いっぱい出たね♪ じょろじょろ出ちゃう黄金水 ~ これって、地層処分するしかないんでしょうか? ~   作:八切武士

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 盗賊には人権はない。
 偉大な魔法使いもそう言っている。

 だから、ノーカンだよ。

 ところで、みんなは、クラッシックなヴィクトリアン風のメイドさんは好きかな?

 特に他意はないけど。



【第1部 第4流 ~ 全ての道には野盗が出る ~】

 

「あ、広い道」

『森の浅い所を街道が通ってるのさ、うちの村は左にしばらく行ってから脇道に入る』

『右にずっといけば、ラースね』

 

 街道はしっかりと木が伐採され、小型車なら互いに端に寄れば楽にすれ違える位の幅がある。

 地方の幅が狭い国道位だろうか。

 当然アスファルトでもコンクリでも無いのだが、土を突き固めた様な造りでも無い。

 

「なんか、削った岩を敷いてるみたい……」

『“シュヨウカンセン”だっけ、大きな街を繋いでる道は“精気術”使いが工事して、岩みたいにカッチカチに仕上げてるのよ、“ローマカイドウ”並に長く残る様にする、って張り切った“流され人”さんが居たのよ』

『“ローマカイドウ”って何なんだろうな、“流され人”さん語はよく分からん言葉が多いぜ』

 

(ローマ街道ってどんだけの長さの道敷く気だったんだか、しかし、“せいきじゅつ”って何?やっぱり魔法?)

 

 道の表面は轍の跡がうっすらついているが、見た感じ、派手な凹凸が生じている様子はない。

 ちゃんと真ん中が少し盛り上がっていて、道の端に水が捌けていく造りになっている様だ。

 

「この道なら車輪がぬかるみにはまったりしなくて済みそう」

『ああ、いい道ができたおかげで、物と人の行き来が盛んになったのよ』

『おかげで野盗、山賊も多いがな……しょっちゅう討伐隊が出てるし、それなりにやっつけられちゃいるんだが、鼠かごきぶり並にわきやがる』

 

 中々に物騒な話である。

 

「あ、誰か来た」

 

 のんびり歩いていると、前の方から馬と人が近づいてくるのが見えた。

 馬に人を乗せて、手綱を引いているらしい。

 手綱を取っているのは、たくましい青年だ。

 服装はカイルと同様に、丈長のチュニックだが、タイツではなくズボンを履き、足下は編み上げのサンダルの様だ。

 

『よお!狩りの帰りかい』

 

 快活に笑う口元からは健康そうな歯が見える。

 髪の毛はぼさぼさで、なんとなくトウモロコシの房っぽいが、純朴そうな雰囲気にマッチしている。

 

『おう、今日はそっちはついでだがな、そちらさんは行商かい?』

『ああ、今日はちょっとこの先の村まで行くつもりさ』

 

 青年が親指で背中の荷物を指して見せる。

 大きなザックには色々と入ってそうだ。

 

(と言うか、すっごいマッチョ……)

 

 青年のチュニックとズボンは中の筋肉でぱっつぱつになってはちきれそうだ。

 

『この先って言うと、ウィンストンね』

『ああ、“シンコンリョコウ”を兼ねて、“五枚盾”を回って商売してるのさ』

 

 楽しげに笑った青年が馬上を見上げると、首にスカーフを巻いた女性がにっこりと微笑みを返す。

 

(おー、新婚真っ盛りですなぁ……)

 

『はは、行商しながらなら、旅費も安心てとこだな、気をつけてな……ついさっき、霧熊が出たって話を聞いたとこだからな、まぁ、街道まで出ちゃこないだろうが』

『ええ、むしろ、商人なら野盗の方に気をつけてね、あいつらどこからでわいてくるから』

 

 二人の言葉に青年は、腰にさした蛮刀に手をかけて頷いた。

 

『ああ、やられるわけにはいかねぇな、大事な荷物運んでるからなぁ!』

 

 青年の筋肉を見るに、蛮刀、でっかいナイフみたいな鉈を存分に振り回す膂力は十分だろう。

 

(お、お姉さん、ちょっと顔赤らめてるし……仲良きことは美しき哉、ですか、そうですか……)

 

 いい加減口から砂糖が出そうになってきた所で行商人夫妻と分かれて先を急ぐ。

 しかし、しばらく歩いた後で、ふと、カイルが足を止めた。

 少し耳を澄まし、元来た方へ目をやる。

 

『何かくる……これは、早馬か?』

 

(ぜんぜん何も見えないし、聞こえなかったんだけど???)

