元ヒトのインクリング   作:ノリと勢い

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いざ行こう(着いた)。ハイカラシティ。

 

「………う…おぉっぷ……」

 電車に乗っていた時間が長すぎて体の感覚が完全に狂っていたのかくっそ気持ち悪い。

 

 

「………やっと着いたかぁ……」

 

 

 謎の達成感から一人でそう呟く。

 

 

 此処に来るのには随分と時間が掛かった。ドの付く程の田舎に生まれ育ち、都会を夢見て十数年。

 

 イカとヒトとの形態変化を自由に行えるようになった後もブキの練習をして来た。

 

 

 そして今日、長い間電車に揺られてついに到着したのだ、

 

 イカしたイカが集う場所………

 

 

 

 ハイカラシティへと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうもー、新人インクリングの"イサキ"です。

姓はジンドウ、歳は14、瞳の色は父親譲りの深緑。

元のゲソ色は黄緑。

 

 そんな一般的なゲソ色と瞳の色をした一般通行イカ、こと俺にはある秘密があるのである。

 

 それは……………

 

 

 

 

 

「"前世"と合わせて29年か………」

 

 

 

 

 

 そう、転生者なのである。

 

 はえーすっごい。

 

 

 前世で良く見たものなので割と適応は早かったとはいえ、まるで違う言語、まるで違う生態、まるで違う…と何もかも新鮮な感覚を味わってきましたと。

 死んだ記憶はあるのに生きてる、みたいな感じで正直俺も何がなんだか分かってないんだなぁこれが。

 死因は餅を喉に詰まらせました。馬鹿かな?

 いやしかし、餅は年間に3000人くらい人殺してた筈。その内の1人と考えれば…いや納得は出来ないけども。いくらか仕方ないとは思える。

 ちなみに死んだのは15歳…ピチピチの中学生…

そのせいで精神年齢だけなら三十路手前。

 なんとも言い難い感覚ですわね。

 

 とはいえ母親は毒親、父親は賭け事で破産、そんな碌でもない奴らと離れて一人暮らししていたもんで、死んでも誰に迷惑かけるわけでもないから死んでも良かったし、むしろ嬉しいくらい。

 

 それで生まれ変わって、目が覚めた時にはもうスプラトゥーンの世界ですと。いやー混乱しすぎて頭割れそうだった。

 目の前に映ってた女性の髪の毛がゲソ…イカの足みたいになっているとか、目の周りが黒く縁取りされているとかで割と直ぐに気づけたから良かったものの。

 なんにせよ赤ちゃんの脳では処理しきれなかったらしくて気絶と。あぁ…懐かしい…

 

 転生前の記憶については前の俺自身の名前以外なら基本全部覚えてるらしく、イカの言葉を理解するには手間取ったけど特に不自由なく過ごしてこれた。

 スプラトゥーンのゲームはやり込んでたからこの世界に来れただけで夢が叶ったような気分で泣きそう。こう言うのもなんだが死んで良かった。

 そして続編のスプラトゥーン2発売を知って、そっちはとりあえずヒーローモードのストーリーをニ○ニコとかYou T○beとかで検索して実況を見ただけで終わり。

 

 せっかくならもっと本格的に調べておくべきだったとは今でも思うけども………まあ、うん。

 スプラ3のPVも見た…けど、ストーリーを知る前に死んでしまった。一番ヤバそうなのにストーリーが分からないのは不安だけどまだまだ時間はあるから……まぁ、ええかな、って…

 死んだのに生きてるこの奇跡には感謝してもしきれないが。

 

 

 

 …………もっと、ちゃんと楽しんどけば良かったとかも思いはする。でも今さら思ってもどうにもならないのは何回も何十回も実感してるから割り切れたし、まぁ…良いんじゃないかな。

 

 

 さて、それはそうと。

 

