歩く地獄は透き通る世界で何をなす   作:悪の根源

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遠足の終わりと????

アイビスの火。

由来もわからぬ何故かアイビスと名付けられたその災火を、映像越しに見たのは…まだ成人しない青年という歳でたまたまと言っていいだろう。

俺は見た。

半世紀も前に起きたそれは、まだ未開拓惑星であったルビコンに物資を運搬していた惑星間航行物資輸送船によって撮影されたそれを。

爆発的に増殖したコーラルが一度爆縮し、周辺星系全てを燃やし尽くし…星系を覆い尽くすかのように不活性化コーラルが滞留し寒冷化を引き起こした。

ルビコン3の空が赤く染まっているのは、その不活性化したコーラルが地球という惑星で言うオゾン層に似た層を形成し光星からの光を遮断することで引き起こされる惑星の寒冷化…

それがルビコン3において寒冷地が多い理由でもある。

眼の前に広がる廃墟だろう遠い日に通った学び舎の部屋にその外に広がる青々とした空。

そしてその宇宙に存在する幾何学模様のような構造物らしきもの。

かつてルビコンの空にも似た構造物が存在した。

惑星封鎖機構の兵器ではあるがそれでもこの空は…色合いこそ違うがルビコンを、そして幼くしてあの災禍を観たものとしてなぜか脳裏を過ったものである。

だが1つ違うのはなぜか眠りこけている小娘がいる。

 

「くううぅぅ……Zzzz」

 

「むにゃ、カステラにはぁ…いちごミルクより…バナナミルクのほうが」

 

…さてどう出るべきか…ナイル。

想定していなかった事態と昔を懐かしむ事態に心の中で悪友にも似た副官に助けを求めるくらいには疲弊したらしい。

 

 

恐らく解錠には成功したであろうシッテムの箱。

パスワードを求められたが七つの嘆きも、ジュリコの古則とかいうものも、生前…生前?生前と言うべきだろうか。オオサワなどが外見が変わっていたが俺は変わっていない。

俺は重傷を負い、ベイラムの降下船兼最初は拠点としても使っていたアマゾン級でルビコン3を脱出し何かしらの要因でこの世界に、この星に流れ着いたのではないか。

まぁそこら辺は後でどうとでも考察ができる。重要なのはそんな古臭い宗教めいた言葉をこの星で、これまで訪れた惑星ですら【聞いたこと無い】ということだ。

 

「えへっ…まだたくさん…カステラぁ…」

 

その聞いた覚えもないパスワードが浮かんだからと打ち込んだ俺も俺だがそしたらどうした。

突如知らん教室に立っていたかと思えば明らかに小学生の小娘が机で寝ているという事態になっている。

この都市キヴォトスについて、連続して起こる謎を頭で整理しつつまず話を聞かねば何もわかるまい。

 

「おい、起きろ」

 

「うにゃ…まだですぅ…まだ…カステラ山がぁ…」

 

カステラの山なぞ無い。

というかシッテムの箱を起動したら飛ばされた世界にあるものなのだろうかそれは。

 

「…すぅ…」

 

小娘と息を吸うタイミングが被る。

だが目的は大きく違う、俺はわざと顔を小娘に寄せて

 

「起きんかァ!馬鹿者ォッ!時間になったら起きる!遠足の鉄則だァ!」

 

「ひゃっ!?」

 

へぶっと悲鳴のような声を上げて椅子を転げさせ後頭部を床に打ち付けて、涙目ながらようやくこの星の空に似た髪色の小娘は起きる。

 

「随分と遠足が楽しみで寝不足だったようだな。小娘」

 

「うぅ…え、あれ?せ、先生!?この空間に入ってきたということは…ま、まさかミシガン先生ですか…!?」

 

「寝起きにしては正解だ。だが寝不足で居眠りとは…小娘、貴様の名前は?」

 

「居眠り…?う、うわぁぁ!そ、そうですね!?もうこんな時間!?」

 

慌ただしく、しっちゃかめっちゃかに手足をばたつかせつつ打った後頭部を擦る小娘が落ち着き、名乗るまで待つ。

 

「私は【アロナ】!このシッテムの箱に常駐しているシステム管理者であり、メインOS、そしてこれからの先生をアシストする秘書です!」

 

どうやら新たな職場では厳つい悪友ではなく澄み渡る小娘が参謀らしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

秘書宣言を受けた俺は早々に必要ということで指紋認証を受ける。

取り敢えず軽く話をしてみたがそれだけで、惑星封鎖機構の執行システム、ベイラムの惑星間航行をサポートするAIを凌ぐ人とほぼ同等の人工知能だということは理解した。

今はそれ以上情報はいらんだろう。

 

