ひとまず落ち着き自己紹介も済んだ頃。アタリメさんと話すのは存外楽しく案外長くまで話し込んでしまった。
外は染まり始めた夕空の下でイカ達が行き交っている時間だろう。名残惜しいが、そろそろ帰らなければならない。
夜まであまり時間が無い。
「アタリメさん。じゃあ、そろそろ。」
「ヌ。もう帰るのか。」
仕方がない。だって金が無いのだから。
GOLD。Money。
様々な呼び名を持つが、結局の所今の俺に足りないのは金である。潤沢な資金である。
Splatoonの世界…ゲームの世界とはいえ、ブキ、ギア、クリーニング。それらには全て金を必要とする。
しかも、今の俺にとってはこの世界もそこそこ過酷。
衣、食、住。ブキも定期的にメンテナンスに出さなければならない。ギアだって洗う必要がある。洗濯機を買うにせよコインランドリーを使うにせよ金を使う。
前世で操作していたキャラの様に、ただバトルをしていれば良いだけではない。俺はこの世界で生きているのだ。
バトルに勝った時手に入れる賞金はバトル参加前に運営に払った参加費や町の税金から支払われている。
そう、バトルしようにも参加費が要る。一応参加費程度なら払えるとは言えそれで負けようものなら目も当てられない。大体今の俺には正確な知識が無いのだ。
実家にはテレビもネットも無いため実際自分がどれくらい強いのかすらも判断できない。なんなら今の俺はスマホ……いや、この世界だとイカホか。イカホですら持っていないのだから。
その点は恨むぞ、今世よ。
俺が努力したと言っても、それはこの世界でのスタンダードかもしれない。なにしろ田舎だ。しかも俺の精神年齢は一応29歳だ。小中学生当時は多少下がるとはいえその精神年齢で小学生とつるむのはきつい。
故に…………!!ぼっち…………!!!
田舎でぼっちである辛さは尋常じゃない。両親や祖父母のお陰で村八分になっていないとはいえだいぶハブられてきた毎日だった。情報もほぼ無い。なにしろ情報源が新聞しか無いのだから。
しかし、前世の様に何事にも金が要る。
これは変わらぬ事実である。
………何度も言うが、これは現実。バトルで負け続ければ金も無くなるし、金が無ければブキの整備も出来なくなり、待っているのは終わりだけ。
自分に問う。バトルで負けた時、リザルト画面であれほどまでにイカ達が悔しがっていたのか考えた事はあるか。
操作している自分達は。
『負けちゃったな、まあ良いか』
で済ませていたのでは?
いや、それでいい。それでいいんだ。だってそれはゲームなんだから。自分とは別の世界での運命の断片を味わっているに過ぎないんだから。気に病むことは少しも無い。
でも、現実なんだから考えなくちゃいけない。
ウデマエが上がれば凄いと言われるのは変わらない。S+やXともなれば尊敬の眼差しを浴びるようになる。英雄のように見られるだろう。
ほうら、変わらない。
まあ、色々あげつらってきたが要するに金が無いのだ。
一応ある程度金は持ってきたが、ガロン系列のブキをひとつ買えば直ぐに消えるほどの端金。都会の物価が高くて驚きの連続である。
バイト、やらねば。
「のう、おヌシ、気付いておるか?」
……雰囲気が変わった。
「っ!?どうしまし………あ。はい。何体か。」
少し遅れて気付いた。何かの気配がする。数にすれば十数体か。自分の実力を試す良い機会……………そういえば俺ブキどこ置いてきたっけ?
ッス────…………………………
……ブキも乗せる場合の電車運賃が高いから置いてきたんだっけか。そうかそうか。そうだったそうだった………
あ、いや、そうじゃない。どうすれば良い。司令に全て任せ…いや、いくら強そうとは言え御老体だ。しかも強そう、である根拠は雰囲気のみ。少々信じがたいのは確か。よ、横に転がっている傘を投げて敵に当てるか…?駄目だ物量で押される。逃げ…いやここは前線基地だぞ。逃げればすぐマンホール……タコが地上へ行く。っ…でも…………!!!
