いっぱい出たね♪ じょろじょろ出ちゃう黄金水 ~ これって、地層処分するしかないんでしょうか? ~   作:八切武士

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 え!サメって、普通は海に棲んでるの?
 知らなかったヨ……



【第1部 第5流 ~ サメっていうのは本当に何処にでも出没する ~】

 

「腹減ったな……」

「お前もか、なんか、さっきから俺も腹が減ってしょうがねぇよ」

「気のせいかもしれねぇけど、いい匂いがすんだよな、その辺で飯でも作ってる奴がいんのか?」

「いやいや、この辺にゃ、茶屋の一つもねぇよ……しっかし、なんだ、このなんとなくうまい空気は?」

「静かにしろ!」

 

 ついつい雑談モードになっていた兵達は、隊長の一喝に口を閉じる。

 

「いい陽気だから、気が緩んでくるのも分かる、だが、野盗の出没情報は増えているのだ、周囲の警戒は怠るな」

 

 ライアン卿は誠実で配下の者への気遣いも持ち合わせた人格者だが、ベテランの“主要街道取締方”を勤めるのに相応しい厳格な部分もある。

 業務中の過度な私語、注意散漫を咎められでもしたら、休憩時間が、官吏としての心得を拝聴する時間に変わってしまう。

 年かさの兵がまだそばかすの残る少年を後ろから小突くと、彼は走り出し、騎乗した上司の横へ並ぶ。

 

「はっ!どうも、先程から空気に妙な匂いが混じっている様に感じられましたので、皆で確認しておりました」

 

 歯切れ良く答える兵を馬上から見下ろし、ライアン卿はふさふさのあごひげをこする。

 

「ふむ……確かに、この“空気”には尋常ならざるものを感じるな、僅かに血の臭いもある」

 

 卿の言葉に、兵達に緊張が走る。

 ライアン卿は武芸にも優れた男だが、この役職を任されている理由の一つに、その感覚の鋭さがあった。

 誰よりも早く異変を察知し、その原因を探り出す才に長けている。

 

「先を急いだ方が良さそうだな」

「ライアン卿!前に不審な人影があります!」

 

 中年の兵が声をあげた。

 元々猟師をしていた彼は、鋭い視覚を持っている。

 

「あれは……行くぞ!」

 

 愛馬の歩みを並足から諾足へ早めたライアン卿へ、兵達も駆け足で続く。

 程なく、人影まで近づいた一行は、その痛ましい様子に息をのんだ。

 服の所々を血に染め、大柄な男の片腕を掴んでよろよろと引きずり歩く若い女性。

 結った髪はほつれ、くちびるが半開きになった顔からは表情が抜けている。

 引きずられている男には数本の矢が突き立っており、一目で最早息が無い事が見て取れた。

 

「トム!」

「……妙な反応はありません」

 

 精気術士の言葉を待ってから、ライアン卿は偵察兵の二人へ号令をとばす。

 

「周囲警戒、アイラ、ニール、ご婦人を保護しろ」

 

 ライアンの号令を受け、槍兵は短槍と盾、盾兵は盾と戦槌を手にする。

 弓兵は弓と矢を手にして、即時発射態勢でに入った。

 狡猾さと卑劣さだけは増してゆく野盗は、こざかしくも被害者を囮にしたり、死体に罠をしかけてくる事がある。

 警戒を怠る様な者は、長くこの仕事を続ける事はできない。

 偵察兵のアイラが慎重に女性に接触して肩へ毛布をかけ、ニールがそっと固く握られた腕を放させ、遺体を改める。

 二人共、同時に身体検査も行っている。

 術だけではなく、物理的な仕掛けにも気をつける必要があるからだ。

 武器らしきものは、女性が身に付けていた採取用の小さな鎌だけらしい。

 アイラが女性へ声をかけているが、反応しているかはかなり怪しい状態だ。

 

「あの子……たたかって、でも……あんな、あんな……カイ、ああ、ひどい……あそこまで、においが、にげないと、あつまって……」

 

 呼びかけられても女性は俯いたまま何かを呟き続けている。

 

「ふむ、落ち着かせんと事情を聞けんな」

 

 ライアン卿が精気術士のトムこと、トーマスへ目を向けると、彼は難しい顔をして鼻を擦った。

 

「とりあえず“鎮静”のまじないを試してみましょう、ただ、あれは、憔悴しすぎてると眠ってしまいますので」

「……最悪、“覚醒”のまじないを重ねがけする事になるだろうが、眠らせておいてやりたいものだ、しばしの間くらいはな」

「何か来ます!……“森林鮫”一体を視認」

 

 緊迫した偵察兵の報告に隊がざわつく。

 

