いっぱい出たね♪ じょろじょろ出ちゃう黄金水 ~ これって、地層処分するしかないんでしょうか? ~   作:八切武士

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 チック=ピー一家の信用(?)得た八誌緒は、“流され人”の先達、陸自隊員達の遺産(KIAではない)を入手し、彼等と“娘”達の悲恋(と言う名の一方的な仰向けお馬さんごっこ)に(色々な意味で)涙しつつも、トイレ堀りに便利な軍用エンピににっこりするのであった。
 そして、割と雑に危険な兵器の情報をヤバい犯罪集団に開示しまくる八誌緒だが、頭がハッピーな一家の主は、“撃ってるとこ見てぇな”とか思っていたのだった。


【第1部 第22流 ~ メスブタ狩り ~】

 

 

~ チック・ピー一家のアジト 酒倉八誌緒~

 

 

 “おたからべや”から貰ってきた装備の中から、サスペンダーとベルト、ポケットが沢山ついた腹巻きが一体化した用な装具……チェストリグを取り出して、ベルト部分へ銃剣とエンピ、携帯ホルダーと若干の手榴弾達を取り付け、腹巻きみたいになってるマガジン用のポケットへハチキュウのマガジンをねじ込んでゆく。

 

『よーし、こんなもんかな』

 

 結構ずっしりした重さになったチェストリグを制服のブラウスの上から身につけ、ジャケットを羽織り、両肘と膝にプロテクターを巻き、最後にハチキュウを持つと……でで~ん!どこから見ても立派な武装JKの出来上がりである。

 ちなみにベレッタはホルスターが無かったので、仕方なくお腹の辺りでベルトとスカートの内側へ斜めに突き刺してある。

 

 カリブの海賊かな?

 

 しかし、これ、多分、本来はボディアーマーを着てから身につける筈なのだが……

 

(チチがキツすぎて入らないとか……マジかぁ)

 

 がっちがちむっちむちの力強き雄っぱい、まるでみかん箱をぶちこんだ様な厚みのブツをしっかりと包み込んでいた筈のソレは、八誌緒の天然の巨峰を包み込むには明らかに包容力が不足していた。

 無理に羽織ると、肩、首回り、両脇腹を隙間なく防御する重厚な自衛隊仕様の前開きボディアーマーの合わせ目から、二つの山脈が山頂所か、五丁目辺りまで丸出しになるという、なんか、そう言うミリタリーものアニメのデカちちキャラみたいになってしまった。

 パンイチで羽織れば、前線慰問で兵士のコスプレをしてストリップしながらポールダンスを踊るおねえさんの出来上がりである。

 そう言う訳でそっと鞄の中へボディアーマーは返品されたのであった。

 

(さて……しかし、これは、一体なんの作戦行動中だったんですかねぇ?)

 

 八誌緒の鞄の中に追加された、陸さん達の遺留品、わざわざチック・ピー一家に説明しなかったブツには、ちょっと内側が湾曲した足付き弁当箱や、長方形の容器に入った粘土っぽいものまで入っていた。

 

(うん、クレイモア地雷とC-4ご一式様ですね……施設科の人?まぁ、普通科でも使うだろうけど)

 

 ファンタジー世界の住民には流石に兵器だとは思われなかったのか、雑然と箱に突っ込まれていた。

 対人用散弾をまき散らすクレイモアは兎も角、C-4は洞窟をそこそこ崩落させるのに十分な分量だ。

 

(こぇぇ……)

 

 幾ら焚き火に放り込んでも燃えるだけって位安定した爆薬でも、恐ろしすぎる。

 

『ヤシオ、じゅんびできたか?』

『ん、おけ』

『そか』

 

 ヤバい、なんか連中の舌足らず方言がうつってきてる気がする。

 ただでさえ“おまえ黙ってりゃ小動物みてぇなツラしてるな”とか、“ほんと、顔だけはぽややんとしてるな”だの、“見た目はちょろそうだよな”、“強引に押せばヤれそうな雰囲気が罠”、“先っちょだけ!先っちょだけだから!”、“天井のシミ全部数え終わるまでには終わるから”……等々。

 なんか、どちらにせよ不本意な事を言われてた覚えが何故かある。

 

(って、関わった連中の品性が最悪すぎる件について……細かい事全然憶えてないけど)

 

