深紅の武人が住くD×D   作:あさやん&あさやん

93 / 212


一誠の両親のエピソードはそれだけで一番好きな話なんですが、さすがにそのまま使うわけにはいかず、かと言ってあんまり着色したくはありませんでしたのでどう書くか悩みました。




第八十七話

 

 

 

 

それは一誠が生まれるよりも何年も前のこと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「残念ですが.........お腹の子は、諦めてください」

 

 

それを聞いた私は泣き崩れてしまった.........夫も悲痛な面持ちで私の肩に手を置き、私を慰めてくれる。

 

 

私が子どもを宿しにくい体質だと知ったのは、結婚してから数年が経ってからのことだった。

なかなか子どもを授かることが出来ず、忸怩たる思いをしながらもようやく授かることが出来た赤ちゃん。

 

だけど私の体質のせいで、お腹の中で亡くなってしまった。

 

 

「ごめんね、ごめんね.......私のせいで。ちゃんと産んであげられなくて、ごめんね..........!」

 

私が自分を責めながらお腹の子に謝っていると、夫が泣きそうな顔で励ましてくれる。

 

 

「おまえのせいじゃない............運が悪かったのさ。なーに、心配するな!

今回は残念だったけど、まだまだこれからさ! 必ず俺たちの子は産まれてくる! だから、元気を出してくれ..........!」

 

自分だって辛いはずなのに、夫は涙を堪えながらも私を元気付けようとしてくれていた。

 

 

そして二年後、再び機会は訪れた。

 

 

「やったな! でかしたぞ、今度は大丈夫だ!! 今度こそは...........!」

 

身籠ったことを伝えると夫はリビングで大はしゃぎ。ひとしきり喜んだ後、私のお腹を撫でながら何度も『大丈夫』と私とお腹の子に言ってくれた。

 

まるで自分自身に言い聞かせるように。

 

私達は本屋に赴き大量の出産・育児関係の本を買い漁り、二人で読み耽った。

夫は職場にも本を持っていき、休憩時間にも本を読む。さらに私はセカンドオピニオンに力を入れている産婦人科にも通うことにした。

 

夫も私も、今度こそきちんと産んであげよう、今度こそ二人で育てよう。そう互いに励まし合い、細心の注意を払った。

 

 

 

「兵藤さん.........お辛いでしょうが、これは何もお二人に限ったことではありません。あなた方のようなご夫婦は他にもいらっしゃるんです」

 

絶望する私達に医師から絞り出すような声で、非情な現実を告げられた。

その後も機会に恵まれたのだが...........結果に恵まれることはなかった。

 

三度目の死産を経験し、雪が降り積もる中を病院から帰る途中、夫が道の真ん中で苦しそうな表情で立ち止まる。

 

 

「...........諦めようか」

 

あれほど子どもを切望していた夫からとは思えない突然の告白。さらに夫は涙ながらに続ける。

 

「これ以上、お前に無理をさせて、もしものことがあったら..........耐えられない! 生きて、いけない...........!」

 

今まで私のことを励ましていてくれた夫も、とうとう我慢の限界となってしまった。

普段ら私の前では笑顔を絶やさなかった夫が涙を流しながら訴えてくる様に、私はどうしようもないほどの申し訳なさを感じた。

 

 

「ッ、ごめん、なさい。ごめんなさい、ごめんなさい、あなた..........!」

 

冷たい雪が降る道の真ん中で、二人で泣きながら抱きしめ合った。

 

 

 

私達は子どもを作ることは諦め、気持ちを一新して生活をすることにした。

 

二人だけの慎ましく和やかな生活、二人だけの旅行、二人だけのショッピング、二人だけの食事。寂しくはあったけど、それなりに幸せな日々ではあった。

 

そんな二人だけの毎日を過ごし、夫と一緒になってから十年が経過した頃のこと。

 

 

「あ、赤ちゃん!?ほ、本当か!?」

 

 

