時間はかかるでしょうがちまちま書いていく予定です。
やっぱりミシガンだと愉快な遠足の始まりだは言いたいですよねぇ
ー先生ー
声が聞こえる。
二度と聞こえないはずの失われた筈のものが。
だが燃え殻の時に勝手に響いたあの女の声ではない。
「先生、起きてください!ミシガン先生!!」
再度頭に響く声に急速的に意識が浮上を始める。
はっと気付き目を見開けば目の前にはまだ大人とは言えずまでも解放戦線相手によく見ていた年頃の娘が一人。
武装は腰にハンドガンが一丁。
……周囲に他の人特有の気配なし。
「……よく眠っていらしたようでしたが…大丈夫でしょうか?」
言葉を飲み込み頭の中で理解していくにつれて胸の燃え盛る熱が冷えていく。
「お疲れのところ申し訳ないのですが…ちゃんと目を覚まして、集中してください。今一度あらためて現状をお伝えしますので。」
名前も知らぬ娘が一度区切りをつけるように咳払いを挟み語り始める。
これまで見てきた人物と対した外見の変化はなし。されど頭部の上に天使の輪を思わせる娘、七神リンは語る。
自分は学園都市キヴォトスにおける中央政府のようなもの、連邦生徒会に所属する幹部であると。
そして俺はその連邦生徒会所属、連邦生徒会会長により呼び出された【らしい】とのこと。
推測になるのは俺がどうやってキヴォトスの外からここに来訪しこの部屋にたどり着いたのか。
まさに神隠しと言わんばかりに俺も知らないし相手方連邦生徒会も把握していないということ。
問題が山積みであることは承知しているが取り敢えず今は忙しく最優先事項が存在し俺にやってほしいことがあるという…。
「学園都市の命運をかけた大事なこと…ということです。今キヴォトスでは大規模な混乱の最中、それを収めるための一手を先生にお願いしたいのです」
学園都市。
2度も聞いたこれは人生で一度も聞いたこともない。
ルビコン3にも木星にも存在しなかったそれは窓から眺められるこの美しい都市のことだろう。
さっと見える範囲で見るだけでもルビコン3とは違い空は赤く染まっておらず、グリッドのような巨大建造物が乱立し景観というものが死滅したものとは違い、規則正しく巨大なタワーが並び道を車が通っている。
このような美しい都市に危機が迫っているような緊迫感は感じないがそもそもこんな都市の命運を左右するであろうことを成人もしていないような娘が俺に願うのか。
冗談であれば良かったのだろう。だがその俺を見る目が、俺に問いかける声に混じる焦りが俺にそれが嘘ではないと経験が知らせる。
「その一手は俺にしかうてないものか」
「えぇ、そうです。大人であるミシガン先生だけが…」
「俺以外の大人が、学園都市と言おうと大小数が変わるだろうが大人もいるだろう。それこそ俺を呼び出したというやつが居ても、それでも俺にしかできないと言い切れるか」
「………はい、恐らく」
あまり大人と接する機会がないのだろう。
少しの怯みを感じはする。だがその目は先程から変わらない。
事実を話し、真実俺だけにしかアサインできないのだろう。
「野暮な質問だったようだ。行くとしよう」
「ありがとうございます…」
先程までいた部屋から廊下に出て少し歩いたさきにあるエレベーターに乗る。
エレベーターはガラス張りのようで外の風景が目に飛び込む。
下につくまでの待ち時間に今一度目を凝らしてその目に飛び込んできた都市について見ていく。
歩道を歩く武器を身に着け歩いていく学生のような娘たち。
木星圏でもめったに見ることがない犬という生物が四つん這いではなく後ろ足で立ち生徒に入り混じって練り歩き、またパワードスーツのような者たちが更に混じっている。
これが学園都市キヴォトス。
「あらためて、キヴォトスへようこそ。
先生、キヴォトスは数百、数千と学園が集まりできている1つの学園都市です。
これから先生の働く場でもあり外の世界との違いも多く見ることでしょう。
最初は慣れることに四苦八苦されると思われますが…」