 しかし、喋りまでアホっぽくなったら、更に“簡単に股開きそうな頭緩めの眼鏡巨乳”度が上がってしまう。

 ここを生き残れた後、非常に面倒くさくなりそうな未来しか見えないので口のききかたには気をつける必要がありそうだ。

 

(いっそ、バラクラバで顔隠した方がいいのかも……でも、眼鏡がなぁ)

 

 スキーヤーと特殊部隊、そして銀行強盗が御用達のあの目出し帽という名の覆面。

 あれを被ってれば確かに顔は隠れるが、覆面の上から眼鏡をかけると間抜けさが増すだけな気がする。

 せめてサングラスならまだマシだとは思うが。

 というか、そういう“匿名性”を強調する装備で凄むには、残念ながら背丈順で並ぶと女子高生列の中程に少し足りない程度のポジションなガタイでは致命的に“圧し”が足りない。

 威圧する相手を“見上げる”状態では、成功判定に幾つBadが付く事やら。

 そんなしょうもない事を考えながらもテッパチを被ってストラップを閉め、タクティカルグローブを填めて、手首のベルクロテープを止めてゆく。

 そして鞄を背負えば、遠征準備完了だ。

 

 靴はいつものローファーから、ジャングルブーツへ変えておく。

 この、“衣裳”切り替えシステム、履き換えの手間が無くて、非常に便利だ。

 なんか、汚れたり痛んだりする様子も無いし。

 ブレザーと、メイド服以外にも変えられるんだろうか。

 或いはバリエーションを増やしていけるのか。

 これももっと試す必要がある。

 

 紅眼の“娘”と通路のどんづまりまで歩くと、外出の準備を整えた“倅”達六人と、その他大勢の見送り、そして、皮鎧を着込んでどデカいハンマーを背負い、これまたデカいボウガンを抱えたおっさんが待ち受けていた。

 マイク・チック・ピー、チック・ピー一家の頭目である。

 しかし、腰の矢筒に刺さってる太矢の軸が、成人男性の親指位ある極太仕様だ。

 そんなモノを発射する本体に弦を引くカラクリがなんかついてるのかと思えば、頭の所にシンプルに足を入れる台形のあぶみがくっついている。

 

(いや、あのごっいの、弦は手引きって、背筋と腰が死ぬ……って言うのはまぁ、どうでもよくて、今日はチック・ピー一家の狩りに同行する事になってしまった訳なんだけど……どう言う訳よ?)

 

 無論人間狩りではない。

 普通に食べる鹿、兎、野鳥、そして、最近増えた狼や、ファンタジーな謎生物。

 食べて美味しい奴と、間引かないとおちおち歩けない奴らが相手だ。

 何故か、“倅”達が次の狩りに八誌緒を連れて行こうと言い出し、マイクとニンは流石に微妙な顔をしたのだが、どうやら、チック・ピー一家には、“成人の儀式”では無いが、一人前の家族になったメンバーには、狩りの一射目を撃たせるという、慣習の様なものがあるらしく、それをやらせたいという“倅”達の主張に、折角だから銃を撃つ所が見たいというマイクの気まぐれが重なって許可が出た感じだ。

 

(近代武器についてそこそこ説明した筈なんだけど、よく分からん“流され人に”平気で完全武装させて外に出したがるとか、ほんとこいつらライブ感で生きてるなぁ)

 

『おまたせ~』

『おう、来たな』

 

(人を何人か殺ってそうな……じゃなくて、このおっさん、何人殺って、ついでどれくらい喰ったかも忘れてそうだよね……お前は今までに喰った人間の数を憶えているのか?って、いや、喰ってる訳ねぇだろ!ってね)

 

『へっ、堂に入っているじゃねぇか、もう、何人か殺ってそうだぜ』

『おっさんに言われるとしゃれにならないんだけど……ん~、なんか、もうヤった数とか憶えてない気がしてきた』

 

 ちらちらと閃く、イマイチ現実感を伴わない癖に妙に生々しい、首をねじ折る時の“ごっ”という音と感触、ダウンした相手の頭をサッカーボールキックした時のつま先の重み、肋骨の間を通す時に感じる肉の反発と、骨と擦れるナイフの振動。

 

『ひいッ!(ジョ、ジョジョジョーッ!)』

 

 八誌緒は思わずぼーっと、急に湧いてきたフラッシュバックの幻視に耽ってしまった。

 

『オデ、オデ……ズボンかえてくる……』

 

