ダンジョンにNINJAがいるのは間違っているだろうか? 作:ニンジャスレイヤー
今日は珍しく、ダンジョンに潜らない日だ。……というよりは、「無理し過ぎ」とヘスティア様に怒られてしまったので、エイナの所に行き本を読んでいる。
「それにしても、ベルティア氏が勉強したい!だなんて……何かあったの?」
「いつまでも代筆だと…面倒。それに、ベルの為」
ベルは童話が好きらしく、意外と小難しい単語を知っている。だが、この世界の───オラリオのではあるが───常識を知っておかなければならない。
それによって、ベルやヘスティア様を悪意から守ることができる。
「そっか。なら、これも追加だねっ…と!」
どすん、という音を立てて大量の本が追加される。歴史書、魔術理論書、オラリオ経済学入門、オラリオ法大全、
字が読めないので、エイナが口頭で解説してくれる。仕事ほっぽって良いのかと聞いたら、「これだってちゃんとした仕事だ」と言ってくれた。
次の日、俺はダンジョンに潜る準備をする為、バベルに来ていた。昨日、エイナに「バベルにも安い武器屋はある」という事を教えてもらったからだ。
「いらっしゃい……ここはサポーターに武器を売るような場所じゃねえぞ」
俺を出迎えてくれたのは、無愛想なオッサンだった。肌が浅黒く焼けているのは、鍛治師の証か何かだろうか?
「……ここで一番安い武器は?」
「ああ?ここで一番安いのはこのダガー…いや、クロッゾの小僧が作ったナマクラがあったな。ちょっと待ってろ」
クロッゾ、というと魔剣製作者の家系の者なのだろうか?なんでも少し前に没落したとかなんとか。その人が作ったものなら、見てみたい気持ちはある。
「……待たせたな。これだ、確か
ダッサ。カゲヨシとかじゃないのかよ。だがまあ、形状は気に入った。
特に、なんの
人はこれを無駄だと言うかもしれない。───だが、無駄というもの…それは男の浪漫だ。
「300ヴァリスにもならねぇオモチャだが…これで良いのか?」
「だから気に入った。」
「都合のいい在庫処分みたいで悪いな……そうだな、お前さんの装備を強化してやる。割引しとくぞ」
店の親父さんが手を差し出してくる。俺が持っている装備といえば、ニート神から貰ったフード付きローブだけだ。
「俺の腕を疑ってるのか?俺はLv.3、『鑑定』の発展アビリティも持ってるし、『鍛治』のアビリティもある。既に俺には固定客がいるから、お前さんの専属にはならねぇが、今回は特別だ」
「じゃあ、これを……」
ニート神から貰ったローブ──略して『神のローブ』を手渡す。親父さんはそれをまじまじと見ると……目を見開いて、口角を上げていた。
「おい、お前……いや、
「私を産んだ存在が、餞別としてくれた」
「……貴女はいったい…いや、そんな事よりも!これを、俺に強化させてくれ!頼む、これは"偉業"になる!」
「お、おう……いい、よ?」
「感謝するッ!」
そういうなり、親父さんは裏へ行ってしまった。ウッキウキで作業しているのか、時折「ウッヒョ〜!」という声が聞こえてくる。
こっそり作業場を覗くと、半裸の中年男性が踊り狂いながら刺繍をしていた。何を言っているか自分でもわからない。
3時間後、親父さんはローブを持ってやってきた。その顔はなぜかツヤツヤしており、頬を紅潮させていた。
「さて……名前を聞いてなかったな。恩人様よ」
「…ベルティア。ベルティア・カイネウス。様付けはいらない」
「ならばカイネウスと呼ばせて貰うぜ。カイネウス、色はどうしたい?」
俺的には、今の麻色でもいいのだが、忍者たるもの「黒」が一番かっこいいだろう。俺の髪色とも合っているし。
そう答えると、親父さんは黒い水球のようなものをローブに押し当てる。すると、ローブはあっという間に黒色に染まる。便利だな、これ。