 

 カイルの見ている先へ、ミルドレッドさんと一緒に目を凝らして見ていると、やがて、なにか、豆粒の様な影が見えてきた。

 それはすぐに、大きくなり、馬に乗った人のシルエットになり、もっと詳細が見える様になってきた。

 

「あれ、さっきの行商人さん?」

 

 爆走する馬の背にしがみつく人影にスカーフは無く、ウェーブのかかったブルネットが風になびいている。

 お嫁さんの方だ。

 

「あ」

 

 こちらの十メートル程手前で、急に馬が竿立ちになり、主を振り落とす。

 結構な勢いで叩きつけられた人影はピクりとも動かない。

 

『大変!』

『待て!』

 

 とびだそうとするミルドレッドさんをカイルが止める。

 彼が指さした先で馬が後ろ足を引きずっており、尻の部分に矢が突き立っていた。

 そして、街道の先、道の左右から小柄な人影が走り出てくる。

 その手には、弓矢や鉈、斧、ナイフがにぎられていた。

 “ぎしゃあ!”とか“あ゛あ゛ぉぉぉ!”とか、とても人語じゃない奇声が聞こえる。

 

『くそ!走るぞ』

 

 弓に手を伸ばしかけていたカイルはミルドレッドの手を握って走り出す。

 勿論八誌緒も即追従だ。

 

(ちょっとのんびり会話の流れを見てたらこれだよ!異世界物騒すぎでしょー!)

 

 言っている内にも飛んできた矢が地面に当たって火花を散らす。

 

(鉄の鏃使ってるんだ、って、危なっ!)

 

 全力でダッシュしていると、カイルとミルドレッドさんを追い越しそうになる。

 

(ああ、そっか、普通は全力疾走状態を維持できないよ!)

 

 ここしばらく、兎に角無限のスタミナに頼って全力逃走してたせいで、普通は全力で走るとすぐにバテるって感覚を忘れていた。

 少しペースを落として二人と併走していると、早々逃げ出したのが良かったのか、奇声が遠ざかり、矢も飛んでこなくなった。

 

『おまえ、すごい、な……荷物担いでそこまで走れんぞ』

「最近ちょっと体力には自信が出てきまして」

『わ、わた、し……ちょっ、もう』

『頑張れ……村のちかくまでいけば』

 

 ふらふらになってきたミルドレッドさんにカイルは肩を貸し、再び引きずる様に先を急ぎ始める。

 八誌緒も急いで右肩を貸した。

 八誌緒の方が二人より明らかに背が低い為、かなり傾いているが、スムーズに引きずる事ができる。

 

 風切り音と鈍い音。

 

『ぐ、う゛ぶぉっ』

 

 がくんと右肩に重みがかかり、カイルが膝をつく。

 胸を押さえた手から矢羽根がはみ出ている。

 

『カイ!』

 

 すがりついたミルドレッドさんを押しやる彼の胸にもう一本、矢が突き立つ。

 ゆっくりとした時間の流れの中でようやく覚醒した意識を向けると、逃亡先の道脇から小柄な人影左右から二人ずつ駆けだしてくるのが目に入った。

 

(ゴブリン?人間?)

 

 意外な程機敏に駆け寄ってくる人影はちゃんと服を着込んでいる。

 肌も緑色と言う訳ではないが、何故か全身土汚れにまみれていた。

 更に飛来した矢がスカートの裾をぶち抜いて落ちる。

 

 急に目が醒めた様に時間が加速する。

 

 何かが繋がった様な、夢の中で夢から覚めた様な……

 

 覚醒しながらも、ふわふわした感覚の中、体が勝手に動き出す。

 

 飛び出して、先頭の相手とミルドレッドさんの間に割り込んで弾き飛ばす。

 思ったよりも遠くへ吹っ飛んでいく小さな野盗にちょっと驚きつつ、鞄を地面へ落とす。

 

(鞄の重量もありますから、当たり負けはしないですね)

 

「痛……」

 

 左の太股に激痛が走った。

 大きなナイフがぐっさりと半ば程まで刀身を埋めている。

 二人目にたどり着いた野盗だ。

 何も考えず反射的に、にやりと笑ったその顔に鞄を落とした時にサイドポケットから引っ張っていた、ファイアスターターを思い切り振り下ろす。

 

『ぎいっ!』

 

 特に狙った訳では無かったが、ファイアスターターは棒ヤスリ状の金属棒部分が根本まで野盗の眼孔に突き刺さった。

 体の感覚を確認する様に、手を握ったり開いたりしてみる。

 

(少し“遠い”……まぁ、いいでしょう)

 

