今章をなるべく早く終わらせようとして、一話あたりの文字数が長くなってしまう今日この頃。
呂布殿と曹操殿が出ていった後、部屋は静寂に包まれていた。とても何人も人がいるとは思えないほどに。
誰も口を開こうとはしない......当然だ、今私たちに迫られているのは、とてつもなく大きな決断なのだから。
いつもは頼んでいなくても勝手に騒ぎ立てる、あの姉ですら俯いて無言でいるほどだ。
でも眷属たちや姉を責めることは出来ない。彼女たちは私の夢のために悩み、苦しんでいるのだから。
そして曹操殿や呂布殿を責めることも出来ない。彼らは私の夢を初めて正しく理解してくれた人たちだ。
上役たちのように、私の夢を馬鹿にして無理だと言ったのではない。私の夢を真剣に聞いてくれた上で無理だと言ってくれたのだ。
だからこそ、実現するにはどうすればいいかということを教えてくれた。悪いのは自分の夢を理解していなかった私自身。
私はただ一般の悪魔たちの可能性を広げたかっただけなのに........たったそれだけのことが、こんなに難しいことだなんて.........!
自分の夢がこんなに厳しく、辛い物だなんて思わなかった! 自分の夢が眷属や姉をここまで苦しめる物だなんて思わなかった!!
夢を叶えることが、自分の幼なじみを失うことになるだなんて思わなかった!!!
自分の大切な人たちを失い、苦しめるくらいなら、いっそのこと........。
「よぉーーーーーし、決~~めた!!」ガタンッ
いきなり姉が椅子から立ちあがり、大きな声を出した!
「お姉様、決めたというのは.......?」
「お姉ちゃん、魔王辞める!!!」
「「「!!!!」」」
魔王を辞める!?何を無責任なことを言っているのですか、この姉は!?
「お姉様! いったい何を言っているのですか!? 魔王を辞めるなど!!」
「だって~~、ソーナちゃんの夢のためには魔王や貴族の肩書きは邪魔なんでしょ? だったら辞めるよ、そんなもの☆」
「そんなものって」
「そもそも、お姉ちゃんには向いてなかったんだよね~~『魔王』なんて♪ たまたま他に適任がいなかったから、オジ様たちに祭り上げられただけだし☆」
「だからって、何も辞めなくても.........!」
「もちろん、すぐに辞めるわけじゃないよ? ソーナちゃんが必要な時に、いつでも辞められる準備をしておくってハ・ナ・シ☆」
「っ............」
「だって、お姉ちゃんにとっては『魔王』や『貴族』であることよりも『ソーナちゃんの夢』の方が大事だもん☆」
「お姉様..........」
「そ・れ・に~~魔王を辞めれば、いつでも日本に行って『魔法少女ミルキー』のイベントに行けるしね♪」
「お姉様、台無しです」
私は呆れた顔をするが、本心では嬉しかった。自分の夢のために、ここまで言ってくれる姉の気持ちが。
最後の一言も、私に気を遣ってくれたのだろう。まぁ本心も混ざっていそうだけれども........。
姉の言葉に触発されたのか、匙も立ちあがり口を開く。
「会長......俺、何があっても会長について行きます! たとえ貴族連中が全て敵に回ったとしても、俺は会長の味方です!!」
「匙............」
いつもはどこか頼りない匙が、この冥界に来てから随分変わった。先程も危険な『ヴリトラの神器』を自ら使うことを決めてくれた。
出来の悪い弟が成長すると、こんな感じなのでしょうか。私が匙の成長を喜んでいると他の眷属たちも椅子から立ちあがる。
「会長、私たちも会長について行きます!」
「副会長の言うとおりですよ、会長!」
「私たち、どこまでも会長について行きます!」
「皆で会長の夢を叶えましょう!」
「そうですよ、皆と一緒ならどんなに辛くったって、へっちゃらです!!」
「貴方たち..........」
皆の気持ちに泣きそうになった。私は本当に、最高の眷属に出会えた.........!
