自分の命を捨てる覚悟で偽物の妹を作った馬鹿の話   作:カバー

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間違っている

 

 

 

パウラ視点

 

 

 

とにかく愛しいシトリーのために成すべきことを成す。

そう決意した翌日の朝は、実に清々しかった。私は鼻歌を歌いながら朝食を食べた。コーヒーは飲めないので、白湯を飲み干す。

 

それでも携帯食料の味は酷かったけど、随分とマシな味に感じた。そして私は酷く澄み切ったような周りの景色を見渡した。

 

遠くから砲撃の煙が上がり、相変わらずこの場所は死体の腐敗臭と硝煙の匂いに満ちている。

砂埃が舞い、少し拠点から離れた場所には死体の入った袋が埋葬もできずに放置されている。

 

…酷い場所だ。でも、ここで勝つことが私の全てだ。

その為に、食事の時間の今もするべきことがある。

 

私は私とは少し離れたところで座って、談笑している部下達の集まりのいくつかの中から、大きめの集まりを選んで歩み寄った。

 

そんな私を見て、彼らの内数名は少しぎこちなく微笑んだ。私は彼らとこの戦場に来てから関わってこなかった。いや…私が彼らを避けていた。

人殺しに思い悩んで、くよくよして、彼らと話す気力などなかった。

だが、今は。

 

私はその中でもかなり歳上の立派な金の顎鬚を生やした、私が辛うじて名前を覚えているオリバス中尉に、にこやかに話しかけた。

実質的に、彼が私の代わりに指揮を取ることも多かった。

 

「オリバス中尉、隣いいですか?」

 

彼は少し戸惑ったようだったが、嬉しそうに笑ってコーヒーを差し出しながら答えた。

 

 

 

「ええ、喜んで!名前、覚えていらしたのですか。光栄です。」

 

「…そんなに貴方の名前呼んだこと無かったですかね?」

 

私は気まずくなって苦笑いしながら、断るのも失礼だろうと、礼を言ってコーヒーの入ったコップを手に取った。

 

 

 

「まあ、戦場なので中尉呼びだけが多かったですからな!こうして直に話したことも恥ずかしながらありませんでしたので!」

 

…随分と直裁に物を言う男だ。だが舐められている感じもしない。話しやすいようにそう振る舞っているのかもしれない。助かるなと思いながら、私は彼らの集まりの輪の中に入った。

 

そして、私は軽く彼らに頭を下げて、申し訳なく思いながら話し始めた。

 

「…今まで戦闘後に吐いたりして、その癖貴方達と話そうともしませんでしね。迷惑をかけました。正直、オリバス中尉以外の名前を覚える余力も有りませんでした。」

 

私を除いて、比較的若めの茶髪の青年が慌てて私に答えた。

 

「い、いえ!そのお年なら、無理ないですよ。俺たちこそ、何もできなくて…!」

 

オリバス中尉は、凛々しい顔を歪めて、しかめ面で私を嗜めた。

 

「…上官たるものが、そう気軽に部下に頭を下げるべきではありませんぞ。」

 

私はその真摯な忠告に微笑んで、柔らかく答えた。

 

「今のは私の、パウラ個人の今までの謝罪です。そしてこれからが、皆さんの命を預かった上官としての私の宣言です。」

 

そう今度は真剣に兵士一人一人の目を見て、私は話し始める。

 

「私は、今まで自分一人に手一杯で、子供でした。でも、これからは。私の大事な人のために戦うと決めました。…そして、貴方達をその為に死なせることもあるでしょう。」

 

 

 

 

そうだ。戦争とはそういうものだ。上官になった以上、目的のために部下を死地に追い込むのは自分の役目だ。だがそれ以上に。

 

「だからこそ、皆の戦う理由を知っておきたい。皆の一人一人の名前を刻んでおきたい。皆を一人でも多く生かして返すために。」

 

「そして、死んでいった理由を忘れないために。」

 

 

 

…部下達は、感嘆したように小さく息を呑んだ。そして、オリバス中尉が口火を開いた。

 

「自分が戦うのは、無論祖国たるアメストリスの為です。私の一族は代々軍属としてアメストリスを支えてきました。その一柱になれるのなら、本望です。」

 