今までなら妊娠の報告をしたら、大喜びしていた夫が今回ばかりは目を閉じて難しい顔をする。

私の身体のことを想ってくれているのだろう、だから反対されれば堕ろすつもりではあった。

 

しかし夫が目を開き、覚悟を決めた顔をして私の肩を掴む。

 

 

「.........わかった! 今度こそだ!! 今度こそ俺たちの手で、この子を無事に産まれさせよう!!!」

 

.........良かった、この人も同じ気持ちだった。私は泣きながら笑顔で夫に抱きついた。

 

 

それから私達は出産のためにあらゆる努力を払った。以前にも増して沢山の関連書籍に目を通す夫、私も食事には最大限気を遣った。

 

出かける時は必ず二人一緒。私が荷物を持とうとすると、夫は慌てて自分が持とうとする。遠くの専門の機関にも通い、私達は何とかお腹の子を守ろうとした。

 

 

そして雪の降るとある夜............夫が決まった時間に出掛けていき、しばらくしたら帰ってくる。そんなことを毎晩続けていることに私は気づいた。

 

気になって夫に直接聞くも答えてもらえず、一緒に行こうとすると『身体に触るから』と反対された。だから、こっそり後を尾けることにした。

 

夫がやってきたのは、近くの神社だった。夫は神社に着くと靴を脱ぎ...............お百度参りをしていた。

 

 

「お願いします! どうか、どうかお腹の子を無事に産ませてやってください!

俺の命ならいくらでも差し出します! 残りの寿命が半分になってもいい!

だからどうか、お腹の子だけは........お願いします! お願いします!!」

 

雪が舞う冷たい夜に夫は本殿に何度も何度も頭を下げた。足がかじかむ中、神頼みしてまで夫はお腹の子の無事を願っていたのだ。

 

恐らく、私が妊娠したと聞いてから毎日。私は夫の覚悟を無駄にしてはならないと思い、静かにその場を離れた。

そして家で暖かいスープと湯タンポを用意し、すぐに休むことにする。

 

それからは夫が神社に出掛けたら、スープと湯タンポを毎回用意することにした。

 

 

 

季節は移り変わり、暖かくなってきた春の中頃、病室で横になる私の傍らには.............生まれたばかりの赤ちゃんの姿があった。

 

 

「男の子ですよ」

 

いまだ信じられないという様子の夫に看護師の女性が笑顔で告げる。一拍おいてようやく夫は実感が湧いたのか、震えながら声を出す。

 

 

「.........あ、そうか。ハハ、俺の子か............」

 

「ええ.........わたしとあなたの赤ちゃん。十年も掛かっちゃったわね」

 

私が感慨深く言うと看護師さんが赤ちゃんを抱き渡す。夫は大事そうに受け取り、涙を堪えながら笑顔で赤ちゃんに挨拶をする。

 

 

「えっと、はじめまして。よく生まれてきたなぁ。お、お父さんだぞ.........!」

 

夫が挨拶すると赤ちゃんは大きく口を開けてあくびをすると、夫は堪えていた物が全て流れだしながらも笑顔を送り続けた。

 

「っ〜~~~、ありがとうな。生まれてきてくれて、本当に、ありがとう..........!」

 

涙と鼻水を流しながら喜ぶ夫に私も思わず涙を流してしまう。

 

 

「名前は決まっているの?」

「あ、ああ。ズズッ、『一誠』だ。誠実を一番に生きてほしいと願いを込めた」

 

「まぁ、ありきたりね♪」

「うぐ! こ、これでも一生懸命考えたんだぞ!」

 

「うふふ♪ でも、そうね。良い響きだわ.........一誠、イッセー。私たちの子ども」

「ああ、俺たちの子どもだ........一誠」

 

 

それから私達の生活に一誠が加わった。赤ちゃんを育てるのはもちろん大変だったけど、それ以上に嬉しかった。だって、ようやく出来た私たちの子どもなんですもの。

 

幼稚園、小学校とヤンチャではあったけど、一誠の元気な姿を見れれば十分だった。

何度も死産を経験したため、もしかしたら何か障碍を持ってしまったのかもと心配していたから。

 

