ダンジョンにNINJAがいるのは間違っているだろうか?   作:ニンジャスレイヤー

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初恋の裏で死にかける忍者

俺が【ヘスティア・ファミリア】に入団してから一週間ほどの時が過ぎた。その間、俺は冒険者ギルドに登録したり、迷宮(ダンジョン)に潜ってみたりした。

 

「ティア!やったよ!僕一人でもコボルトを倒せたよ!」

 

「流石。ベルはもっと強くなる」

 

怪物(モンスター)は脅威だ。最弱のゴブリンでさえ、成人男性を容易に殺し得る力を持つ。俺なんて【気配遮断(アサシン)】が無ければ、何度殺されていた事か。

それを鑑みるに、ベルは凄い。真正面から短刀でゴブリンを突き殺し、コボルトを両断出来るのだ。俺のように、隠れて心臓をひと突きして殺すなんて卑怯な事をしなくとも良いのだから、尊敬に値する能力だ。

 

「ティア、今日は五階層まで潜ってみない?」

 

「五階層……エイナはダメって言う」

 

ギルドのアドバイザーであるエイナ氏から言われているのが、「冒険者は冒険をしてはいけない」という事だ。

なるほど至言だ。危険をわざわざ冒して強くなろうなんて、バカの考える事だ。だが……折角の異世界、折角のダンジョンで冒険しないなど、もっとバカだ。

 

「でも、ベル。私たちなら行けるよ」

 

「ティア……!うん、僕たちなら行けるよ!」

 

キラキラした顔で「ティア、ティア」と俺を呼んでくる様は、年上の元お兄さん(年上だよな?)としては可愛いものだ。

現在俺たちは三階層までが最終到達階層だが、これを機に増やしてもいいだろう。

 

「先に私が偵察する。ベルは後から付いてきて」

 

「うん、分かったよティア」

 

四階層に入り、【気配遮断(アサシン)】を発動しながら前に進む。モンスターの姿は見えない、運が良かったのだろうか。

予め買っておいた地図──2000ヴァリスした──を見ながら最短ルートで五階層までの道筋を確保する。

 

「冒険者も少ないし、モンスターも居ないなんて不思議だね、ベル」

 

「そうだね。五階層に行けば何か変わるかな…?」

 

五階層に足を踏み入れ、暫く隠密行動をしつつ進んでいると……ソレは、見つかった。

大斧でコボルトやゴブリンを引き裂き、逃げ遅れた冒険者の死体に斧を叩きつける怪物(あくま)の姿が。

 

「…………ッ!?まずい、ベルに知らせて早く逃げないと…」

 

『ブモッ──────』

 

ドシン、ドシンと俺の背後に牛頭の怪物が立つ。気づかれているのか?だとしたらマズイ、早く逃げなければ………そう考える頃には、俺は宙に浮いていた。

直後に来る激しい苦痛。白黒する視界、身体の芯から冷えていく感覚。

 

知っている、これは────。

 

「死、か!」

 

一週間ぶりの死、鮮明に思い出すのは俺の死因。

そうだ、俺は確か、車に轢かれて……

 

「ティアァァァッ!!!!」

 

「べ、ル……!来ちゃ、ダメだ……殺される!」

 

白い影が俺を背負い、ミノタウロスとは逆方向に走っていく。後方より聞こえるのは、獲物を奪われた獣の咆哮。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

『ブモォオオオオオオオッ!!!!!!!』

 

道筋もめちゃくちゃにベルは走る。俺を背負っていては、おそらくその内追いつかれる。

 

「ベル、私を、捨てろ……!」

 

「嫌だっ!仲間を見捨てたくなんかない!」

 

ガキの癇癪のように叫びながらベルは走る。駄目だ、駄目なんだベル。死人の俺が、生者のお前を引っ張ってはいけない。

無理やり体を動かし、ベルの背から跳躍する。

 

「ハァ…勝負だ、ミノタウロス………」

 

「ティア!駄目だ戻って!」

 

短刀を構え、【気配遮断】をオンにする。たった一瞬でもいい、ベルの逃げる時間を稼がないと。

短刀で皮膚を一閃、硬い、かすり傷しか与えられない。だけど、ダメージは通ってる。なら、殺せるはずだ。

 

「はぁああああああああああっ!」

 

『ブモォオオオオッ!?』

 

