推しの声が聞こえる……………これは夫婦を超えたな(確信)   作:一味違う一味

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第36話

◆ルーベンside

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハハハハハハッ」

 

 

 

 翠光を蛇が砕き、【自爆】は【阿鼻決別()】の腹で弾き返す。剣が俺の身体を覆うほど大きいからこそ可能な芸当だ。

 

 元が一般人の俺もリコリス達のお陰で、かなり戦い方が分かってきた。これで、この先は無駄な復活()を避けられる。

 

 俺は狂ったように嗤いながら爆破の死地を潜り抜け、群れなす腐肉戦士(肉壁)を斬り捨てる。リコリスの戦法はワンパターンだ、これだけ戦えばバカでも対処に慣れるだろう。

 

 しかし、慣れ親しんだパターンの中に一点の異物があった。

 

 

 

「リコリス、ずっと一緒にいましょう」

 

 

 

 無論、『姉』である。

 

 彼女は見当外れのセリフを(のたま)いながらも戦い方は的確で、今も【自爆】を目眩ましに光る拳で殴り掛かってきた。戦闘技術は身体が覚えているから心が壊れていようと関係ないのだろうか。

 

 

 

「舐めんな!」

 

 

 

 速度で勝る俺は『姉』の不意打ちを身体を丸めて回避した後、転がるように前へ進む。即ち、リコリスの方へと。

 

 リコリスには時間がない。彼女を『証明』の贄とするには、自傷ダメージで死ぬ前に俺がトドメを刺す必要がある。

 

 初めて【紅涙に沈む】を発動した時を考えて、もう数分の寿命だろう。エリカの後押しまで受けたのだから達成しない訳にはいかない。

 

 焦ったせいで、多少のダメージを受けながらもリコリスまで辿り着いた俺は粗末な槍を突きだす腐肉戦士を蹴散らし、リコリスを【絶対制裁】で斬りつけた。

 

 戦闘の序盤より遥かに集まった腐肉戦士の影響で、予定終わりとは言え後半ボスの火力を上回るATKを手に入れた俺が倍率1200%のスキルを直撃させたのだ。確実に殺しただろう。

 

 

 

「あなダ……ゴブッ……は自慢ノ妹よォゲッ」

 

 

 

 そう思い次は『姉』だと後ろを向けば、そこには腹を斬られて血と臓物を溢す『()』の姿だった。

 

 どういうことだ? さっき『姉』が俺に殴り掛かってきたときには【同胞渇望】の効果は切れていた。だから俺が直接ダメージを与えたという事はありえない。

 

 そもそも【同胞渇望】で外傷はつけられない。これではまるで、【絶対制裁】の直撃を受けたような傷ではないか。

 

 そうして、背後からは倒した筈の敵が動いてる気配が。

 

 

 

「アネウエを返せ! それは貴様が触れていい代物ではない!」

 

 

 

 ここに至って、ようやく自身の失敗を悟った。

 

 まさか#『姉』__コイツ__#、リコリスのダメージを引き受けてやがるのか。

 

 弾かれたように振り返れば、先程まで死んだと思っていた真紅の手が、俺の持つ杖へと伸びてきたのだ。

 

 開いた瞳孔に目と口から止めどなく流れる血液、スキルの副作用で全身を紅く染める彼女は生者どころか人間にすら見えない。

 

 

 

「私はここに居るわ」

 

 

 

 (はらわた)を引き摺りながら笑顔で迫ってきた『姉』はリコリスへ回復スキルを使うと流れるような動作で俺に拳を突きだす。

 

 これは、避けきれないな。

 

 せめて攻撃を反らそうと一か八かで光る拳を横から殴りつければ、俺の拳が『姉』に触れた途端、()()()()()()()()のを感じた直後に内部から爆散した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あ~、死んだ死んだ。

 

 なんだ、さっきのは? 触れただけで死亡確定とかヤバすぎるだろ。

 

 復活して全快した身体の調子を確認しつつ俺はパワーバランスという概念を何処かに置き忘れた理不尽なる一撃を心中で愚痴った。

 

 

 

「あ、アネウエ~」

 

 

 

 背後からリコリスの声が聞こえたので目を向けると、俺が爆散した衝撃で吹っ飛んだであろう杖が天を舞っており、落下予測地点でリコリスが手を伸ばしていた。

 

 飛び上がって掴めばいいものを、自身の身体能力も忘れているのだろうか? 