次は、眼帯をした刈り上げ頭の中年の男が名前を名乗って語り始めた。

 

「俺はバルスト軍曹です。俺の家は東部なんで、イシュヴァールの内乱のせいで俺の街も荒れてます。年取ったお袋に無理させるのも忍びないんでね。戦う理由なんてそんなもんです。」

 

今度は糸目の黒髪の青年が語った。

 

「自分はサイモン二等兵です。…その。言いづらいんですが自分の父も軍人なので、なし崩し的になったと言いますか…。皆さんのように立派な理由はないんですが…。」

 

そうぽつぽつと呟いていた彼は、コーヒーをぐいっと飲み干すと、私に嬉しそうに言った。

 

「でも俺、嬉しいです。部下のことをそんな風に言ってくれる上官の元で戦えて!俺、精一杯頑張りますので!」

 

オリバス中尉はそんなサイモンの背中をバシバシと叩いて、ニヤリと笑って言った。

 

「その根性だけで大したもんだよ!一緒にイシュヴァールの奴らをぶちのめしてやろうぜ!」

 

 

 

最後は茶髪の若めの青年だった。

彼は少し気まずそうにしていたが、やがて決心したように語り始めた。

 

「自分はフェルディーです。その、自分は補充兵で来たばかりなんですが…まだ士官学校生で。…俺には分かりません。」

 

そこで、彼は意を決したように私に向かって叫んだ。

 

「なぜ君のような子供が戦っているんだ!?俺には分からない…!なぜイシュヴァールの子供や老人まで殺し尽くすのか…!!俺はこれが正義だとは、とても…!」

 

 

その瞬間、オリバス中尉は素早く立ち上がり、フェルディーの胸ぐらを掴んで押し倒し、思いっきり横っ面を拳で殴りつけた。

そして大声で叫んだ。

 

 

 

「馬鹿者が!上官に向かってなんて口の聞き方だ!愚か者め!アメストリス軍を貴様如きが否定するのか!?恥を知れ!」

 

フェルディー士官学生は震え上がって口をぱくぱくと動かすが言葉が出てこない様子だ。

 

「いいか、よく教えてやる!国家錬金術師であるパウラ殿は!崇高な大総統閣下直属の部下としての職務を全うしているのだ!」

 

サイモン二等兵はどうしたものかと狼狽えているが、バルスト軍曹は冷めた目つきでフェルディー士官学生を見下ろしていた。

私はため息をついて淡々とフェルディー士官学生に忠告した。

 

「………アメストリス軍に従えないというのなら、軍を去りなさい。自分のやっていることを肯定できないのなら、貴方がここに居る資格はない。」

 

フェルディー士官学生は、その私の言葉にショックを受けた様子で黙りこくって俯くと、オリバス中尉が手を離した瞬間に、陣地から走り去っていった。

 

 

バルスト軍曹は、無言でライフル銃を手に取った。そしてフェルディー士官学生の脚を狙って…

 

 

パン!!

 

 

一発の銃声が響いた。

そして、辺りはしんと静まり返った。オリバス中尉はため息をついて呟いた。

 

「戦場からの逃亡は重罪だと知らなかったのか?愚か者が…。」

 

そう呆れたように言ったオリバス中尉は、呻いているフェルディーを担いで、軍医のテントへと運んでいった。

 

「こりゃあ、また補充兵が必要になりますな。流れ弾で新兵が負傷してしまった。」

 

そうバルスト軍曹がライフルを置いて、タバコを吸いながら呟いた。

 

「………そうですね。」

 

私が飲んだ少し冷めたコーヒーは、やはり苦くて。酷い後味だった。彼は人間的には正しかった。だが、戦場ではそんな人間は生き残れない。

 

脚を撃ったのは、かなり優しい対応だった。これで咎められることなく、戦地から離れることができるのだから。

そうして流れ弾で新兵を一人失ったものの、私達は確かな結束を手に入れることができたのだった。

 

 

そうして、私たちはまた戦場へと戻る。ダリス地区も三分の二以上は国軍が抑え、辛くも抵抗しているイシュヴァールの戦士達を私たちが追い込んでいるという状況だ。

 

その中で目覚ましい戦果をあげている部隊が二つあった。

そのどちらも、国家錬金術師の部隊だ。

 

 

