自分の命を捨てる覚悟で偽物の妹を作った馬鹿の話   作:カバー

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人間兵器になりきれぬ少女

 

 

 

イシュヴァールの北西に位置する、比較的中央に近いこの街。

この地に住むイシュヴァラを信じる銀の髪と赤い瞳の数百人の人々が、焦燥した様子で走り回っていた。

 

怒号が飛び交い、迫り来る恐怖を振り払おうとしているかのように必死に走り回っている。

 

「本当にアメストリス軍は我らを殺し尽くすつもりなのか!?」

 

「知るかよ!とにかく東に…南か!?アエルゴまで逃げ切れば…!!」

 

男たちが必死にそう叫びながら、ありったけのアエルゴ製のライフル銃や鈍器を持ち寄り、来たる争いに備えようとした。

 

アメストリスの南に位置するアエルゴは、この機会に乗じてアメストリスの国力を削ろうと、密かにアエルゴ製の武器を内乱で反政府運動をするイシュヴァールに持ち込んでいたのだ。

 

彼らなら自分たちを助けてくれる、そうイシュヴァールの民が藁にもすがる気持ちで信じるのも当然といえるだろう。

 

「私達は逃げましょう!さあ!」

 

「お父さんは!お父さんはどうするの!?」

 

「大丈夫!父さんもすぐに行くからね…ッ…なんてことだ、神よ…。」

 

その街に、砲弾の雨が降り注いだ。

そして、丘の向こうから青い軍用コートに身を包み、質の良い規格品のライフルを担いだ軍勢が姿を現した。

 

「アメストリス軍だ…!!」

 

 

 

 

「押し込めェ!押し込め!総員!撃ェ!!!!」

 

その上官の小太りの男の指示により、凄まじい数のアメストリス軍人が街に侵入し一斉にライフルを発砲する。

 

「逃げろ!逃げっ…」

 

「なんて数だ…!!」

 

その射撃の嵐に、次々とイシュヴァールの戦士が倒れてゆく。

が、建物の影沿いに数人の屈強なイシュヴァール人がアメストリス軍の側面を突いた。

そして次々と素手で彼らを屠っていく。その戦闘能力は、まさに厳しい土地で鍛えられた彼ら独自のものだ。

 

 

「ぐっ!イシュヴァラの武僧兵共が…!!」

 

そう忌々しそうに小太りの上官の男が愚痴を溢すと、隣でその様子を見つめていた一人の屈強な男が、迫り来る武僧兵達に歩み始めた。

身長200cmを超えるほどの褐色肌の大男だ。

威厳溢れるカイゼル髭が、砂風に靡いた。

 

「流石にやりおるな。どれ、儂が行こう。」

 

 

武僧兵達は、無言で彼を睨みつけると、打ち据えたアメリストリス兵達を踏み越えて、一斉に彼へと走り出した。

 

褐色の大男は、両腕の厳ついガントレットを打ち鳴らすと、高らかに叫んだ。

 

 

「我が名は鉄血の錬金術師!!バスク・グラン!!」

 

「鉄と血!!即ち兵器と兵士!!!」

 

 

 

武僧兵達が今にもバスク・グランの至近距離にまで駆け寄って入ろうとする。まさに疾風だ。が、それでも遅かった。

 

「この身こそ!!戦の先駆けとならずになんとする!!!ぬうううおおおおお!!!!」

 

 

彼は両腕のガントレットを凄まじい力で地面へと叩きつけた。

武僧兵が、彼の頭を叩き潰そうと鈍器を振り上げた、次の瞬間、目の前の地面が盛り上がった。

 

「な!?ごっ…!!?」

 

そこから無数の鉄製のモーニングスターが現れ、その武僧兵を空中へと弾き飛ばした。さらに無数の砲台が錬成され、その砲弾が…一斉に火を吹いた。

 

 

 

ドドドドドドドドドドドドドドンンンン!!!!!

