リアスの滅びの魔力で隊列に穴を開け、朱乃の雷光でその穴を広げ押し返し、それでも寄ってくる亡霊を小猫の拳打で退ける。負傷があってもアーシアの神器で回復できるため損耗もない。
「部長、準備できました!」
「そう、なら朱乃と私の2人に譲渡して!今はとにかく攻撃範囲を広げるわよ!」
そして一誠が【倍加】の能力を使ってそれらのサポートをする。今ままた、
「キリがないですわね…!」
「ええ。流石にこの数は相手しきれないわ…。」
リアスと朱乃。現在リアス眷属たちの主戦力である2人が唇を噛む。亡者の一体一体は決して強くない。だが、とにかく数が多すぎる。時間をかければ撃退は十分可能だろうが、今はあまりにも時間がない。
(こんなことなら早くお兄様に救援を頼んでおけば…。)
予想を遥かに超えるコカビエルの強さに、リアスの胸に後悔の念がよぎる。
「部長、やっぱり俺が無理矢理
「いえ、まだよ。使うならもう少し
滅びの魔力を放ちながらリアスが考える。前方には亡者の軍勢。その奥には最古の堕天使。それに挑んでいるのはたった3名の聖剣使いと自分たちだけ。救援はまだ来ず、聖剣の力を吸収した術式によってタイムリミットはあと僅か─
「─待って、
ピタリ、とリアスがその動きを止めた。その頭の中で急速に思考が巡る。そして一つの案に至ると、隣で奮戦する朱乃へと声をかける。
「朱乃。最初からあなたあの術式のタネに気がついてたわよね。」
「…?ええ、聖剣の力を使うという一点以外では割と普通の式が組まれていましたから。あの術式は規模こそかなり大きいですけど単に力を溜め込み、一定以上溜まったら放出するだけの簡単なものですわよ。」
「簡単、なのね?なら式をいじるくらいはできる?」
「あそこまで大きなものになると無効化、とはいきませんけど多少アレンジを加えるくらいは…多分できますわ。」
突然の問いかけに困惑しながら朱乃は答えた。その答えに満足したのか、初めて笑顔を見せた。
「─そう!なら…全員戦闘をやめて結界の外へ撤退、ソーナのところへもどるわよ!」
腕を前に出して意気揚々とそう命令した主人に、眷属全員が困惑の表情を向けた。だが、そんなことは気にしない。
「この戦い、必ず勝つわよ!」
「あと2分!さああと2分だ
2人の間で交わされる幾重もの剣戟。白瀬の神の加護によって強化された肉体が放つ二刀の猛攻をコカビエルは難なく捌いていた。襲いかかる2つの剣戟の両方をコカビエルは容易く一本の槍で受け止め、一瞬の膠着状態を生み出した。
「いい剣筋だ、よく練り上げられている。その
荒い息を吐く白瀬に対し、コカビエルは息の一つも乱していなかった。白瀬が幾ら力を込めて剣を押し込めど、槍はぴくりともしない。人外と人間の絶対的な膂力の差がそこにはあった。
「他ならぬこの俺が認めてやろう。本当にお前はよくやっている。神の教えを胸によくぞここまで戦い抜いた。健気なことだ。─お前の信じる神なぞ、もはやいないというのにな。」
「…なんだと?」
殺意に輝いていた白瀬の目に動揺が走った。その目を見てコカビエルはニタリと邪悪な笑みを浮かべて続けた。
「死んだ。お前の信じる神とやらはとうの昔に死んだ。
ゲラゲラ、ゲラゲラと笑いながらコカビエルは語った。奴は人の不幸を嘲笑い、魂がへし折れるその瞬間を絶好の歓喜として味わっている。忘れるなかれ、コカビエルは最古の堕天使。人を導くことをやめ、悪徳に生きる使徒なのだ。
「お前に神の愛など
今もなおゲラゲラと笑い続けているコカビエルが、本当に本当に楽しそうに言った。
「これから戦争が始まる。誰にも止められない戦争が始まるのだ。その時になって初めて俺は神の死を宣言しよう。全世界に向けて、お前たちの縋っていたものはただの虚像にすぎなかったと教えよう。神の愛など初めから存在しなかったと教え─。」
その言葉は途中で遮られた。饒舌に語っていたコカビエルの左頬に一筋の赤い線が奔り、そこからほんの僅かではあるが血が流れる。
