瞳の中に映るもの   作:趣 廻

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第1話

巷で話題のVRゴーグル"バーチャギア"

 

数年前に大手ゲームメーカーから発表されるとその機能と軽さに世間は驚愕、数多くのゲーマーや転売屋が奪い合うように在庫を食い尽くし発売初月で次回入荷の見通しが立たなくなったほどの代物だ。

 

発売からしばらく経って在庫と値段が落ち着いた昨今、有名IPの狩りゲーがついにVRで出るということなのでその発売に合わせて購入し、いま現在バーチャギアの梱包を前にしていた。

 

早速ゴーグルを被り初期設定などを行っていくが、バーチャギア及びソフトの代金を稼ぐために夜間バイトを多く入れていたために睡魔に襲われた俺はそれに逆らうこともなくゴーグルを付けたまま布団に横たわるのだった。

 

 

 

目を覚ますと知らない天井だった。

 

少なくともうちのアパートの天井はここまで無機質な感じではなかったはずだ。

 

顔を横に向けると視界が少し高い。布団に横たわったはずだがいつの間にかベッドの上に移動したようだ。

 

顔に違和感を覚えたことで、そういえばバーチャギアをつけていたのだと想い出した。

 

ゴーグルに手を伸ばし外そうとするが全く外れない。

 

「おい、お前何外そうとしている!死にたいのか!?」

 

なんとか外そうと四苦八苦していたところに焦ったように誰かが走り寄ってくる。

 

顔を向けるとそこには金髪ロングの女がいた。

 

彼女の最大の特徴はバーチャギアそっくりな無機質なゴーグルをつけているところだ。

 

最近のチュートリアルは真に迫っているなとノンキしていると彼女に腕を押さえつけられた。

 

「なんで触れた感触が?」

 

「何を言ってるんだお前は?処置が間に合わなかったのか?」

 

急な刺激に混乱する俺をよそに彼女はどこかへ連絡しているようだった。

 

しばらくすると、彼女と同じようなゴーグルを付けた医師らしき男が来て、彼女は入れ違いに部屋を出ていった。

 

「やあ、まずはおはよう。私はこの施設で治療行為を行っているサイモンだ。気軽に先生とよんでくれ。」

 

「サイモン先生?ここはどこなんですか?」

 

やけにフランクな不審者の登場にあっけに取られる俺だったが、なんとか言葉をひねり出す。

 

「ここかい?ここは第3医務室だ。君は13ブロックの資材置き場付近でゴーグルもつけずに素っ裸で倒れていたからね。現場から近いここに運ばれてきたんだよ。」

 

視線を体に向けると手術衣のようなものを着ているのが目に入った。

 

「13ブロックってのはなにかの施設なんですか?研究所?」

 

「おかしなことを聞くもんだ。13ブロックは13ブロックさ。それともこういったほうがいいかな?サイド66第13居住ブロックと。」

 

もしかしてバーチャギアに最初から入ってるSFゲームでも起動していたのだろうか

 

「ゴーグルは簡単には外れないようにできているのだが、不慮の事故によって外れてしまうこともある。なにか違和感とかないかい?」

 

まるでディストピア系だなと考えていると医師は心配そうにこちらに聞いてきた。

 

「今のところは特には。」

 

このままプレイしてもいいが、少々休憩を取りたくなった俺はゲームを中断するべくゴーグルに手をかける。

 

「記憶に若干の障害が見られる程度で…と!何してるんだ君は!?」

 

先程のようにまた腕を押さえつけられた。

 

いくら最先端のVR機器といえど触覚にまで作用する機能はなかったはずだ。

 

「やはり少しでもゴーグルを外すと精神面に多大な影響が出るか…。しかし受け答えはできることから処分というほどには壊れてもいない。要経過観察といったところか。」

 

「私も少々立て込んでいるのでこれ以上ここにはいられないから代理をつける。代理が来るまで大人しくしているように。」

 

カルテらしきものにメモを取りながらブツブツ独り言を言ったかと思えば何らかの端末を操作し部屋から出ていった。

 

ゴーグルは物理的に取れないし、取ろうとすると何故か外部から干渉を受けるため諦めて一旦寝ることにした。

 

寝ようにも眠れず呆けていると、誰かしらの足音が耳に入る。

 

目を向けるとそこには先程の金髪の女性がいた。

 

彼女はあいも変わらずゴーグルを付けていた。

 

「ここの人ってみんなゴーグルつけてるんですか?」

 

会話のきっかけにと単純な疑問をぶつけてみると彼女は驚いたように目を見開いた。

 

「そんなことまで忘れているとは。やはり記憶の方に障害が出ているらしいな。」

 

彼女はそうつぶやきながらベッドの近くにおいてある丸椅子に腰掛ける。

 