中学校に入学する時、一誠が制服に袖を通した姿を見て夫と一緒になって興奮してしまった。

お義父さんの影響でスケベな性格になってしまったけれど、ここまで無事に育ってくれて本当に良かった。

 

 

そして一誠が高校生になって一年が過ぎた頃。

 

 

「お父様、お母様、今日からお世話になります。よろしくお願いいたします」

 

「「「よろしくお願いします」」」

 

 

一誠が入部したオカルト研究部という部活の部員たちが私達の家に住むことになった。

 

いきなりのことで凄く驚いたけど、部長のリアスさんには家を大豪邸にリフォームしてくれたり、学校で一誠の面倒を見てくれるなどお世話になっているので断ることは出来なかった。

 

それに最初は戸惑いもしたけれど、今はみんなが家に来てくれて良かったと思っている。

 

 

 

「お母様、今日の夕食は何にしましょう?」

 

リアスさんと食事の用意をするのが毎日の楽しみになった。

 

「お父さん、お仕事お疲れ様です。肩をお揉みしますよ」

 

夫は仕事から帰ってくると祐斗くんにマッサージをしてもらうのが日課になった。

 

「..........お母さん、おかわりお願いします」

 

白音ちゃんが私とリアスさんが作ったご飯を美味しそうに食べているところを見ると私まで嬉しくなった。

 

「あの、お父さん。その、膝にお乗りしてもよろしいですか?」

 

ギャスパーくんが恥ずかしながら夫の膝に乗ろうとし、夫が嬉しそうな顔で膝に乗せてテレビを見る。今では我が家のお決まりの光景だ。

 

「その、お二人のような素敵な夫婦関係を築くには、何か秘訣などあるのでしょうか//////////////」

 

朱乃さんは一緒には暮らしていないけれど、それでもたまに一緒に食事を作って食べたりしている。

朱乃さんには好きな人がいて、よく相談を受けるのだが頼られるのは素直に嬉しい。

 

 

生まれてくることが出来なかった子どもたち。もし私がちゃんと産んであげれていれば、こんな風に育ったかもしれない。

この子たちと一緒に生活していく中で、その想いは募っていった。

 

聞けば祐斗くんと白音ちゃんにはご両親はおらず、ギャスパーくんはご家族とは上手くいっていないらしい。今はリアスさんのお世話になっているそうだ。

 

だから一層、祐斗くんと白音ちゃんとギャスパーくんが自分の子どものように思えてしまう。みんなから「お父さん」「お母さん」と呼ばれることが嬉しい。

 

 

ああ.........きっとこの子たちは、あの時生まれてくることが出来なかった子たちの生まれ変わりなんだ。

だってこんなにいい子たちなんですもの、そう思ったってバチは当たらないはず。

 

一誠が生まれ、成長し.........夫と二人だけだった我が家はとても賑やかになり、大勢で食卓を囲むようになった。

 

 

 

 

 

 

 

「..........ねえ、あなた」

「なんだい」

 

「もう.........二人だけじゃないのね」

「ああ、俺たちには一誠がいる。その一誠がたくさんの『家族』を連れてきてくれた」

 

「こんなに賑やかな生活を送れるなんて..........私、今とっても幸せだわ」

「俺もだ。おまえと一緒になって三十年、長かったけど..........このためにあったのかもなぁ」

 

「そうね..........もう少し、このままでいたいわね」

 

「そうだなぁ。もう少しこのまま、みんなで過ごしたいな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

...........私は全てを話し終え、軽く息を吐く。夫は私の話を静かに聞いていてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんなさい、ごめんなさい.........ごめんなさい.........ごめんなさい..........ごめん、なさい..........」

 

 

一誠は泣きながら蹲り、ただひたすらに謝っていた。

 

 

 

 

 

□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□

 

 

 

 

 

 

母さんの話を聞き終えた俺は、謝ることしか出来なかった。

 

 

