いっぱい出たね♪ じょろじょろ出ちゃう黄金水 ~ これって、地層処分するしかないんでしょうか? ~   作:八切武士

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相変わらず不定期で(※)お届けする八誌緒さんの日常(?)です。

 チック・ピー一家との初めてのお出かけが不意に永遠のお別れになりかけた八誌緒だったが、乙女とか、人間の尊厳を全て投げ捨てつつ、“一回休み”を駆使する事で、からくも生き残る事に成功(?)する。
 久々に得た自由時間を満喫しつつ、森林探索をする八誌緒は、ふとした思いつきである事実を発見し、ちょっと凹んでしまう。
 そして、そんな事とは別に、八誌緒の“やらかし”は順調に他方へご迷惑をおかけし続けているのであった。

※前回の投稿が去年日付で震える……


【第1部 第24流 ~ “天丼”は二回までって言ったよね? ~】

 

 

~ミスティ・フォレスト どっか 酒倉八誌緒~

 

 

「……いてててて、ぎ、ごぐっ、が、はっ、はッ」

 

 悪態をつきながらのたうち回ると、気管に何かが入って、もう一回分死ぬ程咳き込む。

 草の上に歯だか骨の小さな欠片と気泡混じりの血が盛大に吹き出し飛散する。

 

「あ゛ぁぁ……」

 

 ペットボトルの蓋を毟り取り、ミネラルウォーターで口の中に残っている欠片をゆすいで何度も吐きだす。

 吐いた所が何故かちょっと可愛いシロツメクサみたいな花の群生地になってしまった。

 

 可愛い花冠をグロス単位でつくれそうだ、ヤッタネ!

 

「あ~、最悪」

 

 シメに、かーっ、ぺっ、と親父みたいに痰を吐き捨て、八誌緒は大きく息をつく。

 

「あー、死んだ、死んだ……きっつう」

 

 ペットボトルに残った水を飲み干し、思いっきり投げ捨てようとして、思いとどまる。

 

(森にプラゴミ投げ捨てとか、流石にそういうのは良くない、良くないよネ、ヒトとして……)

 

 よっこらしょと立ち上がると、頭の皮がまるっ、と剥がれて、手榴弾の破片でボッコボコになった鉄板頭がむき出しになった鉄鹿がぶっ倒れていた。

 舌がデローンと伸びて、耳があった孔からは脳みちょがどろっ、と出ているから完璧にくたばっているらしい。

 流石に鋼鉄の頭蓋骨でも、手榴弾の衝撃は防げなかった様だ。

 

「ざまぁ見みろ!あ……」

 

 思わず空のペットボトルをぶん投げてしまった。

 鉄鹿のアイアンヘッドに跳ね返った空ペットはどこかへ跳んで見えなくなってしまう。

 

 見事な不法投棄だ。

 

 八誌緒はため息をついて木のうろへ足を向け、盛大に躓く。

「う゛ぉっ!……ったぁ、なんでこんな所に!?」

 

 何故かウロの奥に放り込んであったバックパックが足下に置いてあった。

 

「いやいや、なんでよ?」

 

 八誌緒はぼやきながらもバックパックを開き、無くした分の装備を補充して丸腰状態を脱する。

 勿論、おっぱいリロード強制チェストリグは戦力外通告で、バックパック内へ出戻りだ。

 立て直す時間さえ確保出来れば、“チェストボックス”から幾らでも装備を補給できるのはホント、FPSのイージーモードじみていた。

 チェストリグの代わりに、チック・ピー一家の所からちょろまかしておいた肩掛けの汚いずだ袋へ予備弾倉と手榴弾をしこたまぶち込んでおく。

 体は相変わらずすっかり治っているし、服もご都合主義的に新品同様。

 ここまでこてんぱんにやられたのは久々だが、再生能力様々だ。

 

「でもなぁ、なんで……かなぁ」

 

 八誌緒は足下の鞄に眼を落とす。

 色々ぶちまけた後なので、一刻も早く移動するべきだが、気になりすぎる。

 

「ん~」

 

 八誌緒はとととっ、と鞄から距離を取り、取りあえずぐっ、と手を伸ばす。

 

「カ○リーメイト、メープル味、一本、かむひあー!」

 

