「おーゼノヴィア。あの任務以来じゃん。元気ー?」
「ああ。キヨシの方こそ元気か?脚の調子は?」
「いい義足もらったからもう大分本調子。心配どうもね。」
「それはよかった。イリナは?」
「イリナなら回収した聖剣返しに行ってるよ。俺も行きたかったんだけど、今度手術あるから行くなって言われたんだよね。」
「手術?」
「うん。
「お久しぶりです、グリゼルダさん。ご無事で何より。」
「ええ、お久しぶりです信徒白瀬。脚のことは残念でしたが…日本での大業、聞きましたよ。最古の堕天使であるコカビエルの討伐という人類史上初の難行をよくぞ成し遂げました。貴方の献身に神もお喜びになっているでしょう。」
薄暗い地下通路で手術を終えた白瀬とグリゼルダ、と呼ばれたシスターが落ち合っていた。互いに生存を喜び合い、そしてこれからの無事を祈る。これはこの地で会った
「…最後に
『アレ』とはバルパーから押収したものの中にあった、とりわけ異質なもの。押収品の確認にあたった全員が放置できないと判断したほどの代物であり、手術の間対応できなかった白瀬が信頼できる相手であるグリゼルダに対応を頼んだもの。
そして白瀬のその言葉にグリゼルダはすっと目を細めた。
「…『アレ』の、いえ、『彼ら』のことは私にも手に負えず今は霊能課に一任しています。それほどに残留思念がこびりついている。法儀礼での除霊は不可能と見ていいでしょう。」
「…それほどですか。ということはやはりあのバルパーの被害者ということで?」
「そう見て間違いないでしょう。」
目を伏せてそう言ったグリゼルダに、白瀬は小さく舌打ちした。聖剣の研究のためという名目で無辜の子どもを殺害したあの男の罪は大きい。コカビエル戦後にエクスカリバーを持って逃げ出したバルパー本人はゼノヴィアたちによって始末されて、死体を焼かれているがその程度では済まされないほどの所業をなしている。
「霊能課は、なんて?」
「…現時点での意思疎通は不可能。彼らはただひたすらに聖歌を歌い、誰かに向けて『生きてくれ』と言っているようです。」
「…そう、ですか。」
被害者たちは最期、神の名を騙るあの男によって毒ガスを撒かれ命を落としたという。それなのに死してなお誰かを恨むのではなく他者への祈りを捧げる道を選んだ。そんな魂が悪人の手によって失われたなど、あまりにもやるせなさすぎる。
「生きてくれ、というからには彼らの中には生き残りがいるんでしょうか。」
「おそらくは。ですが、それが誰なのかはわかりません。資料こそ残されていますが、誰が生きていて誰が亡くなっているのかは不明とのことです。」
「…ですよね。それでも、俺たちには神に仕える者として彼らを送り出す義務があります。俺たちは
そう言うと白瀬はグリゼルダに一礼し、足音を立てて歩き出した。その背中にグリゼルダが声をかけた。
「…信徒白瀬。」
「なんでしょう。」
「彼らを、頼みます。」
その言葉に白瀬は黙礼で返し、『聖剣計画』に関係する大量の資料を持って霊能課へと向かった。目当ての相手はバルパー・ガリレイの遺した謎の球体の中にいる。
その球体がどこにあるかはすぐにわかった。霊能課の連中ですら寄りつこうとしないほどに異様な雰囲気を持っていたからだ。
「誰が生き残りがわからない、か。」
その球体の前で資料を下ろすと、白瀬は木製の椅子に腰掛けた。それから資料を上から一枚取り、文字の方を向けて球体へと近づける。これで反応があればビンゴ、無ければもう一度繰り返すだけだ。これは戦闘力のない、つまり非常時の対応ができない霊能課の連中にはできない荒技であった。
何百枚もある資料の中から一枚ずつ紙を取っては近づけていくこと数時間。ある紙を近づけた時点で球体が異様に輝き始めた。反応あり。この紙に答えがある。慌てて白瀬がその資料に目を通した。
白瀬が目を通したそれはある人物の研究結果が載った写真付きの資料。その名前は『イザイヤ』。そしてそこに載っていた写真は、
「こいつは…」
自分に敵意を向けていたグレモリー眷属の剣士に瓜二つと言っていいほどよく似ていた。
「あーもう、やっと帰って来れた!」
夕暮れのヴァチカンで、正教会本部とプロテスタント本部にエクスカリバーを返却しに行っていたイリナが大きく伸びをした。いくら何でも日本から帰ってきた直後でこの移動はキツすぎる。とりあえずヴァチカンに残っているキヨシを誘ってご飯にしようと決めて歩き出した直後。
「人が、人が多すぎる…。」
道端で項垂れていた銀髪の女性を見つけた。女性は大きな荷物を地面に置き、涙目でスマホをいじっている。その様子に見るに見かねたイリナが声をかけた。
「あの、ちょっといい?」
「はい!?何でしょうか!?」
「いや、何か困ってそうだったから声掛けたんだけど…あと危ないから荷物地面に置かない方がいいんじゃない?」
「そ、そうですね。ありがとうございます。」
その言葉に慌てて荷物を抱きかかえた女性はイリナにぺこりと頭を下げた。頭の動きに合わせて銀色の長髪がさらりと揺れる。
(うわ、めっちゃ美人じゃない。身長高いしスタイル抜群だし肌とか真っ白だし…北欧系?)