本心では今すぐにでも皆の気持ちに応えたい。でも..........。
「少し、外の風に当たってきます.........」
それだけ言い残して、私は静かに部屋を出た。
「会長.............」
「会長、まだ思い悩んでいるみたいですね」
「やっぱり、私たちじゃ『頼りない』って思われてるのかなぁ」
「うん。私たちってさ、リアス先輩たちより弱いじゃん? 悔しいけど........」
「んーん、それは違うよ、皆」
「セラフォルー様?」
「違うって、何がですか?」
「ソーナちゃんは皆のこと、とーっても頼りにしてるよ?」
「じゃあ、何でですか?」
「それは恐らく」
部屋を出た私は真っ暗な廊下を歩きながら考えていた。
「......リアス........」
頭の中にあったのは私の幼なじみでもあり、同じ貴族であり、次期当主でもあるリアス・グレモリーについてだった。
幼少の頃よりずっと親しくしており、親同士も仲が良い。だが自分の夢のためには、彼女に貴族であることを辞めてもらわなければならない。
彼女がどれだけ貴族であることに拘っているか、グレモリー家の次期当主であることにどれだけ強い思い入れがあるかは良く理解している。
そんな彼女に貴族を辞めてもらう.....もし、このことをリアスに伝えたら最悪、絶交になるかもしれない。
彼女はもちろんのこと、彼女の家であるグレモリー家とも。
大切な幼なじみを失ってまで夢を叶える。果たして、自分の夢にそれだけの価値があるのだろうか?
ポンッポンッポンッポンッポンッポンッ..........
答えの出ない自分自身への問い掛けに苦悩しながら歩いていると、庭から妙な音が聞こえた。
庭を見てみると、呂布殿が三十個ほどある野球ボールぐらいの大きさの球を蹴り上げている! しかも一度も地面に落とさずに!!
球が落ちてきたら右足で全て蹴りあげる。また落ちてきたら今度は左足で蹴りあげる。これをひたすらに繰り返していた。
遠巻きに見ているためか、呂布殿が膝を上げるところまでは私の目でも追えるが、膝上げ以降の動作.......足を伸ばしボールを蹴り、伸ばした足を戻すという動作は全く見えない。
なんという身体能力と技術!!
私が【深紅の武人】の実力の一端を垣間見ていると、呂布殿が球を異空間に仕舞い私の方を見る。
「ソーナ・シトリーか」
どうやら私がいることに気付いたようだ。一応、物陰にいたんですがね。
「すみません、鍛練の邪魔をしてしまいました」
「気にするな、ただの暇潰しだ」
「あ、ありがとうございます」
アレが『暇潰し』ですか。つくづく規格外な御方ですね。
私が呂布殿の気遣いと実力に呆れと感心が入り混ざった複雑な感情を抱いていると、呂布殿が話を続ける。
「覚悟は決まったのか?」
っ、それを言われると辛い。周りの皆は私の夢のために覚悟を決めてくれたというのに、私だけがウジウジ悩んで決められていない。
進む覚悟も、諦める覚悟も........。
「いいえ、呂布殿のように強ければ良かったんですがね」
私は思わず愚痴をこぼしてしまった。でも仕方がない。呂布殿のように己の『力』だけで人を、神を、悪魔を、勢力を........世界を動かすことが出来れば、どれだけ楽だったことか。
「ソーナ・シトリー」
「はい?」
「これは、『力』の有無の、話なのか?」
「っっっ!!」
っ、そうだ、私は何を言っているのだろう。今、私が悩んでいるのは『力』があるかどうかではない。『覚悟』があるかどうかだ!
しかもその『覚悟』を決められない不満を、よりにもよって本来は関係の無い呂布殿にぶつけるなんて!!