 果たして、八誌緒の伸ばした手の中にむき身のカロリーメ○トが一本現れた。

 囓ると、ちゃんとメープル味だ。

 

「マジかぁ」

 

 今度は無言で手を後ろに回す。

 ずしっ、とした重みが手の中へ収まった。

 手を前に回すと、一丁のベレッタが手に握られている。

 勿論、さっき再装備したベレッタはスカートの前に挿さったままだ。

 

「戻れ如○棒!」

 

 手に持った方のベレッタが消える。

 

「来い!」

 

 背中にずしっ、と重みがかかった。

 

「クロス・アウッ!!」

 

 肩から重みが消え、鞄がウロの入り口に現れる。

 ベレッタを引き抜いてマガジンキャッチを押し、満タンのマガジンを落としながら消して回収、同時に掌中に召喚した新しいマガジンをぶちこんで再装填を完了。

 

「あ゛ー!マジか、マジか、ま~じかぁ~」

 

 八誌緒は思わずしゃがみ込んでしまった。

 

「もう、チェストリグとかいらないじゃん!」

 

 八誌緒は、暇な時にもっと色々試しておくんだったと、今更ながらに深く深く、後悔しながら、予備弾薬と爆発物を満タンにしたずだ袋を格納して消し去る。

 

「まぁいいや……行こ」

 

 ぶったるんでいた事を反省し、目的地へ移動しながら、頼れる相棒が新たに獲得した能力(?)を検証していく。

 

 ……多分元から使えたんじゃないか?という疑問は置いておく様に。

 なんか、落ち込むから。

 

 歩きながら、拳大の石を一メートル先、五メートル先みたいに、目線の通る限り格納してみる。

 森の中で限度はあるが、目線が通る限り先の石は拾えてる感覚があった。

 

(視界内で個体が認識出来れば回収できるのかな……)

 

 今度は、倒木を目線で格納、そして、更に木の株を格納してみると、ごそっ、と穴だけを残して株は消えてしまう。

 そのまま、視界内にある何かの広葉樹を意識すると……消えた。

 

(全体が見えてなくても、繋がった個体は丸ごとイケるんだ……植物なら“生きてても”格納できる……と)

 

 戻すと、宙に出現した木が、地面にずどーんと激突し、倒れる……前に回収。

 

(あぶなっ!しかし、採れても、元には戻せないんだなぁ、まぁ、鞄にしまって出すだけなんだから、そりゃそうか……ていうか、生木は“増える”のね)

 

 カミキリムシみたいなやつ……消える。

 出すと、元気に飛んでいった。

 

(虫も増える……いや、要らんけど)

 

 増やした分も放出。

 リスっぽい生き物は……消える、これも“増やせ”そう。

 増やさずに放すと、凄い勢いで逃げていった。

 

(ん~、範囲指定!)

 

 適当にその辺、視界に入ってる場所の一部を、一切合切、と意識して試してみると、ごう、と風が吹き荒れ、直径十メートル、深さ二、三メートル程度の大穴が出来ていた。

 

(怖っ!)

 

 なんか、“森地形タイル(リアル)”が格納出来てしまった。

 コレは、便利というか、改めて結構ヤバ目の能力だというのが分かってくる。

 限界がどこまでか分からないし、範囲指定をふわっとした意識でやると、細部が勝手に曖昧補完されて、ヤバい感じにどんぶり勘定になった結果がコミットされそうだ。

 “大は小を兼ねる”、アメリカン精神な補正機能。

 

「ん~」

 

 手の中にさっき格納した石ころを出して思いっきりぶん投げ、格納。

 木の前に出る様にイメージすると、飛び出た石が樹皮にぶち当たって、ごん、と音を立てた。

 

(運動エネルギーごと格納してるわ……)

 

 ベレッタを抜いて撃ち、弾丸を格納……取り出してみると、ぶっつぶれている。

 多分、木に命中した後に格納された様だ。

 “見えている”のが重要と言うより、きちんとイメージ出来て、思考の早さが間に合っているかが重要な気がする。

 

(認識外からの狙撃に対処するのは無理っぽいなぁ)

 

 認識力と思考速度が人間を辞めてる速度になればいけそうな気はする……まぁ、もう人間はとっくの昔に“辞めさせられてる”のだが。

 

 取りあえずまとめると……

 