 “倅”の一人が半べそかきながら、ぐっしょり濡れた股間を内股になって隠しながらアジトの奥へ走ってゆく。

 なんか、フラッシュバックに耽っている間に、“何故か”一人メンバーが脱落したらしい。

 

『わらってた……わらってたよ、かぁちゃんよりこええ』

『“ころし”をはんすうしてるんだ……』

『あ゛あ……さんどのめしよりころしがすきなんだ、おれたちだってころしはくうためなのにぃ』

『ち、ちがうよ、くってるんだ、“し”をくってるんだよぉ!』

『ん゛、ん゛、ん゛っ、ん゛!ん゛う゛っ、ん゛!……ふぅ……(ぷるぷるぷる)、おれもずぼんかえてくる……』

 

(なんか分からんけど、出発する前にパーティが壊滅しそうになってる件について)

 

~ A few later ~

 

『あ~、行くぞ』

『『『『『『お~……』』』』』』

『はーい』

 

 待ちくたびれたマイクが欠伸混じりに宣言すると、最初の勢いがどっかへとんでいった“倅”達の生返事を八誌緒の軽い声が上書きする。

 

『いってこい』

 

 紅眼の“娘”が手を振るのを背後に、土の精気術使いの“倅”達が通路の先を穿った穴から地上を目指す。

 歩いたそばから背後の土が崩落する様に埋められてゆくので、正直心臓に悪い。

 数分歩いて地上へ出ると、穴はすぐ埋めて慣らされ、“倅”達がぱらぱらを何かの種を蒔く。

 

『なんかざっそうのたね、はやくそだつやつをまぜたのだ、にさんにちであおあおする』

『へぇ、エコ……じゃなくて、カモフラもちゃんとするんだ』

 

 流石、今までとっ捕まって族滅されてないだけはある。

 幾ら何でもライブ感だけじゃ長続きはしない訳だ。

 チック・ピー一家の以外と細かい工夫に感心していると、“倅”達は特に指図される前方にツーマンセルを二組、後方にツーマンセル一組を作り、真ん中にマイクと八誌緒を据えた陣形を作っていた。

 

『こっからは“外”だ、気を抜くんじゃねぇぞ!』

『では、今日も一日ご安全に!』

『なんだそりゃ?』

 

 マイクの号令で、一行は歩き出した。

 私語もなく、静かなものだ。

 アジトだとスカートめくりからのパンツずらしや、ブラのホック外しからの横チチびんただの、超小学生レベルのセクハラコンボをひたすら連打してくる様なアホの集団でしかないが、流石に外だと多少なりともピシッとするものらしい。

 そりゃ、命がかかっているのだから当然と言えば当然だが。

 ちなみに横チチびんたはマジ痛ぇので、やらかした馬鹿は両耳鼓膜破りビンタからの菩薩掌というFatalityコンボを喰らわせておいた。

 今度やったら、“因果”で応報するか、“螺旋掌”喰らわせて口からドリルみたいに臓物を噴き出させてやろう。

 

『おいおい、ずいぶん騒がしくなってやがるじゃねぇか』

 

 しばらく歩いていると、マイクが呆れたように呟いた。

 無論、“倅”達の事ではない。

 

 “森”がである。

 

 人喰いのアジトに引きこもる羽目になる前に散々うろついた森は、囁きの様な葉擦れの音に鳥の囀り(さえずり)、そしてたまに何かの遠吠えが響く様な深山幽谷と言うに相応しい静けさだったのだが、今歩いている森は、ひっきりなしに羽音が響き、己の気配を隠そうともしない小動物がかさかさと走り回り、青々とした葉をつけた草木には、草を食み、樹液を啜る虫達がその姿を誇示している……いや、もう見た目からして虫だらけの草むらとかビジュアル的にもキツいので勘弁して欲しい。

 ついでに言うと、なんか、小動物も虫も妙にサイズがデカい気がする。

 

(なんか、ネコチャン位のデカさがあるリスっぽい生き物が枝から落ちてきたんだけど……まるで南米のジャングルみたいになってるなぁ、その内、鳥とか極彩色なヤツがバサバサ~って飛び始めたりして)

 

 この猥雑な生命力で匂い立つ雰囲気は、黒の森ではなく、暑く湿気た亜熱帯地方のグリーンヘルのものに近い。

 

(いやぁ、まさかここまで“効く”とは思わなかったよ)

 

