推しの声が聞こえる……………これは夫婦を超えたな(確信)   作:一味違う一味

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第34.5話

◆??? 零

 

 

 

 

 

 

 

 

 薄暗い階段を少女が一人、ランタンの灯りだけを頼りに歩く。地下へと続くこの階段は冷たい石材に囲まれ、カビと蜘蛛の巣が張り巡らされている。

 

 そんな、大人でも嫌がるような場所を少女は嬉々として進んでいた。

 

 

 

「あの子は喜んでくれるかしら?」

 

 

 

 そう言って後ろから響く()()へと目を向ける。

 

 少女は()()ではある。

 

 しかし、それは人間の数え方であるため『インテリア』の()()はカウントされていなかった。

 

 

 

「頼む、助けてくれ」

 

 

 

 四つある()()の一つが(すが)るような声音で少女へ訴え掛ける。

 

 その()()は二十代男性であり、体格や健康面でも正常そのものだ。少女一人なら容易く組み伏せられる程度には。

 

 なのに、少女へ懇願する。まるで他に希望がないように。

 

 その()()は腕力での解決など考えない、それは無駄な足掻きと知っているからだ。

 

 この階段に来る前の()()()()が、目に焼き付いて離れないのだろう。

 

 

 

「駄目よ、許可してないのに口を開いちゃ」

 

 

 

 えいっ。

 

 可愛らしい声と共に振るわれた腕は、勇気ある()()()にした。真っ紅な見応えのある大輪だ。

 

 

 

「「「……」」」

 

 

「さっ、行くわよ」

 

 

 

 顔についた雫を妖しく一舐めすると、少女は冷たく告げる。どの個体も体を震わせただけで何も言葉を発さない。

 

 残りの()()を見渡した彼女は不良品はもう無さそうね、と安堵した。

 

 そうして進んだ先に鉄で作られた大きな扉が現れた。数百キロは降らない重量の扉を苦もなく開けると少女は中の住人を呼び出す。

 

 

 

「リコリス、出ていらっしゃい。プレゼントもあるわよ」

 

 

 

 優しげで母性すら感じるその声音は、()()への冷たい声が嘘のようだ。

 

 少しすると、トテトテと可愛らしい幼子が現れた。()()を先導する少女より更に幼い小さな子供が。

 

 

 

「あねうえ、いらっしゃいなのじゃ」

 

 

「お出迎えありがとうリコリス。いい子にしてたかしら?」

 

 

「もちろんなのじゃ!」

 

 

 

 二人は姉妹なのだろう。姉上と呼ばれた少女はリコリスと呼んだ妹を溺愛していると分かる猫撫で声をしていた。心底から愛しているのだろう。

 

 リコリスは舌っ足らずな言葉に穢れを知らぬ無垢な笑顔、幼気とは彼女の為にあるのだと誰もが思う振る舞いだ。

 

 まぁ、それも──

 

 

 

「あら、今日のもよく出来てるわね」

 

 

「えへへ、じしんさくなのじゃ」

 

 

 

 絵が彫られた髑髏(しゃれこうべ)を持っていなければだが。

 

 何度も修正した跡の見えるその絵は、不慣れな事が窺えた。

 

 しかし、覚束ないながらも、最初からあったであろう(ひび)を生かしており幼子故の柔軟な発想力が十全に生かされていた。

 

 『姉』(見る者)が見れば将来有望だと太鼓判を押すに違いない。

 

 

 

「それは似顔絵かしら、誰を描いたの?」

 

 

「むぅ……」

 

 

 

 『姉』が優しく問い掛けるとリコリスはモジモジと言い淀むが、やがて意を決したように顔を上げ髑髏を差し出しながら告げた。

 

 

 

「……その、あねうえを、かいたのじゃ。うけとって、くれるかのぅ?」

 

 

「……」

 

 

「あ、あねうえ?」

 

 

 

 『姉』は天を仰ぎ、無言で涙を流す。

 

 この涙は勿論、嬉し泣きだ。溺愛する妹が自分のために物をくれただけでも十日は不眠不休で働けるというのに、あろうことか妹が手ずから絵を彫ってくれたのだ自身の似顔絵を。『姉』は、今この瞬間の為に生きてきたのだと確信した。

 

 姉として不甲斐ないところを見せたくないので上を向いたまま涙が止まるのを待ち、その後は目一杯お礼と頬擦りをして甘やかそうと考えていると、思わぬ邪魔が入る。到底許せぬ邪魔が。

 

 

 

「ヒィィィィィ! 誰か助けてくれ!!」

 

 

 

 ()()の一体が逃げ出したのだ。それも二人の会話を遮る大声を出して。そいつは鉄の扉を開けようと足掻いている。

 

 幼子の手に持つ『インテリア』を見て、自身の未来を悟ったのだろう。『姉』が号泣して出来た隙をを突いて全力で駆け出したのだ。

 

 しかし、『姉』が軽く開けたその扉は見た目の通り超重量を誇る。凡人の身体能力しか持たない()()に開けられる筈がなかった。

 

 そして、仮に開けられたとしても逃げ切れはしなかっただろう。

 

 

 

「貴様、よくも邪魔してくれたな」

 

 

 

 なぜなら最悪の姉妹が触れ合う時を邪魔したのだ。例え何処に逃げようと、地の果てまで追ってくることは、鬼と言うのも生温い表情を見れば理解は容易い。

 

 他の二つが逃げなかったのは先程までのように絶望していたからではない。単に腰が抜けただけだ。全ての()()が今まで逃げなかったのは、それが生き残れる確率が最も高かったからだ。

 

 長いものには巻かれ、そこに疑問を挟む事もなく流されるままに生きていたら最果てである処刑場(ここ)まで来てしまったのだ。もう逃げ場など何処にもない。

 

 無様に足掻く()()は癒やしの光を纏う『姉』の拳に触れた途端、内側から弾けるようにして息絶えた。

 

 

 

「また不良品、あの業者はダメね」

 

 

 

 股から粗相をする残りの()()を見て確信する『姉』。業者については同業を聞き出した後に、不良品の対価を払わせるつもりだ。楽には殺さない。

 

 凍えるような声音で言い捨てる『姉』の袖を引く者がいた。

 

 

 

「あねうえ、もらってくれないの?」

 

 

 

 最愛の妹だ。

 

 目の前の惨状など一瞥もせず、寂しげに『姉』へ問うその姿は彼女の母性を刺激した。それはもう強烈に。

 

 

「ああん、リコリス! もちろん貰うわ、ありがとう!」

 

 

 

 デレデレと頬擦りしながら蕩けた声と顔でリコリスに返答する。リコリスも、そんな『姉』を見て嬉しそうに自作の『インテリア』を渡す。

 

 『姉』は、それを壊れ物でも扱うかのように優しく受け取るとリコリスが彫った絵を、うっとりと眺めた。

 

 

 

「リコリス、ずっと一緒にいましょうね。お姉ちゃんとの約束よ」

 

 

「もちろんなのじゃ!」

 

 

 

 ずっと一緒、これは『姉』の口癖だった。

 

 そして姉妹共通の願いであり、これからもずっと続くと思っている事柄。

 

 事実、それは姉妹それぞれの尽力によって護られる。姉は自身の首を斬られようが妹のもとへ戻り、妹は異世界に行っても姉を手放さなかったのだから。

 

 でも、それは形だけの話。

 

 姉の意識は眠りにつき、妹は姉の死を確信して孤独を感じる事になる。

 

 近くにいようと相手を感じられないのなら、それは『一緒』と言えるのか。それは当人達のみが決められる事である。

 

 

 

『姉』零  ─了─

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