・“鞄”は任意に瞬間移動させる事ができる。

・“鞄”以外の物の“移動”には“鞄”の中を一旦介する必要がある。

・“格納”、“再配置”の範囲は、目視が可能な距離、又は体で触れている距離。

・扱う対象を認識して、“しまう”、“取り出す”事をちゃんと意識する必要がある。

 →地形に使うと、なんか適当に抉った様な感じで、丸々“採れる”。

・“再配置”の時は、基本、ぽとりと下へ落ちるが、任意に“格納”の時に時に持っていた運動エネルギーを保ったまま“再配置”できる。

・生き物も生きたまま“格納”できる。

 →ついでに、“複製”できる……まさか、人間とかできないよね?

 

 取りあえずざっとした考察はこんなものか。

 森はまだまだ騒がしい。

 合流地点へ急ぐべきだろう。

 

(て言うか、なんか来た!)

 

 言ってるそばから飛び出してきた狼が足首に食らい付いてくる。

 くるぶしの骨をがりりぃっ、と牙が擦り、アキレス腱周りの肉にがっぷり食いこむ。

 

 メッチャ、痛い!

 

 瞬間的にハチキュウの弾を叩っこもうとし、ふと、思いつく。

 足首に食らい付いていた狼が消える。

 

「おぉ、痛かったぁ……音出なくていいなぁ、まぁ、始末が困るけど」

 

 生きたまましまっちゃってるので、その辺に出したらヤバイ事になる事間違い無しだ。

 噛まれた右足を軽く振るった後、八誌緒は周りの気配にハチキュウを掃射する。

 弾数を数えながら掃射を続け、弾切れ前に弾倉を外しては消し、出した弾倉をぶち込み、途切れずに掃射を続ける。

 

「あ……」

 

 ハチキュウの銃身が湯気を立て始めているのを見て、八誌緒は掃射をやめて手榴弾を取り出し、ぽいぽいと周囲に投げまくった。

 

「いやいや、分隊支援火器じゃないんだから……調子に乗っちゃったなぁ」

 

 八誌緒はしゅーしゅー言っているハチキュウを格納し、新しいハチキュウを装備する。

 ついつい幾らでも撃てるから、気持ちよくなってやらかしてしまった。 ストレスが少々溜まっていた様だ。

 アサルトライフルは普通、引き金引きっぱなしのフルオートで百連発する様には出来ていない。

 幾らでも取り替えがきくからと言って、武器に雑な扱いをするのは良くない、そういう事をしていると肝心な時に武器に裏切られるものだ。

 

「落ち着けるとこ見つけて、整備とかしないとなぁ……コンシェルジュ、ナビ再開」

『ルート再設定……ナビ再開します』

 

 集まってくる気配を振り切る必要がある。

 八誌緒は首を振りながら、全力疾走を始めた。

 

 

~ミスティ・ウッズ近くの街道 熊谷&サーシャ~

 

 

『また群が居たな』

 

 爆音を立てて街道を爆走するF.A.こと、Falling Angelに跨がった、熊谷少年が呟く。

 

『これでもう五つめじゃねぇか?イヌっころどもがよ、ずいぶんお盛んじゃねぇか』

 

 深刻そうな声色に被せる様に、品のない蛮声が応える。

 

『こんな街道の近くで……コーキ、前の方から、何か、“凄い気配”がする』

『ああ、なんか、強烈な“気”が顔に吹き付けてきてる気がするな、まぁ、気分が悪くなる様なもんじゃない感じだけど』

 

 背中にしがみついた少女が少し震えているのに気がつき、熊谷少年は努めて軽い調子で返した。

 “気”力使いの端くれとして、生命が宿す純なエネルギーをそれなりに感じ取る力はある。

 前方から吹き付けてくる濃密な“気”の残り香、それは強い精気術を用いた時に感じられる、火の焦げ臭さに、土の臭い、草木の青臭さ、肌を撫でる湿った空気……そういった元素を纏った重たい“臭い”を感じる様なものではない。

 豊かな自然のただ中に身を置いて感じる生命の息吹、淡く感じる原初の“気”。

 本来、とても淡く“軽い”それを濃縮したような形容しがたい、命が発する雑多な波動。

 “気”の弱い人間なら、あてられてぼうっとしてしまいそうな芽生えの息吹。

 だが、決して不快ではない。

 むしろ、草原の中、日溜まりの中で寝転がっている様な心地よさを感じる。

 荒事が発生する可能性が高い中、同調するのは危険な穏やかさだった。

 