 一週間ちょっと位(?)うろつきながら、お○っこと、う○ちを埋めて回っただけなのに、環境が激変し過ぎである。

 

(これはコレで、自然破壊?……かも)

 

 バイオームの書き換えレベルだ。

 

「おやじ、シカいた、デカいのいっぴき」

 

 そんな事を考えている内に、前から“倅”が一人戻ってきた。

 獲物を発見したらしい。

 

「よし、んじゃ、ちっと腕見せて貰うぜ」

 

 ニヤッと、真っ黄色い癖に虫歯一つ無い丈夫そうな歯を剥き出したマイクの笑顔は、相変わらず、普通の子供なら穴という穴から液体と固形物と気体を垂れ流しながら“ヒトゴロシー!”って泣き叫ぶ事間違いなしのキラーフェイスだ。

 

(ま、慣れたけどね……)

 

 “倅”の後について、“獲物”の風下から静かに接近してゆく。

 十分もしない内に小さな泉のほとりでくつろぐ立派な雄鹿を前に、一家と八誌緒は身を潜めていた。

 

(いや、デカ過ぎじゃない?……角ツンツンにとんがってるから、ヘラジカじゃないし)

 

 水辺で優雅に巨躯を晒している鹿は、どう見ても角を入れずとも全高2メートル半、角を入れれば3メートル以上はある。

 しかも、角も妙に金属的な黒光りを帯びていて矢鱈と威圧感があった。

 

(ムキッ、ムキイッ、ムキャキャキャッ!……って、胸から脚の筋肉凄っ!ビルダーかな?……ヘラジカって、轢いた車の方が大破するんだよね……そう言えばフツーの鹿も、なんか山中で山菜盗りのおっさんか何かを滅多刺しにした事件とかあった様な無かった様な)

 

 屈んだままそんな事を考えていると、肩にがしっ、と手が置かれ、横目を向けると“殺し”を期待するキラーフェイスが脂でてっかてかに輝いているのが見える。

 八誌緒はため息を静かな吐息に変えてハチキュウちゃんのセレクターをそっと「タ」(単射)に切り替えてゆっくりと持ち上げた。

 筒先を藪の中から突き出してしまわないように、肩付けの膝立ちで構える。

 当然、葉っぱと枝に視線が遮られた状態で照門と照星を覗きこんでも役には立たないので、おおよその位置へ勘で銃身を固定し、引き金を絞った。

 初撃を放った瞬間、ハチキュウを構えたまま草むらからさっ、と身を乗り出して視界を確保し、二の矢に備える。

 放った弾丸は見事分厚い胸板のど真ん中を撃ち抜いた様だが、雄鹿はまだ脚を踏ん張って耐えていた。

 

 三回、銃声が響く。

 

 雄鹿の角、額で金属音と共に何かが弾け、目の玉が爆発する。

 四肢から力を失いへたり込み、頭を地面に打ち付ける獲物を確認してから、八誌緒は慎重に近づき、着剣しておいた銃剣でぽっかりした空洞になった眼孔を抉った。

 金属的な擦過音に首を傾げながら角を軽く銃剣で小突いてみると、カンッ、という明らかに骨とは違う、まるで金属棒を叩いた様な硬質な音がする。

 

(うわ、頭蓋骨スチールじゃん!ターミ○ーターか)

 

 眼窩の他で銃弾が当たったとおぼしき場所は、角は一部が欠け、額の皮膚が抉れて血とテカテカ光る金属製の頭骨が顔を覗かせていた。

 後で聞いた話だが、このボディビル鹿野郎は“鉄鹿(てっか)”と言い、普通の鹿の食性にプラスして、鉱物を補食し、金属成分を骨格と爪、角に蓄積する生き物らしい。

 鉱石を食うので勿論歯も金属製、しかもすり減ったり、取れたら新しく生えてくる……まるでサメである。

 道理で、脳天に命中した弾があっさりはじかれてた訳である、こんなヤバいやつなら、撃つ前に教えて欲しかった。

 

『メンタマバクハツした……コワイ』

『マヨワズメヲエグッタヨ……オニ?オニナノ?』

『なにコレ?……反応なし、クリア』

 

 勝手にビビっている“倅”達を放置して、八誌緒は地面を探し回り、まだ少し熱い空薬莢を4つ回収する。

 自衛隊の様に全量回収しよう等と無謀な事は考えていないが、痕跡は可能な限り消すべきだろう。

 

