結傀儡〉はまだいいけど、そのほかはちょっとね…」
「……敵を倒すのがヒーローじゃないの?」
彼女の言う通り、普段、テレビで見るヒーローは「どんな敵を倒した」とかの報道が多い気がする。
ミオの問いに、出久は苦笑を浮かべながら答えた。
「それもヒーローのイメージではあるけど…、本質はやっぱり、誰かを助けて人に安心してもらうことにあると思うんだ」
少なくとも、武器で常に手が塞がっているヒーローなんて見たことがない。
瓦礫の山を掻き分け、何人もの人を救い、底抜けに明るい笑い声をあげるトップヒーローを想起する出久。
と。出久は「中学生がなに偉そうに語ってんだって話だけどさ!」と付け足し、ゴミの収集へと向かう。
「なかなかにガッツのある若者がいるじゃないか。頑張れよ、少年」
そんな出久を、骸骨のような容貌の男が見下ろしていた。
♦︎♦︎♦︎♦︎
「お、おぉー…!
夢のシックスパック、完成…!」
その日の夜。
特訓を終え、シャワーを浴びた出久はパンツ一丁で鏡の前に立ち、感嘆の声を漏らす。
去年まではあれだけ貧相だった体が、今や見違えるほどの筋肉に覆われている。
筋肉バンザイ。やはり筋肉は素晴らしい。
目に見える成果を前にポーズを決めてみる出久に、ミオがシャツを投げかけた。
「ぶっ」
「えっちぃから脱いじゃダメ」
「えっちぃってなに!?!?」
こんなそばかすの冴えない男のどこにエロティシズムがあるというのだ。
そんなことを思いつつ、出久はシャツに袖を通す。
「出久、がっしりしてきたね。
海岸の方もちょっとずつ片付いてきたって、ご近所さんから聞いたわ。
本当にヒーローになっちゃったみたい」
「……ま、まだ早いよ…」
やったことは筋トレとゴミ掃除だけ。
気分の早い母に出久が照れくさそうに言うと、彼女は嬉々として言葉を続ける。
「出久は気づいてないだろうけど、ミオちゃんが来てから、泣きそうな顔で帰ってくる日が無くなったわ。
毎日楽しいって顔で、『ただいま』って言ってくれるの、お母さんすっごく嬉しいの」
「母さん…」
無個性とわかってからの惨めな日々。
届かない夢を遠くから眺め、絶望して帰る日々を送っていた出久を側で見ていた引子からすれば、息子の変化は感涙が出そうになるほど嬉しいものだった。
食事の用意をしながら、彼女は食器を並べるミオに笑みを向ける。
「ウチに来てくれてありがとう、ミオちゃん。ミオちゃんは我が家のヒーローよ」
「……免許持ってないよ?」
隠喩表現が分からなかったらしい。
天然をかましたミオに、緑谷親子は2人揃ってずっこけた。
「隠喩!隠喩だから…!」
「国語の授業でやったじゃん…!」
「………あれって現実でも使うの?」
「使うよ!バリバリ!!」
「『義務教育の敗北』って、こういうことを言うのね…」
成績は優秀で頭もいいなはずなんだけどなぁ。
そんなことを思いつつ、出久はおかずの皿を机に並べた。
骸骨…2人で海岸を掃除する中学生がいると聞いて様子を見に来た。この後、「精が出るね」と優しいおじさんを装ってジュースを奢ってあげた。一体、何マイトなんだ?
緑谷出久…入試当日の朝くらいの筋肉はついてきた。目指せ、オールマイトボディと意気込んでいる。
ミオ…好きな人があそこまで筋肉ムキムキになるのは嫌。