「……はい!確認終わりました!」

 

「今のでいいのか?」

 

「えぇ、なにか問題がありましたか?」

 

「いや、指切りなどガキの時以来だと思ってな。」

 

レッドガンでは指切りではなくどちらかというと男ばかりの環境だったからか拳と拳を合わせる暑苦しい約束方法だった。

生きて帰ってこいと。

ヴォルタ奴もそうやって送り出し…鉄の棺桶になって帰ってきた。

随分と死が近い職場だった。そう割り切って生きなければいけない。この都市とは真逆にあったものだろう。

 

「ミシガン先生の幼少期…わんぱくそうですね!」

 

「あぁ、そこらの大人に迷惑をかけてはゲンコツをかまされている虫取り少年だった」

 

「へぇ…ミシガン先生にもそんな時期が…」

 

少し昔話に花を咲かせつつも、いい加減仕事をしなければ…

俺はシッテムの箱を起動させた理由を説明する。

 

「なるほど…先生の事情は大体分かりました。連邦生徒会長が行方不明になって、そのせいでキヴォトスのタワーを制御する手段がなくなった…」

 

「おまけに呼び出しておきながら挨拶もなくどこか旅行に出ている奴だ。アロナ、お前の中に連邦生徒会長についてなにかしら情報はないか?」

 

「私はキヴォトスの情報の多くを知っていますが…連邦生徒会長についてはほとんど知りません。彼女が何者なのか、どうしていなくなったのかすらも…」

 

「…ふむ、なら分かった。話は本人の体に聞くとしよう。」

 

握り拳をアロナに見せる

 

「お、お役に立てずすみません…あはは…」

 

アロナの奴は愛想笑いをしている。

体に聞く方法が鉄拳制裁だと理解したからだろう。

そしてこのアロナ、性格はともかく性能は限りなく高いだろう。七神からキヴォトスとは数千以上の学園が集まって作られた学園都市。

本当かどうかはわからんがこの小娘の性格上嘘をついてないように見える。だと推定すれば数千ある学園の【大半を理解し、その情報を握っている。】

だというのにその都市の中央政府、国で言えば大統領に値する存在の情報が全く無いというのはおかしいと言わざるおえんだろう。

と言うことは誘拐など他者の手が入った失踪ではなく、予め失踪を予定した上で俺を呼び出し自身の情報の徹底的な抹消…それを行いきった上での雲隠れの可能性がより高いだろう。

確かにこんなドンパチ騒がしく、問題が多い国の大統領なぞ御免被るだろうが…居なくなるなら居なくなるでもっとやることがあっただろう。

 

「で、ですがサンクトゥム・タワーの問題は私がなんとか解決できそうです!」

 

「出来るのか。なら頼むぞアロナ。」

 

アロナが目を瞑りうんうん小さく唸っている。

恐らくサンクトゥム・タワーの制御権を奪取しているのだろうがその姿からは、レストランでどれにするか悩んでる年相応な子供にしか見えん。

 

「…サンクトゥム・タワーのadmin権限の取得完了…先生。サンクトゥム・タワーの制御権を無事に回収できました。

今サンクトゥム・タワーは、私アロナの統制下にあります。

今のキヴォトスは先生の支配下にあるも当然です!」

 

「そうか、なら連邦生徒会にくれてやれ」

 

「…大丈夫ですか?連邦生徒会に制御権を渡しても?」

 

「もちろんバックドアは仕掛けておけ。最悪の場合今一度の制御権喪失を想定しこちらですぐに復旧できるようにな。」

 

アロナの発言に、七神の目を見てあいつの目は野心ある目ではなくどちらかといえば平和を願う側の目だろう。

ならば悪用をする事は無いだろうが、逆を言えばその周りに野心がある奴がいないとは限らない。

制御権を奪取し、己の野心を肥やすだけの面倒な連中が。

なら保険をかけるのも悪くない選択だろう。

 

「分かりました。気づかれないように複数バックドアを制作、組み込んだ上でサンクトゥム・タワーの制御権を連邦生徒会に移管します!」

 

視界がまた暗闇に閉ざされていく。

どうやらシッテムの箱の中での作業は終わったようだ。

暗闇の先に光が見えたと思えば、俺は明かりのついたシャーレの地下に戻っていた。

その様子に気づかないのか、電話をかけていた七神が通話を終えてこちらに向き直り、現状報告を行ってくる。

 

「サンクトゥム・タワーの制御権の確保を確認できました。これからは停滞していた行政管理を連邦生徒会長がいらしたときと同じように進められますね。」

 

「そうか…ご苦労だった。今回の遠足は大変だったろう、戻って休んでいいぞ、七神」

 