『凄いふさふさだな』

『……何やったらこんなになっちゃうの?』

 

 熊谷達の目前で、直前まで工業製品的な美しさで整備されていた街道が、ものの見事に自然に還っていた。

 シームレスすぎて、かえって不自然過ぎる光景だ。

 まるでマイ○ラ系サンドボックスゲームのバイオーム境界みたいにすっぱりいっている。

 

『クロリス神の上級神官が神性介入クラスの奇跡を祈念したとか、よほど強力な精霊を招来したらこれ位は行くと思うけど、神気は感じないし、特定の精気が強いわけでもないし……凄く濃いけど』

 

 どうやらサーシャの見解も熊谷少年と似たり寄ったりらしい。

 ちなみに“深緑の祖父”クロリスは山林、植物の権能を司る男神で、“大地の女神”アナンとは夫婦であるとされている。

 

『取りあえず俺たちも痕跡を追ってみよう』

 

 熊谷少年はF.A.にくくりつけてある荷物から、手斧と山刀を引き抜く。

 草木の密度が高い森林の中では、片手剣程の長さでも邪魔になる。

 幸い“器用貧乏”な熊谷少年は大抵の武器は並以上に扱う事ができた。

 ベルトにつけたホルダーに手斧の柄を落とし込んでぶら下げ、F.A.のシートをぽん、と叩く。

 

『ここから先は二輪じゃ面倒だ、F.A.スタンディングモードで行くぞ』

『Year!』

 

 めきっ、めき、ばき、がぎっ、がきん!とやたら激しい音を立てて、F.A.がバイクの姿を変形させ……やがて、身長二メートルはある、金属の人型に姿を変える。

 ヘッドライトを顔に、アップハンドルは二本の角の様に聳え、背中には何故か本数が増えた白銀のマフラーが左右六本、まるで翼の様に開いて煙と炎を噴く。

 堕天使というか、まるで金属の悪魔の様な姿であった。

 

『こわ……』

『ちびっちまったかぁ?ってぇ!』

 

 反射的に熊谷少年の背中に隠れたサーシャに身を屈めたF.A.は、“顔面”を杖で強打され、鉄の腕で押さえる。

 器用にバックミラーを曲げて損害を確認しているのが、妙にせせっこましい。

 

『おい、カバーに罅入ったぜ!相棒!』

『からかうからだろ、ホント懲りないなぁ、お前、罅くらい放っておけば治るだろ?』

 

 自分を挟んで威嚇しあっているF.A.とサーシャを宥め、熊谷少年は空のペットボトルを取り出した。

 ギルステイン村で面会してきた、狩人と薬士のカップルから借りてきたものだ。

 

『サーシャ、頼む』

『うーん、“所有権”を手放してると効果薄いんだけど、やってみる』

 

 サーシャは熊谷少年からペットボトルを受け取って中へ水を入れ、物入れから押し花を一本取りだした。

 包装から取り出してボトルに生けると、干涸らびていたそれは見る見る内に瑞々しさを取り戻し、一輪のラッパ水仙になる。

 非常に質素な一輪挿しと言った所だ。

 

『ん~、んん~!ん゛っ!』

 

 サーシャが色気のないあえぎ声を出しつつボトルを軽く揺すっていると、ラッパ水仙がくるくると回り始め、やがてその首振りの幅が狭くなってゆく。

 

『っ、はぁ~、こ、ここまで絞るのが限界……近づけばもっと絞れるけど』

 

 サーシャが汗を拭うと、ラッパ水仙の首振りは百八十度程をゆっくりと動いていた。

 基礎的な失せもの探しの祈念だ。

 やり方は違えど、大抵の宗派で教えられている祈念なので、下級聖職者のお小遣い稼ぎに活躍する。

 

『ありがとうサーシャ、行ってみよう』

『脚で稼ぐとか、ルーキーCopかよ……ダルいぜ』

 

 取りあえず、サーシャの手にしたラッパ水仙の首振りを確認しながら、繁茂する植生の痕跡を追って森へ踏み込んでゆく。

 

 

~ミスティ・フォレスト どっか 熊谷少年ご一行~

 

