自分の命を捨てる覚悟で偽物の妹を作った馬鹿の話   作:カバー

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国家の犬としての第一歩

 

 

 

パウラ視点

 

 

 

 

 

数日ほど経つと、一人の初老の人物が私の眠っている一室にやってきた。

何やらあらぬ方向を向いている、悪趣味に光る金歯が特徴的な不気味な人物だ。

 

彼は私の腕と片目の怪我の様子をジロジロと見ると、顎を擦って呆れたようにため息をついた。

 

「ふむ。…なるほど。これは石がないと治せんなあ。今は手持ちがない。動ける程度にまで直せばいいのかね?」

 

 

 

ここ数日ほど私の様子を見てくれていたラストさんが彼を手配したらしい。

石とは賢者の石のことだろう。となると彼は錬金術師ということになる。それも医学方面の錬金術師。

 

「ええ。そうしてちょうだい。」

 

「なるほどなるほど…では。」

 

そう言うと、彼はカバンから血液のパックを取り出し、それを私の傷口に当てて錬成陣を描きはじめた。

 

…それを見て理解する。血液は人間の、生物の最も重要な構成物質の一つだ。90%近くは水分だが、残る10%に蛋白質や糖質といった物質が含まれている。

錬金術は等価交換が原則。そして創造する物質と同質の物質が必要になる。

つまり彼は血液を使って、私の体の不足分を錬成して補うつもりなのだろう。

 

錬成時の赤い閃光が部屋を照らす。すると、私の怪我は体が動かせる程度には回復していた。無論、無くなった腕と片目は無いままだが。

流石にそこまで治すにはそれこそ大エリクシル…賢者の石が必要なのだろう。

 

私は上半身を起こして腕に刺さっている点滴の針を抜いて、ゆっくりと肩を動かした。

寝たきりだったので、かなり鈍っている。

 

「…どうも。ありがとうございます。」

 

錬金術師の彼は、不気味に眼鏡を光らせてニヤリと笑い、礼を言った私に不気味なほど優しく答えた。

 

「別に構わんよ。当然のことだ。人柱の君も体を大事にな。何。石があれば、すぐに全快するとも。」

 

私は笑って自嘲気味に答えた。

 

「いえ。私はこの腕と目を治すつもりはありません。私の愚かさの証ですから。」

 

彼は、私の発言の意図が分からないと首を傾げたが、まあどうでもいいだろうと首を振って、部屋を去っていった。

 

 

********************

 

 

 

 

その翌日、私は生まれて初めての蒸気列車に乗って、アメストリスの首都であるセントラルへと向かうこととなった。

駅にまで向かうまでに、私はあまりの新鮮さにうろちょろとウェストシティの街中を見て回った。

 

「後でいくらでももっと立派なセントラルの店を見れるわよ。」

 

そうラストさんは微笑みながら私を嗜め、ウェストシティの駅へと私を連れていった。

 

 

 

ゴトンゴトンと音を立てながらも、列車は羊や牛が放し飼いにされている農園地帯を通り過ぎていく。東部は近頃荒れているらしいが、西は長閑なものだ。

 

ラストさんと新聞を読んでいると、軍用洋服用の羊毛の生産地であるリゼンブールの駅前で、イシュヴァール人のテロが発生したらしい。駅前が焼き払われたそうだ。

 

人が死んでも、妹が死んでも少し離れた世界はいつもと変わらない。

それがどうにも歯痒くて、悔しかった。

 

 

駅の椅子の座り心地は固くて落ち着かなかった。

バーンタイムの実家のソファと椅子ぐらいにしか私は座ったことがなかった。

庭の石より酷いんじゃないかな…?

 

「あら、じゃあ私が抱っこしてあげましょうか?」

 

一緒に来てくれたラストさんが私を抱っこしてくれると冗談めかして言ったが、流石に恥ずかしいので辞退した。

何よりあの豊満な胸が背中に当たって数時間過ごすのは耐えられそうに無い。

 

エンヴィーと名乗っていた中性的なホムンクルスは、先にイシュヴァールに戻ると言って、金髪の軍人へと化けた後に去って行った。

 

エンヴィーがイシュヴァールでするだろうことを想像すると、最低な気持ちになるが、いずれは私も同類になる。だがそれを後悔するつもりはない。

 

私はもう決めたのだ。悪魔にでもなる。妹ともう一度会えるなら。

 

 

 

セントラルの駅は、雨に影響されないためか、ドーム型だった。流石に5000万人国家の都市の駅だけあって、活気がある。ウェストシティともまた違う、色々と文化がごちゃ混ぜになっている雰囲気だ。

 

「建物の作りが全然違いますね。何といえばいいのか…まさに最先端といった感じです。」

 