 

 まぁ、俺には都合が良かったが。

 

 

 

「もらうぞ」

 

 

 

 あと数センチで届きそうなところで、俺は横から掻っ攫う。リコリス(こいつ)はいい加減に杖の上から生首が消えてると気付かないのだろうか。

 

 

 

「ア゛ア゛ア゛ァァァァァァァァァッ!」

 

 

 

 気付かないな。本当に(戦闘の時は)都合がいい女だ。

 

 三度、最愛の姉(だと思ってる抜け殻)を奪われたリコリスは業を煮やしたのか、これまでとは違う行動をとる。

 

 俺へ密集させた【自爆】発動間近の腐肉戦士達で僅かな時間を稼ぐと自身を腐肉戦士に担がせ、いつの間にか出来ていた天井の穴から外に出る。

 

 『姉』に運ばれた方が早いだろうに、本当に認識してないんだな。それか認識してても少し変わった腐肉戦士だと思ってるか。別にどちらでも構わないが。

 

 

 

「ずっと一緒にいましょう」

 

 

 

 最愛の妹に置いていかれた『姉』は、それでも微笑んだまま健気にリコリスを追いかける。何も知らない者が見れば、完全に悪質ストーカーである。

 

 不意打ちされるのはよくても、するのは嫌な俺は『姉』が地上に上がり切ってから向かおうと待機していたが意外な事が起こる。

 

 

 

「ありがとう、リコリス。お姉ちゃん嬉しいわ」

 

 

 

 リコリスが出た穴から腐肉戦士が降ってきて『姉』に直撃すると同時に【自爆】したのだ。哀れにも空襲を受けた『姉』は、それでも妹へ語り掛けることを止めない。むしろ奇跡的にセリフが噛み合った事で嬉しそうにすら思える。

 

 こんな状況でもなければ指を差して笑ったであろう姉妹のやり取りで、リコリスが出た穴から外に出るのは時間が掛かると判断した俺は、天井の別の箇所を【絶対制裁】で新たな穴を開ける。最初に侵入した時と逆パターンだ。

 

 

 

「そこか、ルーベンッ!!」

 

 

 

 地上へ出れば、そこには開けてる視界を埋め尽くすほどの腐肉戦士と、それを率いるリコリスがいた。さらには自我を失ってからは雑に突っ込ませるだけだった腐肉戦士に陣形を組ませ、万全の迎撃態勢を整えている。

 

 祭壇の外へ出る直前の反応から逃げたわけではないと思っていたが、それでも少し心配だったので一安心だ。

 

 

 

「お探しの姉上は見つかったか?」

 

 

「巫山戯たことを……お主が妾から奪ったんじゃろうが!」

 

 

 

 そう言いながらリコリスから奪った杖を見せつけるように弄ぶ。

 

 口調や振る舞いから考えるに、かなり正気に近付いていると思われるリコリスだが、生首が消え、抜け殻に等しい姿となった杖を見ても未だに『姉』を認識出来ないようだ。

 

 

 

「ふふふっ、リコリスは本当に甘えん坊ね」

 

 

 

 『姉』も『姉』で相変わらずだったが。

 

 俺が出てきた事により空襲の必要がなくなったから出てこられたのだろう。まぁ、仮に続いていたとしてもその内出てきただろうが。

 

 

 

「下僕共、突撃じゃ!」

 

 

 

 しれっと腐肉戦士達(下僕共)の先頭に立った『姉』は、リコリスの扱いに微笑んで従い、俺を爆散させた光る拳を構えて突撃してくる。

 

 リコリスは勝ちを確信したのだろう得意げに笑い、後ろで余裕そうに腕組をしていた。それも当然だろう、地上に広がる腐肉戦士達は数えるのも面倒になるほど存在する。そんな連中の一体一体が並のゾンビとは比べ物にならない程の精鋭ばかりなのだから。

 

 普通の相手ならの話だがな。

 

 

 

「それは悪手の極みだよ」

 

 

 

 リコリスの余裕は俺の能力を正しく把握してないからこその反応だ。地上では数の利を活かせると踏んだのだろうが、失敗だったな。

 

 リコリスも『姉』も目測で半径五十メートル以内にいる。つまり、俺の射程圏内だ。

 

 

 

「【同胞渇望】」

 

 

 

 エリカの願いと絶望を吐き出すこのスキルは蛇となって周囲を呑み込んだ。

 

 妄想に浸る『姉』も涙に沈むリコリス()も、全て。

 

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