「…うるせえ。」
左手で拮抗状態を保ったまま右手の聖剣をコカビエルが反応できないほどの速さで振り抜いた白瀬が腹の底から声を絞り出した。
「うるせえうるせえうるせえ!神は生きている!貴様がなんと言おうとも!神の教えは、神の愛はまだ生きている!この俺は!全身全霊をもって神の愛を感じている!!」
そう吼えた白瀬の体から光の粒子が漏れ出していく。これこそ最期に神が残した
「俺が仕えているのは神の力ではない!神だ!俺は神に仕えているのだ!俺は神に仕え、神の力として、神の先兵として貴様を殺すのだ!」
もはや狂気に至った信仰。それを宿した白瀬の剣戟。それは今までよりも遥かに重く、そして速いものだった。その剣撃を受け止め、激しく火花を散らすコカビエルもまた狂気を宿している。
「そうか!ならば見せてみろ。お前の信仰とやらを!」
「顕現せよ、『
真名を解放したガラティーンの力を吸い取って魔法陣が輝きを増し、加速する。聖剣から力を吸い取り、全てを破壊せんと待っている。
「─あと1分だ。」
「みんな早く!全力で結界に魔力を込めるのよ!」
同時刻、駒王学園を囲む結界の基点で、リアスたちは大急ぎで準備を行っていた。
リアス、小猫、アーシアは結界を構成する結界に魔力を注ぎ込み、朱乃が地面に描かれた魔法陣をいじくり回し、イッセーが全力で【倍加】を構える。そばにある遠見の魔術で内部の様子を見たことで神の死を知ったが、今の全員にはそれを気にする余裕もなかった。
「イッセー!倍加はあとどれくらいで終わる!?」
「溜まりました!いつでもできます!」
光を放つ左腕を握りしめ一誠が叫んだ。これから行われるのは一世一代の大博打。その要を彼は任されていた。
「朱乃は!?」
「術式の組み替え、問題なく終わりましたわ!」
術式の調整を終えた朱乃もまた叫んだ。この術式の構造が簡単だったのは彼女たちにとって唯一の幸いだった。
それもそのはずこの術式を組んだのはコカビエルではなくバルパー。魔術に精通した大堕天使ではなく、聖剣狂いである老人。最も聖剣を知り尽くしていながら魔術には精通していない彼だからこそ、シンプルかつ中に溜め込んだエネルギーに耐えられるよう頑丈な術式を組むと言う結論に至ったのだろう。─だが、それが仇になる。
そんな彼女たちのすぐそばで紙片がはためき、2人のエクソシストが、ゼノヴィアとイリナが姿を現した。最終盤において白瀬に巻き込まれないよう秘蹟である転移を使用した彼女たちもまた、結界の外へと脱出を果たしていた。
「…神の死、か。」
「…ええ。」
そんな2人の顔は浮かない。信仰していた神の不在、そして戦友が戦っているのに自分たちがその戦場にいないことに対する引け目。それらが彼女たちの心を蝕んでいた。
「…今は考えるのをやめよう。だが、これは…?」
「いいところに来たわね2人とも。あなたたちも早く手伝って!」
汗を流しながらリアスが指示を出す。突然のことで理解が及ばない2人に、じれたようにああもう、と憤慨してから彼女は続けた。
「いい?悔しいけど私たちではコカビエルに勝てない。それはあなたたちもそうでしょ?」
「あ、ああ…」
「勝てる可能性があるのはあの聖剣使いだけ。だから、
その言葉にハッとした2人が顔を見合わせた。確かに白瀬の聖剣、その真名解放を十全に活かすのならばこの結界では力不足だ。それに気づいたリアスは少しでも周りへの流れ弾を気にせず戦えるように、その場を整えることを選んだのだ。
「…リアス・グレモリー!私たちは何をしたらいい!」
「結界に魔力を注ぎ込んで!聖剣使いでも人間なら魔力があるでしょう!?」
「了解した!」
術式が開放されるまであと僅か。その僅かな時間でもしないよりはマシだと2人が結界に駆け寄り、魔力を注ぐ。そこには悪魔も聖剣使いもなかった。
「あと10秒!」
