いっぱい出たね♪ じょろじょろ出ちゃう黄金水 ~ これって、地層処分するしかないんでしょうか? ~ 作:八切武士
まぁ、出てくるのは出てきた人達だけですので。
会議室に入ってきたミドロー伯、トリスタン=ワット……常任理事補佐、(悲しき中間管理職とも言う)は、ちらりと熊谷少年とサーシャに目をやったが、アレクシスはそれに頷きを返す。
「“流され人”の誘拐案件ともなれば、迅速な対応が求められます、初動は彼らに頼みたい」
「了解です」
トリスタンは報告用にテーブルに広げられたままとなっているローランド公国の地図に、おはじきっぽいマーカーを一つ置く。
「サウス・ヘッドのギルステン、その付近の街道上で村人に保護されて移動中だった若い女性の“流され人”が野盗に襲われ、拉致されたとの報告です、生死は不明」
簡潔な報告だ。
だが、それが示している状況は深刻だ。
「野盗から逃げ延びた村人を巡邏中の"主要街道取締方”部隊が保護し、現場検証と野盗の追跡を行ったそうですが、森の中で痕跡は途絶えており、その為、一旦拠点にとって返して、保護した村人から詳細な証言をとりつつ、野盗討伐の為の戦力を再編成する様です」
「ギルステン村なら、アルストラン騎士爵が代官でしたね……巧みに産業を育成していて、領民の生活向きは良いですが、個人としての武勇は特に突出したものを聞きませんね、申請では常駐している兵は一個分隊程度、村人を招集しても広範囲の捜索をするのは人数的に難しい」
アレクシスは実家にいた時に読み漁っていた領地の資料を思い出す。
少し前の資料だが、人口と兵隊の人数はそこまで変わっていないだろう。
「物資と増援については取り急ぎ、寄親のケネディ伯とハリソン子爵が何とかするでしょう」
「そうね、こちらとしては、現地の状況把握と森の捜索に強い関係者を急ぎ確保しないと、後は受け入れ体勢の用意」
トリスタン伯の目が若干眇められる。
たとえ野盗に捕らえられても、若い女性なら“すぐには”殺されない可能性がある。
しかも、見るからに“流され人”だと分かる容姿であれば、常識の欠片ぐらい残っている者が頭であれば、しかも、リスクを天秤にかけられるだけのずる賢さが残っていれば、金銭で話がつく可能性も皆無ではない。
「では、取り急ぎ現地の状況の把握と、“影響力”の送り込みですね……」
アレクシスが熊谷少年に目をやると、彼は傍らに置いていたヘルメットを手に取り立ち上がった。
「よし、ひとっ走り行ってきます……ラースまでなら、明日の午前中には着くかな」
(おいおい、“同乗者”の事も考えておやりなさい、嫁入り前の尻が壊れちまうじゃろが)
無茶な移動を“断れない”サーシャちゃん(14)は真っ青な顔で首を振っている。
彼女の“目的”を考えると、地面にゲロをぶちまけようが、尻を二つ以上に割ろうが、彼の背中にくっ付くのを止めないだろう。
(ハンドル握ると人が変わるタイプは居るからのう……加減しろ馬鹿!とか言ってやるべきじゃろうかのう)
アレクシスは十六年の淑女人生で染みついた微笑を一旦消し、気づかわしげな表情を浮かべる。
「確かにあなたと“F.A.”なら可能なのでしょうが、着いた先で行動する余力を考えて行動してくださいね、それにあなたは一人ではないのですから」
「私なら大丈夫、大丈夫よ!ぜんぜんいけちゃうから」
アレクシスの言葉で、明らかに、あ、やべっ、という顔になった熊谷少年が青い顔をして聖印を握りしめているサーシャを見て頭を掻いた。
「まぁ、“普通に”とばしても明日中にはつくと思います、はい」
「それで充分です、こちらも後続の支援体勢を整えますので、連絡は密にお願いしますね」