「司令…!!一旦地上へ………………………?」
居ない。司令が居ない。どこだ。まさか、もう?いや馬鹿な。そんな筈はない。俺の横で何かが動いた気配も感じなかった。
のに。
「ははは………はぁ………………………?」
通常、年老いたイカ………インクリングは、体内のインク袋の中にインクを溜め込めなくなる。勿論それはアタリメにも例外無く当て嵌る。
だが、体内に溜め込めないのならブキの中へインクを直接溜めればどうだろうか。
本来ならば体内のインク袋と背中に装着しているインクタンクを接続し、そこからさらにブキへと繋げることでインクの出力を可能にしている。
しかし先程話したように年老いたインクリングは体内のインク袋にインクを溜められない。
だが戦後。多大な犠牲のもと勝ち得た陣地の最前線にて、誰かが見張っていなければタコたちが地上への侵略を早期に処理出来ないかもしれなくなった。人手は足りず老人ばかりが増えゆくばかり。人口の再生産も追いつかず摩耗が進んでいた頃に遡る。
ならば、と、当時アタリメ率いるカラストンビ部隊へ所属していたブキチの祖父にあたるカンブリア・ブキノサイが大ナワバリバトルで使用していた零式竹筒銃を改造・改良し、銃の発射口をインクへと押し付け吸い上げることで、威力はそのまま。体内でインクを溜め込まずしてブキを使用する事が可能になった。
それこそが。
……ヒト速のギアパワーでも積んでいるのだろうか。
当然、ゲームの様にイカの身体能力が全員同じなんて事は無い。体格や力によって、泳ぐ速さ、走る速さ、エイム力、勿論ブキの重さも関係してくる。それらの情報から自分にどのブキが合っているのかを選ぶのがこの世界のスタンダード。
ギアパワーを付ける事である程度は補えるが、それでも老いによる弱体化はそう安い物では無い。
アタリメ司令のフク、クツのギアパワーは何か知らないが、アタマのギアである【でんせつのぼうし】のメインギアパワーは攻撃力アップだった筈。
なのに、これ程までに速い。
なのに、これ程までに圧倒している。
戦闘開始時には増援も含めて20体程度のタコが居たものが、この十数秒で壊滅状態だ。
あ、これになりたい。
…………………漠然と、そう思った。
長年ぼうっとして、何となくでやって、しっかりとした目的もなく彷徨って、死んで、生き返って。
愛してくれる家族と会えて。
それでもやりたいことが分からなかった自分の心に、やっと炎が灯った気がした。
何かが変わる気がした。
変えたくなった。変わりたくなった。
いつか見た夢を思い出した。
これを『生きがい』と呼ぶのなら。
「ふぅ……きやつら、久々に来おったわい………体も動かしにくくなっていたし、そろそろ孫に任せるかのゥ……」
「司令。」
「ヌ……どうし…「俺も」…ヌ?」
何かを感じてくれたのか。ほのぼのとしたオーラから再度真剣な雰囲気へと変わる司令へ言葉を投げかける。喉から絞り出す様に心の声を叫ぶ。
ヒーローになれるかと。
「俺は、ヒーローになりたいです。」
「な…なれますか?」
「…………」
司令の双眸が俺の目を見つめている。突き刺すような視線がそれだけで痛い。老いても変わらないぬその目には、確かな軍人としての。
………"ヒーロー"の最前線としての光が見えた。
「よし!今日からおヌシをNew!カラストンビ部隊隊員の………0号に任命する!」
はい……………え?軽い。
…………結構、決心して言ったんですけど。
「ヌ?なぜ1号じゃないのか…じゃと?」
あ、えっと………言ってないんですけど。
「実はのゥ、ワシには孫がいての。もう1号と2号にして欲しいと約束してしまってるんじゃ。でも正式には任命してないから本当ならヌシの方が番号は若くなるんじゃが、約束を破るのは不本意なのでのゥ………」
…はぁ…………?
「なので、おヌシは今日からNew!カラストンビ部隊隊員0号じゃ!」
はい。………はい?
「隊員になるにあたって、ヒーロースーツを与え…たいんじゃが………今はまだ作り終わっていないのでな。帽子だけ渡しておくぞい。」
【でんせつのぼうし】をてにいれた!
は?
いや、ちょお〜〜〜…………………え?
…………は?
………あ、えーと、ちょっと疲れたんで帰ります。
「またくるんじゃぞー。」
やさしいせかい
やさいせいかつ
駄目だもう頭働かん帰ろ。
「今日は……ありがとうございました。」
「ウム、じゃあの。」
「良い目じゃのゥ。」
匠の業。
高評価&お気に入り登録、
ぜひともお願いします。