推しの声が聞こえる……………これは夫婦を超えたな(確信)   作:一味違う一味

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第23話

◆マトンside

 

 

 

 

 

 

 

 

「派手に壊れてんなァ」

 

 

 

 何度も続く爆音と振動の発生源を見に行けば、そこには幾つもクレーターと崩壊した立体駐車場、それを成した連中の一体であろう腐肉戦士が見えた。

 

 だが、それを見てマトンが恐怖を覚える事はない。何故なら所詮レア度Rが成した結果だからだ、レア度SRの自分が恐れる必要がどこにあるのだろうか。

 

 それに、現在出現しているのは一章の雑魚敵のみだ。ならばスペックも一章相応の低さであるだろう。

 

 腐肉戦士の親玉であるURが出てきても、ゲームストーリーを考えれば一章を単体でクリア出来るステータスを持つ自分なら問題ないと思えた。

 

 故に──

 

 

 

「アレで遊んでみるか?」

 

 

 

 腐肉戦士の排除を決めた。

 

 レア度Nを狩るのも飽きていたところだ。少し難易度を上げるのも一興だろう、そう思い爆発で空いたであろう壁の穴から出ようと構えるとネラムから声が掛かった。

 

 

 

〔後ろを見なさいな〕

 

 

「あん?」

 

 

 

 振り返ると二体目の腐肉戦士が迫っているところだった。どうやら目の前の光景に気を取られ注意が散漫になっていたようだ。

 

 槍を構えて突撃してくる様は戦士の名に相応しく、朽ちた装備の粗末さに目を瞑っても余りある迫力だ。

 

 だが、それだけだ。どうという事はない。【自爆】されて服が汚れるのもいやなので、さっさと倒そうと構えれば唐突に視界が白で包まれる。

 

 

 

「ぐぼっ」

 

 

 

 気付けば、情け無い声を上げながら体は地面に叩きつけられていた。肉が焦げ、骨の砕ける(おぞ)ましい感覚が全身に広がる。

 

 なんだ? 何が起きた?

 

 マトンの疑問に対する答えは簡単だ。腐肉戦士は突撃前から【滅私放光】を使っていたのである。

 

 ついさっきまで()()()()()と戦っていた腐肉戦士は、無い知能を振り絞り対策を考えたのだ。その内容こそが、この突撃前に【滅私放光】を発動しておく作戦である。

 

 しかし、そんな事を知る由もないマトンは痛みで自身の疑問すらどうでもよくなり、悪態をつきながら悶えるだけとなった。

 

 

 

「くそっ、なんだよこれ。何で神に選ばれた俺が痛い目にあってるんだよ。おかしいだろ!」

 

 

 

 その後も痛い痛いと喚き散らしていると、ガチャガチャと喧しい金属音が聞こえてくる。違ってくれと願いながら顔を上げると、そこにはやはり腐肉戦士が一体いた。

 

 当然だろう、何故なら自分はデパートの外に放り出されているのだから。

 

 

 

「クソっ。【夢誘い】」

 

 

 

 マトンの『能力』であるネラムが持つアクティブスキルの一つ【夢誘い】。効果は[敵単体にATK300%ダメージ、30%の確率で10秒の【睡眠】デバフ付与]だ。

 

 夢魔(サキュバス)であるネラムは、あくまでSR基準ではあるものの【睡眠】デバフを得意とする。

 

 そして、正面の敵のように運良く【睡眠】が掛かった相手には──

 

 

 

「くたばれっ!」

 

 

 

 パッシブスキル【夢魔の本領】によりダメージが増加する。上昇率はレア度相応に30%と控え目だが。

 

 それでも無いよりマシには違いなく、多少でも優位に立った上に元々スペック的には腐肉戦士を軽く上回るマトンが引く理由はない。

 

 余談だが、『蠱毒の蜘蛛糸』にノーマルガチャやフレンドガチャといったものはなく、キャラ用のガチャは基本的に全てレアガチャのことを指す。

 

 レアガチャではSR、SSR、URのみが排出され、このガチャで排出されるSR以上のキャラと、ストーリーの雑魚敵等のR以下のキャラには圧倒的な性能(ステータス)差がある。一対一(タイマン)ならば、まず負けないほどの圧倒的な差が。

 

 最早、負ける要素の無いマトンは嘲笑を浮かべながら腐肉戦士を殴り殺す。

 

 

 

「ははっ、ザマァ見ろ。R風情がSRに勝つなんざ不可能なんだよ。悔しかったら御主人様でも連れてこいってんだ」

 

 

 

 マトンは高らかに勝鬨と侮蔑を口にする。やはり神に選ばれた自分は強く、腐肉戦士は弱いのだと。自分は勝つべくして勝った存在なのだと。戦闘前に油断して背後の敵に気付かなかった事など忘れて。

 

 故に(あやま)ちは繰り返される。それは目の前ので新生される腐肉戦士だけでない、彼自身が()()()()()と呼び付けた存在だ。

 