ホッとした様な顔で見上げるサーシャに謝罪する様に頷く熊谷少年に、アレクシスも、少々貴族らしくはないがついついうんうんと頷いてしまう。
その顔は、良くできましたとでも言いたげな、完璧に孫を見るジジイかババアのほっこりフェイスになってしまっていた。
諦めた様な副官と、目だけが笑っていない侍女の視線には全く気がつかずに。
~ 公都からラースへの街道にて ~
「この辺でいいかな」
公都の門を出て暫く歩いた後、熊谷少年は足を止めた。
彼が乗り回している“F.A.”は少々目立つし五月蠅い。
「出てこい、“F.A,”!」
熊谷少年がかざした左の前腕部から輝きが飛び出し、道路へ光と羽毛が降り注ぐ。
すると、道路の上に、やたらとフロントフォークが長くて長大なアップハンドルがついた、アメリカンな雰囲気が匂い立つチョッパーバイクが現れた。
『Yeah!』
野太いおっさんのかけ声と一緒に、腹の底に響く、どぅるどぅるどぅるどぅる、というエンジン音が辺りに響き渡る。
『ぶふ~ぅ!BearBoy、ぶっとばそうぜぇぇ』
「ああ、今回はラースまでだから、二百、三十か、四十キロ位かな」
熊谷少年は気安い調子でまたがると、燃料タンクをぽん、と叩く。
『140マイルちょっとか、大したこたぁねぇ』
「いや、ツーリングじゃないから、強行軍はできないよ、新しい“流され人”を探しに行くのさ、あっちについてからすぐに動き回りたい」
『そいつぁ面白ぇ、出来ればケツのでけぇBabeがいいな、いい加減骨っぽいガキのケツには飽きてきたからな、Ouch!おい、その棒ッ切れ結構いてぇぞ』
「いつ見ても、この“まふらー”っていうパイプ、公都で見たオルガンについてたのに似てるわよね、もっといい音が出るんじゃないかしら?」
“癒やしの神”の祝福がたっぷりのった若木の杖は、クロームのメッキに輝く金属パイプにぶち当たると、ガン、という結構重い音を立てた。
『おい止めろ、マジ痛ぇ!』
「きゃ」
熊谷少年はいつものじゃれ合いを始めた二人にため息をついてバイクを降りると、サーシャの腰にさっと腕を回してタンデムシートへ降ろす。
「もう、助けを待ってる人がいるんだから、早く行くぞ、サーシャ、これ被ってしっかりつかまって」
「……うん、分かった」
(さっきの、ちょっと良かった……)
サーシャは少し頬を染めながら、熊谷少年に渡されたヘルメットを被り、しっかりとストラップを固定した。
彼は少し細身だが、ああやってしっかり抱かれるとなかなか引き締まった体と、鍛えられた体幹が強調されて、“男の子”じゃなくて“男”って感じがしてしまうのだ。
しかし、“F.A.”とか“ふぉーりんぐ・えんじぇる”だか知らないが、下品な鉄の馬みたいな“流され人”の遺物は実に気に食わない。
気に食わないが、いつもこうして彼の背中に頬を埋めてしっかり抱きつく口実にはなるので、それだけで許してやるのだ。
あと、ついでに早い、馬の倍以上早い。
役に立つのは認める必要はあるだろう。
爆音を轟かせるチョッパーバイクの上で、“流され人”の腰の玉を虎視眈々と狙う少女はがっちりと意外と広い背中へ貼り付くのであった。
~ ギルステイン村にて ~
“大地の神”アナンの神殿は、農業や畜産をやっている村であれば規模の大小こそあれ、必ず設けられている。
収穫量や家畜の肥育に加護による直接的な影響があるとなれば、死活問題なので。
「準備はいいね」
ギルステインの神殿の粗末な奥の院には、むき出しの土の上に、磨き抜かれた岩が安置されている。
今はその前の柔らく掘り起こされた土に裸体の青年が顔と手だけ出した状態で埋められていた。
青年を埋めた土饅頭の周りには様々な自然石がつるつるの丸石になるまで磨かれたものが籠に山盛りに盛られて並べられている。