『あと10秒』
「なんだ、これ…?」
最初にその違和感に気がついたのは白瀬だった。彼は太陽の聖剣に選ばれた者。だからこそ、その力に関わる僅かな違和感に気がつくことができた。
『あと9秒』
「イッセー、今よ!」
「わかりました、部長!いくぞドライグ!」
“了解した相棒。あの聖剣の助力だ。本気で行くぞ。”
一誠が結界に手を触れ、【譲渡】を行う。
『あと8秒』
「これは、結界が…?」
コカビエルもまた異変に気がついた。戦いの前に張られた結界が、赤い光と共に恐ろしいほどに強化されている。おそらくは自分でもそう易々とは破れないほどに。
『7秒』
「─行きますわよ!」
朱乃が術式に魔力を込める。歪められた校内の魔法陣が、その魔力の干渉を受けて本来の目的を果たさないように。
『6秒』
「─なかなか面白いことになっているな。」
誰にも知られないうちに、一つの“白”が結界の真上へと現れた。
『5秒』
【
『4秒』
「…馬鹿な。馬鹿な馬鹿な馬鹿な!こんなことがあっていいのか!?」
コカビエルがついに術式にかけられた小細工に気がついた。だが、もう遅い。後戻りなど出来はしない。させはしない。術式の方へと向かうコカビエルを、白瀬が必死に食い止める。
『3秒』
「勝ってキヨシ…!」
魔力を注ぎ込むという慣れない作業に汗を流しながらイリナが祈りを捧げる。
『2秒』
「頼むぞ…!」
ゼノヴィアもまた、全ての魔力を結界へと注ぎ込む。端正な顔を苦痛にそめ、最後の一滴まで魔力を絞り出す。
『1秒』
「お願いします、シラセさん…!」
アーシアが頭痛も厭わず祈った。かつて神にその身を捧げた同志として、世界を守ろうとする同志として。
『0秒』
「術式、作動しますわ!」
朱乃のその声の直後、魔法陣が最後の輝きを見せて全ての力を解き放った。だが、その力の向きは“外”ではなく“内”。溜め込んだ全てのエネルギーが逆流し、結界の中へと満ちる。光が夜を、闇を塗りつぶしていく。
夜を塗りつぶし、朝がくる。それ即ち、
「─終わりだ、
「…馬鹿な。エネルギーの逆流だと?バルパーの術式を組み替えただと?」
陽の光に満ちる結界内で、コカビエルは呆然と呟いた。ありえない。こんなことありえてたまるかと。だが、事実そうなっている。そして、そこに残された僅かな魔力の残滓。それに気がついた。
「…そうか、そうかバラキエルの娘!バラキエルの娘か!あの男の血を引く娘ならば、この程度やってのけるか!」
歯を砕かんばかりに噛み締めながら、コカビエルは憤怒に顔を歪めた。殺す。絶対に殺す!戦友の娘だとしても構うものか!絶対にぶち殺す!!
だが、それよりも先に。
「ようやくだ。これでようやく対等だ。」
この聖剣使いを殺す。殺さねばならぬ。
今までとは桁違いの速さで切り掛かってくる白瀬を、コカビエルは光の剣をもって迎撃した。もう幾度目になったかわからない鍔迫り合いが起き、拮抗状態が作られる。だが、それは長くは続かなかった。
「お、おおおおお!!」
「おの、れえええ!!」
ガラティーンが光の剣を切り裂き、その刃がコカビエルを掠める。コカビエルも全力で回避するも、その身体に今までほどの力が入らない。
対して白瀬の持つ【聖者の数字】は太陽の加護。夜間には発動せず、日中のみ発動できる神器。そして現在、この結界内は神器が全力で稼働できるほどに太陽のオーラに満ちていた。
陽の光の下で弱体化し、権能も封じられた
この2人が互いに睨み合う。ほんの一呼吸で互いの武器が届く場所で、互いに殺気をぶつけ合う。弱体化した堕天使と強化された聖剣使い。ここに来て、ようやく2人は対等に戦える領域に至った。
「─絶技装填。」
拮抗状態を崩す。そのために白瀬は最後の札を切った。それはあまりにも強すぎるため使用を禁止された一撃。元来の所有者が放った一撃。その一撃のために、爆炎が全てガラティーンへと収縮していく。