「そら、これでどうだ。強化の内容としては、全体的な防御力向上と性能向上だ。元々"
「……そんなに、金はない…」
「いいんだ、
実際に着て、【
今までは目の前で消えたら見えにくくなるだけだったのが、完全に見えなくなっているらしい。
「良い買い物。感謝」
「こちらこそ、だ。また来いよ」
バベルの下に行くと、ベルが俺のことを待っていた。明日あるとか言う
「あ、装備新調したんだね。ティア」
「似合ってる?」
「うん!とっても似合ってるよ!」
やはり溢れ出る忍者オーラが黒いローブと俺の親和性を高めているのだろうか。今日はウキウキでダンジョンに潜れそうだ。
──────なんて思ったのも束の間。俺の気は引き締められることになる。
それは、俺とベルがあらかたモンスターを処理し、少しの間休憩を入れている時だった。ベルが用を足すため離れている時に、音もなくボールドさんが現れたのだ。
「ベルティア、居るんだろう?仕事だ。今回殺してもらうのは、【オシリス・ファミリア】の斥候だ。
「………了解」
「前回は【ルドラ・ファミリア】の名を出したらしいな。今回もそれで行け、油断を誘える。」
「ベルは?一人で
「俺に同行して来た暗殺者がベルの気を引いておく。その隙にお前は離脱して地上まで行け。奴は歓楽街に身を潜めているが、位置まで割り出してある。だが警戒心が強くてな、決定打に欠ける。そこでお前の出番というわけだ」
「理解。今すぐに向かう」
ボールドさんの陰から一人の
「ぱ、
「了解」
ベルには悪いと思いつつその場から離脱する。俺の
モンスターと何度もすれ違ったが、見向きもされずに目の前を通り過ぎる事ができた。そのおかげで、俺はあっという間に地上にたどり着く事ができた。
待ってろよ、【オシリス・ファミリア】の斥候。
成長した俺の忍者スタイルを見せてやる。
──────────◇────────
過去とは、常に背後から追ってくるものだ。
忘れたくとも、忘れることを許してはくれない。
私……リュー・リオンが店の支度をしている時、通りすがったエルフの冒険者の会話を聞き───心臓が、跳ねた。
「その逃げた【ルドラ・ファミリア】の娘、まだ見つかってないのか?」
「ああ、若く優秀な子だったからまた雇いたかったんだが……音沙汰もない」
「そういえば、さっき歓楽街の方に入っていくローブを着た小さい子を見たけど、あの子は?」
「さてな……」
全滅させたはずの敵が、【ルドラ・ファミリア】が、まだ生きている?神ルドラは、確かに強制送還されたはずだ。だが、それがもし……別の神、だったのなら?
「リュー?どうしたのニャ?」
「アーニャ、ミア母さんに『今日は休む』と伝えておいてください。私にはやる事が出来た」
「ゲェーッ!まだ仕事は残ってるニャ!?ちょ、待つニャ!リュー!どこ行くニャー!」
昼の歓楽街へ足を踏み入れる。本来ならばこんな所、1秒でも居たくはないが【ルドラ・ファミリア】の残党が悪事を成さないよう、芽を摘み取っておかなくてはならない。
話にあった『ローブの小さい子』を探して路地裏を歩き回る。悪事を成そうとする者は、大抵こういう場所に隠れるものだ。
「キャアアアアアアアッ!?」
「──ッ!そこか!」
東洋の意匠が凝らされた娼館の中から悲鳴が聞こえる。おそらく、そこで何かが起こったのだろう。Lv.4の膂力を以て跳躍し、窓から乱暴に押し入る。
「忍………殺………ッ!」
そこには、黒いローブを羽織り、深々とフードを被り、血塗れで裸の男の上に立ち、「忍殺」と呟く少女の姿があった。おそらく、コイツが──────。
「【ルドラ・ファミリア】の団員か!?そこの男は、お前が殺したのか!?」
