聖なる剣を携えて   作:チキンうまうま

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情勢 ①

 

 死にゆく聖剣使い(パラディン)の元に天使は迎えに来ない。一人ぼっちで、誰にも看取られることなく短い生涯を終える。そのはずだった。

 

『いいのかヴァーリ、こんなことをして。』

「アザゼルから言われたのはコカビエルを止めることだ。だが、もうコカビエルは死んだ。戦って、笑って死んだ。なら何をしようと俺の自由だろう。」

 

 そんな彼の側に、“白”が降り立った。白瀬の真上から降りてきたそれは穢れなき純白の鎧。辺りに残された聖なる炎の残滓に身を焼かれながら、それは白瀬の側に立つ。

 

「いい戦いだった、聖剣使い。あそこまでの炎を、陽の光の下で弱体化したとはいえコカビエルを打倒するほどの焔を俺は見たことがない。」

『それについては同感だ。星の意思が創り上げた太陽の聖剣。それを解放してその身が焼けていない者など、俺ですらあの騎士以外に初めて見たぞ。』

 

 白い鎧の男が倒れ伏した白瀬を抱え上げ、自らの魔力で覆った。傷口が魔力で塞がれ、流れていた血が一時的に止まる。だが、だからといって傷口が治ったわけではない。白瀬に残された命はあと僅かだ。

 

「虫の息とはいえこの男はまだ生きている。なら、()()2()()なら治療できるだろう。特急で行くぞ、アルビオン。」

『いいだろう。だがヴァーリ、何故この男を助ける?別に助けたところで利益はないぞ。』

「あるさ。()()()()()()()()()()。」

 

 フワリと白い鎧が浮き上がり、空の彼方へと超速で飛んでいく。

 

「現在における世界最高位の聖剣。その使い手。未だ体格、技術共に未熟だが、いずれこの男の剣は俺に届きうる。─そうなったこの男と俺は戦いたいんだ。」

 

 太陽の聖剣。その聖なる灼熱は半人半魔である己に対しても脅威。だが、真なる白龍皇を目指すのならば、その程度は下せなくてはならない。だが、倒すのは今ではない。指の一本も動かない死に体の状態ではなく、この聖剣使いが心身ともに成熟したその時にこそ、自分が倒す価値がある。

 

「急ぐぞ、アルビオン。手遅れになる前に。」

 

 星空の下を、光の尾を引いて白い鎧が翔けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いいのいいの。アレ、欲しいの。」

 

 北の果て。その地にある巨大な宮殿で、高座(フリズスキャールヴ)に座った老人が唇の端を吊り上げた。

 

「あの…なにか、」

「なんじゃロスヴァイセ。わしは今忙しいんじゃ。用があるなら後にせい。」

 

 お付きの戦乙女(ヴァルキリー)が声をかけるが老神は手をひらひらと振ってその続きを遮った。今はもっと見るものがあると、そう言わんばかりにその目を好奇に輝かせている。普段の様子とはかけ離れた様子に、ロスヴァイセも声をかけれなかった。

 

「…懐かしい。」

 

 数分後、事が終わったのか老神が背もたれに身体を預けてつぶやいた。残った方の片目を閉じ、先ほど視た物を思い返す。

 

「懐かしい太陽じゃ。神代が終わって以来、あの太陽が上ったことはなかった。神秘の消えた今ではもう二度と見ることはないと思っておったが…予想も外れるもんじゃ。これだから世界は面白い。」

「…オーディン様?いったい何があったんですか?」

 

 ロスヴァイセのその言葉にオーディンは、北の最高神であり知恵と勝利の神はにやりと笑った。

 

「世界は変わった。神代が終わり、人の時代が始まって以来勇士の数は減り、お主たち戦乙女(ヴァルキリー)もまたその役目を終えつつある。」

「はあ…?」

 

 自分の質問に答えないまま語り出した老神にロスヴァイセが怪訝な顔をする。というか言われずとも知っている。ロスヴァイセとてその時代の流れに逆らえなかった人生を送っているのだから。

 それはそれとして話の続きには興味がある。真剣な顔になるロスヴァイセに、一つ頷いた老神は厳かに口を開いた。

 

「ロスヴァイセ。お主、まだ彼氏おらんかったな?」

 

 そして真面目な雰囲気を全部ぶち壊した。嫌な沈黙が流れ、ロスヴァイセがすうっと息を吸い込んだ。ついでに心なしか─いや、確実に体が震えていた。端的にいえば彼女は上司の心無い発言にキレていた。

 

「…それ、今の話に関係ありますか!?ないですよね!?怒りますよ!?」

「もう怒っておるでないか!おいやめんか、やめ、ハリセンを持つでない!お主のそれ意外と痛いんじゃぞ!?」

「こっちは!真面目な話だと!期待したんですよ!?それがなんで、私の恋愛事情に繋がるんですか!?」

 

 その怒りに任せて亜空間からハリセンを召喚、勢いよく襲いかかる。老神もガードするものの、ロスヴァイセの怒りは凄まじい。怒りに任せてハリセンを乱打して確実に老神の頭皮にダメージを与えていく。

 

「…はあっはあっ…これだから最近の若者はすぐキレて困るんじゃ…」

「……私だって、私だって好きで彼氏がいないわけじゃないのに、ううっ…」

 

 数分後、どうにかロスヴァイセの怒りを宥めすかした老神は息を宥めながら再び高座に腰掛けた。その隣ではハリセンをしまったロスヴァイセが地面に両膝をつき項垂れている。どうやらだいぶ気にしているらしい。

