推しの声が聞こえる……………これは夫婦を超えたな(確信)   作:一味違う一味

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第16話

◆デパート最上階・映画館  ???side

 

 

 

 

 

 

 

 

 交代睡眠中だった私を起こしたのは目覚ましでも他の避難者でもなく、平和な日本では経験出来ないような爆音だった。

 

 それに伴う振動は凄まじく上から降ってくるガラス片に当たらぬ用頭を庇って蹲る事しか出来なかった。

 

 でもそれは体だけ、思考は常に回して最善手を探していた。

 

 

 

「何もしなかったら死ぬ」

 

 

 

 昨日、得た私の教訓だ。

 

 初めて化物を見たとき思考停止してフリーズした人間は死んでいった、逃げてる最中に疲れて足を止めた人間は死んでいった、やっとの思いでついた安全地帯(映画館)で絶望して何もしなかった人間は追い出されて死んでいった。

 

 それは、きっと今回も同じだろう。何もしなかったら死ぬ。どうにかして何が起こったのか確認しなければ。

 

 

 

「まずは相談かな」

 

 

 

 本音を言えば一刻も早く確認に行きたい。しかし、避難者の輪を乱す行動はNGだし、何より大人数で役割分担した方が結果的に早く終わる。

 

 その上、確認するのもままならないだろう。ここは映画館、数少ない窓は化物が(ひし)めく入口にしか存在しないので見つかる恐れがあり、階段から身を乗り出して下を覗けば、やはり下の階を徘徊する化物に見つかる恐れがある。

 

 何をするにも化物が障害となり、その度にストレスが加速度的に上昇する。ストレスが溜まれば視野も狭まり短絡的な行動になりやすくなってるのを感じた。

 

 ああ、早くこのストレスから開放されたい。ずっとなんて贅沢はを言うつもりはない、せめて一瞬でも忘れたかった。

 

 最後に幸福を感じたのは、いつだったか。

 

 そうだ。避難してから共にいたヒステリー女が口を塞がれ階段の手すりから落とされた時だ。

 

 あの瞬間、自分の中に湧き上がった(くら)い喜びに身を任せ、恋人を追放された店長が泣いてるのを見て嘲笑できたのは愉しかった。

 

 心の底から。

 

 

 

「出来ない事を口に出すからだ」

 

 

 

 本当に愚かな人だ。

 

 しかも彼は自分の手で彼女を落としたのだ、彼等が恋人関係だという事は私から広まり周知の事実だった。土壇場で裏切るかもしれない彼に裏切らない証として落とさせたのは当然の流れだろう。

 

 落とされる直前まで彼に縋りついた目をしていたヒス女には本当に笑わせてもらった。繰り返せば化物に、ここがバレる可能性が上がるので何度もは出来ないが機会があるなら、また観たいものだ。

 

 

 

「そろそろ行けるかな?」

 

 

 

 激しかった振動は殆ど収まり、今は断続的に続く崩落音が偶にある程度だ。それに不安定になりつつあった私の心も『愉しい』事を考えれば安定してきた。まだ足に力が入りにくく膝が笑っているが、そこはご愛嬌だろう。

 

 ひとまず目指すのは会議室(として使ってる上映室)。そこへ向かいながら、自称神様が言っていた()()()とやらが見つかってればいいな、と思った。

 

 同時に、そんなモノがこのイカれた映画館で見つかった場合、色々なバランスが崩れ酷いことになるだろうな、とも。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆ルーベンside

 

 

 

 

 

 

 

 

 元々いたのが再供給(リスポーン)された方と『飾り』ゾンビを殺した事で増えたのであろう、もう一体を合わせて二体の【腐肉戦士】。

 

 敵に殺されても減らず、敵を殺せば増える兵隊の厄介さはゲーム以上だと実感した。ゲームでは編成枠の影響から【召喚】出来る数は四体が限度だったが、ゲームが現実を侵食した今、そんな制限はないだろう。

 

 

 

「一週間もあれば大軍勢だな」

 

 

 

 俺もエリカの【復讐誓約】を筆頭に、殆どのスキルがかなり使い勝手が良くなったので人の事は言えないが強すぎやしないだろうか。

 