 やっぱテンション上がりますよそりゃあね。好きなゲームとかの創作物に自分を投入して想像してみるのは誰しも1度は経験した事がある筈ですからね。

 しかし次の瞬間にはテンションが下がった。感情がジェットコースターさながらになった。真面目に深ーく考えてみた。すると要するに、あれって軽めの戦争みたいなものじゃねって思っちゃったんだな………ナワバリバトルもガチマッチも。

 

 

 シューターで撃ち殺されるの嫌だぁぁぁ……

 

 ローラーで轢き殺されるの嫌だぁぁぁ……

 

 ブラスターで爆殺されるの嫌だぁぁぁ……

 

 別に痛みを感じないわけじゃないし。

 

 そりゃあ鉛玉とは比べ物にならないくらい痛みは弱いけど、そこそこの高速で射出される液体をモロに食らって痛くないはずがない。少なからず不快だ。

 

 バトル反対。

 

 でも世間が推奨してるという理があるのだ。

 バトルするのがトレンドだからしなきゃ時代遅れとか言われるけどそれは嫌だ。

 はぁ、世知辛い世界。

 

 

 出身は残念ながらシオカラ地方じゃない。

 その隣だ。ド田舎だ。

 シオカラ地方と言えば思い出した事を話そう。

 

 

 ちびっこ民謡選手権、というイベントをご存じだろうか。ミステリーファイルとか考察動画とか見てたら分かると思うが、説明すると文字通り『ちびっこ』が『民謡』の『選手権』をする大会でありましてね。

 んで俺には妹が居ますと。

 で、妹がその大会みたいなのに毎年行ってましてね?そこそこ歌が上手いから2位〜3位くらいをキープしてたんですよぉ。

 当然保護者として両親と俺も着いていきましたと。

 

 

 そしたら、誰が居たと思う?

 

 アオリ&ホタルとヒメ。どっひゃー。

 

 アオホタとヒメは別の年だったけども、それでも原作で出てきた俺も知ってるアイドルが、生で!生で見れた喜びに打ち震えた。

 画面の向こうに夢見た世界で、向こうにしか見れなかったキャラクターを見て、少なくとも俺は興奮しないなんて無理だった。

 

 

 

 シオカラ節……あれはテンションMAX。

 そりゃあ【きけば天国、歌えば極楽】と言われるわな、と納得できるものであった。目の前で見れたのもあって喜びもまたひとしお。

 しかもシオカラーズ、まだ幼少期だったからね。

 成長途中でアレは才能の塊ですわマジで…

 

 で、問題のヒメちゃん。簡潔に言うと…

 

 

 

Q.こいつをどう思う?

 

 

A.凄く…音痴です………

 

 

 

 

 

 こうなる。

 

 ごめん、原作は知ってるからなるべく庇護したいんだけど、あの喉はシオカラーズと違う意味でヤバいとしか言えない。ほんとにごめんよ。

 

 

 

 思い返せば…………あー………なんだろう、

 十何年か前の出来事。時間は早いねぇ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 妹の付き添いで毎回来ているちびっこ民謡選手権は初め見る前よりも思ったより面白く、次はどんな人が、どんな曲を歌うのだろうと呑気に考えていた。

 

 妹に頼まれ渋々来てはいるけど、なんだかんだ楽しみにしてる自分が居た。

 

 

 そして何番目か、俺の前世での推しの名が出た。

 

 

 

『次に歌うのはヒメちゃんで〜す!』

 

 

 司会の人が次歌う人の名前を呼んだ。

 

 

 

 

 

 ただそれだけなのに、

 

 それだけなのに何故か背中を冷や汗が伝った。

 

 なぜだろう。推しを見れる事が、大粒の汗が流れるほどに楽しみだろうか。うん。きっとそうだろう。きっとそうなんだ。

 

 

 

 

 

 しかし、不思議と汗は止まるばかりか量が多くなってくる。

 

 

「それではヒメちゃん、どうぞ~!」

 

 俺は無意識に、1度死んだ事でより鋭敏になった生存本能のままに、少しだけだが身構えて防御姿勢をとり、衝撃から耳と身体を守る様に体勢を変えた。

 

 

 

 ………が、その少しが運命を分けた。

 