『威力は結構なもんだな、それをアレだけ撃ちまくれるんなら、そりゃ、つええ……うっせえが』

 

 既に事切れている牡鹿の死体をつつき回していたマイクは耳を小指でぐりぐりとかっぽじりながら、感心した様に呟いている。

 

「単純な威力なら長弓の戦闘用鏃使った方があるんじゃないかな、そっちの方が静かだし、有利なのは速射性と、貫通力」

 

 5.56mm NATO弾は高初速で余程厚みのある骨にでも当たらない限り、人体などあっさり貫通する。

 分厚かった頃のコミケカタログ6冊分を壁にすれば停弾させる事だけは出来るっぽい、衝撃は知らんけど。

 体内を重量弾頭が正面突破でぶち壊しながら突き進む7.62mmと、軽量弾頭でぐりぐりと不安定に弾道を変化させながら体を抉り抜く5.62mmとどっちが殺傷力が高いのかは状況にもよるが、まぁ、どっちも当たれば死ぬのは間違いない。

 周囲の安全を確認してから、ハチキュウのセレクターを「ア」(安全)に切り替え、バラで持ってきていた予備弾をマガジンへ四発分補充しておく。

 そうしている間に、マイクと“倅”達が手近な木の枝にロープを引っかけ、脚にロープを巻いた牡鹿を釣り下げ、血抜きを始めていた。

 土の精気術が得意な“倅”が釣り下げた真下に穴を開け、牡鹿の喉へナイフを入れる。

 新鮮な血が穴の中へ流れ落ち、空気に濃密な血臭が混じった。

 この後も、もう少し外を見て回る予定なので、解体作業をしているのは先見に出ていた“倅”の内の二人だ。

 

(ま、私には関係ないんだけど……)

 

 常に(多分食材として)“清潔”が保たれている八誌緒は汚れを受け付けないし、おまけに“なんかおなかの減るいい匂い”が微量に発散されている。

 さっきは風下から接近したが、風上から接近すれば、間違いなく空腹な獲物は向こうから寄ってくるに違いない。

 

(間違いなくやべぇのまで寄ってきそうなのがコワいんだけど……)

 

 ちなみにもう二人の“倅”達はアジトへ回収班を呼びに行っている。

 解体が終わったらこの二人は獲物が新鮮な内に、アジトへ持ち帰り、別の“倅”と入れ替わるらしい。

 普通は内臓も血と一緒に埋めてしまうのだが、今は“秘伝の調味料”がある為、おいしく調理できてしまうので余さず持って帰るのだ。

 

 ブツの“生産者”としては絶対に口に入れたくないが……

 

(“洗ってない”コピ・ルアクコーヒーこそ至高のメニューとか海原○山が喚いても、絶対に飲みたくない訳で……そう言えば、ブルーマウンテンの偽豆みたいに、コピ・ルアクも無理矢理あのジャコウネコに適当な豆食わせて偽豆量産されてるんだっけ……)

 

『馬鹿め、飲まずとも臭いだけで分かるわ!貴様のコピ・ルアクは偽物だ!』

『なんだと!』

『でも、確かにこの豆はパームシベットのお尻からむりむりゅっ!と出てくるのを山○さんと確認したわ』

『ふん!最近コピ・ルアクの価格が高騰した為、パームシベットに無理矢理豆を詰め込み、豆を“菊門ロンダリング”させる悪質な農場もあると聞く、そんなまがい物すら見抜けぬとは全く愚かな男だ!』

『くっ、なら、おまえが用意した豆はどうなんだ』

『ふふっ、ただ本物のコピ・ルアクを手に入れるなら、金とある程度の鑑定眼さえあれば何とかなろう、だが、至高のメニューとなればそれでは足りん(だんッ!とブツを置く)』

『これは……』

『パームシベットのう○ちそのもの?』

『なんのつもりだ!』

『長年、最高の豆だけを食い続けたパームシベットが産み出した“宿便コピ・ルアク”だ、生涯一本しかひり出さぬコレは、宿便に蓄積し続けた旨味が豆に添加される事で至高のメニューとして昇華される』

 

 八誌緒の頭の中で、“雷おこし”みたいに丸棒状に固まって排出された“う○ちコーヒー豆”を前にみっともなく言い争う、いい歳した好事家の親父とヨレヨレスーツの不良記者息子が思い浮かぶ。

 