「問題ない。僻地に飛ばされるのは慣れている。
氷原の昆虫採取、地底への食虫植物採取に比べれば高級ホテルも素足で逃げるようなリゾート地だろう」
「…先生、前にいらっしゃったところは秘境かなにかだったので?」
実際秘境だろう。
ルビコン3は赤い空が絶えず朝、昼、夜に見られ半世紀も前に周辺星系を巻き込んだ未曾有の大災害を引き起こした星は。
エレベーターが目的の階層にたどり着いたとチンッと古めかしい音を奏でる。
扉が開けば先程の階層では誰ともすれ違いすらしなかったが眼の前を左右に行き来する人が目に映る。
誰も彼も成人しているとは言えない年齢に見え頭上の輪も模様もてんでバラバラなのに皆一様に銃を携帯している。
一応ここは中央政府のようなものということだが、いいのか。
上から見る限りでは遠目で銃を所持しているのは見えていたが皆が皆携帯していて。
「ちょっと待って!代行!見つけた、待ってたわよ!連邦生徒会長を呼んできてっ!」
「首席行政官お待ちしておりました。」
「連邦生徒会長に会いに来ました。風紀委員長は、今の状況について納得のいく回答を要求しています。」
明らかに服装の違う三名がこちらに近づいてくる。
その全員が頭上に左右に行き来する娘たちと同じように若くまたそのうちの1名は大きな翼を持っている。
確かに頭上の輪と銃を携帯する治安が終わった地かと思っていればどうやらまだ違いのある者もいるらしい。
「………あぁ…今捕まりたくなかったのですが面倒な人たちに見つかってしまったようです。」
数名に問い詰められているリンは心底うんざりしたような顔で、眼の前の三名を一瞥していた。
その表情はどこかでと思えばレッドガンNo.2であるG2ナイルがベイラムの上層部との楽しいお話会から帰ってきた時の表情だっただろうか。
はたまた氷原の昆虫採取についてアーキバスの金髪オールバック眼鏡の幼少期を図書館でインドアで過ごしてそうなスネイルがしていた表情だったか。
案の定オールバック眼鏡の如く嫌味のマシンガンを乱射するリンから少し距離を取りつつリン曰く暇人の三名の訴えを聞く。
曰く学園の風力発電施設の機能停止。
曰く金髪眼鏡が好きそうな連邦矯正局という施設から脱走した一部の不良たちによる学園生徒への襲撃増加。
曰く戦車・ヘリ等の兵器を含める武器の不法流通が2000%増加したことによる正常な学園運営への支障。
訂正しよう。数学が得意なオオサワならここをリゾート地というやもしれん。トートバックどもは戦地と言うだろうが。
「連邦生徒会長は今席におりません。
正直に言いますと、行方不明となっています。」
突如として切り出された爆弾発言に周囲が凍りつく。
「………俺の呼び出し人のはずだが、それは信用できる話でいいのか。」
「はい、つまりは現状【サンクトゥム・タワー】の最終管理者である生徒会長が不在のため今の連邦生徒会は行政の制御権を完全に喪失した状態です。つい先程まで認証を迂回する方法も騙し騙し運用する方法も存在しませんでした。」
「そんな…」
つまり現状連邦生徒会はそのサンクトゥム・タワーの管理ができずお飾りという事か。
情報を整理していけばそのタワーの制御権がなければこの学園都市は機能を停止していき治安も悪化の一途を辿る。
故にその制御権を今一度掌握するために認証を通すための騙し騙し…ハッキングや認証を迂回する方法、別口でのアクセス方法がないか模索していたのだろう。
「その口ぶり…では今は、方法があるということですか?首席行政官。」
「はい。
この先生こそが、フィクサーとなってくれるはずです。」
学園都市の命運をかけた一手。
その意味がようやく全容を現した。俺を呼び出したという連邦生徒会長が今現れたとして解決できるか、俺でなくてはならない理由があるのかと問いを投げたとき恐らくと言ったのは連邦生徒会長でもおそらくはできただろう。
だがその肝心の人物が行方不明で不在。
なるほど。【恐らく】の意味が随分と遠回りだが理解した。