その圧倒的な広範囲殲滅能力でひたすらに全てを焼き尽くす、炎の錬金術師、ロイ・マスタング少佐の隊

 

そして…賢者の石を使っているという、紅蓮の錬金術師、ゾルフ・J・キンブリー少佐の隊。

 

その他、鉄血の錬金術師バスク・グラン准将の隊と私、風塵の錬金術師パウラ少佐の隊もそれなりに活躍していた。

だが、錬金術師と言えども、全員が全員戦場に対応できるわけでもない。

 

「聞いたかよ。あの錬金術師のコマンチ爺さん、脚を撃たれて戦線離脱だとさ。」

 

「…戦況はどんどん激しくなってきますね。」

 

 

そう戦場に向かう途中でバルスト軍曹とサイモン二等兵がため息混じりに呟いていた。国家錬金術師であっても人間は人間。精神を病んで離脱する者や、怪我で殉職したり離脱する者も決して少なくはない。

私も目的を遂げるまでは、気を張らねばならない。部下達との連携も改めて確認するべきだろう。

 

「皆さん、そろそろ前線です。気を張っていきましょう。」

 

 

 

私達は銃声がそこかしこに響く街中を走る。

私達は開けた広間越しに射撃して来る相手と相対する。

両手を合わせて円の形を作り、即座に何もない広間の地面に無数の壁を作って射線を防ぐ。

 

「アルバス軍曹!今です!」

 

「よし!サイモン!ジョニー!行くぞ!GO!!」

 

部下達はその壁の背後へと素早く移動し、負けじと打ち返す。

ここまでは普段通りの流れ。でも今は…もっと新しい戦法を試したい。

 

今までの私は自分の目の前から風の刃を発生させるだけだったが、空間とは繋がっているものだ。

私は壁に部下達と隠れながら、敵陣の上空を見つめ、集中する。

 

そして、…空気の流れを再構築した。

敵陣の地面から風を発生させ、砂埃を立てながら砂を風で持ち上げる。

 

「何だ!?この突風は!?」

 

そして私は上空で風と砂の刃を錬成し、一斉に敵の地面に向かって叩きつけた。

私の遠隔で発生した風の刃は、敵を建物ごとズタズタに切り裂いた。

 

「おおっ!?流石です、少佐!」

 

だがまだ残りがいるようだ。少数の武装兵と思われる男達が、猛スピードで衣服をなびかせて突っ込んできた。

…数が少ないし、今なら試せるかな。

 

私は自身の小柄な体格を活かし、彼らが最前列の私に接近してきた途端に風で自分を上空へと浮かせる。

 

「なっ!?」

 

さらに、風を微調整。

空中で細かく位置調整をしながら、素早く回転して武僧兵達の背後へと飛んで回り込んだ。

 

そして、風と砂利の刃を生成する。

 

「死なないように…。」

 

 

 

そして、脚と腕の筋繊維を綺麗に切断した。

…皮肉なことに、人を切り刻みすぎて、どう斬れば死なないかはよく心得ていた。

彼らはたまらず地面に倒れ伏した。

 

「ぐっ…この程度で…ッ。」

 

そう忌まわしそうに掠れた声で呟いたが、彼らがもう動けないのは明らかだった。

私は部下達に武僧兵を捕縛させようと指示を出して次の戦場へ向かおうとした。が、背中を見せた途端、背後で瓦礫が崩れる音がした。

 

「少佐!」

 

「ッ!まだ居たのか!私の片目の死角に…!!」

 

私は慌てて風の刃を錬成しようとする。が、次の瞬間、その武僧の脳天を、一発の銃弾が貫いた。

 

 

 

タン!!