私はキョロキョロと駅を出た後も建造物を眺める。ウェストシティでもポツポツとあったが、ここは殆ど全ての建物に電気が通っているようだった。

至る所に電線や換気用のダクトが通っている。

 

「まあ何といっても"お父様"もいる中央だからでしょうね。この国の"全て"を与えたのはお父様だもの。」

 

「それってどういう…?」

 

私が問いかけると、ラストさんは答えようと口を開いたが、その前に私たちの目の前に立派な軍用車が2台止まった。

先頭の一台の中から一人の立派な軍服に身を包んだ初老の軍人が現れ、ラストさんは口を閉じた。

褐色の肌に髭を蓄えた、なかなかに体つきが立派な老紳士といった風体だ。後ろの車では護衛らしき軍人たちが目を光らせている。

 

「やあ、長旅ご苦労様、ラスト。彼女がそうなのかね?」

 

そう声を私たちにかけて、彼は笑顔で私の方を見た。

 

「ええ、そうよ。レイブン中将。国家錬金術師試験には間に合ったかしら?」

 

「無論、間に合ったとも。私が中央司令部まで送ろう。さあ、乗りたまえ。」

 

彼はラストを先に車に乗せ、私を中央にして挟むように車に乗り込んだ。

 

「出したまえ。」

 

運転手はその一言で車を発進させた。…中将とはいきなり大物だ。流石に少し驚いた。

本当にこの国を牛耳っているのだな、そのお父様とやらは。

 

「私はレイブンだ。君のことはエンヴィーから聞いているよ。同じくあのお方に選ばれし者として、君を迎えられて嬉しく思うよ。」

 

そう言って彼は握手を求めてきたので、私も応じた。ごつごつとした軍人の手だ。

 

「パウラです。こちらこそ。"選ばれし者"ということは、レイブン中将も扉を開けられたのですか?」

 

そう私が問いかけると、彼はきょとんとした後、大声で笑って私の問いかけを否定した。

 

「いやいや!私は錬金術師ではないのでね。ただ、あのお方の元で軍を動かすことで、計画のために貢献しているに過ぎんさ。まあ、私以外にはなかなかできんことではあるがね。」

 

私はそのさらっと自慢を挟んだ説明を聞いて、ラストさんとエンヴィーの説明を思い出した。

 

「血の紋…ですか?」

 

私の問いかけに、レイブン中将は軽く咳払いをすると、笑顔で頷いた。

 

「まあ、そうだ。だがそれについてはまた後で話そう。今は君の国家錬金術師試験についてだ。」

 

「試験は二日後に行われる。イシュヴァール殲滅戦に向け、新たな人員を補充するのが狙いだ。まあ、それは建前で実質は君のためなんだがね。」

 

それまで車の窓から外を眺めていたラストさんが、そこで会話に入ってきた。

 

「その前に義手を用意しなくてはね。軍の技師は用意できてるんでしょう?」

 

「無論だとも。ただ、本当に良いのかね?あのお方なら問題なく腕程度直せるだろう?」

 

私はレイブン中将にはっきりと答えた。

 

「これは私の誓いなんです。二度と誰かに騙されて妹を失ったことを忘れないという。わがままかもしれませんが、お願いします。」

 

彼は目を細めて顎を摩って暫く唸っていたが、まあよかろうと頷いた。

そして暫く車を走らせると、中央司令部に到着したようだ。

 

…流石に軍の中枢機関が集まっているだけあって、立派な建物だ。警備の多い外門と正門を潜り、敷地内に入る。

 

特に大総統府など他の建築物とは比較にならない。立派に聳え立ち、セントラルの街を見下ろしている。

車を降りて歩いて建物正面まで来ると、大総統紋の旗が掲げられ、威圧感を与えている。

白塗りの建物だけど、清掃が大変そうだなと何となく思った。

 

ラストさんは後で会いましょうと言ってどこかに去っていった。

 

レイブン中将が建物に入ると、兵士たちが敬礼した。それを当たり前のように通り過ぎて、レイブン中将は私を連れて階段を上がり、機械だらけの一室に入った。

 

「技師はいるかね?」

 

 

 

彼が呼びかけると、慌てて一人の眼鏡をかけた女性が機械の山の中から這い出てきた。

 

「は、はい!中将閣下!今日は何のご用で?」

 

「彼女に義肢を見立ててやってくれたまえ。できれば2日後の国家錬金術師試験までに用意して欲しいのだが。」

 

「は、はあ…分かりました。ですが、機械鎧を整備するのはその期間ではまず無理ですよ?簡易的な義手になってしまいますが…。」

 

その答えに、レイブン中将は無言で押し黙って彼女に圧をかけるが、それでも答えは変わらないらしい。

 

「そ、それはもう頑張らせて頂きますが!無理なものは無理です!」

 