 

 

その砲撃は、武僧兵達数人諸共、街の北の一角を綺麗に粉微塵に吹き飛ばした。

 

その光景を見て、アメリストリス兵士達は歓声を上げ、叫んだ。

 

「大佐に続け!!行け!行けぇ!」

 

「イシュヴァール人どもを叩き潰せェ!!!」

 

 

勢いは、完全にアメストリス軍側へと傾いた。

たった一人の、人間兵器の力によって。

それは、まさにイシュヴァール人にとっては悪夢だった。

 

 

 

 

 

「この街ももう持たない…!逃げるんだ!」

 

肩を銃で撃たれて血を流しながらも、なんとか前線から逃げ延びた武僧兵の一人がライフル銃を片手にそうイシュヴァールの民衆に叫んだ。

 

その叫びを聞いて、

老人や子供、女性達は必死に街の南や東へと走った。その間にも、砲撃の雨は降り注いだ。

 

その様子を街を見下ろせる丘の上から望遠鏡で眺めて、禿頭の眼鏡をかけたアメストリス軍准尉は、ほくそ笑んだ。

 

「計画通り…。頼んだぞ、人間兵器達よ。」

 

 

 

その頃その街の東では、一人の筋骨隆々の男が拳を地面に打ち据えた。次の瞬間、巨大な石の壁が男の目の前に錬成され、街の東へと出る道を完全に遮断した。

 

「なんだ!?こんな壁なかった筈だ!!」

 

「東が無理なら、南へ逃げろ!!」

 

そう言ってイシュヴァール人達は街の南へと走る。

壁を作った錬金術師の男は、まるで神に懺悔するかのように、自身のした事の罪深さを恐れるかのように、小さく震えていた。

 

 

「すまぬ…!すまぬ、イシュヴァールの民よ!風塵の少女よ…!」

 

そうして逃げ道を街の南の一点へと知らず知らずの間に誘導された彼らは、雪崩のように一斉に街の南の入り口まで走った。それがアメストリス軍の想定通りだとも知らずに。

 

 

「やつら、来ましたよ!少佐!頼みます!」

 

そう街の南付近へ密かに先回りしていたアメストリス兵の一人が小声で隣の上官に囁いた。

 

そこには、場に不釣り合いな一人の少女の姿があった。金色の長髪が強い日差しで神々しく光っている。

その身を少女には不釣り合いな青い軍の制服で包み、肩章の一つ星が、彼女を確かに軍の狗なのだと端的に示している。

 

 

彼女は無言で、街から出ようと逃げ惑う人々の正面へと立ち塞がった。

 

そして木の義手を高らかに天に掲げ、空気を掴むかのように義手を動かした。

次の瞬間、義手の中から風の奔流が走り、一気にそれは膨れ上がった。

 

「なんだ!?砂嵐か!?ぎゃっ!?」

 

風と砂の刃の嵐が、イシュヴァールの地を血で染めた。

女も老人も子供も、断末魔を奏でながら切り刻まれ、大多数がただの肉の塊となった。

 

それを少女の背後から見ていたアメストリス軍人達は、畏敬の念をその少女へと向ける。

 

「すげえ…なんて破壊力だ。」

 

その少女は、次の瞬間無傷であるにも関わらず、地面に膝をついて胃の中身を地面へと吐き出した。

 

「っ…ぐ、うう…。」

 

「だ、大丈夫ですか、少佐!」

 

「………大丈夫です。ああ、生き残ったイシュヴァール人が居たら、捕縛しておいてください。上官からの命令です。」

 

「はっ!」

 

そう命令されて、彼らは風で切り刻まれた死体の山から、虫の息の者達を引っ張り上げて縄で縛り上げていった。

 

その光景を、その少女、パウラは青い顔で見つめていた。そして誰にも聞こえないほどの小声で何度も懺悔するかのように呟いた。

 

「ごめんなさい…。ごめんなさい…。」

 

 

 

イシュヴァール殲滅戦を成し得たのは誰の力か?

そう兵士達に問えば、必ずその答えが返ってきた。

 

国家錬金術師、最強の人間兵器達

 

だが、彼らとて人間なのだ。

心ある、人間だったのだ。

 

 

 

*********************

 

 

 

 

パウラ視点

 

その戦場は、地獄だった。

数百人以上の無辜の人々が暮らす街を、大砲でぶち壊して、数の暴力で追い詰めて、私たちが錬金術で殺し尽くして終わり。

それの繰り返しが続いた。今日も、昨日も、きっと明日も…

年下の私を気遣ってくれた部下の温和そうな好青年は、刃物を隠し持っていたイシュヴァールの子供に殺された。躊躇った私を庇って。

 

…その子供は私が殺した。

 

何で私はここに居るんだっけ。

そうだ。妹のためだ。でも…こんなはずじゃ。でも?私はそのために悪魔にもなるって決めたじゃないか。

 

自分で望んだ事だ。何を被害者ぶってる?