 地下を遊泳し、潜地状態からの三メートル近い跳躍力を持ち、成長すれば体長三メートル程度まで成長。

 表皮は粗いヤスリの様な鱗に覆われ、やわな金属程度なら摺り下ろす硬度がある。

 更に森林内では木を“足場”に使って跳ね回り、獲物の頭上からのトップアタックまでこなす。

 一つ一つが鏃の様な牙がびっしり生えた大顎で咬まれれば、防具が皮鎧程度なら間違いなく四肢を失うか、致命傷は免れない。

 そもそも、弱った獲物を地下に引きずり込んで喰らう習性がある為、即死した方がマシまである。

 がっちりと硬化させて、保全のまじないがかかっている主要幹線の舗装へは潜れない事だけが救いだ。

 

「偵察兵、二人を後ろへ!、前方防御、火力支援、弓兵は準備出来次第、自由射撃しろ!」

 

 道に潜れないからか、びったん、びったんと跳ね回るという非効率な移動で迫る敵を見据えながらライアン卿の指示が飛ぶ。

 アイラとジョンにより要救助者と遺体が速やかに後方へ運ばれ、入れ替わりにポールウェポンを携えた槍兵が三名前へ出る、そしてその間を埋める様に盾兵が三名陣取った。

 第一陣からやや下がった場所の左右に弓兵と精気術士が第二陣として陣取る。

 その真ん中に騎乗したライアンが控え、要救助者を移送した偵察兵、アイラとジョンは更に背後でで要救助者と、後方の監視についている。

 

「隊長、火を!」

「前方、火を焚くぞ!」

 

 かけ声を上げてから、ライアン卿は鞍袋から取り出した一抱えはある火炎壺を力強く前方の道へ投擲する。

 第一陣の頭上を飛び越えて地面に炸裂した壺から粘性のある液体が飛び散り、すぐに激しい炎が立つ。

 その間にも、射程内に達した“森林鮫”相手に弓兵が矢を放つ。

 上下に飛び跳ねる目標へ初撃が命中したのは一本だけだったが、それは鱗に弾かれる事なく突き刺さった。

 

 だが浅い。

 

 鏃とその後ろ二センチ程度が潜り込んだだけだ。

 三メートルの化け物へ痛痒を与えるにはほど遠い。

 

「こい、こい、こい、こい……」

 

 トムが呟きながら何かを纏める様に腕をぐねぐね動かすと、地面でごうごうと燃え盛る炎から暖かみを感じさせる橙色のもやもやが火の粉と共に上昇し、玉の形を取った。

 それと共に、かなりの火力で燃えていた炎は小さくなり、消えてしまう。

 まるで、熱を吸い取られでもした様に。

 

「にんじん、にんじん、にんじん……」

 

 今度は空中で何か両手を少し放した状態で擦り合わせる……まるで、何か粘土の塊を棒状に練っている様な仕草を始めるトム。

 それにあわせて、橙色の玉も火の粉を散らしながら人参じみた緩い円錐柱へと姿を変える。

 

「ゆけぃ!」

 

 弓兵が第三射を放ち終わった後のタイミングで、トムが腕を振り下ろしながら前へ押し出すと、炎の人参がまるでミサイルの様に尻から火の粉をまき散らしながら、がくん、と地面すれすれまで高度を落として、するすると前へ進み始めた。

 速度としては、普通の人が全力疾走する程度……およそ、時速20キロメートル前後だろうか。

 いまいち派手さに欠ける人参ミサイルが、体に矢を生やした矢を数本増やした“森林鮫”に迫る。

 そして、危険を察したのか跳躍の方向を変えた“森林鮫”を通り過ぎるかというタイミングで、トムがまるでアッパーカットをとばすかの如く、拳を斜めに突き上げた。

 

「くらえぃ!」

 

 人参の横合いから炎が吹き、それは尻から吹いているメインの推力を曲げ、人参ミサイルは綺麗なループを描かせる。

 そして、ループ飛行を終えた人参ミサイルは空中の“森林鮫”の下っ腹へ吸い込まれるように突き刺さった。

 空中で、“森林鮫”の巨体が、びくっ、と固まる。

 術者だけを見ていると赤ら顔のおっさんがたこ踊りしているだけなのだが、その威力は絶大だ。

 体を固めたまま、地面にずばん、と激突した“森林鮫”はまさに地上に打ち上がった魚の様にびちびちと跳ねているが、移動する程の力は出せないらしい。

 

「槍兵突撃、押さえ込め!」

 

 すかさず盾を手放し、両手で槍をホールドした槍兵達が全力で走り出す。

 

「盾兵、後詰めせよ!」

 

 槍兵が走り出した後のタイミングで、今度は盾兵が走り出した。

 先行して到達した槍兵の速度と全体重が乗った穂先が、正面と左右から突き込まれ、左右は硬い鱗を貫通し軟骨層へ抉り込み、正面の兵の槍は牙を剥く口腔内を突き刺して顎下へ抜ける。