「……ちょっと待って。そういえばさっきから気になっていたけどこの先生はどなた?どうしてここにいるの?」
「頭上にヘイローが浮いていないところを見るにキヴォトスではないところから来た方のようですが……先生だったのですね。」
「はい、こちらのミシガン先生はこれよりキヴォトスの先生として働く方であり…。
連邦生徒会長が特別に指名された人物です。」
詰め寄っていた数名だけではなく周囲を駆けずり回っているリンに似た服を着ている娘たちも連邦生徒会長の指名と耳に入ったのだろう。
こちらに視線が集中する。
俺は教官として子供の前に立ったことはある。胸糞の悪い話ではあるが戦況が悪化すれば若い者たちが志願しそれを教導する事もあった。
だがそれはあくまで教官として、軍人としてだ。
教員、先生として子どもの世話を見たこともまともになければ教えてやったことも無い。弾道計算のための数学なら教えてやったことはあるがそれは例外だろう。
本当に戦場近くの逃げることもできずその場で怯え暮らすことになってしまった孤児たちなどとほんの一時触れ合った程度だろう。
いきなり先生を名乗れば先生になれるなぞ思っていない。
それに手を血で濡らし、
散っていった役立たずどもを見送ってきたこの敬礼を繰り返した手が足抜けなど許すわけがないだろう。
「行方不明になった連邦生徒会長が指名し少し前に着任されたー」
「首席行政官より今話は聞いたな。
俺はベイラム専属AC部隊レッドガン総長G1ミシガンだ!これより貴様らの先生として着任することとなった。短くない期間を過ごすこととなるだろう!これから世話になる!」
七神リンの言葉を遮るように己の名を、ルビコン3で腐る程繰り返した挨拶をする。
不満そうな目を1人分感じるがそれはもう慣れっこだ。軍人とは強引さも必要であり、また隠すような内容でもない。
木星戦争の英雄は地底で転んで死んだ。
今はどこにでもいる軍人、いや歩く地獄。
戦場は英雄を求めない。
戦地に立つのは戦士でいい、それは銃が普通に流通するこの治安が悪いこの地でも変わらない真理だろう。
俺の大声に驚き怯んだかのようにおっかなびっくり声を上げるものが1名。
「!?あ、あのこんにちは!先生。私はミレニアムサイエンススクールの早瀬…いえ、今は挨拶はどうでもよくて…えっと」
声色は最初大きく後半になるにつれて小さくなり安定した声色になる。
これがこの娘本来の声色なのだろう。
元気のいい挨拶だった。だが名前を最後まで聞いていない。
「元気がいいな、そこの娘!早瀬と言ったか!だがこんな場所で立ったままで待っていたせいか挨拶が最後まで聞こえないぞ!
足のしびれか!それとも退屈すぎて欠伸が出たか!なら今一度自己紹介暇は用意してやる!」
「え…えっとわ、私は早瀬、ユウカです…お、覚えておいてください!先生っ!」
俺の大きい声に釣られたのか同じように口を大きく開けて大声で自己紹介をし直す早瀬ユウカ。
俺に集中していた視線を独り占めにするその声を上げた本人はそれに気づき少し慌てたかのような顔にあるのをニヤニヤと軍人だった頃と同じ笑み浮かべかけるがそこにリンが咳払いをし視線を集め直す。
「………先生は元々、連邦生徒会長が立ち上げたある部活の担当顧問としてこちらに来ることとなりました。
連邦捜査部【シャーレ】
単なる生徒が所属する部活ではなく一種の超法規的機関。連邦組織のため、キヴォトスに存在する数千の全ての学園の生徒を数の制限、また所属する部活の制限なく加入させることが可能な、各学園の自治区で制限なしの戦闘活動を行うことも可能です。」
余りにも過剰、超法規的機関というその名の通りにほぼ無法ではないかと言わんばかりの中央政府が出していいのかと喉から言葉が出かけた権限になぜ俺のような職業軍人、人生軍人、生涯軍人と記入してやってもいいくらいの軍人染めである見ず知らずのこの俺を連邦生徒会長は据えたのか。