 ゲーム時代ですら、こちらの味方枠に【召喚】する仕様上、ただでさえエリカの天敵みたいなスキルだったのが大幅強化されたのだ。不満を覚えない筈がない。

 

 

 

「だからこそ、勝つ意味があるってものか」

 

 

 

 よし、探しに行って『証明』ついでに私怨も晴らそう、と行きたかったのだが少し問題が起きた。

 

 エリカの敵の数だけATKが上昇する効果を持つ専用装備【阿鼻決別】の効果範囲も【同胞渇望】と同じく五十メートルだった。

 

 この事から【従僕生成】の効果範囲も五十メートルだと思ったし、世界が侵食されてから二日しか経過してないので『ゆるふわ』も少ないであろう腐肉戦士を遠くへ送ることも考えにくかった。

 

 故に俺は『ゆるふわ』は腐肉戦士が死んでも即座に補充できる五十メートル内にいると思ったのだが、先程の【自爆】の範囲が明らかに五十メートルより狭かった。

 

 まだ、測ってないので正確には不明だが、焼跡とデパートの抉れ方を見るに十メートル程度ではなかろうか。

 

 これは広域に影響するスキルの範囲がキャラによって違うという事実を示しており『ゆるふわ』が五十メートル内に存在する可能性が、『ほぼ確実』から『多分いる』程度まで下がったという事だ。

 

 

 

「【従僕生成】が発動してたから近くには居るんだろうが」 

 

 

 

 せめて五十メートルなら駐車場を含めたデパートの敷地内で収まりそうだったものを、スキル範囲が百メートルとかだったら、その辺を(しらみ)潰しにしてる間に逃げられる可能性が高いだろう。

 

 まぁ、それは相手が一人だったらの話で二人以上だったら闇討ちなりされて不味い状況になるかもしれない。なにせ、俺はあくまで一人なのだから。

 

 

 

「取り敢えず検証するか」

 

 

 

 【自爆】の効果範囲や出来る事なら【従僕生成】の効果範囲も調べたい。『ゆるふわ』と戦う時の助けになるからだ。

 

 それには二体の、いや何時の間にか増えた五体の腐肉戦士を無力化しなければならない。

 

 スキル名を口に出してたし、口が無くなればスキルの発動を封じられるかもしれない。それも含めて調べよう。

 

 嗚呼、それにしても……

 

 

 エリカと話したい。

 

 

 俺は【自爆】を食らう前に仮眠室で起きた『エリカとギクシャクしちゃった事件』を思いだして悲嘆に暮れた。

 

 しかし、それは叶わない。叶えてはいけない。

 

 事故とは言えエリカの触れてほしくないモノに触れてしまったのだ。あまつさえ、原因は不明だがエリカが信念に反するような行いをさせてしまったのだ。

 

 いくらエリカに嫌われる事を覚悟したとは言え、エリカを裏切る事、『地雷』を踏む事はするつもりはない。

 

 話さなければ原因が分からないのに、最悪()()()()()そのものがエリカの『地雷』になってる可能性があるのでは、手の出しようがなかった。

 

 

 

「なんか痛くなってきた」

 

 

 

 心の傷を自ら開き精神ダメージを負うのと共に、大して気にならなかった体の傷が痛くなってきた。

 

 敵にダメージを受けた時の体の反応を検証するため、あえて【自爆】を食らってみたが、特に真新しい発見は無く普通に痛いだけであった。

 

 また、残念ながらステータスでは最大HPは確認出来ても残りHPは確認出来ないので正確なダメージ量は分からない。けれど致命的なダメージではないとは分かった。

 

 俺はエリカ(の持ち物)を抱き締め何度も死んだので、本気で死にそうな時は感覚で分かるようになっていた。

 

 つまり全てはエリカのお陰だ、エリカ最高、エリカ万歳。

 

 嗚呼、それにしても……やっぱり、エリカと話したい。

 

 

 

「……これは、思ったより早く心が死ぬかも」

 

 

 

 妄想だけでエリカニウムを補給するにも限度がある。流石の俺でも、なんの意味もなく心と体が死ぬのは嫌だ。がんばって、どうにかしよう。

 

 こそこそ近付いてきた腐肉戦士の首を切り落としながらそう考えた。

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