(本当にあのバブル飽食グルメ漫画、飯で人間関係壊す連中ばっかりだなぁ)

 

『よーし、次行くかぁ』

 

(っと、現実逃避してる場合じゃ無かった)

 

 狩りを再開し、今度はさっきの水場とは別方向の探索を開始する。

 一応獣道っぽいものはあるのだが、思いっきり藪こぎであった。

 

(ヤバい、ミニスカで来るとこじゃないわ……)

 

 当たり前である。

 とは言え、ロンスカメイド服でも変わらないだろう。

 むしろ布地が多いせいであちこち絡まりそうだ。

 

(前のなんかバイ○ハザードっぽい夢に出てきた野戦服が出せれば……って、荷物ん中に陸さんのやつあったじゃん!ワスレテタ)

 

 余りにブレザーが普段着化していた事と、人様の古着っていう考えが先行してつい、それに着替えるという発想を除外してしまっていたのだ。

 大分オーバーサイズだが、腕は捲って、足はブーツへ押し込めばいいだろう、それに、他はぶかぶかでも、胸周りはぱんぱんになるから、丈は余ってる位の方がいい。

 

(次があったら、絶対着替えよう……)

 

 後悔しながら歩いていると、先見に行っていた“倅”達が一組戻ってきた。

 

『おやじ~、ブタ居た』

『まるまる、いっぱい』

 

 野豚か猪か、どちらにせよ攻撃的なら結構危険だ。

 何せ、家畜の豚さんでも、成獣となれば体重300kgを越える。

 単純に体当たりをぶちかまされただけでも車両に轢かれるのと変わらないし、猪ともなればふくらはぎや太股を牙で抉られ、太い血管をやられれば致命傷だ。

 

『群か、いつもみてぇに追い込んで何匹か戴くぞ』

『わかった、いつものばしょおいこむ!』

 

 マイクの指示を受け、“倅”達が散ってゆく。

 手慣れたものである。

 

『今度は、俺の出番だな』

 

 ぴかぴかに磨き上げられたクロスボウを撫でながら墓石の様な歯列を剥き出しにするマイクは、やっぱり人間狩りを待ちきれぬ殺人鬼にしか見えない。

 そんな殺人鬼の後をついて移動した“いつもの場所”は、幅2m程度の小川がながれる小さな広場だった。

 苔と下草が占拠してきているが、倒木と小さな岩を動かして整備された痕跡がある。

 遠くから、喧噪が近づいてくるのが耳に感じられた。

 

『来たな、こっちこい』

 

 マイクに手招きされ、八誌緒は隠れるのにちょうどいい灌木の影に身を潜める。

 少し待っていると、遠かった喧噪が近づき、だんだんと意味を持った声として認識できる様になってきた。

 

『オラァア!コノ、メスブタァ!!!』

 

(んん?)

 

『プリップリノケツシヤガッテ!』

『イヤッ、イヤァァ~!』

 

(あれ?あれれ?)

 

『サソッテンノカ!』

『ヤンゾ、コラァ!』

『オカスゾ!コラァ!』

『イヤッ!イヤッイヤッ!』

 

(おっかしいなぁ?今日は“森の生き物”を狩りに来た筈なのに、な~んか、“村”とか“街”の生き物っぽい声がするんだけど!)

 

 完璧な三下野盗の台詞サンプルと、ぎりぎり人語を保っている様な女性の絶叫。

 

 どう見ても人狩りです。

 ありがとうございます、死ねぇ!

 

 ほぼ無意識に、八誌緒が抱えたハチキュウちゃんのセレクターが“レ”(連射)に切り替わっていた。

 不思議だね。

 

『出てくるぞ』

 

 ここからずらかった後、アジトを潰すなら一人は生かしとかなきゃなぁという刹那の思考の横で、マイクの囁きが耳に入り、クロスボウの弦が鋭い音を立てる。

 ついでに八誌緒のハチキュウちゃんも銃声を響かせる。

 

『ギィヤアァァァァァ!』

 

 放たれた太矢は、木々の間から飛び出した生き物の首と鎖骨の間に命中し、かなりの体重のそいつは、どたり、と倒れてびくびくと激しくもがく。

 指切りバーストで放たれたライフル弾は、遅れて顔を出したもう一匹の額、目、頬に命中し、つんのめらせた。

 

『オウジョウセイヤァ!コノメスブタガ!』

『ヒッ、ヒイィッ!ピギィ!』

 