「すみません、今のは忘れてください。そうですよね、これは『力』についての問題ではありませんでしたね」
「気にするな、他の皆は、何と言っている」
「はい.......姉も眷属の子達も、私の夢に協力してくれると言ってくれました。姉も、必要であれば魔王を辞めると.........」
気が付くと呂布殿に話を聞いてもらっていた。不思議ですね。特に親しい間柄ではないというのに、彼になら全てを打ち明けても良いと思ってしまう。
これが『カリスマ性』と言うんでしょうか? 朱乃が惹かれる理由が分かる気がします。
「そうか。それで、キミは何に悩んでいる?」
「..........家族やリアスについてです」
「リアス・グレモリー?」
「はい。私が夢を叶えるということは私の家族、リアスやその家族が貴族ではなくなるということ。
私たちは小さい頃から家族ぐるみでの付き合いで、家同士の仲も良いのです」
「................」
「そんな人たちの立場を、私の夢のために脅かしたくはありません。
それにシトリー家の次期当主として、先人たちが積み重ねてきたものを踏み躙るようなことはしたくありません。
けど、姉や皆の思いを無駄にもしたくありません。それで、どうしたら良いのかと、どうするのが正しいのかと悩んでいます」
私は姉や眷属の子達にも言えなかった思いを呂布殿に伝えていた。
こんなことを言ったら、怒られるかもしれないけど.........でも、私とリアスの家の関係を詳しく知らない眷属の子達では、この悩みを聞いても答えに困るだろう。
逆に姉は互いの家のことに詳しすぎて、ある意味私以上に悩んでしまうかもしれない。
「家族やリアス・グレモリーは、キミの夢について、何と言っているんだ?」
「応援してくれています。でもだからと言って『貴族であることを辞めくれ』なんて、とても言えません」
「........話は分かった。それで、ソーナ自身は、どうしたいんだ?」
「えっ? ですから、私は..........」
「それは、『リアスグレモリーの幼なじみ』や、『シトリー家の次期当主』、『王』としてのソーナの気持ちだろう?
『ただのソーナ』としての、気持ちはどうなんだ?」
「ただの、私?」
「そうだ。『学校を作りたい』というのは、『ただのソーナとしての夢』なんだろう?
ならば重要なのは、『ただのソーナとしての気持ち』だ」
「っ、私は..........!」
「自分の本心を、『~はしたくない』で語るな。『~がしたい』『~になりたい』で語れ。夢や願いとは、元来、そういうものだ」
「............」
「イメージしろ。ソーナがなりたい、『自分』を」
私の........『ただのソーナ』としての気持ち、本心。『ただのソーナ』がなりたい自分をイメージ..........。
私は..........
「..........レーティングゲームの学校を作りたい。そしてリアスと、親友のままでいたい」
「........それで良い」
「でも! リアスにも夢があります! グレモリー家の当主になって、レーティングゲームの大会でタイトルを取るという夢が!!」
「........レーティングゲームのタイトルは、貴族でなければ、取れないのか?」
「い、いえ、そんなことは、ありません.........」
「ならば、問題無いのではないか? それとも、グレモリー家の当主として、何か他に夢や目標が、あるのか?」
「い、いいえ、そういったことは聞いたことはありません。しかし、良いのでしょうか? そんな、都合の良いことが.........」
「何かを成す時に、『何が正しいか』で、行動するな。『正しさ』のせいで、身動き出来なくなる。
『自分のやりたいこと』に、自分なりの『正しい理由』を、後付けするものだ。自分が納得できる、理由をな」
自分のやりたいことに、自分が納得できる理由を付ける。そんなこと考えたことも無かった..........。
「でも、リアスは認めてくれるでしょうか? 確かにレーティングゲームのタイトルは、貴族でなくても取ることは出来ます。
ですが、だからと言って貴族であることを捨てる理由にはなりません」
「それは、『リアス』自身が、決めることだ。ソーナが、決めることではない。
『リアス』とちゃんと、話してみろ。覚悟と実績を、示してな」
「覚悟と実績..........」
「そうだ。『思い』は、口にしなければ、分からない。『気持ち』は、行動を起こさなければ、伝わらない。
『覚悟』は、結果や実績を出さなければ、見えてこない。リアスと話すのは、それからでも、遅くはない」
っ、そうだ........まずは覚悟を決めて、結果を出さなければ..........!
そうでなければリアスや家族、周りは認めてくれない。無論、話も聞いてくれないだろう!
なのに私はリアスや家族のことを理由に、覚悟が決められないでいた。私は、順番を間違えていた.........。
まずは『覚悟』を決める、そして『行動』に移す。どのように行動するかは、その都度みんなで考えればいい。
そして『結果』と『実績』を出す! そうすれば私の意思に、夢に賛同してくれる者が増えていくはずだ!
私の『覚悟』は決まった。そうと決まれば..........!