もし俺が五花海のように盛大に経済圏すら崩壊させかねないやらかしをやる人間だったらどうする気だったのだろうか。
酒の席で決まったことではあったがファーロン・ダイナミクスからベイラムにくる際の取り決めでさえもっとましな人間らしい法に則った規約であったというのに。
取り敢えず本人がおらん限り分からん疑問に悩んでも仕方ないと諦め後はそのシャーレの部室に行くだけ…だったが。
「シャーレの部室?……あぁ外郭地区の?そこ、今大騒ぎだけど?」
リンがシャーレへ行くためにホログラム通信で連絡をとった連絡先、俺を含めない四名の中でも更に身長が低いであろうモモカと呼ばれた桃色の髪の娘。
翼が生えた生徒もいればホログラムに写る娘は長い尻尾とアクセサリーと言われても違和感のない小さな角を有している。
まるで昔伝記を読んだ時に書かれていた悪魔の特徴のように感じたがどうやらモモカ曰く、そのシャーレの建物を矯正局より抜け出した生徒どもとそれに同調し合流した不良どもも合わさり占拠しようと戦車すら用意して暴れているらしい。
目標はそのシャーレに連邦生徒会より運び込まれたという大事な物、さきほどリンが言ったサンクトゥム・タワーの掌握に必要な一手だろう。
それを使い連邦生徒会への嫌がらせ、恨み辛みを晴らそうと行っているという。
「ーーー」
絶句。デリバリーが来たからというふざけた理由で切れた通信にもだろうが重要な一手の唐突な争奪戦の勃発に隣のリンは今にも感情が臨界一歩手前と言わんばかりに体を震わせている。
ユウカ達数名も代わる代わるの状況についてこれず固まっている。
ともかくシャーレにいかねばキヴォトスの混乱の終息はなく。
またシャーレにはその終息の一手を担う物を狙うならず者共が屯して待ち構えていると。
「……要するにだ。俺たちの勝利条件はそこで暴れているならず者どもをぶちのめす、または鎮圧し終息の一手を先に手中に収める必要がある。そういうことだな。首席行政官」
「……はっ…!…えぇ、その通りです。」
どうやら臨界一歩手前を抑え込むために意識を集中していたところを話しかけたようで反応が遅れたがそれでもわかりやすい作戦内容と達成条件が明確となった。
「運用できる戦力はあるか。」
「連邦生徒会直属の戦力は今現在ここ連邦生徒会が配置されているD・Uシラトリ区の混乱の鎮圧と矯正局より脱走した生徒たちの再度の捕縛でていいっぱいです。すぐに動かせる戦力は…」
リンの視線がまだ状況を完全に呑み込めず固まったまま動かない数名に向きニッコリと素晴らしい笑顔を見せる。
「なるほど。そうくるか首席行政官」
「えぇ、そういうことです」
「……?」
「な、何?」
早瀬は不穏な気配を感じたのだろう。
他の娘たちは小さく首を傾げている。
俺は一歩前に出て右から順に早瀬たちの顔を見て聞く。
「お前達、愉快な遠足は好きか」
「えっ」
早瀬は不穏な気配が完全に危険信号を鳴らしたのだろう。驚いたかのような言葉を零すがもう遅い。
逃げるにはあと2分ほど野生の勘が働くに遅かった。
「唐突ですね…ですが、まぁ遠足は嫌いではない…はずです」
他の顔を見た娘たちは同じく不穏な気配は感じたのだろう。
だが素直に遠足では嫌いではないと言った。
そう言ったのだ。【愉快な遠足は嫌いではない】と
「今聞いた通り、連邦生徒会に直ぐ様動かせる戦力は給料前のスッカスカに軽い懐以上に無い!よってお前たちにシャーレ付近でチュピチュピと暴れているチンピラどもの鎮圧をしてもらう必要がある!」
「…え、えええぇぇぇぇえ!?」
驚く早瀬達を置いてけぼりに羽織っていたコートをしっかりと着込み直し玄関から出ていく。
この学園都市キヴォトスがどこの惑星なのかは分からん。
俺が転んで死んだ後ルビコン3で何があったか、唯一の番号持ちG6レッドがちゃんとに生きているのかもう知るよしは無いだろう。
だからこそ俺は俺という燃え殻に与えられた使命を果たす責務がある。
「始めるぞ!小娘ども!
退屈な待ち時間は終わった…【愉快な遠足の始まりだ!】」