「おのれ!おのれおのれおのれおのれぇ!!」
星の光が昼間に見えないように、
ならば、と光の剣を形作って、雄叫びを上げて突貫する。だが、それよりも白瀬の一撃の方が早かった。切先に聖火を集め、コカビエルに向けて解き放つ。
「
コカビエルの一撃を喰らう直前に放たれたのは太陽の聖剣、その全力全開。闇を祓い、邪悪を滅する光の奔流にして全てを焼き尽くす業火の嵐。太陽の加護を受けていない限り、絶対に耐えられない神秘の一撃。
これこそが
その一撃はコカビエルに直撃し、彼を吹き飛ばして結界に叩きつけた。叩きつけられ、全身の骨を砕かれながらもコカビエルの身体は焼かれ続ける。
「あ、ああああああああ!!!!」
コカビエルの身体が炎に包まれる。聖火に焼かれ、身体が崩れ去っていく。指先が炭化し、灰になって風に乗って流れていく。
─ああ、そうだ。そうだった。俺たち化け物はいつだって。俺たち化け物が負ける時はいつだって。
「俺が死ぬだと!?こんなところで、こんなところで!何も為せずに!」
─太陽の下で、人間に負けるのだ。
「認めるか!誰がそんなこと認めるか!俺はまだ何もできていない!まだ戦争を起こせていないのだ!」
火達磨になりながらコカビエルが白瀬へともはや残骸すら残っていない羽をはためかせ肉薄する。せめてこの男は殺さんと。もはや光の槍を作る余裕などない。残されたたった一つ、人外の膂力をもって叩き殺さんと最後の力を振り絞る。
「死ね!貴様はここで─」
「─いいや、さよならだコカビエル。」
コカビエルがその拳を叩きつける。その前に再び聖剣が火を放った。再びコカビエルが業火に包まれ、悲鳴が上がる。それを受け止めながらも白瀬は炎を放った。何度も、何度も。
「…ここ、までか。」
焼かれ続けて幾分か経ち、そこにはもはや人の形を取れないほどに焼け崩れたコカビエルの姿がそこにはあった。彼の口から最後の言葉が紡がれる。
「ああそうだコカビエル。お前の負けだ。暗い穴ぐらから陽の光の下に出てきてしまったお前の負けだ!」
「…そ、うか。だが、終わらん。戦火は、終わらん。」
ぎひり、と不気味に死に体の堕天使は笑った。かつて星見によって多くの国々に未来を諭し、戦火を引き起こした堕天使はこれからの世界を予知して笑う。
「時代だ。時代が来る。星の聖剣。二天龍。
「……。」
その最後の言葉を白瀬は黙って聞いていた。そんな彼を穴の空いた双眸で見つめて、コカビエルが語る。
「その時お前はどうするんだろうなあ、
そう言って不気味に笑う。段々にその笑い声が小さくなっていき、しまいには完全に聞こえなくなった。完全に声が聞こえなくなって、コカビエルの身体が崩れ、黒い欠片になった。
「ああ、糞。笑いながら逝った。笑いながら逝きやがったこの野郎。」
その最期に白瀬は毒づくと、焼けた臭いのする地面へと音を立てて倒れ込んだ。左脚の義足が解け、解放された紙片が辺りに残った熱で燃え尽きる。神器の加護が切れ、全身から血が流れ出す。もはや白瀬には指一本動かす気力も残っていなかった。
「…俺もここまで、か。」
タバコ持ってくるんだったなあ。そう言って白瀬は目を閉じた。
「
目を閉じる前に最後に見たのは、解けていく結界の外で輝く満点の星だった。
リアス眷属
戦力という面ではなく盤外で頑張った方々。特に朱乃はMVP。
こういう敵の気にも止められなかった奴らが一矢報いて、それが原因で敵を打倒する、というのが好きです。
シトリー眷属
未描写ですがこの結界を主導したのが水属性のソーナであったことはかなり幸運。
コカビエル
どうやって勝つんだこの野郎。ってなった時に真正面から倒すのではなか倒せる要因を作るのは基本。彼の場合は堕天使にとっても彼の持つ星の力にとっても天敵となる太陽のエネルギー。メイヴちゃんにとってのチーズ、伯爵にとってのシュレーディンガーみたいなものです。そういう意味ではガラティーンとの相性は悪かった。