 

『せやっ!』

 

 熊谷少年が振るった山刀が森林狼の首に食い込み、深手を負わせる。

 がっちり食い込みすぎた得物から手を離し、まだ獰猛な視線を向けて攻撃姿勢を取ろうとする狼の眉間に、左手で引き抜いた手斧を遠心力を効かせて振り下ろす。

 頭骨をかち割り、斧頭を半ばまで食い込ませた食い込ませた手斧を、倒れた狼の体を踏んづけながら引っこ抜く。

 F.A.は鋼鉄の腕でぶん殴った狼の頭を踏んづけ、頭蓋骨をプレスしていた。

 

 頭がゆっくりと圧力で潰れ、目玉が飛び出し、煎餅になってゆくのは、かなり、グロい。

 

『雑魚が多いな、オイ!』

 

 言ったそばから、F.A.はメスブタの横っ腹を蹴っ飛ばしている。

 吹っ飛んでった草むらから弱々しい鳴き声が聞こえるので、内臓破裂で虫の息になっていそうだ。

 狩りでもないのに狩猟動物を殺すのはよろしくないが、今は自衛する必要がある。

 

『まずいね、これじゃもっと大物も出てくるのもすぐだなぁ』

 

 熊谷少年も、山刀を狼から引き抜きながら頷く。

 

『サーシャ、離れちゃ駄目だよ……どんな感じ?』

『うん(クマやさしい♪)、えーと、近づいてるとは思う』

 

 サーシャの手にしたラッパ水仙の首振りは、六十度位に幅が減少してきていた。

 

『ちょっと止まって』

 

 静止の声に、F.A.とサーシャは脚を止める。

 熊谷少年は足を屈めると、地面から何かを拾い上げ、臭いを嗅ぐ。

 

『何か見つけたの?』

『ああ、これ新しいなぁ』

『Cartridge?』

 

 くすんだ金属製の円筒。

 臭ってみると、くびれのあるそれからは、乾いた、刺激のある薬品臭がした。

 

『コーキの使ってる、“銃”のあの、ぺこぺこする筒からする臭いと一緒だね』

『ああ、これは“ライフル弾”の“薬莢”、僕の使ってるショットガンと違って、先が尖った一粒の弾を撃ち出すやつ、威力が強くて、もっと遠くまで飛ぶんだ』

『オイオイ、誰かがここでBIG SANDY SHOOTでもやらかしたみてぇだぜ、バカみてぇにぶっ放してやがる、ついでにGranadeもサイドメニューに添えてんじゃねぇか』

 

 確かに、周囲を見回してみると、結構な数の“薬莢”が散らかっている。

 というか、折れた木と、吹っ飛んだ灌木、穴だらけになって死んでる狼とメスブタ。

 何かが大暴れした事だけは間違い無い痕跡だった。

 肉と血、骨と臓物、そしてモツから飛び散った汚物、香り付けに硝煙の残り香をバケツ一杯。

 現地調達素材と戦場風味のシーズニングが織りなす最悪のマリアージュは、普段からそれなりに荒事を経験してきている熊谷少年達もさすがに顔を歪めさせる程の威力があった。

 

『くさい……』

『軍隊が“流されてきた”みたいだなぁ……連発できるライフルなんて撃たれたら危ないよ』

『まぁ、“天使”共のくっせぇ“臭い”はしねぇ、“唯一絶対の神”の関係者じゃねぇな』

『そいつは良かったよ』

 

 熊谷少年は肩を竦める。

 F.A.の前の“相棒”を殺害した宗教勢力はたまに彼の悪態に顔を出すのだが、どうも、“聖徒でなければひとでなし”、“銃弾か聖典か”、“異教徒尽く滅すべし”と……漏れ出るモットーがどれもこれも関わり合いになっちゃいけない感ビンビン丸なので、できれば一生関わり合いになりたくない手合いだった。

 まぁ、割と普通に世界間を跨いで“布教”に出向いてくるらしいので、マジで勘弁してほしいものがある。

 

『クマ、どうしたの?』

 

 きょとんと熊谷少年を見上げる瞳は綺麗なターコイズブルーで、小麦色の肌には転々とそばかすが散っている。

 黒瞳にそばかすではなく、ほくろのワンポイント、似ているのはくせっ毛な所くらい。

 