そんな彼女を見たイリナは素直に感想を抱いた。美形による傾向のある人外や教会の美人を見慣れている身だと言うのに、だ。
「気にしないで、神様に仕える者として当然のことをしただけだもの。」
「神様、ですか。そうですよね、ここヴァチカンですもんね。」
「……?それで、何か困ってるの?手伝えることとかある?」
神様、と言った時に女性は困惑したような態度を取ったが、イリナはとりあえず気にしないことにした。悪魔とかならわざわざ教会の本拠地に来ないだろうし、仮に来ても戦力的に問題はないだろう。イリナは脳筋だった。
「ええっと…人を探してるんですけど…。」
「人探し?ヴァチカンで?ここ教会関係者しか住んでないわよ?」
「はい。教会の関係者を探してまして。会ったことは無いんですけど…。」
「???」
その言葉にイリナは首を傾げた。観光客が待ち合わせをするというならわかる。だが、彼女が探しているのは教会の関係者だという。でもこの感じだと何か約束をしているとかではなさそうだ。
「…ま、そんなこともあるわよね。」
イリナは深いことを考えないタイプだった。
「人探しなら任せて。私、結構詳しいから手伝えると思うわ。」
「いいんですか?」
「もちろん。汝、隣人を愛せよってね。で、その人の写真とかある?」
「はい。この一枚だけなんですけど…。」
そう言って女性が一枚の写真を取り出した。そこには濃い茶色の髪をして眼鏡を掛けた少年が、と言うか自分の友人が写っていた。
「…キヨシ?」
「え、お知り合いですか?」
「知り合いっていうか、友達?戦友、の方がいいのかも。」
イリナが何気なく放ったその一言に女性の顔から冷や汗がダラダラと流れ出る。内心では『まずい、いい人だと思ったけど戦友ってことはこの人も狂信者だ』とか思ってるのだがそれをイリナが知る余地はない。
「汗すご!?え、大丈夫!?」
「だ、大丈夫です…」
「ならいいけど…キヨシに用事あるなら呼ぶわね。えっとスマホスマホ…。」
先ほどからの女性のよくわからない態度に首を傾げながらもイリナはとりあえず白瀬に電話をかけた。だが無情にも電話口からは只今電話に出ることができません、との声しか聞こえない。そのことにため息をついてイリナは女性に向き直った。
「今キヨシ電話中みたい。ちょっと待ってもらえ…あ、いた。」
「いた!?」
その直後、イリナは人混みに紛れて電話をする白瀬を見つけた。白瀬は電話をしながら、苛立ちを誤魔化すように火のついてない煙草を噛んでいる。そんな白瀬にイリナは女性の手を引いて近寄って行った。
「でーすーかーらー有給ください。2週間くらい。」
聞こえてきたのはまあまあ世知辛い会話だった。てか長いな有給。海外暮らしが長いとはいえ日本人的感覚を若干ながら持つイリナはこっそりそう思った。
「…はい?いや、無理ってあんた、俺がこないだ何したか分かってます?迫り来る死霊と魔獣の群れをちぎっては投げちぎっては投げ。教会バンザイってやつです。最後には腹に穴が開いて片脚吹っ飛ばされながらの聖剣解放。そこまでしたんです。本当です。すごく本当です。俺、嘘つかない。」
これのなにが
「本当です。すごく本当なので明日から有給お願いしますね。」
一方的にそう言って白瀬は舌打ちしながら電話を切った。そんな不機嫌オーラ全開の白瀬に臆することなくイリナが声をかけた。
「キヨシー、ちょっといい?」
「あん?…イリナじゃん、帰って来たんだ。」
「さっきね。で、キヨシにお客さん。」
「お客さん?」
イリナの言葉に白瀬が首を傾げた。少なくとも彼に心当たりはない。そして視線を隣に動かし、イリナの隣に立つ女性の方を見て目を見開いた。