 

 

「ほれ、来てやったぞ」

 

 

「はァ?」

 

 

 

 声の方向へ向けば、そこには数十の腐肉戦士の姿があった。不意を突かれたとはいえ、自分がやっとの思いで一体を倒せた腐肉戦士が。

 

 それを束ねるのは一章ラスボスにして『躯の令嬢』と呼ばれし存在、つい数分前まで自分が楽に勝てると思っていたリコリスその人である。

 

 彼女はゲームのイラストそのままの姿だったが、そんな事が気にならなくなる程に恐ろしい気配を纏っており下手に動けば殺されると確信できた。

 

 

 

「のぅ、モジャモジャ」

 

 

「……はひぃ」

 

 

 

 一瞬反応が遅れたが自分のアフロ(ヘアースタイル)を言われているのだと理解し、悲鳴混じりの返事を返す。

 

 どうやって逃げるか。そればかりを考えていると、いつの間にか背後に立っていた腐肉戦士に羽交い締めにされる。

 

 振り解くのは出来なくもないが、そんな事をしたら敵対行動と見做され殺されてしまうかもしれない。

 

 恐怖が体を支配し、ただひたすらに自分なりの生き延びる最善手を実行する。

 

 まぁ、そんなもの──

 

 

 

「妾を閉じ込めたのは、お主か?」

 

 

 

 無駄な足掻きでしかない。

 

 怒り狂う獅子(UR)を前に子兎(SR)が棒立ちになっているだけなのだから。

 

 

 

 

〔……ここまでかしらね〕

 

 

 

 マトンが()()される音を聞きながらネラムは諦観の念を吐き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆リコリスside

 

 

 

 

 

 

 

 

「違うなら違うと、早く言えばいいものを」

 

 

 

 口からでる悪態とは裏腹に少しスッキリした表情のリコリスは壊れた……否、()()()玩具をペシペシと叩く。

 

 手足はなく、鼻もなく、皮膚も髪もない、そんな生ける屍のごとき姿の者が、かつてアフロをトレードマークとし「神に選ばれた」などと嘯いていたナルシストとは誰も思うまい。

 

 うわ言のように「オレじゃありません」と言い続ける様は不気味の一言に尽きる。

 

 

 

「まぁ、確かに弱すぎたしのぅ。腐肉戦士一体に、あれだけ手こずるようでは妾を出し抜き瓦礫で埋めるなど不可能か」

 

 

 

 瓦礫で埋められたことも、『インテリア』が壊れたこともリコリス自身の不注意なのだが、それを認めたくないリコリスは脳内で勝手に敵を有能な知恵者に仕立て上げ、全責任をそいつに擦り付けることにした。

 

 それはさておきリコリスは、未だウリウリと手先で弄んでいた壊れた玩具をどうするか悩んでいた。

 

 殺すだけなら簡単に出来る。わざわざ止めを刺す必要すらない。

 

 なぜならマトンが、()()()姿()になってまで生きているのはリコリスが無理矢理、生かしているからだ。

 

 

 

 

 名称:【領地繁栄】

 効果:[味方全体を最大HPの10%回復]

 

 

 

 本来なら無いよりマシ程度の効果しかない低スペックのスキルだが、今回はその低スペックさが良い方向に傾いた。【領地繁栄】は低スペック故にダメージを回復させすぎないのだ。

 

 スキルで回復する場合、生命維持に必要な部位から再生されていき、その後に髪や手足等を生やしていくのだが10%の回復では手足や髪、皮膚等の()()()()()まで治らないのだ。

 

 ものは使いようじゃな、とリコリスは思う。

 

 

 

「しかし、この元モジャモジャは捨てるには少し惜しいのぅ」

 

 

 

 餌付けするように、彼から千切った指を彼自身に食べさせながらリコリスは思案する。

 

 先程、弱いと断言した彼をそう評価するのは、戦闘中に彼が使った【睡眠】を付与するスキルが気になったからだ。

 

 

 

「デバフは妾も従僕共も持っておらん。この元モジャモジャは、まだ見ぬ敵との戦いに使えるやもしれんのう」

 

 

 

 そう考えたリコリスは生き残ってる腐肉戦士の中で最古参の個体を呼び寄せると、マトンの背骨を体内に通したワイヤーで縛り付け、そのワイヤーを朽ちた鎧の隙間から覗く腐肉戦士の肋骨と結びつける。

 

 完成したのは肉の鎧を貼り付けた腐肉戦士だ。それを見たリコリスは満足げに頷くと「褒美じゃ」と言って背を叩き、自身の脇へ(はべ)らせる。

 

 

 

「試運転と行くかの」

 

 

 

 そう呟くと、聞いてもいないのにマトンが勝手に喋った避難所へ目を向ける。

 

 新しい玩具を手に入れたリコリスは年相応の無邪気な笑みを浮かべていた。

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