 

 

 

「狙撃…?」

 

私が狙撃場所と思われる高いイシュヴァール建築の塔を眺めるが、明らかに距離が離れすぎている。

すると、慌てて駆け寄ってきたオリバス軍曹が嬉しそうに呟いた。

 

「ああ!鷹の目ですな。」

 

「鷹の目?」

 

私が聞き覚えのない単語に聞き返すと、彼はニヤリと笑って言った。

 

「何でも、あのフェルディーの奴と同じように、士官学生の腕の立つ狙撃手が居るようでしてな。羨ましいですよ。自分もその年の頃には早く戦場に出たかったもんです。」

 

「…士官学生の狙撃手、か。」

 

まあそれでも私よりは年上ではあるんだろうな、と少し寂しく思いながら、私は無感情にイシュヴァール人の死体の山を眺めた。

 

 

 

日が暮れるまでその後も戦い続け、砂まみれになった私達は、ダリス地区を制圧し終わったのを確認すると、本陣へと向かった。…流石に大きな街を落とした後なだけあって、かなりの数の部隊が集まっているのか、相当大規模なキャンプだ。

着いた頃には、翌日の早朝だった。

 

バルスト軍曹がぽつりと呟いた。

 

「あ、あいつだと思いますよ。ほら、鷹の目です。」

 

そうバルスト軍曹が指差した先には、金髪の綺麗な女性が焚き火の前で座っていた。

その正面には黒髪のショートヘアに童顔の男性が立ち尽くしている。そしてその横には眼鏡と顎髭が特徴的な…あれヒューズ大尉じゃないか?以前親しげに話しかけられたことがある。

 

私は礼を言おうと彼らに歩み寄って行った。すると、私の姿を見て、金髪青目の綺麗な女性の顔が強張った。そして、悲痛な顔で私を見つめてきた。

 

「あの、貴女が鷹の目さんですか?先程はありがとうございます。助かりました。」

 

「なんてこと…。見間違いじゃ、なかった…。」

 

彼女はそうぽつりと呟くと、私の方を指さして、童顔の切れ目の男性に詰め寄った。

 

「…なぜ、国民を守るべきはずの軍が、こんな幼い女の子を戦場に出しているんですか!彼女も錬金術を使っていました。…本当に、錬金術がなぜこんな使われ方をされているのですか?」

 

「答えてください、マスタング少佐!」

 

……驚いた。いや、彼女の言い分にも驚いたのだけれど。この童顔の青年が、あの焔の錬金術師だという事実に驚いた。

なるほど。観察してみれば、手袋に複雑な錬成陣が書き込まれている。あれで錬成しているのか。

 

そんなマスタング少佐も、私の顔を見て、…いや、無い片目のことを見てるのかな。もしかしてなんか誤解されてる?

言葉に詰まった様子で黙りこくった。

気がつくと、周りの兵士たちもその話題に触発され、議論の流れになっている。

 

気まずそうにしていたヒューズ大尉が口を開きかけた瞬間、横の焚き火から聞き覚えのある声がしてきた。

 

「なぜこんな少女が?それは彼女が一人前の国家錬金術師だからです。なぜ国民を守るべき軍人が国民を殺しているのか?それが兵士に与えられた仕事だからです。」

 

「違いますか?」

 

そこには、コーヒーカップを片手にくつろいでいる、キンブリー少佐の姿があった。

 

「キンブリー少佐、居らしたんですか。あれから調子はどうです?」

 

 

私がそう穏やかに語りかけると、彼は微笑んで答えを返した。

 

「絶好調ですよ。貴女も何やら吹っ切れたようで。いい仕事ぶりだと聞いていますよ。」

 

 

 

そんな私たちの穏やかなやり取りに、マスタング少佐が食ってかかった。

 

 

「割り切れというのか!?この惨状を…!それに、子供に人殺しを国がさせているという状況を!」

 

キンブリーさんは肩をすくめて、やれやれと首を振って答えた。

 

「それが国家錬金術師制度の結論では?若くして優秀なら才能を使うべし…。」

 

「それに割り切れませんか?皆さんは?」

 

 

 

その言葉に、座り込んでいる若そうな兵士が苦笑いして答えた。

 

「割り切れてたら、こんな話しませんよ…。」

 

一方で、私の隣にいたオリバス中尉が、興奮した様子で立ち上がってキンブリーに賛同した。

 

「私はキンブリー少佐の仰る通りかと。軍人なら軍人の勤めを果たすべきです。」

 

 

 

その言葉に、鷹の目と呼ばれる、綺麗な女性が反応した。

 

「…目の前に片目を失った少女が居てもですか。」

 

「自分の目の前には、堂々たる風塵の錬金術師殿の姿しか見えん!」

 

キンブリーさんはオリバス中尉と睨み合っている鷹の目の女性に、面白そうに、だが目は真剣に語りかけた。

 