 顔を抑えて地面へ転がるそいつを無視して、雑に太股のナイフを掴んでゆする。

 意識ががフラッシュする感覚を覚えながら腕を振り抜くと、肉を切り裂いたナイフが自由を取り戻した。

 痛みとなま暖かいものが溢れる感覚。

 

(これ、あんまりバランスは良くないですね)

 

 “直打ち”するには大きすぎるし、バランスも悪い。

 投げるのは諦めて、くるりと、刃先を下に向けて持ち変える。

 

「あ……」

 

 どん、と体に衝撃が走った。

 視線を前に戻すと、脂ぎった汚い頭が胸に顔を埋めている。

 

「痴漢?……にしては痛いわ」

 

 言葉を発すると、上ってきた血が口から溢れる。

 

(喉が灼ける……この感じは“胃”ね)

 

 腹部から響く苦痛と、暴れ回る冷たい異物感を感じながら、汚い頭を掴む。

 ぐいっ、とπから引き離す様に仰け反らせて、“うせやろ!!”とでも言いたげな表情を浮かべる彼の首に真横からナイフを突き刺す。

 左手で掴んだ頭を突き放しながら、右手でナイフを思い切り手前へ引けば、以外な程簡単に首の前半分がぱっくりと開いてしまった。

 ぴゅっ、ぴゅぴゅ、ぴゅうっと派手に赤い噴水をまき散らしながら膝を落とすのを放置して、お腹に根本まで埋まっていたナイフを引き抜く。

 

「……」

 

 冷たい異物がずるりと抜ける感触は“慣れていても”嫌なものだ。

 だが、ナイフを抜いたそばから痛みは引いてゆく。

 

(こっちはさっきのよりいいかな?)

 

 血塗れのナイフのバランスを確かめる。

 こっちは投げやすそうだ。

 

「えい!」

 

 邪魔になった右手のナイフを丁度いい高さに降りてきた噴水男の頭に思い切り振り下ろして、針山代わりにする。

 

(下いき過ぎると見えにくくて困りますね)

 

 体の真下からやや前方までは、肉の障害物で完全に死角なので、何をやるにしてもあてずっぽうになりがちなのだ。

 ちら、と周囲に目をやり、前方の少し離れた所で蛮刀を構えている小男と、右前で座り込んだまま目を見開いている小男。

 

(何か、随分似てる……コピペモブ?)

 

 妙に目鼻立ちが似通っている。

 

『AEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!』

 

 蛮刀を持った小男……蛮刀男が妙に悲痛な遠吠えをあげる。

 なんとなくまずい雰囲気だ。

 

(片づけてから考えればいいですね)

 

 ナイフの持ち手を変え、蛮刀男へ“打つ”。

 手首のスナップは効かせず、腰も捻らず、腕だけを鞭の様にしならせて放たれたナイフは、九十度回転しながら、蛮刀男の土手っ腹に斜め上から、すとっ、と突き刺さった。

 断ち切られた様に遠吠えが止み、蛮刀を落とした男が腹を抑えてうずくまる。

 周囲を見回して、目に入る範囲に戦闘可能な敵性存在が居なくなった事を確認し、八誌緒は背後を振り返り、カイルの体を抱え込んで呆然と座り込んだミルドレッドを確認する。

 

(本人に怪我はなさそう、けど……)

 

 カイルの“オーラ”はもう生者の輝きを失っていた。

 

「移動しましょう、長居しない方が」

 

 ミルドレッドの肩へ触れようとした時、背中へ軽い衝撃が走った。

 

(伏兵……一人、ずっと伏せてましたか、夢とはいえ、気を抜きすぎですね)

 

 多分背中に矢が生えてる筈だが、残念ながらそこまで首が回らないので目で確認できない。

 というか、自分で矢が抜けなさそうだ、これは困る。

 

「痛いものは……痛いんですよ?」

 

 振り返ると、草むらから上半身を出して弓を構えていた人影が一瞬、びくり、と身を引きつらせ、腰でも抜かした様に、すとん、と草むらの中へ消えた。

 

(そんな、妖怪の“本性”を見た時みたいに反応しなくても……)

 

 ため息をついて振り返ると、カイルを抱いたミルドレッドが道の先を指さしている。

 

「ああ、ちょっと多いですね」

 

 背後の道には似た様な顔が十以上、手に手に、凶器を携えて息を荒げていた。

 どうやら、さっきの叫びは緊急事態を知らせるものだったらしい。

 取りあえず、ミルドレッドの前へ出た。

 弓を持っているのが少なくとも三人は居る。

 

(弓が三人…迷彩服?、両手斧二人、片手斧三人、短剣四人)

 

 弓を持っている三人は、近代的な野戦服を着込んでいた。

 明らかにオーバーサイズのそれは、手足が折り返されている。

 

(何となく見覚えのあるカモパターンだけど……)

 

 と言っている間に、飛んできた矢が左胸と鳩尾に突き刺さった。

 残りの一本はハズレだ。

 

(コレ、返しついてるわ……抜く時、結構痛いのよね)

 

 少し、体を揺らしただけで、立ったままじっと見つめていると、なんとなく、おそるおそるといった感じで近づいてくる。

 

(“じんじん”しますね、脈が少し早い……毒?トリカブトでしょうか?)