一点、ただ一点。【気配遮断】をオンにし、攻撃を当てる事で解除され、またオンにする。どれほど俺が見えているのかはわからない。だが、奴の目が慣れる前に仕留める。

10回、20回、どれほど剣を打ち込んだだろうか。適切な角度で入れられた刃は、やがてミノタウロスの片腕の甲皮を叩き割り──────そして、砕けた。

 

「あと、一撃………がっ…!?」

 

大振りの拳が俺の脇腹を捉える。ぼきぼきと骨の折れる音がする。壁に叩きつけられ、息が詰まる。直後に嘔吐感を抱き、血を吐き出す。思わず武器を手放しそうになるが、これだけは、これだけは手放さない。

武器を手放し、戦うのを諦めた途端、俺は人間ではなくなってしまう。

 

『ブモォ……』

 

ニヤリ、とミノタウロスが笑ったような気がした。そんなに俺を殺せるのが嬉しいのかよ、最悪なビーフステーキ野郎が。

 

「…………ぁ、ああ……」

 

もはや声もあげられない。ベルは尻餅をつき、絶望している。駄目だ、子供がそんな顔しちゃあいけない。

 

ミノタウロスが斧を振り上げ俺に振り下ろす。────殺される。そう、思った瞬間。俺とベルは、朱に染まっていた。

正確には、ミノタウロスの血を浴び、全身が血まみれになっていた。

 

「……あの、大丈夫ですか?」

 

ヘスティア様に並ぶ美少女が、そこにいた。ニート神が自分の趣味を丸ごと反映した俺とためを張れるほど美しい黄金のひとが、返り血ひとつ浴びずに立っていた。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

彼女を見てぽけ〜っとしていたベルが今まで見せたことのないスピードで逃げ出した。待ってくれ、俺は?

さっき助けてくれた時はあんなにカッコよかったベル・クラネルはどこに行った?

 

「ポーション……足りないかな、リヴェリア、お願いできる?」

 

「酷い怪我だ…よく頑張ったな、今治してやる」

 

暖かい光に包まれ、俺の意識は落ちていった。

 

 

 

 ──────────◇────────

 

 

 

アイズ・ヴァレンシュタインは、自分が助けた子供を見て、何かを考えていた。

自分たちが取り逃したミノタウロスは中層のモンスターだ。Lv.2で無いと厳しい……それどころか、咆哮(ハウル)もありLv.2以上でなければ倒すことの出来ないとも言われる怪物に、ここまで肉薄して見せた少女。

 

今はリヴェリアの腕の中で眠っているが、それでも真ん中で折れた短刀を握りしめている。それ程までに強い()()。殆どの人ならばあんな大打撃を喰らって武器を手放すだろうに。

 

「………君は、強いんだね」

 

少女の黒髪を撫でていると、後ろからベートの声が響いてくる。

 

「ソイツは何だ、アイズ。拾ったのか?」

 

「この子、ミノタウロスと戦ってた。碌な装備も無いのに、仲間を守るために戦ってた。あと…武器を最後まで手放さなかった」

 

「あぁ?ンなの当然で─────」

 

「ベート。この子はレベル1だ。治療する際に見えてしまっただけだが、全ステイタスIの駆け出しがミノタウロスと短時間とはいえ渡り合ったのだ。それに対して何か言うのは、些か無粋ではないか?」

 

「チッ…コイツは良い。死にかけの雑魚をいたぶる趣味は無えからな。だがな、逃げ出したトマト野郎の方はどうだ?真っ先に仲間見捨てて逃げ出すなんざ、あり得ねェ」

 

「ッ、ベート!」

 

「……あ?文句があんなら…おわっ!?」

 

ダンジョンの壁に折れた短刀が突き刺さる。その刀の主は、既にリヴェリアの腕の中から消えていた。()()()()()()()()()()()()()に、【ロキ・ファミリア】の面々は警戒する。

 

「あの子は!?」

 

「知らねェ!クソ、隠密系か!?出てきやがれ!」

 

「あそこ……!」

 

アイズが指差したところには、少女───ベルティアがちょうど四階層に引きずり上げれられるように消えていく姿があった。

すぐさまベートが追うが、そこには誰もいなかった。

 

「何なんだ、畜生!」

 

その後、【ロキ・ファミリア】内で『冒険者さらい』の調査が行われることが決まったが、結局は何の進展も無かった。

 

 

 

 ─────────◇─────────

 

 

 

やっべぇ〜〜〜………強そうな連中に喧嘩売っちゃったァ……!目覚めたらベルの悪口を言われてたからつい武器を投げつけて逃げ出したら大事になってるぅ……。

 