 そんな彼女に老神(オーディン)はやれやれとため息をついて口を開いた。

 

「ロスヴァイセ。お主を本日限りでワシのお付きから解任する。」

「えっ。」

 

 その言葉にロスヴァイセが項垂れたまま固まった。まるで時の止まったかのように動かなくなった彼女は、数秒間の硬直の後弾かれたようにオーディンの足元はすがりよった。

 

「待ってください、クビ!?まさかのクビですか私!?今さっきオーディン様の頭を引っ叩いたから!?」

「ええい離れんか鬱陶しい!というか違うわい!クビではないから話を聞けロスヴァイセ!!」

 

 すがりよるロスヴァイセをオーディンが引っ剥がす。あいも変わらず器量はいいがそれ以外が残念すぎるとオーディンは嘆息したが、まあそれはそれでいいかと切り替えた。

 

「よいかロスヴァイセ。お主は本日付けをもってワシのお付きを解任。そして、新しい指令を与える。─これは神託である。」

 

 その言葉にゾクリとロスヴァイセの全身に寒気が走り、その場に片膝をつく。それほどまでに、大神の神威は凄まじかった。

 

「ロスヴァイセ。お主に与える指令はただ一つ。」

 

 厳かな声で告げられるオーディンの命令。何が起こるのかとロスヴァイセは唾を飲んだ。

 

(彼氏)を捕まえてこい。相手はもう見つけておる。」

「………………………え?あの、今なんて…?」

「なんじゃ聞こえんかったのか?だから男を捕まえてこい。相手ももう見つけておる。」

 

 自分の耳が壊れたのかとロスヴァイセが呆然と聞き返したが、返ってきたのは同じ答えだった。急にフランクになった雰囲気に理解の追いつかないロスヴァイセにオーディンがため息をついて補足する。

 

「お主ら戦乙女(ヴァルキリー)は元来勇士の魂をヴァルハラへと運ぶ存在。じゃが、今や世界から勇士は減り、職務が果たせなくなっておる。そのせいでお主のような生娘ヴァルキリーがおるわけじゃが…」

 

 ロスヴァイセが再びハリセンを握ろうとしたのを目で制してオーディンが続けた。

 

「出てきおった。太陽の聖剣、かの魔剣グラムに並ぶ聖剣の使い手が。星の意思が選んだ人間が。1500年、1500年現れなかった逸材じゃ。あのガウェインがおっ死んで以来初めて生まれた存在じゃ。ワシはあいつが欲しい。だから手に入れる。冥界が、須弥山が、ギリシャが動く前にワシが手に入れる。絶対に。絶対にじゃ。じゃから、お主がその勇士を見守り、その魂をヴァルハラに運べ。」

「私が、勇士の魂を運ぶ…。」

「そうじゃ。それこそお主の本来の使命であり、このオーディンからの大命でもある。」

 

 そこまで言って、オーディンは面倒なことを思い出したように頭をかいた。

 

「まあそいつ聖書の神の狂信者なんじゃが…。そこは上手いこと、こう、なんとか…。」

「…いや、無理です!?聖書の神の狂信者ってアレですよね、『暴力を振るっていいのは化け物と異教徒だけです』って言いながら悪魔と堕天使と異教徒を殺す人たちですよね!?私会った瞬間に殺されませんか!?」

「安心せい。一昔前ならともかく最近の奴らはそこまでやらん。…多分。」

「多分!?多分って言いました!?」

 

 ロスヴァイセがそう言って恐怖に涙を流す。その様子にオーディンはさもありなんとため息をついた。信仰拡大を続ける聖書連中に追いやられ、煮湯を飲まされ続けたのはオーディンにとっても苦い記憶である。

 

「まあとにかく、頼んだぞロスヴァイセよ。なに、狂信者といえど所詮は男。一発カマせば大人しくなるじゃろうて。」

「無理ですぅぅぅぅぅ!!!!」

 

 ロスヴァイセの嘆きは、北欧の高い空の遠くまで響いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あのコカビエルが倒された、か。」

 

 真っ暗な空間の中で、学ランに漢服を着た男が槍で肩を叩きながらつぶやいた。そんな彼の隣で、金髪の女性が話を続ける。

 

「ええ。倒したのは太陽の聖剣(エクスカリバー・ガラティーン)と【聖者の数字(ライジング・サン)】の2つを持つ教会所属の聖剣使い。ジークなら詳しいんじゃない?」

「そうなのかい、ジーク。」

「いや、僕もあまり詳しく知らないな。僕も教会の戦士ではあったけど…僕は『シグルド機関』所属だったのに対して彼は『武装神父隊』の所属だったからね。接点がなかったよ。」

 

 話を振られた白髪の青年が答えた。事実、彼と白瀬の関係は教会所属の神器持ちとして一応面識がなくはない、程度の間柄である。

 

「そうか。それは残念だが…彼には、『現代のガウェイン』には俺たちの元へきて欲しいものだな。」

 

 肩を槍で叩きながら男が楽しげに言った。

 

「俺たち、【英雄派】のもとに。」

 

 

 

 

 

 





血まみれのボロ雑巾を拾ってきた上に仙術での治療を押し付けられたヴァーリにこの後猫魈とお猿がキレる。

北欧の一幕。この頃はまだ地元に残ってる時代のロスヴァイセさん。

あとはまあ英雄派は確実に目をつけてくるよねって話。
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