「ありがとうございます、呂布殿。おかげで自分の成すべきことが分かりました」
「気にするな、行くといい」
「はい!」
私は呂布殿にお礼を言うと、皆がいる部屋へ戻った。私が部屋に戻って、まずやったことは.........皆に頭を下げて、自分の夢のために人生を掛けてもらうようお願いをすることだった。
皆は頭を上げるように言ってくるが、それではダメなのだ!
これは私の夢! なのに当の本人が皆の好意に甘えるばかりではいけない!
私自身の口から皆にお願いをしなくては! 今は皆の気持ちに返せる物は無いけれど、せめてケジメだけでもつけなくてはならない!!
私の本心を打ち明けると皆も納得してくれて、人生を掛けてくれることを誓ってくれた。
これで私たちは一蓮托生。夢のために苦楽を共にする『仲間』であり『同志』になった。後は明日、曹操殿に自分たちの覚悟を伝えるだけ。
皆の気持ちと覚悟を固めた私たちは、夜も遅いためその日はお開きにした。
なお、『ヴリトラの神器』については修行をつけてもらうことが決まってからと匙が言ったので、ひとまずお姉様が預かることになった。
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ソーナ・シトリーのあの顔..........どうやら『覚悟』を決めたようだな。
俺は客間の窓から見える庭で呂布とソーナ・シトリーが話しているのが見えたので、静かに二人の様子を見守っていた。
無論、何を言っているのかは分からないが、呂布がソーナ・シトリーの相談に乗っていることはすぐに分かった。
そして話が終わると、ソーナ・シトリーの様子が変わり庭を後にする。恐らく呂布の言葉で『覚悟』を決めたのだろう。
「やはり呂布は頼りになるな。これで計画の【第三段階】がスムーズになる」
そう、俺たち『蒼天の紅旗』が目指す計画の【第三段階】......【人間社会への進出】。
これは『蒼天の紅旗』をNGOなどの形で、『表社会』に出すというものだ。無論、表向きの名前は変えるけどな。
だが『表社会』で活動するには『表社会』の有力者とのパイプが必要になる。そこで役に立つのが『悪魔』というワケだ。
以前見せてもらった日本にいる悪魔の契約者のリスト。
あの中には資産家や大企業の社長、政治家など日本の有力者の名前が載っていた。
恐らく世界中にいる悪魔の契約者のリストにも、その国の有力者の名前が載っているはずだ。
ソーナ・シトリーに協力し、彼女を旗標として悪魔社会が民主化の道を歩めば、『悪魔』が持つ各国の有力者とのパイプを利用することが出来る。これで『表社会』への進出がかなり楽になった。
もちろん彼女たちに言ったことは全て事実だし、嘘は何一つ言っていない。まぁ本当のことも言ってはいないけどな。
あの様子なら、明日は全員『覚悟』を決めてくるだろう。
後は彼女たちを鍛えて、リアス・グレモリーとのレーティングゲームに勝たせればいい。
訓練内容については呂布に一任すれば問題無い。何せ『蒼天の紅旗』のカリキュラム、訓練メニューは全て彼が考案したんだからな。
厳しい訓練になるだろうが、その分勝利した時........即ち努力が報われ、結果を出した時の感覚は麻薬以上に病みつきになるはずだ。
特に上昇思考や承認欲求が強い者ほどな。リアス・グレモリーとのレーティングゲームで勝てば、彼女たちはますます呂布のことを心酔することになるだろう。
そしていずれ、俺たち『蒼天の紅旗』を頼ってくる。
ふふふ、会談の時にレヴィアタンからソーナ・シトリーの夢について聞いた時から気になっていたが、予想以上の結果だな。
呂布がレヴィアタンから依頼を受けてくれたのは、ある意味僥倖だった。やはり、呂布は『天運』を持っている。
そういえば、もう一人面白そうなヤツがいたな。確か『サイラオーグ・バアル』と言ったか。
彼もソーナ・シトリーと同じで、俺たちにとって有益な存在になりそうだ。機会があれば呂布に接触させるか。
だが、まずはソーナ・シトリーだ。フフ、存分に『己の価値』を高めてくれよ? それでこそ今回の報酬が生きるというものだ。
曹操が悪役っぽくなっていますが、別に悪事を働くわけではありません。あくまで自分たちの利益にもなるように動いているだけです................ただし、その原因は主に主人公の考えなしの行動なんですけどねwww