「ふむ…どうする?パウラくん。」

 

私は少し黙って考えた。が、片手でイシュヴァールに向かうわけにも、試験を受けるわけにもいかない。

 

「構いません。後々に余裕ができたら機械鎧にすれば良いだけですし。」

 

「そうかね。では私はここらで失礼するよ。ああパウラ君、少し耳を貸したまえ。」

 

そう言ってレイブン中将は私の耳に口を近づけると、小声で囁いた。

 

「試験だがね、そこまで心配することはない。私たちが裏で手を回すから、君の合格はほぼ確実だ。」

 

私はまあだろうなと思いつつも、レイブン中将にニヤリと笑って不敵に言葉を返した。

 

「私は余裕で合格しますよ。なんせ、天才なんで。」

 

そう答えると、レイブン中将ははガハハと豪快に笑って、私の肩をバンバンと叩いた。

 

「いや、結構結構!それでこそだとも。扉を開けた君には要らん気遣いだったな。では楽しみにしているよ。」

 

そう言って彼は笑って去っていった。私は技師の女性から椅子に座らされ、体の測定をされた後、数時間かけて木製の義手をつけられた。

 

「木製ですが、加工してあるのでそれなりに丈夫ですよ!今は少し痛むかもしれませんが、じきに収まります。この薬を今晩は飲んでください。痛み止めです。」

 

彼女はセントラルの技師だけあって、実に仕事が早かった。私は感謝をして、兵士の人から案内された外来の客用の豪華な一室で眠った。

言われた通り、薬を飲んでも腕と肩の付け根がキリキリと痛んだ。でも、こんなのシトリーを失った痛みに比べればなんてことはない。

 

そう歯を食いしばりながらも、私は夜を明かしたのだった。

 

 

********************

 

 

そうして迎えた二日後。何とか義手もそれなりに慣れてきた私は、無数の遥かに年上の候補者たちからの、好奇の視線を浴びながらも、筆記試験を受けていた。

 

…なにこれ。めっちゃ簡単じゃん。

錬金術の基礎ができれば余裕だろう。

私はほぼ満点の確信をしながら筆記を終えた。

 

そして筆記を突破した私は、精神審査の試験に移った。ようは、ヤバいやつを雇わないように、という試験だ。

ただ、これは試験以前の難易度だった。なんせ試験官は…

 

「うむ。合格。後は実技だ。頑張りたまえよ。」

 

レイブン中将だったのだから。何を答える間もなく、勝手に回答を作られて合格にされていた。

 

そしていよいよ迎えた第三次試験の実技試験。

何と試験官はかの大総統本人である、キング・ブラッドレイだ。

 

いくら何でも人馴れしていない私にはハードルが高くないか?そう思いながらも、私は義手にバーンタイムの錬成陣を刻んで準備を終えた。

 

軍人二人に案内されて、試験会場へと向かう。そこではすでに、キング・ブラッドレイが待ち構えていた。

 

「…ほう。義手に錬成陣か。」

 

意外にも大総統は若かった。少なくとも今この会場の端で私を見つめているレイブン中将よりは若々しい。

黒髪のオールバックに黒い眼帯をして、静かに微笑んでいる。

 

「始めたまえ。」

 

私はその開始宣言共に、両手を合わせた。円を作り、力の循環を表す。そして真理を見た今の私なら…!

 

私は錬成陣なしの錬成で、一つの石像を作り上げた。それを見て、軍人達がざわめきだす。

 

「何を考えているのだ!」

 

「無礼な!」

 

 

 

それは、イシュヴァール人の神、イシュヴァラを模った石像だった。キング・ブラッドレイは目を細めて呟いた。

 

「何のつもりだ?」

 

私は義手を掲げて、空を掴む。そして風の流れを再構築し、石像と共に作った砂利を巻き上げ、風の刃を作る。

 

これは、覚悟の証だ。

私はイシュヴァールで、悪魔になるという宣誓だ。

 

私はその風の刃で、石像の首を一刀両断した。イシュヴァラの像の首が、ごとんと地面に転がり落ちた。

 

すると、ざわめきが歓声に変わった。軍人達は、それでこそだと手を叩いて嬉しそうに歓声を上げた。

 

キング・ブラッドレイも拍手をし、私に渋い顔で真剣そうに言った。

 

「悪くないデモンストレーションだった。神などという存在しない者を否定する、実に優れた錬金術の使い方だ。」

 

「ありがとうございます、大総統閣下。」

 

「うむ。下がりたまえ。」

 

そうして私はお辞儀をして部屋を退出した。

そして合格発表の日、レイブン中将が私に合格した証明書と錬金術師の銀時計を持ってきたのも、私にとっては当たり前のことだった。

 

私は、もう止まれないのだから。

 

 

 

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