 

 

 

 

〘マ"ーーーーーーーーー!!!〙

 

 

 

 

 刹那。

 吹き荒れる暴風と衝撃波に会場は包み込まれた。

 

 その災害に巻き込まれた機材は片っ端から故障し、客の殆どは失神した。運良くそれに耐えた者も脳震盪で意識を刈り取られてしまい…

 

 

 意識があるのは、これを引き起こした元凶のヒメと、前世の記憶を持つモブだけとなった。左右を見ると気絶した妹と両親が見える。

 

 

 

 顔を上げた。

 

 

 

 見回すと、目に見えるのは椅子に倒れ掛かるか転げ落ちた観客と、煙を上げる機材の山。

 

 

 

 

 

 

 そして、そんな地獄を生み出した彼女と目が合った。

 

 

 

 合ってしまった。

 

 

 

 

 

 寄ってくる。怪物が寄ってくる。

 

 なるほど確かに。前世でかすかに見た『ライブハウス荒らしの白い怪物』という異名が自然と浮かんでくる。

 

 

 

 歪む視界でなんとか捉え、震える胸で呼吸をし、

 

 まだ耳鳴りのする鼓膜で声を聞き取る。

 

 

 

 

 

 死んでも推し続けた推しの、俺への最初の言葉。

 

 決して聞き逃しはしない。

 

 

 

 ………なんか寂しそうな、悲しそうな目してね?

 

 どんな言葉が、飛びだ

 

 

「オマエ、倒れないのか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………えっ、あっ、……へい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

正直今すぐ倒れそうですあっはっは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 耳だって塞いで、地震から身を守る様な姿勢を取ったにもかかわらずあの威力。

 感覚的には頭が割れるみたいだった。恐ろしい………!!もはや兵器。2のDLCで実質的な切り札となっていたのも当然と言わんばかりの破壊音波だった。

 

 

 

 確かに任天堂のヒメの

 【特殊な声帯を持っている】

 っていう設定には沿っているけどもね。

 

 ………けどもね?????

 

 

 

 生で聴くとあんな破壊力(物理)があったとは知らなかった。

 

 

 

 やはりあの子にはイイダが不可欠だということが分かったね、あのままではいけない。

 いつか死人が出る。

 

 

 

 で、よ。

 なんか知らんけどヒメちゃんに気に入られてオタクとして感無量。

 

 曰く、『アタシの歌聞いても倒れなかったの、オマエだけでよ。…何回も聞いてくれてるオヤジでも倒れるのに。………凄いな、オマエ。』とのことで。

 

 …………歌?音響兵器か何かの間違いでは?

 

 喉元まで出かけたその言葉は飲み込んだ。

 

 というか俺がっつり防御姿勢とってましたけどそれはいいんですか?いや気付かれたら困るんで墓場まで持っていきたいですけど。

 

 

 

 

 

 その年から何年間かヒメがちびっこ民謡選手権に参加してたけど、1度聴いた人はあの恐怖を知ってるから、ヒメの後に自分の娘の番が来る、っていう親も一時的に会場の外へ出るという事態が発生して、と…

 おかげでヒメの時には会場はもうスッカスカ。

 ヒメの親父さん?的な人と知らん人が2、3人居るくらいになっているだけだった。

 

 

 俺?俺は聴き続けましたよ、もちろん。推しのお歌やぞ?聞かん選択肢があるかい、ないのかい、どっちなんだい!

 

 聞かなーーーーーーい訳ねえだろうがァ!!!!!

 

 

 さっき言った、初めてヒメの歌を聴いたときに言ってた言葉は、実は他にもある。

 

 

 それも関係してくるんだけどもね?