 

 胸と、腹部に突き刺さった矢を半ばからへし折る。

 

(ああ、痛い……痛い)

 

 毒は効かない。

 

 “そういうのは”平気だ。

 分かっている。

 

(待ってもしょうがないですね)

 

「できれば逃げて下さい、こちらはどうとでもなるので」

『ヤシオ?矢が……』

「“抜く”まで煩わしいですが、どうという事はありません」

 

 少し身を屈めて、カイルの腰から蛮刀をするりと抜き取った。

 それはどこをどう伝わったのか、グルカナイフに似た形状をした、刀身四十センチ程の刃物である。

 

「こちら、お借りしますね」

 

 少しぽかんとした顔になったミルドレッドさんを後に残して歩き出す。

 “いつもの癖”でしずしずと歩きかけ、

 

(マキシ丈に慣れていると、ミニのスカートは少し寒いですね……それだけじゃないですけど)

 

 足だけでは無く、股間まで寒い。

 

「流石にこれは、はしたないですね」

 

 意識の中にある“ワードローブ”から、“いつもの一着”を思い描く。

 体を包む“衣装”がざわめき、姿を変える。

 黒くて長いワンピースに、控えめなフリルの付いたエプロン。

 足下はローヒールのショートブーツとハイソックスで固め、頭にはホワイトブリムをのせる。

 

「やっぱり、これが馴染みます……」

 

 小幅に距離を詰めてゆく。

 

 矢が再び飛ぶ。

 道の上を滑り、耳を切り裂き、右のわき腹へ突き刺さる。

 

「動揺し過ぎですね、まだ十人も立ってるのに、そんなに怯えなくても……“私”そんなに“強くない”ですよ?」

 

 “接客用”の笑顔を浮かべて立ち止まり、左のわき腹から強引に、力一杯矢を引き抜いた。

 白いエプロンが盛大に赤く染まってゆく。

 

(やっぱり鏃に何か塗ってある……)

 

 左手を伸ばして矢をぽとり、と落とし、少し困った表情で小首を傾げる。

 

「こんなに大きな“的”なのに、控えめな場所を狙わなくても宜しいのですよ?」

 

 ついでにお腹に刺さっていた矢にも左手をかけ、ぐりぐりと引き抜く。

 

(ああ、なかなか抜けない……えい!痛い、えい、えい、痛い……)

 

 つい、引き抜くのに夢中になってしまい、少し慌てて目線をあげると、彼らの目が、明らかに異常者を見るものに変わっていて、苦笑がでる。

 

「申し訳ございません、はしたない真似をお見せ致しました」

 

 居住まいを正して一礼し、両手を広げて一歩歩くと、彼らが、思わず一歩退くのが見えた。

 瞬間、ダッシュをかける。

 

「GYAAAAAAAAA!」

 

 正面、両手持ちの斧を持っている男に飛びつく様に膝蹴り。

 助走の勢いそのままでつきだした膝は鳩尾より少し上に突き刺さり、何か折れる様な感覚を伝えてくる。

 

「えい」

 

 折角上から見下ろす位置が取れたので、ついでに左手に持っていた矢を斜め上から、右鎖骨の内側めがけて打ち下ろす。

 思ったより深く刺さり、完全に鏃が見えなくなった。

 身を翻して、ガードを上げかけたもう一人の両手斧持ちの腰下へ、遠心力を込めた蛮刀を振り下ろす。

 斜め上、側面から振り下ろされた斬撃は余り太くない太股を断ち切ってしまった。

 思った以上の切断力だ。

 

(カイル、かなり大事に手入れしてたのね)

 

 左の後背から腹部に痛みと異物感が走る。

 いつも通り、胸でお腹の辺りが全然見えないのだが、多分貫通しているだろう。

 

(後ろからだし、串刺しだから、リバーピアス……レバ刺しかしら)

 

 柄を捻って引き抜こうとしている手を掴み、当てずっぽうで蛮刀を背後へ振るう。

 思ったより重い手応えと、手の激しい痙攣が伝わり、甲高い悲鳴が上がった。

 