ミノタウロスの血はある程度落ちたが、それでもなお服についた血は取れてない。自分の血も混じってるのが余計に厄介だ。

 

「おかえり、ベルティアく───みぎゃああああっ!?だ、大丈夫なのかい!?血が、血がたくさんついてるじゃないか!」

 

「私は大丈夫……ベルは?」

 

「……まだ帰ってないよ。ベルティアくんは見なかったのかい?」

 

「ギルドかな。エイナのところかも。」

 

ちょっと行ってくる、と言いギルドへと向かうことにした。なぜか疲れや傷は無くなっていたので、ギルドまで一走りしてくるとしよう。

俺がオラリオに住み始めてから一週間だが、この街には色々なものがある。バベル、冒険者ギルド、ダンジョン、ダイダロス通りに歓楽街。

 

「………しくじった」

 

ギルドへの近道でも探してやろうと、直線距離を行っていたら……迷った。坂道は意外とあるし、低い身長と高い壁のせいで自分が今のどこにいるのか分からず、さらにバベルを目印にしようにも、どこに行っても同じ姿なのでランドマークとしては意味をなさない。

 

こういう時は、人に聞くのが一番だ。

 

「……ギルドはどこにある?」

 

手頃な酒場に入り、マスターに訊く。一瞬怪訝な顔をされたが、俺を見て何かを察したのか、「山」と言ってきた。

何かの暗号だろうか?だが、それはあまりにも有名すぎる。

 

「川」

 

「通れ、この先だ」

 

マスターに連れられて店の奥へと入っていく。そこは地下になっていて、若干薄暗かった。

 

「イケロス様、俺です」

 

「ボールドか。入れよ」

 

地下奥深く、通路を通った先にいたのは神威を隠しもしない神、イケロスだった。人間であれば誰でもひれ伏すそのオーラに、俺はつい頭を下げたくなるが……奴の目。

面白いものを見る目だ。あのニート神が俺をこんな身体にした時と同じ目をしている。ということは敬うべき神ではなく、ロクデナシのクソ野郎だ。趣味は合いそうで何よりだが。

 

「へぇ?面白え、合格だ。」

 

「しかし……イケロス様、この者を我ら『砕刃』の一員に加えるには、試験を科さねばなりません!」

 

「良いんだよ、別に。『砕刃』に入る条件にこれを追加しとけ、《オレの神威に屈しなかった奴》ってな」

 

さっきからよく分からないが、雰囲気からして……"裏組織"という奴だろう。そうに違いない。だって、よく見たら壁に赤いバツ印のついた人相書きがたくさん貼ってあるのだから。

 

「お前の名前はなんだ?」

 

「……ベルティア。ベルティア・カイネウス」

 

「ベルティア。招待もしてねェのにここに来れたお前だからもう察しがついてるかもしれねぇが、ここは暗殺ギルドの本部って奴だ。」

 

やっぱり。しかも暗殺ギルドだって?

そんなの、ほとんど忍者じゃないか。俺の望みが、今叶うのか。人生、捨てたもんじゃないな。

 

「おいおい、目を輝かせやがって。そんなに人殺しになりたかったのか?まぁ、そんな血だらけの服着てて『殺しなんかしたくありません』なんて言うはずもねえか」

 

「こんなガキが……何があったらこうなるんだ?元闇派閥(イヴィルス)か何かか?おいベルティア、お前年齢は」

 

「12。ステイタスにそう書いてあったから間違いない」

 

「……そうかよ、世も末だな。」

 

ボールドと呼ばれた男がどこか暗い表情をしながら俺の頭を撫でる。それかっこいいな、俺もやりたい。

いつか成長したらやるとしよう。

 

「よし、ベルティア。お前に初任務をくれてやる。【ソーマ・ファミリア】のガイウスって冒険者を殺せ。奴は他派閥の団員を殺して金を奪ってる。Lv1の雑魚だから、やれんだろ」

 

おおう、いきなり人殺しか。だが、忍者は殺す相手を選ばない。主命こそ全て。それならば、それ相応の戦闘服も買っておかなければ。

 

「ベルティア。覚えておけ────『暗殺者は、殺すと決めた相手は必ず殺す』。これだけは忘れるな」

 

イケロス神も、先輩のボールドさんも俺に期待してくれているらしい。宜しい、ならばやり遂げよう。

ベルティア・カイネウスの名に恥じない活躍を見せてやる。

 

 

………あれ?ベルは?




ステイタス変動は恩恵更新をしていないためありません。
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