 強烈なダメージに激しくのたうつ巨体の抵抗を屈強な三人の男が全力で抑え込み、動きを封じる間に、現場まで届いた盾兵のメイスが振り下ろされた。

 

「おらぁ!」「しねぇぇ!」「くたばれ!」

 

 ドスの利いた気合いと共にフルスイングされた鉄塊が幾度も振り下ろされ、強固な鱗ごと軟骨と肉を叩き潰してゆく。

 数分もしない内に、巨体は抵抗を止め、小さな痙攣を残すだけとなった。

 最後に力一杯頭を殴りつけた盾兵が他の仲間に頷いて盾を掲げる。

 

「目標、撃破を確認しました!」

「皆、良くやった!……盾兵と槍兵は一旦そいつを道脇へどけておけ、通行の邪魔だからな、弓兵、周囲警戒を怠るな」

 

 兵達が指示に従って動き始めるのを確認してからライアン卿は愛馬から飛び降りた。

 トムへ手招きしてから、保護された二人の所へ向かう。

 

「どうだ?」

「はい、二人は“ギルステン”の者で、こちらのお嬢さんが“ハーブ屋”のミルドレッド、そちらの男性が“猟師”のカイルだそうです」

 

 数分の間に、ある程度落ち着かせて姓名を聞き出していた様だ。

 アイラは偵察でも有望な資質を見せている若手だが、中でも怯える女性や子供を落ち着かせて情報を引き出す格別な才がある。

 ベテランのニールもそこは彼女に一歩譲る部分だ。

 

「“ギルステン”か、ここから近いな……村人が襲われた報告は無いが、野盗に旅人が襲われた痕跡の目撃情報は幾つかあった筈だ」

 

 幹線の宿場町に立ち寄る毎に地域の治安情報は共有を受けている。

 この辺にも野盗は居るが、地元民には手を出さず、少数で移動する旅人だけを狙っているらしく、目撃されるのは痕跡だけという話だった。

 地元の自治体の構成員を死傷させたり、大規模な商隊を襲って討ち漏らしを残せば本格的な討伐隊が派遣される可能性があるが、根無し草の旅人や、個人の行商が“行方不明”になってもそこまでの処置がとられる事はまず無い。

 狡猾な集団が潜んでいる予感がしていた。

 

(尻尾を出したか)

 

「野盗は十人以上の集団だった様ですが」

 

 ニールの顔が強ばっているのを見て、ライアン卿は顔を顰める。

 口には出さないが、何か碌でもない話がある様だ。

 

「そんな数の野盗に教われて生存者がいるのだ、ただ事ではあるまい?」

「“流され者”案件です、“流れ者”が野盗と戦っている間に逃走してきた様です、たまたま居合わせたのか、行動を共にしていて襲われたかまでは不明ですが」

「“流され者”か、厄介だな……」

 

 ライアン卿は職務上、“流され者”案件については他の人間よりは知識がある。

 ついでに中央から“流され人”については特別な指示を受けている立場でもあった。

 

「“流され者”が関わっているとなれば、早急に詳細な報告が求められるな……」

 

 ライアン卿はカイルの遺体に目をやり、損傷を確認する。

 

「矢傷だけで欠損は無いな……トム?」

 

 ライアン卿に水を向けられた精気術士のトムはため息をついて、人差し指と親指で眼鏡をつくるとカイルを眼鏡越しに確認し、頷いた。

 

「まだ体にぴっちりくっついてますね、まだ若いですから、執着があるんでしょう」

「保存のまじないをかけておいてくれ、現場を確認した後、“二人”から正確な事情を聴取したい」

 

 トムがカイルの遺体の横に跪き、首に保存と縛霊のまじないが封じられたネックレスをかけ、発動させる。

「これで、暫くは大丈夫……お嬢さん、復活屋にあてはあるかい?」

 

 トムが優しくミルドレッドに声をかけると、彼女はしゃくり上げながら頷く。

 

「村に、祈祷師の……おばば様が、アナン様の」

「成る程、豊穣神の巫女か、分かった、後で連れて行くだから、現場へ案内してくれないか」

 

 トムはミルドレッドの肩に手を置きつつ、沈静のまじないをかけた。

 ミルドレッドの呼吸が安定してくるのを確認して手を離し、更に続ける。

 

「“流され人”が関わっているから、協力してくれれば、彼の復活に関わる費用は国の経費で落とせる、頼む、協力してくれ」

 

 ミルドレッドは少しの間俯いていたが、袖で目元をぐいと拭くと、顔を上げた。

 

「分かったわ、案内します」

 

 To Be Continued...

 





 ささやき - いのり - えいしょう - ねんじろ!
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