父さんと母さんがどんな想いで俺を産み、育ててくれたのか知ろうともしなかったこと。そんな二人の気持ちを知らずに自分の命を諦めたこと。

 

いや、それだけじゃない。父さんと母さんが人質にされた時、俺は二人を助けだしたら二人の前から姿を消すつもりだった..........二人から俺に関する記憶を消して。

でもそれがどれだけ酷いことをしようとしていたのか、今にしてようやく分かった。

 

 

俺は............何てことを................。

 

 

知らなかったとはいえ、俺は自分のこれまでの人生が如何に二人の想いを無下にしていたのか思い知った。

 

覗きだの何だのとやっては学校に親を呼ばれて、その都度父さんも母さんも何度も頭を下げて謝るんだが、俺は一向に反省することをしなかった。

 

一度死んで悪魔に転生したことを知られても、二人から自分に関する記憶さえ消せば、自分さえ覚えていれば問題ないと勘違いしていた。

 

父さんと母さんの寿命を半分になどしたくはない。二人を犠牲にするなんて出来ないと考えながらも、自分の命を捨てて生きることを諦めてしまった。

 

 

もはや謝ることが多すぎて、何から謝ればいいのか分からないくらいに、俺の人生は間違いだらけだった。

 

 

『お前の母親は、命懸けで、お前を産んでくれたんじゃないのか? お前の父親は、自分の人生を懸けて、お前を育ててくれてるんじゃないのか?』

 

『「家族」というのは、最後の最後の味方だ。その「家族」の前で、自分の命を捨てるような真似は、ある意味「裏切り」なんじゃないのか?』

 

呂布さんの言う通りだ。俺はずっと、父さんと母さんの想いを裏切っていた。

 

 

俺が蹲り、泣きながら謝り続けていると...........父さんが優しく背中を擦りながら言ってくれる。

 

 

「いいんだ一誠、こうなってしまったものは仕方がない。父さんも母さんも、一誠のために寿命を減らす覚悟は出来ている...........一誠が生まれる、ずっと前からな」

 

「お父さんの言った通り、親というのは子どもよりも先に逝くものなの。だからね一誠」

 

父さんと入れ替わる形で、母さんが俺のことを優しく抱きしめてくれる。

 

 

「............私達の分まで生きてちょうだい、なんて言わない。でもあなたには、生まれてくることが出来なかった子たちの分まで、精一杯に生きてほしいのよ」

 

「そうだ、一誠。父さんと母さんの寿命が半分になったとしても、おまえが一生懸命に全力で思いっきり生きていてくれれば...........それで父さんと母さんは十分だ」

 

「父さん、母さん.........ごめんなさい。俺のせいで、ごめんなさい..........!」

 

俺は泣きながら、もう何度目かわからない謝罪を口にした。だが父さんは笑いながら、母さんごと俺を力強く抱きしめる。

 

 

「バカだな、一誠。こういう時は『ごめんなさい』じゃなくて..........『ありがとう』、だろ?」

 

「そうよ。本当に.........しょうがない子ね♪ フフッ」

 

「っ~~~~~!!!」

 

言葉が無かった。二人の言葉に、俺は泣き声も喚き声も出すことが出来ないぐらいに感極まっていた。

 

父さんと母さんの命を犠牲することは、スゴく苦しいけれど...........でも、二人の想いを知ることが出来て良かったとも思っている。

 

 

そうか.............呂布さんもきっと、こんな気持ちだったんだ。そしてこの気持ちを俺に教えるために、時間を作ってくれた。

 

俺は今更ながらに、ようやくあの人の凄さを実感した。俺は..........何もかもが遅すぎた。父さんと母さん、そして呂布さんのことを理解するのが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何で俺はこう.........バカなんだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとう..........父さん、母さん............」

 

 

 

俺は父さんと母さんから、『もう一度』命をもらうこととなった。

 

 

 







これで一旦、一誠の『これまで』を精算した形になります。あとは一誠の『これから進む道』を描いて、今章を締めたいと思います。


それでは皆さん、次回で♪


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。