その傍らには、茶色いローブを纏った老婆が座り、鳶色の髪にヘーゼルの瞳をした娘が青年の手を両手で包み込む様に握っていた。
「はい」
娘の様子に満足げに頷いた老婆は、六角形のコイン状になった水晶の聖印を握りしめ、大地の母なるアナンへ奉じる祝詞を朗々と吟じる。
すると、聖印が暖かく震え始めた。
そっと開かれた老婆の手のひらから柔らかい蛍光色が溢れ、聖印は震えながら浮かび始める。
聖印を押しいただいた老婆が、次に仕える使徒としての誓句を唱え始めると、老婆の額に汗が浮かび、聖印の光が色が移り変わりながら周囲を虹色に照らす。
最後に、老婆がこの地で産まれ育まれた者に再び生を与えてくれるよう請い願い始めると、聖印光を浴びた籠の石が、色の移り変わりに合わせて、砂の様に崩れて行く。
「ギルステンのカイル、ガストンとイーラの息子よ、アナンの産み土より出よ!地を割り、再び大地に立つ時ぞ!、今だ、“引っ張り戻しな”!」
全ての石が虹色の光に溶け崩れた時、断固とした一括が轟いた。
「カイ、戻ってきて!」
虹色の光が弾け、土が盛り上がる。
両手で包み込んだ手を握り返され、ミルドレッドが顔を上げると、上体を起こして、土まみれになった胸板と喉を戸惑った様になで回しているカイルと目があった。
「ミル?」
「おかえりなさい」
後は言葉にならず涙をただこぼすミルドレッドの頬から涙を拭おうとして、カイルは土まみれの手を困った様に引っ込める。
「無事に済んだ様ですな、お疲れさまです」
至聖所の入り口で全身鎧姿の男が一礼し、声をかけた。
更に、もう一人、ローブを着た恰幅のいい赤ら顔の男がひょっこりと姿を現し、老婆の所へとことこと歩み寄り膝をつく。
「祈祷士殿、危なげのないお仕事、お見事でした」
「ふん、あんだけ未練たっぷりで体にしがみついてる上、“自分が死んだ事”がちゃあんと分かってて、新鮮で綺麗な死体に“戻す”位、ひよっこにだって簡単さ」
口では憎まれ口をききながらも、老婆は満更でもないらしく、ローブの男、精気術士トーマスが差し出した薬草茶をにんまり笑って啜るのだった。
「さて、ギルステインのカイル殿、初めまして、私は“主要街道取締方”のライアン、“戻りたて”で申し訳ないが身支度を整えたら、“渡流され人”との関わりと、君達の災難について事情を聞かせて欲しい、事が事だけに急を要するのだ、“流され人”の拉致が疑われる案件なのでな」
ライアンの言葉を目を丸くして聞いていたカイルは、渋面になり、頷く。
「そうか、さらわれちまったのか……分かりました、お話しします」
「裏に湯と新しい服が用意されている、ギル、ゴル、連れて行ってやれ、“戻りたて”だからな、しっかり支えてやれ」
ライアンの部隊の兵に介助されてどうにか立ち上がったカイルは布に包まれ、両脇から屈強な男二人に挟まれ、ぷるぷるとまるで産まれたての子鹿の様に足を踏み出した。
「慌てるな、一歩一歩意識しろ」
「ああ、悪い」
「体まだふわふわしてるだろ、気をつけろ」
隊の中でも“経験者”であるゴルが、励まし、男三人は裏庭へ消えていく。
「さて、これで懸念事項が一つ片づいたが……」
残りの兵が老婆の指示を聞いたトムの命令で、使用済みの石の粉を土へすき入れ、籠を片づける様子を確認し、ライアン卿は先ほど届いた放浪者協会の返事を思い出す。
(明日には二名到着します、よしなに……か、相変わらず早い、来るのはあの二人か)
取り敢えず、カイルの聴取結果をミルドレッドの聴取と照らし合わせて、更に初動を代官と相談する必要がある。
明日までにやる事はまだ多い。
To Be Countinued...
書いてたら、何故かゲーミング蘇生術になっていた