 まだもがき続けるそいつらは、勢子をしていた“倅”がブスリ♂、と突き刺した“慈悲の一突き”でようやく絶命し、動きを止める。

 

『うわ、きもっ!』

 

 しっかりと動きが止まったのを確認してから、八誌緒はそろそろとそれに近づく。

 ハチキュウのセレクターはいつの間にか“ア”に戻っている。

 

『豚さん?』

 

 近く見たそれは、一言でいえば、まぁ、“豚”であった。

 全体的にピンクっぽい白色で、デカい。

 色的にはランドレース種か、大ヨークシャー種っぽいが、なんとも……

 

『なに?このプリケツ?』

 

 デカい豚達の尻には毛が生えていなかった。

 というか、普通の四足歩行動物とは思えない程、後ろ側に豊満な尻肉で膨らんでいて、もっと端的に言えば……

 

『豚に人間のケツがくっ付いてるんだけど、コレ』

 

 そう、目の前でくたばっている豚達にはどう見ても人間の、それも女性っぽいたっぷり脂肪ののった、無毛のしっとり肌の尻がくっ付いていたのだ。

 

『……ケツだけ豚獣人とかじゃないよね?』

『いや、ただの畜生だぜ、ケツは確かにプリケツだがよ』

 

 がははと笑いながら、マイクがプリケツをべしんと叩く。

 どつかれる度に、尻たぶがぷるんぷるん揺れる。

 多分、you○ube辺りだとモザイクかけないと一発で収益化が停止されること間違い無い絵面である。

 卑猥な画像プラス、死体画像でダブルダウンだ。

 真後ろから尻を見てみると……

 

(うわ、人間と変わらんわ、ケツだけ星人やられたら、見分けつかんよねぇ)

 

『メスブタのケツにく、んまい!』

『えぇ……まさか、こいつら、マジで"メスブタ"って名前なの』

 

 この世界に八誌緒が来てから、異世界ものお約束の"謎翻訳"で会話には不自由していないが、こうなると、固有名詞については、かなり割と適当に意訳されてるんじゃないかと疑いたくなってくる。

 

(いや、もっと早く疑えって話ではあるけども)

 

『そうだな、俺が聞いた事あんのは、“メスブタ"、“ケツブタ“、"プリブタ"、“ヨメイラズ"とかか』

『“モリオ○ホ"!』

『“ヤマバ○タ"!』

『“ヤレルブタ”』

『コイノデタ!』

『あ~、やっぱそういう……』

 

 人間の三大欲のうち、二つをいっぺんに解消できる有用な“資源”らしい。

 便利だね。

 

(そう言えば、戦時中はヤギさんと“動物なかよし”しちゃう人が結構いたとか居なかったとか……腰の高さと丁度いいとか何とか)

 

『“メスブタ”より、メスガキのケツ肉の方がもっとうんまい!』

 

 オマエはそろそろ黙れ。

 

『しかし、オマエもいい腕じゃねぇか、全部顔に当たってたぜ』

『まぁ、近かったし、的大きかったからねぇ』

 

 又、マガジンへ使った分の弾をバラ弾から補充してハチキュウへ戻しておく。

 

『やっぱり俺もちょっと撃ってみてぇが……今日はこの辺にしとくか』

 

 ハチキュウにちょっと未練がましい視線を向けていたマイクが、しかめっ面になって周囲を見回している。

 

『どうも嫌な感じがしやがる、役人共が彷徨いてる時みてぇな、いや、もっとざわざわしやがる……お前ら、獲物は帰ってからバラす、ズラかるぞ!』

 

 あれだけやらかし続けて、今の今まで捕まってない犯罪者のカンは中々鋭い。

 しかし、ちょっと遅かったらしい。

 

 八誌緒の耳に、遠くから響く聞き覚えのある遠吠えと、さっき聞き覚えたばかりの悲鳴の多重奏が響いていた。

 

『獲物は諦めて』

『あ゛?』

 

 悲鳴が聞こえる所から、急激に遠吠えと地響きが近づいてきている。

 

『ちんたらやってたら間に合わない、命だけ持って帰って、こっちは、まぁ、しばらく遊んでいくわ』

 

 一見、森全体が逃走路と化している様なチック=ピー一家の地下道だが、当然カバー範囲の限界はある。

 陥没や地上からの進入、発見を防ぐ為それなりに本道は深く、地表から進入できる場所は限られるのだ。

 要するに、逃走ポイントまでは、地表をえっちらおっちら走って逃げる必要があり、そして、今、四足歩行の生き物と命を懸けた追いかけっこをする必要があるという事。

 

(弾倉は満タン、薬室も装填済み……ベレッタもフル装填、薬室込みで16発、防御型手榴弾が四個……後はナイフはもう着剣済み、エンピはどうしよっかな、って時間切れ!)