(ああ、持ってかれちゃったわ)

 

 手を離して振り返ると、目の下辺りを半分くらいまで切断して蛮刀がはまり込んでいるのが見える。

 少し抜くのに苦労しそうだ。

 そして、そろそろ囲まれ始めている。

 意図通りと言えばそうだが、そろそろもたせるのが難しくなってきた。

 背中から腰を斬られる感触。

 刺すのはまずいと学習してらしい。

 

(割とおりこうさんですね)

 

 前に倒れ込む様に離れつつ、行く手で、意を決した様に斧を振り上げる手斧族の一人に目を付け、両手を広げて襲いかかる。

 明らかに一瞬硬直し、振り下ろしが遅れた右腕を左肩で受け止め、力一杯、“抱きしめ”て倒れ込む。

 左腕で頭を胸に埋め、背中を右腕で引きつけてお腹を合わせると、腹筋と背筋で固定された短剣の切っ先が肉に潜り込む感触が内臓へダイレクトに伝わり、大変に痛気持ち悪い。

 身を起こすと、胸肉で塞がれていた顔の穴という穴がようやく解放され、ついでに共有していた短剣の刃がずる抜けて血が吹きだし、男が甲高い悲鳴を上げる。

 転がって離れるついでに、その手から片手斧を貰っておく。

 腹をおさえて転がってるので、思ったより深く刺さったらしい。

 振り下ろされた手斧が左腕の肉を割り裂き、切りつける短剣が、肉を裂きながら肩胛骨の表面を滑る。

 

(頭と背骨への直撃だけは避けて……)

 

 肉を斬られた、骨が折れた、神経が千切れた。

 その程度、数秒待てば治る“感覚”に過ぎない。

 横と背後で攻撃を振り切った敵は無視して、離れた所から奇声と共に投げつけられた手斧を“左胸”で受ける。

 エプロンとワンピース、そしてその下の皮膚、脂肪、肉、乳腺と血管、そして神経をずたずたに引き裂きながら胸の中へ半分以上の斧頭が沈む。

 しかし、それだけだ。

 このサイズでは、谷間の胸骨に直撃されなければ、胸の中で止まる。

 顔を上げると、無手になった男が明らかに怯えた様子で、両手を、“待て”とでも言いたげにつきだして首を振る。

 待てと言われて待つ道理もないので、そのまま歩き出そうとすると、左手に痛痒を感じた。

 ワンピースの袖の上から、がっぷりと咬みついた男がぶら下がっていた。

 まるで、骨付き肉に食らいつく原人の様に手首と肘の辺りを両手で掴み、真ん中を口一杯に頬張っているのだ。

 

(……血を流しすぎましたね)

 

 いつしか周囲を濃密な血臭……ではなく、妙なる芳香が漂っていた。

 

 空腹でなくとも空腹を刺激し、空腹を飢餓へ変え、“匂いの元”を貪る事しか考えられなくなる、天上のB兵器。

 

 ただの人間の歯が布地を咬み裂き、左腕の肉に潜り込んでゆく。

 残念ながら“こういうの”には弱い。

 

 ごとっ、と音がした。

 視界の端で、涎を垂らした男が武器を取り落とす。

 むしゃぶりついてくるその顔面にストレートに手斧を振り下ろすと、すこん、と頭蓋を叩き割った斧頭が食い込み手から離れる。

 地面に倒れる男を放置し、胸から代わりの手斧を引き抜くと、右のふくらはぎに痛みが走った。

 スカートの中へ男が頭をつっこんでいる。

 ごつごつと臑に棒が当たる感触からすると、斧が頭に生えたままの様だ。

 わしり、と脚から肉が食いちぎられる感触。

 左腕の骨がめりめり砕ける感覚。

 亡者と化した同僚が、“食いで”のありそうなメイドに食らいつく風景を、既に地面に転がった負傷者は恐怖に目を見開き、近くに立つ者は涎を垂らして機会を窺い。

 遠間から様子を窺っていた者はせわしなく武器を構え直し、一時、時間が止まった。

 

 不意に視界が網がかかった。

 と、思ったら、本当に網が掛けられただけで、二つ、三つとかかる。

 必死の形相で網から伸びた細綱を握った男達が八誌緒の周りを走ると、細綱が網に巻き付き、腕にくっついた男ごと、梱包していく。

 

(迂闊でしたね、まさか投網まで用意しているとは、周到な……)

 

 数人がかりで引き倒されたあと、網越しに最初に見えたのは頭めがけて振り下ろされる両手斧だった。

 

 To Be Continued...

 





暴力!暴力!暴力!

『クソッ、暴力最高だぜ!』
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