 似ていないのに、似ている。

 

(小学校の何年からだったっけ)

 

 頭を撫でると、子供扱いに不機嫌になるので、やめてしまったのだ。

 まぁ、自分の身内だろうと、幼児期でもない相手の頭部を勝手に触るのは宜しくはない。

 特に他人にやるのは非常に無礼な行為だ。

 

『なんでもないよ』

 

 熊谷少年は首と右手首を振り、今は会えない大事な家族の面影を振り払う。

 歩き出すと、F.A.が近くによってきて、ずい、と頭を近づけてきた。

 

『なんだよ』

『オマエ、女とヤってる時、別の女の事考えながら腰振るタイプか?』

『はぁ~?』

 

 熊谷少年はプレイボーイでもなければ、ヤリチンでもない。

 つきあってる女性の前で、浮気相手の名前を漏らす様なシチュエーション等、ある訳もなかった。

 大体、望郷の旅路の中、そんな余裕も、気もある筈もないのだ。

 

『ったくよ、前の相棒はダブルファックサインで蜂の巣、新しい相棒の方はRiding中にアイスピックで滅多刺しとか勘弁してくれよ』

『するわけないだろ、そんな事する相手も居ないんだし』

『Oh……Shit』

 

 F.A.は処置無しと言った様子で腕を広げ、大股に先を歩き始める。

 熊谷少年達は森の奥へ分け入ってゆく。

 この異変の“核心”は近い。

 そんな予感を感じながら。

 

 

~ミスティ・フォレスト 三角岩・合流ポイント 酒倉八誌緒~

 

 

「ここかな……」

 

 新たなる能力に覚醒(?)した八誌緒は、順調に狼共を蹴散らしながら進み続け、別れ際にマイクから告げられた合流地点のランドマーク“でっかくて真っ黒い三角形の岩”にたどり着いていた。

 

「しかし、これ、花崗岩?御影石?……え、黒曜石?んんん~、火山岩じゃなかったっけ、何でこんなとこにあるんだろ?」

 

 真っ黒い石は、周りに落ちている石をみると割れ方は鋭利で、ガラス質っぽい。

 何かに使えるかも知れないので、周りに落ちている、本体から割れ落ちたっぽい分を見える限り鞄へ収納しておく。

 

(こんな事してると、何でも拾う癖がつきそうだなぁ)

 

 物が捨てられない女の出来上がりだ。

 幸い、汚部屋になる心配はなさそうだが。

 

(いや……既に“尿PET”と“うん.zip”が格納してある辺り、鞄の中はゴミ屋敷と大差ないのでは?)

 

 八誌緒は報道特集や業者系動画に出てくる、特殊清掃業者のお仕事風景を思い出す。

 部屋を埋め尽くすゴミの山から、次々に発見される、ぱんぱんに膨らんだペットボトル達。

 その“熟成”具合は様々で、“シャンパンゴールド”から“ゴールデンエール”を経て、“クラッシックコーラ”へ至る。

 山と積まれた熟成ペットボトルを開け、発酵して吹き出す“汚物コーラ”(ヒト由来成分100%)をひたすらトイレに流して始末し続ける業者の人……その目は無念無想の局地に至った行者の如し。

 

 イヤな事を思い出してしまった。

 

(ま、鞄の中は時間が止まってるみたいだし、幾らでも入るし、出したい物すぐ出せるから片づいてるって事で……汚部屋じゃない、以上!)

 

「さて、なんか合図したら出てくんのかな?爆破とか」

 

 手榴弾でも炸裂させれば、“聴いてる”倅、娘が居れば気づくとは思うが、耳が死ぬと思うので、もう少し穏当な信号にした方がいいだろう。

 八誌緒は取りあえず折りたたみエンピを取り出して伸ばし、軽く岩を叩いてみる。

 

(お、いい音)

 

 流石ガラス質の鉱物、金属で叩くと独特の硬質な音が返ってくる。

 これなら思いっきりぶっ叩けば下まで響くかもしれない。

 

「えーと」

 

 八誌緒は何となく、岩を一回思いっきりフルスイングで殴ってから、その後、三三七拍子で節をつけて叩き続ける。

 

「おっせー押せ押せ押せ押せタケシ♪」

『うるせー!』

 