 

 

『次も……!!絶対、ゼッタイ聞けよな、アタシの歌!!』

 

 

 

 ははっ。

 

 随分と良い笑顔で死刑宣告するじゃん。

 

 

 

 

 てなわけで承諾してしまったんだな。

 推しキャラに言われて断るのは反則だ。

 というか断われない。後悔もない………

 いや後悔は若干し……してない。

 

 

 

 で、何回も聴いてる内に割と慣れましたと。

 まぁ一回聞いた時点で程度は知れてましたしおすし。

 イヤホンの音量最大で環境音ASMR聞いてる時に某カードマンに『カードマ(略)』と叫ばれた時の方が正直キツかったですしおすし。

 

 変な語尾ザウルスね。

 

 

 

 ついには耳を塞がずに聴いても身体に何の異常も出なくなって、後に少しクラクラするだけになったし、衝撃波に打ち勝つ強烈な体幹も手に入れた。

 

 感謝すべきなんだろうけど、なんか…いや、なんか……

 釈然とはしねえよなぁ???

 

 

 で、ヒメとかアオホタがちびっこ民謡選手権に来なくなってから数年。ヒメは引っ越して行き疎遠になり、そっからは順調に金を貯めながら、マンション代とか電車代とか、後は普通に日用品代だとか………様々な問題(ほぼ金)はあったものの…………………

 

 なんとか上京してきた訳だ。

 

 

 

 別に田舎が嫌だったんじゃない。

 ただ………

 

 

 シンプルに都会暮らしの方が便利だからぁ!

 という血も涙も無い理由からだ。

 許せ、我が妹よ。

 

 

 アタマ、フク、クツ。出発前これらの"ギア"は母が選んでくれたが、イカんせんファッションセンスが皆無なので妹が決めた。だが妹も皆無なので最終的に自分で決めた。

 

 ちぃなぁみぃにぃ、俺のファッションセンスが普通で一般的な感覚なのは調査済みだ!新しい都市に行くのにオシャレさが皆無?そんなことは許されない、許されることでは無いのだ………

 

 

 イカはオシャレとナワバリバトルにはうるさいらしいし、前世を経験したからこそ分かるが服装はとても重要。

 男友達だけで遊ぶのと女友達も混ざって遊ぶ時の服は変えるだろ?そういう事だ。

 

 俺は女子と遊んだ事あるのかって?

 

 ハハッ、どうしてそんな事を聞くんだい?

 次はギアの事を話そう。

 

 

 

 今俺の付けているギアは、

 

 

 アタマ: ゾーニンゾーン

 

 フク: クロマックカラメ

 

 クツ: ドンドロシューズ

 

 以上の3点だ。

 

 あぁ、言いたいことはわかる。原作にないギアよな。

 

 そこらへんはまぁ、原作に出ているギアはイカ世界にあるギアやブランドの一部にすぎないって事でね。はい。

 

 原作でお気に入りのフクはジップアップ カモ。個人的な理由だけど迷彩柄のかっこよさからは男である限りきっと逃げられない。

 

 ここから2つ程先の駅の近くで新しい都市の建設が計画されている最中らしいが、多分それがスプラトゥーン2の舞台ハイカラスクエアだろう。どれくらい先かは分からないが、向こうが受け入れを開始したら引っ越す予定だ。

 

 

 それまではゆっくりとナワバリバトルを……

 

 する前にタコツボバレーへ突撃じゃあぁい!

 

 

 

 

 

 

 

 









名前の由来↓



ケンサキイカ【剣先烏賊】

ツツイカ目ジンドウイカ科

三浦半島以南に生息。
ヤリイカと反対に産卵期は夏場。
ヤリイカの産卵が終了した夏が旬。

東京市場ではアカイカ、山陰ではシロイカ、標準和名あかいか、市場名はムラサキイカという混乱振りで紛らわしいイカだが、ヤリイカよりも身が厚く、かなり美味なイカ。

これを干したスルメは「一番するめ」と呼ばれスルメの極上品とされる。形も良いので結納などの縁起物に使われる。

姿はヤリイカと似ているが、ヤリよりも大きな触椀(下足)で判別できる。東南アジアから日本にかけて分布し、捕獲される地方によってその姿が微妙に変化する。また水揚げ直後は紅い体色が一日後には真っ白になる。ために地方名が多く、紛らわしくなる要因。




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