 

 

「子供を殺しておいて、子供が殺しをするのは耐えられないのですか?貴女は狙撃手でしょう。」

 

「例え子供が相手でも、相手を撃った時に達成感を感じませんか?そんな一瞬がないと言い切れますか?狙撃手さん。」

 

 

 

そんな私の時と同じく、核心を突きかけたキンブリーさんに、激昂した様子のマスタング大佐が掴み掛かった。

 

「…それ以上言うな!」

 

キンブリーさんは胸元を掴まれながらも、心底分からないと言わんばかりに呟いた。

 

「私からすればあなたがたの方が理解できない。戦場という特殊な場に正当性を求める方がおかしい。」

 

 

 

私はキンブリーさんに同意して語り始めた。

 

「そうです。私は自分から軍服を着ました。大事な人のためなら、誰だろうが命令された通り殺すと。…悩む気持ちは分かります。でも、そんな資格私たちにあるのですか?」

 

 

 

その私の言葉に、鷹の目さんとマスタング少佐は驚きながらも、悲痛そうに目を歪めた。

 

「その通りです。私たちは自分から選んだはずだ。軍人となることを。殺すことを。…自分を哀れむくらいなら最初から人を殺すな。」

 

「貴方が殺す人々の姿を正面から見ろ。忘れるな。奴らも貴方のことを忘れない。」

 

 

 

キンブリーさんがそう言い終わると、ちょうどカーンカーンと、部隊への指示を告げる鐘が鳴った。

 

「おや、時間ですよ。さて、私は仕事に行かなければ。パウラさんは?」

 

「私は戻ったばかりなのでまだ待機です。ご武運を。」

 

キンブリーさんは私の言葉に微笑むと、足早に軍服の襟を整えながら去って行った。

 

 

ヒューズ大尉も時間らしい。慌てた様子で立ち上がると、私の方をじっと見て呟いた。

 

「…パウラちゃんも、人殺しの目になっちまったな。」

 

「そう、ですか。…なら、望ましいことです。」

 

 

 

その答えに彼は悲しそうに顔を伏せると、マスタング少佐に挨拶して去って行った。

 

残ったのは私とマスタング少佐、そして鷹の目さんとオリバス中尉、そしてパラパラと待機中の兵士だけだ。

 

私は折角の機会なので、マスタング少佐に話を聞いてみることにした。

 

「そういえば、初めましてですね、マスタング少佐。風塵のパウラです。お噂はかねがね。…凄まじい錬金術を使うとか!どこで錬金術を学ばれたんですか?」

 

私は軽い気持ちで世間話のつもりで問いかけたが、地雷だったらしい。場の空気が一気にピリついた。

 

「……君の方こそ、その年で独自の錬成陣を使うんだな。師匠は誰だ?」

 

さらっと誤魔化されたな。そう思いながらも、私は微笑んで答えた。

 

「両親です。ま、親はポンコツだったんで、独学みたいなもんですけど。バーンタイム家って聞いたことありませんか?」

 

今度は鷹の目さんが思い出したかのように答えた。

 

 

「………父から聞いたことがある。…貴女の両親が、貴女を戦場に行かせたの…!?」

 

 

その声は、どこまでも悲痛で。だからこそ、私は明るく振る舞って言った。

 

「両親は事故でもう死にましたけど…まあ、妹のために頑張ってます!その時に片目と片腕を失っちゃって。今は軍が親みたいなもんですかね。」

 

 

「ほお!立派なものですな。道理でその年でしっかりしていると思いましたよ。」

 

オリバス軍曹が嬉しそうに言ったが、鷹の目さんは彼を凄い目で睨んで、驚いたことに私を抱きしめた。

 

「ッ……!?」

 

そして私の耳元で小さく囁いた。

 

「…こんなこと言われても、迷惑だっていうのは分かってる。でも、…こんなの、間違ってる。間違ってるのよ…!!」

 

私は震える彼女にどうして良いのか分からず、とにかく彼女の背中を摩ることしかできなかった。

 

間違ってる、か…。そんなこと言ってくれる人、今まで居なかったな。

 

私に姉が居たらこんな風に悲しんでくれたかな、と私は突拍子もなくそう思ったのだった。

 

 

 

 

 

 

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