 なんか楽しくなってどつきまくっていると、なんか地面から人が飛び出してきた。

 

『お、倅だ』

『したで、みみくっつけてきいてた!みみばかんなる!』

 

 土まみれで地団駄を踏む“倅”は、八誌緒に指を突きつけて糾弾し、ついでにその指を胸のさきっちょにむにむにと第三間接まで沈めてくる。

 

『いでぇ!あな、ひろげるからまってろ』

 

 エンピの平で頭を痛打してやると、悲鳴を上げながら穴に這い込んでいった。

 

(服とブラの上から乳首を直撃させるとは、ある意味すごい才能だなぁ)

 

 金田一のスケキヨみたいに直立した両足がうごうごと地中に消えてゆくのを見ながら、八誌緒は感心する。

 悲しいかな、この程度のセクハラで動揺していては、人喰いエロエロ一家の巣窟で生き抜けなかったのだ。

 

「さて、“あとかたづけ”の時間かぁ……」

 

 八誌緒はため息をついて、“倅”が入り口を作るのを待つ。

 必要な“タイミング”も“道具”も揃い、やらない為の“言い訳”も無くなった。

 

(やりたくないなら、戻らなければ良かった……)

 

 緊急避難とは言え、ヤバい反社勢力にヤバい物を“ぶちまけた”責任を取らなくてはならない。

 “黄金水”と“味噌(人由来)”を接種して、身体能力を向上させ、恐らく遺伝病すら克服した状態で、ねずみ算式に増える人喰い野盗。

 ついでに、限りはあるとはいえ、自動小銃と手榴弾、プラ爆……は使えないと思うが、前者二つだけでもそれなりに被害者は出せるだろう。

 

 族滅。

 

 一家悉(ことごと)くを滅す。

 

『ヤシオー!』

『で、でたーぁ!』

『うしろ、ウシローッ!』

 

 ド○フのコントか、なんて考えながら右手に薬室装填済み、ハンマーフルコック、セーフティ解除済みのベレッタを呼び出して持ち上げようとした所で、ぺきっ、と木の枝が折れる音がした。

 素早く振り向き、大きく口を開けた狼の横っ面を左手に取り出したエンピでぶったたき、怯んだ所にベレッタを押しつけるように9mm×19mm弾を三発。

 背けた顔のすぐ下、喉元から胸板に着弾がばらけるが、それで充分だったらしく、狼はぐにゃりと倒れた。

 続けて飛び出してくる後続の狼は急に開いた落とし穴に落ち、地面から突き出された槍に腹を突かれて悲鳴を上げる。

 

『こんやはいぬなべだ!』

 

 地面から這い出た土まみれの“倅”が槍にぶっささった狼を火消しの纏(まとい)みたいにブン回してはしゃぐ。

 

『ばか、はやくずらからないと、もっとくる!』

 

 穴を掘った“倅”はそう言いつつ、元気に吠えている狼にでかい石を投げつけてから、土を崩して生き埋めにする。

 

『ずらかるぜ、ヤシオ!』

『うん……』

 

 すっかりタイミングを逸し、八誌緒はベレッタを降ろしかけ、跳ね上げる。

 

『んあ?ど……』

 

 最後まで言わない内に、槍をブン回していた“倅”の頭が無くなった。

 

 千切れた大動脈から血をぴゅっ、ぴゅっ、ぴゅっと吹き出しながら倒れる音は聞こえない。

 空気が震え、腹の底まで響く咆哮が場を満たす。

 

 そいつは思ったより近く、そして、見上げるほど高かった。

 

(あ、くまぁぁぁぁ!)

 

 天に向かって掲げられた両の手。

 受けたら折れるのは“憶えている”。

 振り返りざま、斜め左から振り下ろされる右前足を咄嗟に腰をすとん、と落としてかわす。

 浮かんだ髪の毛が数本鉤爪に浚われ、ぷつぷつと毛根ごと持って行かれる。

 

 地味に痛い。

 

 今度は真上から降ってきた左前足を、しゃがんだ状態から後ろっ跳びでかわすが、完全に尻餅状態だ。

 前足をついて、四足歩行モードになった熊公との距離は二メートル程度、こんなの無いも同然。

 即座にベレッタを消して、手榴弾を取り出す。

 ライフル弾でも5.56mmなんて豆鉄砲、熊相手じゃ役者不足過ぎる。

 ピンに指をかけた所で熊の上体が僅かに下がるのが分かったが、他の体勢に変わる余裕はない。

 