「…………ねーちゃん?」
「え?」
「ん?」
そこからポツリと呟かれた一言にイリナも女性も虚をつかれた。先程面識はないと聞いていたが、もしかして知り合い?なんて考えがイリナの頭に浮かぶ。
「…知り合い?」
「いや、違う、はず。あの、すみません。知り合いにあまりにも似てたもんで…」
「あ、そうなんですね…」
そう言ってイリナを他所に2人が頭を下げあう。
「んんっ、改めて初めまして、白瀬といいます。で、俺に何かご用とのことですが…いったい何か?霊障とかですか?ならとりあえずは窓口をご案内しますが…」
「あ、私はロスヴァイセといいます。それでですね、白瀬さん。」
「何でしょう。」
女性、ロスヴァイセはそこで一度区切り、深呼吸し始めた。その様子に白瀬とイリナの頭の上にハテナマークがいくつも浮かぶ。
「あの、白瀬さん!」
「な、何でしょうか?」
意を決したのか、顔を真っ赤にしたロスヴァイセが口を開いた。
「私の、
その言葉を最後に3人の間にたっぷり10秒ほど沈黙が流れた。油の切れたロボットのように白瀬とイリナが顔を見合わせ、そして再び2人の目線がロスヴァイセの方に向く。
「「はああああああ!?」」
夕暮れのヴァチカンに2人の聖剣使いの叫び声が響き渡った。
「良いのですか、ミカエル様。」
「何がでしょう。」
天に浮かぶ雲の、その更に上。そこにある白い部屋で金髪の美青年が、同じく金髪の美女と向き合っていた。
「あの聖剣使い達のことです。─彼らは、神の死を知ってしまった。」
「………。」
美女のその言葉に青年は、
「…良くは、ありません。コカビエルの口から聞かされた、と言うことは特に。」
ミカエルとコカビエルの付き合いは古い。それ故に、コカビエルが占星術師としての側面を持つことを良く知っている。そして古代の占星術師とは政にも関わる者。つまりその言葉を信じざるを得ないと、そう思わせる効果を持つ。それが古の堕天使であるコカビエルともなると、その効果は絶大と言えるだろう。幾ら敬虔な信徒といえど、その言葉で不信感を植え付けられてしまえばシステムに異常が出る可能性はある。
「ですが、彼はあまりにも強大すぎる。もし破門してしまえば、必ず他勢力が引き抜くでしょう。我々にとってはその方が危険です。」
それはシステムに異常が出ようとも、そっちの方がマシと思えるほどの損失にしてリスク。現在あの
だからと言って彼を除いた2人を破門することもできない。それをしてしまえば、『何故同じ任務に行ってあいつだけ破門されていないのか』という疑念が教会中に蔓延ることになる。
「そうですか…では、やはり。」
「ええ。我々にも変革を求められる時代が来たということです。」
ミカエルはため息をついた。星の聖剣。その使い手が現れた時から覚悟はしていたが、ついにその時が来たかという思いである。
「─三大勢力間の和平。今の我々はそれを為すしかないのです。」
狂信者の影響で精神が安定しているイリナ。3人は神の死を知っても『黙示の日には必ず復活される』との結論に達しました。
ついでに白瀬には腹が立つと舌打ちをする悪癖がある。周りに何度怒られても治らないようだぞ!そして今回再生能力とかいう強化フラグがたった。人間辞めちゃった人間に近づきつつある。
そしてねーちゃんとロスヴァイセは割とそっくり。ロスヴァイセのアホ毛を抜いて雰囲気を明るくした感じ。
ねーちゃんが生きていた場合、白瀬は確実に祓魔師にならない。悪魔を愛したただの人として生き、ねーちゃん1人を置いて死ぬ生涯になる。