 

でも…でも。

 

そこから先の思考が纏まらない。夜中軍用のテントの中でずっとそんなことを考えて、気がつけば朝になっている。それから次の夜まで吐きそうになりながら街を攻撃して、人を殺して殺して殺して殺して…。

 

人々が焼け爛れると、空気中に散乱した油で唇が妙な感覚になるのを初めて味わった。

私の殺すための風に砂利を混ぜ込んだ刃で切った肉面は、真っ赤な赤の色だった。

 

そうやって半ば放心状態で仕事を終えてキャンプで、ドロドロの携帯食糧を晩御飯として食べる。

元から大して美味しくはないけど、戦場の遺体の匂いを感じながら食べるそれは、この世で最悪の味だった。

 

また一日が過ぎて晩御飯を無理やり飲み込んでいると、見慣れた金髪の軍人が歩み寄ってきて、私の隣に座った。

そして彼…エンヴィーは呆れたように呟いた。

 

「…見てらんないね。あんた、そんな調子だとぼーっとしてる時に死ぬよ?そうなったらこっちとしても困るんだからさあ。」

 

彼はその言葉の調子とは裏腹に、随分と楽しそうだった。ニタニタと笑って面白そうにこちらを見つめている。

 

「………何ですか。仕事は真面目にやってるでしょう?捕虜の数が足りませんか?」

 

そう、私はイシュヴァール人からできある限り捕虜を取った。殺したくないからではない。中央に送って賢者の石を作るためだ。

私の最低さに眩暈がする。

 

「…いや?十分だよ。二つ目の賢者の石も出来そうだって聞いてるしね。」

 

「完成次第、君に届けてそれでもっといっぱいイシュヴァール人を殺そうと思ってるんだけど…。その調子じゃ厳しそうだねえ?」

 

その言葉に、私は呆気に取られてポカンとエンヴィーを見つめた。そして苦々しく疑問を問いかけた。

 

「……石は私の妹を甦らせるために使うのでは?」

 

エンヴィーはさらに面白そうにくつくつと笑って、上機嫌で答えた。

 

 

「それにも、使う。石は万能なんだよ?こんな面白い祭りで使わなきゃ勿体ないだろう?」

 

…本当に、彼はこの戦争を心の底から嘲笑って、楽しんでいるんだ。

この戦争の引き金も、彼が穏健派の軍人に化けてイシュヴァールの子供を撃ち殺したことだと聞く。

…本当に最低な性格だが、ある意味羨ましい。

 

 

「一つ目の石は?完成したんですか?」

 

「ああ、完成したよ。今は"紅蓮"の錬金術師が使ってる。…明日からはあんたの隊はあいつの隊と合同で動くことになる。」

 

その言葉に、私は眉を顰めて問いかけた。

 

「あんた達の意向?」

 

「まあね。お前、危なっかしいんだよ。この前もガキ相手に躊躇ったって?死にたいの?困るんだよそういうのさあ…。」

 

「だから、彼と合同に?」

 

「そ!今一番力を持ってる国家錬金術師はあいつだ。"焔"のやつもそれなりだけど、賢者の石には敵わない。」

 

焔の錬金術師か。

遠くで巨大な火柱が上がっているのを見たことがある。あれは凄まじかった。

遠目から見ても分かる殺傷性能。

彼ともいずれ会うことになるのだろうか。

剛腕のアームストロングや、鉄血のバスク大佐は、私をどこか子供扱いするところがあった。

 

アームストロングの彼など、直球で私を諭したほとだ。肩を掴んで、凄まじい大声で私を叱りつけた。

 

「君のような子供がこんな場所に居てはいかん!このような残酷な…。」

 

「なら、大人のあんた達には残酷なことが許されると?大差ないでしょう。子供を殺そうが、子供に殺しをさせようが!…すみません、言い過ぎました。」

 

 

そう私は吐き捨てるかのように答えた。そして小走りで彼から逃げ去った。

今思えば、彼の優しさがこの地獄で眩し過ぎて鬱陶しかったのだと思う。

自分の自己中心的な醜さが透けているようで。

私に他者を気遣う余裕などなかった。

自分が辛くて、苦しくて、殺したくなくて。

他人の殺しなんて、どうでも良かった。

 

「ま、"紅蓮"のはなかなか筋が良い。あんたも仕事のやり方ってやつを学んでくれば?」

 

 

そう言って、エンヴィーは立ち去っていった。

仕事のやり方…か。

殺しと仕事を結びつけるのは、まだ自分には出来そうもなかった。

 

 

 

 

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