 片腕くらいならくれてやる。

 

 食らいつきがくるのにかけて、ピンが抜けた手榴弾を握りしめ、タイミングを待つ。

 スローモーションの様に、毛皮の下で躍動する筋肉まで見える様な瞬きの間。

 力強く足を踏み抜いた熊の前足が沈んだ。

 いや、前足だけではなく、上体もつられるままに沈み、しまいには勢い余って前転し、背中から叩きつけられてしまう。

 

『ヤシオ!』

 

 腋の下から腕を回して引きずられる。

 

『馬鹿!早く逃げなさい、どうせ“死にゃしない”わ!』

 

 手が届かないからか、思いっきり両乳を鷲掴みにされてるが、本気で無意識っぽいので、放置して叫ぶ。

 

『しらねぇよ、かぞくはつれてかえらぁ!』

『ちくしょう!あいつどこいった?』

 

 引きずってるのとは別の土の精気術使いの“倅”が周囲を見回す。

 確かに、さっきまで半分埋まってもぞもぞしていた熊公がどこにもいない。

 次の瞬間、激しい衝撃が背中を襲い、八誌緒は宙を飛んでいた。

 短い飛行の行き先は電柱位あるまぁまぁ立派な広葉樹で、右わき腹から接触を持った結果、物の見事にめしゃり、と纏めてあばらが粉砕、鋭利な散弾と化した骨片が肺と腹膜に降り注ぎ、大量の体内出血を引き起こす。

 半壊した右半身を抱え込んで許容量を越えた激痛が過ぎ去るのをひたすら待つ。

 

(あ、まず……)

 

 背骨もヤバいが、肺をやられると酸素供給が止まる。

 無意識に横隔膜が収縮し、残り少ない酸素と一緒に血泡が口から吹き出し、ブラウスを斑に染めた。

 

 視界が暗く、音が遠い。

 

 暗くなる視界の中、ずしっ、と体に重みが載り、ごろりと転がされる。

 

(あちゃぁ……)

 

 痛みまで遠のき始めてる状態で、ため息も出ずに瞬くと、降りてきた大顎が左の“チチカブ”をむしゃりと咬み、何の抵抗もなく引きちぎった。

 新鮮な激痛がぶち込まれ、全身の神経が爆ぜる。

 嘘みたいに簡単にもぎ取られた数キロ分の肉塊から、なま暖かい血液が飛散し、まだ無事だった腹部の布地に暗紅色のスパッタリングを飛ばした。

 新鮮な激痛に意識が覚醒し、緩みかけていた手が勝手に収縮して握り拳を作る。

 

 はふっ、ぼふっ、と野太い息づかいに何か柔らかく、瑞々しいものを咀嚼し呑み込む音が耳を叩く。

 

(あ、だめだ“こういうの”には弱いわ……)

 

 呼吸が戻り、明るさを取り戻した視界一杯に広がったのは、血塗れの牙がしこたま植わった上下の顎。

 一杯に広げられたそれが、むき出しになった胸骨に食い込み、ぐいと振られると、血と脂に濡れた骨片がプレッツェルみたいに飛び散った。

 ついでに強烈な体内圧の変化に耐えられなかった肺が“また”破裂する。

 

(やば?しんぞう!ちぬ!?あ、もうだいじょうっぶだったっけ……?)

 

 さっきとは比べものにならない早さで暗くなる視界の中、腹部と肩にかかる重さと胸郭の中を舐め回される怖気と、異様な呼気。

 そして、何か、決定的に重要な何かが体内から引きちぎられる感覚と共に、意識が途切れた。

 

To Be Countinued...

 




 あぁ、又、“一回休み”になってしまいました。

『本当に申し訳ない(某金属男の博士並感)』

 普通の異世界物のチート主人公なら、力に目覚めて無双しちゃうんでしょうけども、八誌緒さんはあんまり喧嘩は強くないので、流石に熊と殴り合うのは厳しいとこです。
 果たして、八誌緒さんは執拗に胸を狙ってくる宿敵“パイオツ熊”と決着をつける日はくるのでしょうか……
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