「記憶がないというのはどのような感覚かわからんが、とても不安を感じるものだと書物で読んだことがある。時間もあるし、私の答えられる範囲であれば何でも教えよう。」

 

そう優しく接してくれる彼女に少し見とれていると彼女は質問するように急かしてきた。

 

「それじゃあ、さっきも聞いたんですけどここの人は全員ゴーグルを付けてるんですか?」

 

「ああ、そうだ。皆付けている。というより付けざるを得ない。」

 

「それはどうしてです?」

 

「少し長い話になる。それでもいいか?」

 

神妙な様子の彼女にコクリと頷き了承の意を示した。

 

 

 

「順を追って話すことにしよう。今現在地上の大気は汚染されており、ゴーグルを付けていないと生存すら難しい状況だ。我々がいるここも地下深くに作り上げた施設だ。」

 

「大気が汚染されているのにつけるのがゴーグルなんですか?普通マスクなんじゃ…?」

 

彼女がしているゴーグルは鼻や口元が明らかに露出しており、どう見ても大気汚染に対抗するための装備には見えなかった。

 

「そう考えるのも無理はないが、地上の大気汚染は少々特殊なのだ。」

 

「特殊ですか…。」

 

「そう。地上にあふれかえる有毒物質はどれだけ肺に含もうとも健康を害することはない。しかし、目に入れた場合は別だ。」

 

「詳しい作用はわからんが、有毒物質を目にいれるとそこから視神経を伝わり直接脳へと作用し、精神に異常をきたすと考えられている。」

 

プレイヤーが付けているバーチャギアが目を保護するための器具であるという設定か。いかに軽いバーチャギアとはいえそれでも顔になにかつけているという感覚はある。それを逆手に取った斬新な設定だ。

 

「だからゴーグルを…。でも地上ならともかくここでもしているのはなぜですか?」

 

「それは予防のためだ。いかに地下とはいえ我々も呼吸している。外から空気を取り込む必要があるのだ。」

 

「地上からの空気は一応浄化してあるそうだが、いつ有毒物質が紛れ込むともわからん。」

 

「それに、我々も地下にずっといるというわけでもない。」

 

「地上に出るんですか?なんのために?」

 

「物資の調達という面もあるが、一番大きいのが地上の奪還だ。」

 

「奪還って、まるで奪われたように言うんですね。汚染源の除去ですか?」

 

この様子だと地下は拠点で地上のマップを中心に探索する感じなのかな?

 

「ああ、ある意味汚染源の除去とも言えるな。実際に人類は奪われたのだ、あの忌々しき連中にな。」

 

怒りに震える彼女は拳を握りしめそう言った。

 

「連中というのは?」

 

「今から十数年前にこの世界に現れ、瞬く間にこの世界を侵食していった忌々しき侵略者ども。大きな眼球にタコのような足を生やしていることからオクトアイと命名された連中だよ。」

 

「人類は奴らの侵攻で生存圏を失い、今では世界全土の3割しか残っていないと言われている。」

 

「つまりその他7割は…。」

 

「奴らの楽園と化しているよ。」

 

とんでもない世界設定だな。つまり荒廃した世界を生き抜き地上を奪還するのがゲームのストーリーか。

 

「この施設はその7割の範囲内に位置している。わたしたちは残りの3割が失われぬよう、また7割のうちいくらかを取り返せるように日夜戦っているのだ。」

 

「君も容態が良くなれば奪還作戦に参加するかもしれないが、今は体を休めることに専念してほしい。」

 

「ええっと、その…、とりあえず休みます。」

 

色々情報を叩き込まれた俺は困惑しながらもそう答えるのだった。

 

「あんまり喋りすぎるのも酷か。今日のところはここまでにして、また明日様子を見に来るよ。ゴーグルを外そうとしないようにね。」

 

そう言って彼女は出ていった。

 

また一人になり、いくらか冷静になってくるともしかしてこれはゲームなどではなく異世界転移系の何かではないかと思えてきた。

 

確認するためにもまずは部屋の中の探索をしてみる。

 

見渡すと窓がないという点に目を瞑れば普通の病室のようだ。

 

ベッドから降り足元に注意しながら歩き回るが、なにかに足をぶつけたり見えない壁にぶつかることなく、見たままの空間を歩き回ることができた。

 

ベッド近くの丸椅子に触れてみるとしっかり重量が感じられる。ビデオパススルー機能がオンになっっているのかなと考えながら座面を触るとギョッとした。

 

先程まで人が座ってたかのように生暖かいのだ。

 

先程の女性がVR空間で見た虚像ならばこんなことはありえない。

 

このときになってようやく俺は異世界転移したのだという実感を持ち始めたのだった。

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