少女は私の方を一瞥すると、フードを取り、その顔を晒した。エルフも羨むような容姿、神が直接造ったのではないかとも思えるその顔に、一瞬だけ気圧される。
「……そう。この男は私が殺った」
抑揚の薄い声色の中に、僅かな達成感が滲んでいる。外道め、人を殺せる事がそんなに嬉しいか。そんなものは異常だ、あってはならない。そんなものは正義ではない。
「【ルドラ・ファミリア】…そう、私は【ルドラ・ファミリア】の人間。」
怯えた娼婦の
「ハァァァァァッ!!」
「どこへ行った!逃げるな卑怯者!戦え!卑怯者!逃げるなぁぁぁ!!!」
歓楽街の真ん中で、私の悲鳴にも似た絶叫が上がった。
次に見かけた時は、必ず────殺してみせる。
──────────◇───────────
全身が痛い。
『神のローブ』を強化して貰っていて良かった。でなければ今頃あの緑衣のエルフの刀で真っ二つにされていただろう。
それにしたって、骨がいくつか折れている気がする。最近こういうのが多すぎる気がする。世界はもっと俺に優しくなって良いと思う。
「早く、逃げ…ないと……」
遠くの方からエルフの絶叫が聞こえる。すごい怒っているらしく、「どこだぁぁぁ」という声が響いてくる。
殺した男の恋人か何かだったのだろうか。だとしたら悪いことをした。だが、恨まないでほしい。恨むなら彼氏が悪人だったことを恨んでくれ。
「こんなとこで、死ぬとか…冗談、キツい……」
「……おや?君は…」
金髪が見える。さっきのエルフか?耳も正直よく聞こえてない。どうせ殺されるなら、一撃でも与えてから……あ、駄目だ、無理に飛びかかろうとしたせいで──────意識が…。
「ヘスティアん所の子かな?仕方ない。
眠る前に、そんな言葉を聞いた気がした。
◇
目覚めると、俺はベッドに寝かされていた。
傍らには、冷たい印象を与える眼鏡をかけたクールビューティーの女の人が座っていた。
「起きましたか。自分が誰か、何故ここにいるか分かりますか?」
「私はベルティア・カイネウス……
「そこまで分かっているなら結構です。では私はこれで。あとはヘルメス様が対応しますので」
水色の髪の美人さんが扉の向こうに消えると、入れ替わりで軽薄そうな印象の人がやって来た。この独特なオーラ、ニート神を思い出して嫌になる。こいつも適当な奴じゃないだろうな。
「やあ、君がベルティアくんだね?イケロスの奴から聞いたよ、暗殺ギルドに所属してる、最近ルドラの名前を使って殺しをやってる子供ってのは君の事だってね」
あ、コイツは仕事ができるタイプだ。
軽薄な表情は優秀さを隠すための仮面で、本当は誰よりも真面目に働くタイプの奴だと見た。こういう手合いには、下手に嘘を吐いたり誤魔化したりするのは悪手だ。
「…そう、私は忍者。神ルドラの名を使って2人殺した。彼らは死ぬまで私の正体に気づかなかった。ふふん」
「……なんで誇らしげなんだい?まあ、キミの正体に関してはただの勘だったんだけどね。
「……背中を、見たの?」
「アッ」
いくら俺が元男とはいえ、女の身体になってしばらく経つと、流石に男に裸を見られるのは若干の忌避感がある。ベルみたいな家族なら全然大丈夫なのだが、知らない男、しかも神に見られるのは少し恥ずかしい。
「そ、その……まぁ!事故ってことで!オホン。本題はそこじゃあない」
「…………?」
「この俺、ヘルメス率いる【ヘルメス・ファミリア】に協力する気はないかい?」
神ヘルメスと目が合う。どこまでも、俺を利用するつもりの目だ。だが、それで良い。俺は忍者、忍者は道具だ。
俺はその手を取り──────。
「協力する。」
と、そう言うのだった。
ステイタス更新をしていないため、前回と同じです。