「いえ、先生こそ、ありがとうございます。キヴォトスの混乱を防いでくれたことに、連邦生徒会を代表して深く感謝いたします。

ここを襲撃した不良たち、停学中の生徒たちについては、これから追跡し捕縛後矯正局に送られますのでご心配なく…」

 

「面倒事は増やすな、それと表にいた黒い戦車は援軍だ。間違っても捕縛対象に含めんように。」

 

黒い戦車、オオサワ率いるレッドガン部隊員(仮)は増援であるためもし間違って捕縛対象に含まれる前に、外すように言っておく。

 

「分かりました…あ、もう一つありました。ついてきてください。連邦捜査部【シャーレ】についてご紹介します。」

 

七神は背を向けて地下から出ていくので、こちらも今日最後の仕事と思い少し重くなった腰を上げてついていく。

連れられてきたのは、近々始業予定と達筆に書かれた張り紙が貼られたシャーレのメインロビー。

先程地下に突撃する前に通ったロビーではなく、数階上に行った先にあるもう一つの職場で言うその階に入っている会社の受付がいる場所だと言えば分かりやすいだろう。

 

「長い間空っぽでしたけど、ようやく主人を迎えることになりましたね。」

 

複数ある扉の1つを開けるとそこにあるのはよくあるオフィス、事務職がパソコンとにらみ合い机を合わせるような部屋であり、自分のような体育会系ではなくナイルや五花海のやつが茶でもしばきながら、いそうな部屋だ。

 

「ここが俺の新しい遠足会場か。直近の予定などはあるか?」

 

一応は連邦と名がついている。挨拶回りなどが必要にはなるだろうと個人的には思うがどうやら違うらしい。

 

「…シャーレは権限だけはありますが目標のない組織なので、特になにかをしなければならない…という強制力は存在しません。キヴォトスのどんな学園の自治区にも自由に出入りでき、所属に限らず、例えば先程協力していただいたハスミさんはトリニティの警察のような組織の幹部ですがそのような生徒も含め、

先生の希望する生徒たちを部員として加入させることが可能です。」

 

「捜査というわりに随分と夢のない組織らしい。だが権限だけは子どもの絵の如く、至れり尽くせりのなんでもありと来た、なるほど…なぜ連邦生徒会長とやらがこんな組織を作ったか分からんな。」

 

「すいませんでしたそれに関しては私も聞いておらず…本人に聞こうにも連邦生徒会長は相変わらず行方不明のままです」

 

連邦生徒会としては、彼女の捜索に人材を割いて業務をこなすのは人材不足。

現に今も連邦生徒会には山程苦情が上がってきているのに処理が間に合いきっていないのが実情だという。

 

「もしかしたら時間が有り余っている【シャーレ】なら、この面倒な苦情の数々を解決できるかもしれません。」

 

「…流石代行を任されるだけはあるようだ。俺の知る眼鏡をかけたやつには策謀が似合うらしい」

 

「ご謙遜を」

 

俺からすればまだ学び舎に通って、虫取少年をしていたであろう年齢だというのに。

どこぞのアーキバス所属VⅡの金髪オールバック眼鏡のような腹芸、この世界は殺し合いが常の世界より厳しいらしい。

 

部屋から出ていく七神を見送り下のロビーでまつ即席部隊の四名とオオサワ達の元へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

近未来的な建物、設備が立ち並び防衛用のロボットやモノレール、車などが規則正しく巡回している学園、ミレニアムサイエンススクール。

 

そこから少し離れたミレニアムの自治区の中でも古臭いものが立ち並び廃墟に苔や植物が絡みついては立入禁止となった廃都市。

そこの立入禁止区域とミレニアムの立ち入りが許可されているギリギリの境界線に全体が損傷した巨大船が突如として現れる。

まるでそこに最初から存在していたかのように、まるでただそこに元よりあったことこそが正解であったかのように。

 

その船の船体には薄汚れ損傷で装甲の幾らかが欠落した中に2つの赤い銃が描かれたエンブレムが陽光を浴びて輝く。

ルビコン3進駐に活躍したベイラム系列企業での合同建造艦、アマゾン級1番艦アマゾン。

その船がこのキヴォトスに流れ着いた瞬間であった。




ベイラム系列企業での合同建造艦アマゾン級はオリジナル設定です。
進駐するのにもベースとなる拠点を構築するにも揚陸艦規模での惑星への進駐が物資の運べる量的に必要だと考え生み出されたほぼ武装を持たない工廠、輸送を主としたある程度自衛ができる惑星封鎖機構の駆逐艦の三倍以上のサイズだと考えていただければ幸いです
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