 

 目算でハチキュウをぶっ放すと、すこし離れた所で、ぎゃいん、とか声があがり、がさがさっ、と草が揺れる。

 どこかに命中したらしい。

 “メスブタ”が飛び出してきた茂みから突き出される鼻面に向けて、5.56mmをぶっ放し、その右、上、左、と続々と現れる、鼻面と豚っ鼻混じりの集団をモグラ叩きじみた早業で撃ち続けながら叫ぶ。

 実に爽快、と言いたい所だがそんな余裕ぶっこいている場合ではない。

 

『早く!群の本体が来るわよ!』

 

 隙を見て、ハチキュウの銃把を右手で握ったまま、前腕部を下乳に入れ、よっこらしょっと持ち上げ、左手でチェストリグのポケットの上側から苦労してハチキュウのマガジンを引きずり出す。

 

『はさまりてぇ……』

 

 弾切れ寸前のマガジンをリリースして、満タンのマガジンに差し替え、射撃を継続する。

 

(ああ!もう、これ、やっぱ使うのやめとこ、下から取り出す様になんとかならんかなぁ)

 

『おまえ等、黒こげ暖炉樫まで突っ走るぞ!』

 

 ごつっ、という鈍い音と一緒に、マイクの怒鳴り声が響く。

 

『いでぇ!』

『『『わかったー!』』』

 

 “倅”達は八誌緒の方をちらちら見ながら何か言いたげに口を開いたり閉じたりしていたが、マイクに文字通りケツを蹴り上げられて一目散に走り出す。

 

『鏃岩だ、こっから東にいくとでっかくて、真っ黒い三角の岩がある、来たけりゃこい、なんかでかい音を立てたら迎えに行ってやる』

 

 クロスボウから巨大な屠畜ハンマーに持ち替えたマイクは“メスブタ”の横っ面を殴り飛ばし、狼のどたまをかち割りながら叫ぶ。

 

『行けたらいく!』

『期待はしねぇぜ』

 

 豚と狼をなぎ倒しながら木々の中へ消えてゆくマイクの気配を感じながら、八誌緒は三回目のおっぱいリロードを実行していた。

 

(なんか、もう半分以上弾使っちゃってるんですけど……鞄おろせるとこ探して新しいマグ出さないと)

 

 鞄に手を突っ込みさえできれば、フル装填の予備弾倉なんて幾らでも出てくるが、流石にちんたら荷物を下ろしてる程の暇はない。

 八誌緒は頃合いをみて後退し、手榴弾を続けざまに二つ何となく、敵が固まっていそうな気配がする草むらに投擲する。

 

「いい加減、豚のような悲鳴を上げろ!」

 

 そして、爆発するのを待たずに走り出し、叫ぶ。

 

「Hey!コンシェルジュ、こっから東ってどっち?なんか、でっかい三角の岩があるとこ」

 

 背後で、爆音と共に、イヤァァ!とか、ギャインッとか阿鼻叫喚のガヤが多重奏される。

 やっぱり、豚っぽい悲鳴は出ないらしい、狼はまんま犬っぽいのに。

 

「目的地までの案内を開始します……前方300m右折です」

「マジ?」

 

 適当こいて音声入力してみたら、本当にガチの目的地ガイドを始めたスマホに変な声がでる。

 

「あ、やべ」

 

 茂みから飛び出してきた狼にウェルカムブリットをサービスし、メスブタの土手っ腹にも数発食らわせて、血樽の鏡開きをしてやる。

 後続の狼が飲み放題のブラッドワインサーバに団子になって貪りつき、あぶれたやつはご同輩の死肉にかぶりつくのを確認し、八誌緒は走り出す。

 

(あ~、コレ、傷貰ったらオシマイだなぁ……怖っ)

 

To Be Countinued...




 相変わらず結構な間が空きましたが、投稿です。
 ちんたらやってた分、結構文字数多めになってます。

 そろそろ人喰い豆野郎編は巻きが入ります……いい加減長かったですね。
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